二次創作小説(紙ほか)

125話「time reverse」 ( No.380 )
日時: 2016/05/03 14:58
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: uB4no500)

「——革命0トリガー発動!」

 突如、ルミスは叫んだ。
 目前にはとどめを刺しに来た《ドルゲドス》が迫っている。この一撃を受けることは、もはや避けられない。
 しかしそれでもルミスは、勝利を諦めていなかった。
 希望の光を瞳に湛え、ルミスは手の中のカードを一枚、突き出す。
「呪文——《革命の防壁》!」
 ふっ、と光の残滓がルミスの前に集まる。
 それはなにかを形成しようと蠢いているが、なにも形作らない。何物にもならない。
 今は、まだ。
「……革命0トリガー……?」
「革命0トリガーは、私がシールドゼロの時に攻撃されると、手札からコストを払わずに使うことのできるカードです」
 つまり、とどめの一撃を喰らう間際で発動できるカードということ。
 そのようなタイミングで使うとなれば、それは瀬戸際の防御札だ。この一撃で起こりうる、敗北を回避できるような。
 ただし、一つだけ条件があった。
「私の山札の一番上をめくって、それが光のクリーチャーなら、シールドを追加できます」



革命の防壁 R 光文明 (3)
呪文
革命0トリガー—クリーチャーが自分を攻撃する時、自分のシールドが1枚もなければ、この呪文をコストを支払わずに唱えてもよい。
自分の山札の上から1枚目を見せ、山札の一番下に置く。それが光のクリーチャーなら、自分の山札の上から1枚目を裏向きのまま、新しいシールドとして自分のシールドゾーンに置く。
この呪文を唱えた後、墓地に置くかわりに山札に加えてシャッフルする。



 タダでは守れない。仲間の支援を受けて初めて、革命0トリガーは成功するのだ。
 ルミスは山札をめくる。めくられたカードは、《天星の玉 ラ・クルスタ》。
 光のクリーチャーだ。
「やりました。シールドを増やします。これでダイレクトアタックは防げますね」
 山札にいた《ラ・クルスタ》の、守りたい思いを受け取り、光の残滓は遂に一つの盾を形成する。拳の紋章が刻まれた、聖なる盾を。
 その盾はルミスの前に展開され、彼女を侵略者の攻撃から守る。
「だが……《ドルゲドス》はもう一体いる……この攻撃も止まっていない……シールドをブレイクだ……!」
 攻撃している最中の《ドルゲドス》が、《革命の防壁》で増えたシールドを粉砕する。
 そして、続く二体目の《ドルゲドス》が、とどめを刺そうと飛び掛かるが、
「残念でした、S・トリガー《閃光の守護者ホーリー》を召喚します。あなたのクリーチャーはすべてタップです」
 その牙がルミスに届く前に、《ホーリー》の閃光の前にひれ伏す。
 《革命の防壁》と《ホーリー》、二枚重ねの防御によって、ルミスはとどめを刺される直前まで巻き戻り、ギリギリの状態を維持する。
 それでも、かなり危ない橋を渡っているが。
「実はもう一枚持っていたので、トリガーがなくても問題はなかったのですが、とりあえず好都合でしたね。私のターン、《コマンデュオ》を召喚、《レッドローズ》をバトルゾーンに、《デネブモンゴ》を出して、《オリオティス》を呼び出します」
 返しのターン、《コマンデュオ》からの連鎖で再び大量のクリーチャーを並べるルミス。クリーチャーを殴り返し、守りを固めて、反撃の時を窺っている。
 このターンも殴り返したいところではあるが、彼女は思案する。
「……このまま殲滅戦を続けても埒があきませんね」
 復讐者の場には、放置しておけばドローを積み重ね、しかもブロッカーの《ヴェイダー》が二体おり、墓地進化で進化速攻してくる《ドルゲドス》も、いつどこから飛んでくるのか分からない。
 手札はほぼ約束されており、クリーチャーも次から次へと湧いてくる。ちまちま殴り返していては、どこかで足元をすくわれかねない。
 そう思い、彼女は決心した。
 そして、宣言する。
「邪魔なブロッカーには寝ていただきましたし、ここは思い切って攻めますよ! 苦節の時を乗り越え、今! 革命軍、進撃開始です!」
 《ヴェイダー》は二体ともタップ状態。復讐者のシールドも残り二枚。
 打点は十分に足りている。
「さぁ、お願いします! 《コマンデュオ》でWブレイク!」
 先陣を切るのは《コマンデュオ》。《ローズ・キャッスル》を落城させたときのように、残った二枚のシールドを砕く。
 しかし今度は、砕いたシールドから、光が零れた。
「S・トリガー《惨事の悪魔龍 ザンジデス》……!」
「こちらのクリーチャーのパワー低下ですか……しかし、2000の減少程度では、止まりませんよ!」
「もう一枚……S・トリガー……!」
 二枚目のシールドも、S・トリガーだ。
 零れた光が、地獄の門を開くための印を結ぶ。
「《インフェルノ・サイン》……《ザンジデス》を蘇生……相手クリーチャーのパワーをすべて−4000……!」
「……ここまで、ですね。もうあなたはタイムアウトです」
 二体の《ザンジデス》によって、ルミスのクリーチャーはすべて、パワーが4000下げられた。ほとんどのクリーチャーは死滅し、残っているのは《コマンデュオ》と《ミラクルスター》だけだ。
 しかし、それだけ残っていれば、十分だった。
 まだパワーが3500残っている《ミラクルスター》が、最後に大きく啼く。
 革命を達成し、侵略を打ち倒す、証明として。
 美しき讃美歌のような音色で、嘶いた。

