二次創作小説(紙ほか)
- 124話「復讐者」 ( No.378 )
- 日時: 2016/05/01 15:31
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: uB4no500)
「咄嗟のことだったので、思わずやってしまいましたが……」
目の前に展開される、五枚の盾。手元に浮かぶ、五枚の手札。真横に置かれる、三十枚の山札。
周りは名状しがた摩訶不思議な空間がどこまでも広がっている。
他のクリーチャーを配下として使役し、戦うための空間、神話空間。
本来ならば、むしろ恋たちがルミスのようなクリーチャーと対等に戦うための空間で、クリーチャーであるルミスからすれば、あまり慣れない場所と方法ではあるのだが、
「しかし、肉体をぶつけ合うよりも手っ取り早そうですね、ここなら恋さんたちに被害も出ませんし。それに私も、一団の統率補佐。指示指令で戦うこともできるということを、証明してあげましょう」
そんな意気込みを見せながら、ルミスはカードを手に取る。
ルミスと復讐者のデュエル
ルミスのシールドは四枚。場には《一撃奪取 アクロアイト》が一体。
復讐者のシールドは五枚。場には《オタカラ・アッタカラ》と《侵略者 フワシロ》が一体ずつ。
「私のターン。《アクロアイト》でコストを1軽くして、《超過の翼 デネブモンゴ》を召喚。カードを一枚引いて、二体目の《アクロアイト》をバトルゾーンに」
《デネブモンゴ》の導かれ、二体目の《アクロアイト》が姿を現す。
そこでルミスは、自分のシールドと相手の場、手札を見ながら、思案する。
「ここは、攻撃してみましょうか。《アクロアイト》でシールドブレイクです!」
考えた結果、ルミスは攻める。
《アクロアイト》の武器化した腕が、復讐者のシールドを砕いたが、
「……復讐する」
ぽつりと、復讐者は呪詛を唱えるように、呟いた。
刹那、盾から収束した光が、実体のない魔手となり放たれる。
「呪文《ゴースト・タッチ》……相手の手札を一枚墓地へ」
「っ!」
「もう一撃……《特攻人形ジェニー》……即座に破壊……相手の手札を一枚墓地へ」
「また手札を……」
S・トリガーの《ゴースト・タッチ》で一枚、返すターンに放たれた《特攻人形ジェニー》でもう一枚、ルミスの手札が墓地へと落とされていく。
だが、それだけでは終わらない。
「《フワシロ》で攻撃……侵略発動」
「来ますか、侵略……!」
ルミスは身構える。
侵略。それは、【鳳】に属する侵略者たちの行う、特殊な力。ルミスも何度かこの目で見ているが、自分に向けられたことはない。
そのうえ、謎が多い復讐隊の侵略がなんなのか。想像がつかなかった。
「《フワシロ》は自分の墓地にクリーチャーが二体以上あれば、パワー+2000され、種族にデーモン・コマンドを得る……闇のコマンドの攻撃時、このクリーチャーは侵略する……」
墓地に眠る屍から力を得て、《フワシロ》は悪魔へと成り変わる。
そして悪魔となった《フワシロ》は、ルミスのすべてを奪い尽くし、一方的に復讐するべく、侵略を成し遂げる。
「復讐する……《復讐 ブラックサイコ》」
復讐 ブラックサイコ VR 闇文明 (5)
進化クリーチャー:デーモン・コマンド/侵略者 7000
進化—自分の闇のクリーチャー1体の上に置く。
侵略—闇のコマンド
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手の手札を2枚見ないで選び、捨てさせる。
《フワシロ》が進化——侵略した姿は、骸骨のような禍々しい鎧を纏った騎士だった。
長大な剣と盾を持ち、黒い瘴気と稲妻を迸らせている。
「《ブラックサイコ》がバトルゾーンに出た時、相手の手札を二枚、捨てさせる……!」
「っ、手札が……!」
剣を振るい、稲妻を放つ《ブラックサイコ》。その電撃は、ミシェルの残る二枚の手札をすべて焼き焦がす。
《ゴースト・タッチ》から始まった、復讐者の度重なる手札破壊によって、ここでルミスの手札はゼロになってしまった。
「《ブラックサイコ》で……《アクロアイト》を破壊」
「くぅ……!」
まだ序盤でマナも少ない。このタイミングで手札をゼロにされるたのは、かなりの痛手だ。しかも相手にはパワー7000のWブレイカーという、決して小さくはないサイズのクリーチャーがいる。
手札があれば守りを固められる。マナが溜まれば対処もしやすくなる。せめてどちらかのケアをすることができれば、と念じながらルミスはカードを引く。
「……! この子なら……《アクロアイト》でコストを軽くして、《天星の玉 ラ・クルスタ》を召喚!」
そして、引いたカードをそのまま繰り出した。
「《ラ・クルスタ》の効果発動です! 私のマナゾーンのカード枚数が、あなたのマナゾーンのカード枚数より少ないので、山札の上から二枚をマナゾーンに置きます! ターン終了です」
天星の玉 ラ・クルスタ R 光文明 (4)
クリーチャー:ジャスティス・オーブ/革命軍 4000
ブロッカー
このクリーチャーは、相手プレイヤーを攻撃できない。
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手のマナゾーンにあるカードが自分のより多ければ、自分の山札の上から2枚をマナゾーンに置く。
《ラ・クルスタ》の放つ光が、ルミスの土壌に力を与える。
一気に2マナも増えた。手札をもがれ、マナチャージも滞ってしまう今の状態では、マナが伸びるだけありがたかった。
「呪文《リバース・チャージャー》……墓地の《暗黒鎧 ヴェイダー》を手札に加え、チャージャーをマナへ……ターン終了」
「私のターン……マナチャージだけして、ターン終了です」
「《ヴェイダー》を召喚……ターン終了時、山札の一番上を墓地へ……クリーチャーなので、一枚ドロー……」
「自分だけ手札を増やしますか。ちょっぴり妬ましいですね」
むぅ、と頬を膨らませるルミス。
ハンデス連打で復讐者も手札が切れがちになっていたが、《ヴェイダー》が手札を補充し続けるため、もうその心配はなくなった。
マナを増やしてドローに賭けるルミスに対し、復讐者は手数で勝負に出るつもりなのだろう。
「二体目の《デネブモンゴ》を召喚! カードを一枚引いて、《アクロアイト》をバトルゾーンに!」
ルミスはさらにクリーチャーを展開する。《アクロアイト》と《デネブモンゴ》がそれぞれ二体、《ラ・クルスタ》が一体。防御を固めつつ、コスト軽減能力を持つ《アクロアイト》のお陰で、重量級のクリーチャーでも出しやすくなった。
しかし、このクリーチャー展開は、復讐者の使命感を刺激する。
復讐という、使命を。
「クリーチャーの召喚、許すまじ……復讐する……! 《ローズ・キャッスル》を要塞化……!」
復讐者の盾に、茨が巻き付く。
刺々しいそれは、蛇のようにしゅるしゅると蠢き、暗鬱とした城の姿となって、復讐者の城に根付いた。
そして、要塞化された茨の城から、暗黒の瘴気が放たれる。
「相手クリーチャーのパワーは、すべて−1000……!」
「《アクロアイト》が……!」
《ローズ・キャッスル》の効果で、二体の《アクロアイト》が死滅する。コスト軽減で実質的なマナ加速のような存在となっていた《アクロアイト》が、二体とも破壊されるとなると、ルミスとしては苦しかった。
「手札の次はクリーチャーを破壊だなんて、流石は復讐隊ですね。やることなすこと陰険です」
「《復讐 ギズムリン》を召喚……」
ルミスの苦言を無視して、復讐者はさらにクリーチャーを並べる。
《ヴェイダー》で手札を補充し、ターン終了。
復讐者の動きは、《ブラックサイコ》を呼び出してから静かだ。下手に殴って手札を増やすことを嫌っているのだろう。一度手札をゼロにして、動きを鈍らせた有利を維持し続け、ルミスをじわじわと苦しめていく。
しかし当のルミスは、焦った素振りも、苦しそうな表情も浮かべない。
「むぅ、聞き入れてもらえませんか。当然ですよね……《牛歩の玉 モーギュ》を召喚して、ターン終了です」
どこか余裕を持っている振る舞いでクリーチャーを呼び出す。
「またクリーチャー……復讐する……! 《惨事の悪魔龍 ザンジデス》を召喚……! 《デネブモンゴ》二体、《モーギュ》を破壊する……!」
「復讐じゃなくて、これって殲滅じゃないですかね……うぅ、タチの悪い……」
《ザンジデス》と《ローズ・キャッスル》、合わせて下降パワーは3000。出したばかりの《モーギュ》はおろか、ブロッカーの《デネブモンゴ》二体までもがパワーゼロ以下となり破壊されてしまう。
《ラ・クルスタ》のみが残された寂しいバトルゾーンを見ながら、ルミスはカードを引く。
そろそろなにか大きなカードが来なければ、盤面を支配され、侵略者らしく侵略されてしまう。
それを危惧していたところで、ルミスが引いたカードは、
「! 来るのが遅いですよ、《雷鳴の守護者ミスト・リエス》を召喚!」
空に浮かぶ守護者が現れる。
《雷鳴の守護者ミスト・リエス》。敵味方関係なく、クリーチャーの登場に呼応してカードを引けるクリーチャーだ。
もっと早くに来ていれば、失った手札をすぐに回復できたのに、とルミスは愚痴るように呟く。
だが、《ミスト・リエス》の登場で、手札枚数はほぼ約束されたようなものだ。マナもそれなりに増えているので、ここから巻き返しが図れる。
そう思った矢先のことだった。
「許さない、復讐する……《ローズ・キャッスル》を要塞化……!」
「えぇ!?」
もう一つ、茨の城が要塞化される。
黒い瘴気は一段と濃くなり、《ミスト・リエス》の耐久性を超えた暗黒が、守護者の機体を蝕み、破壊する。
「《ミスト・リエス》までやられてしまいましたか……お仕事、できませんでしたね」
結局、一枚もカードを引くことなく退場させられてしまった《ミスト・リエス》。ルミスとしてもこれは痛い。
加えて復讐者は、ギラリと眼光を光らせる。まるで、獲物を見つけた狼のように。
敵意を含み、攻撃の意志を見せつける。
「墓地進化、《死神竜凰ドルゲドス》……《ラ・クルスタ》のブロックを禁ずる……」
「《ドルゲドス》……?」
《死神竜凰ドルゲドス》、登場時にブロッカーの動きを封じることのできる軽量墓地進化獣だ。
なにか妙だ。このタイミングで出て来ることに、なにか違和感を覚えた。
その違和感の正体は、復讐と侵略の刃として、すぐにルミスへと放たれる。
「復讐する、復讐する、復讐する……! 《ブラックサイコ》でWブレイク……!」
「そうやってぶつぶつと呟くの、怖いんですけど……トリガーはありません」
狂ったように呟き始める復讐者に引きつつ、ルミスはブレイクされたシールドを見遣る。トリガーは一枚もない。
どうやら復讐者は、ここに来て攻勢に出たようだ。場にはWブレイカーの《ブラックサイコ》と《ザンジデス》、そして《オタカラ・アッタカラ》に《ギズムリン》、《ドルゲドス》までいる。
残りシールド四枚のルミスを倒すには、打点は十分だ。
「《ザンジデス》で攻撃……復讐する、侵略する……! 《ザンジデス》を《ブラックサイコ》に侵略……!」
「っ、また侵略!」
「手札を二枚墓地へ……!」
再び現れた《ブラックサイコ》が、ルミスの手札を二枚、稲妻で穿つ。
「ブレイクして手に入れた手札まで……」
「Wブレイク……!」
手札を落とされた直後、再びルミスの手札にカードが入る。
ただしそれは、己の盾を犠牲にした結果だったが。
《ブラックサイコ》の剣がルミスのシールドを切り裂き、残った二枚のシールドをブレイクする。これでルミスのシールドはゼロだ。
あとは、《オタカラ・アッタカラ》でも《ギズムリン》でも、ダイレクトアタックを決めてしまえば終わりだが、
「S・トリガー発動です! 《DNA・スパーク》!」
「む……」
「残りのクリーチャーをすべてタップ! さらに、私のシールドが二枚以下なので、シールドを一枚追加します!」
砕かれたシールドから、呪文が放たれる。
二重螺旋の閃光が復讐者のクリーチャーを縛り付け、地面に伏させる。そしてルミスに新しい盾を与えた。
シールドも回復させ、なんとかこのターンを凌いだルミスだが、しかし、危機的状況にあることは変わっていない。
「……九死に一生を得たところで無駄だ……貴様の死期は近い……その時は目前まで迫っている……復讐と侵略の闇に飲まれる死の時が……!」
今までほとんど同じ発言ばかりを機械のように繰り返していた復讐者が、殺気立った気迫をルミスにぶつけている。その裏側には、確かな復讐者の意志が見える。
復讐者にも感情らしきものがあったのかと、ルミスは多少の驚きを見せるが、その程度だ。
シールドが一枚だろうと、自分のブロッカーが一体だろうと、相手クリーチャーが五体もいようと。
革命という希望を、諦めはしない。
「……もうすぐ私の死が訪れるのであれば」
復讐者の言葉を受けて、ルミスは言い返す。
「そこに至るまでの時間を巻き戻すまでです」
「なんだと……?」
「あなたに見せてあげましょう。私たちの革命を」
そう言ってルミスはカードを引く。
マナをチャージして、7マナ。
その7マナが、ルミスにとっての力であり、希望であり、革命となる。
「奇跡も、魔法も、革命だって、あるんですよ」
それを今から、復讐者に見せつけるのだ。
「奇跡の光は道標。巻き戻る時間すらをも支配して、天を翔ける龍の閃きとなれ——さぁ今こそ、革命の時!」
すべてのマナを解放して、ありったけの力を流し込み、ルミスは光を輝かせる。
「《ラ・クルスタ》を進化!」
光の種は《ラ・クルスタ》。《ラ・クルスタ》は眩い光に包み込まれる。
球状の体は、内に秘めた力を解き放つ。オーブの切れ目が割れ、屹立、潜行、構築、突出の過程を経て、胴から脚へ、首から頭へ、翼に角を現す。
最後に拳の紋章が実体を伴い、《ラ・クルスタ》だったクリーチャーは、聖なる声で嘶く。
それが、時を操る革命軍の王であるという、証だ。
「時よ巻き戻れ(time reverse)——」
時間すらをも操る、奇跡の王。
「——《革命天王 ミラクルスター》!」