「《革命天王 ミラクルスター》で、ダイレクトアタックです——!」



 神話空間が閉じる。
 先ほどまでとは違う、淀みのない外気を肌で感じた。
 対戦中の緊張感から解放され、ルミスは一息つく。
「ふぅ……いっちょあがりです」
「ルミス……っ」
 トタトタと、恋が駆け寄ってくる。
 いつもよりも、少しだけ感情を露わにしながら。
「ルミス……ありがとう」
「いいえ、気にしないでください。私も追いかけてくるストーカーを撃退しただけですし」
「でも……私を囮にするとか……方法、あったし」
「なんて物騒な……」
「わざわざ、私を守る理由なんてないのに……なんで、ルミスは私を……?」
 理由を問う恋。
 恋が目覚めてから、一時間も経たない程度の時しか、共にしていない。
 人間とクリーチャー。接点がなければ、利害関係もない。無縁の関係だった。
 にもかかわらず、ルミスは倒れた恋を介抱し、あまつさえ身を挺して復讐者から自分を守ってくれた。
 恋を囮にするなんてことは極端にしても、無理して助けるほどの価値はあったのか。それだけのリターンを恋から得ることなどできたのか。
 損得勘定を抜きにしても、なぜ恋を助けようとしたのか。恋にはその理由が分からなかった。
「理由、理由ですか」
 ルミスは唇に人差し指を添えて、考え込む仕草を見せる。少しだけ、返答に困ったようなようだった。
「善行に理由を求められると返す言葉に悩んでしまいますが、それでもあえて言うのなら、あなたは私と似ていると感じたから、でしょうか」
「似てる……? 私と、ルミスが……?」
「えぇ。とても、感覚的なことなんですけど」
 思わぬ返しに、恋は首を傾げる。
「その感覚的なものをあえて具体的にして、私も訊きますけど、あなたは恋をしていますね?」
「え……」
 恋は無感動な目をぱちくりさせる。表情に感情はなくとも、明らかに驚いた風だった。
「自覚、ありませんか?」
「ん……ある」
「ふふっ、やっぱり」
 なぞなぞの正解を言い当てた少女のような子供っぽさで、ルミスは笑う。
「告白はしました?」
「した……」
「あ、大人しそうに見えましたが、結構積極的なんですね。それで、結果は?」
「……『私も好きだよー』、って……」
「違うものと勘違いされていますね。自分の好きの意味を、ちゃんと伝えないとダメですよ?」
「言った……そしたら……」
「そうしたら?」
「……『私たち、女の子同士だし……』、って……なんかちょっと困ってた……」
「人間の世界でも、同性愛ってマイノリティなんですねぇ」
 恋の焦がれる相手を知ってもなお、ルミスは戸惑うどころか、当然のように受け入れる。
 まるでそれはおかしなことではなく、当然のことであるかのように。自分にも身に覚えがあるかのような当然さで、ルミスは相槌を打つ。
「……でも……諦めるつもりはない……」
「その意気ですよ」
 さらに恋の背中を押すルミス。
 そんなルミスに、恋は再び問いかける。
「……ルミスは」
「はい?」
「ルミス、私と似てるって……そう言った……なら、ルミスも……?」
「……そうですよ」
 ルミスはゆっくり首肯した。
 そして、言葉でも肯く。
「私にも、思い続けている相手がいます」
 ただ、とルミスは続ける。
「恋さんと同じように……私とあの人は、本来ならば結ばれてはいけない関係なんです」
「結ばれては、いけない……」
「うふふ、禁断の恋、というやつでしょうか」
 冗談っぽく笑うルミス。
 しかしその笑みは、すぐに暗鬱としたものに変わってしまう。
「……その恋は、実ることもなくなってしまったかもしれませんけど」
 ぼそりと、誰に言うでもなく、誰にも届かない、自分にしか聞こえないような声で、ルミスは呟いた。
 ここにはいない、かの者へと。
「ねぇ……メラリー」
「ルミス……」
 恋はルミスを見上げる。
 暗い陰の差した彼女の表情は、見ていて心苦しいものがあった。
 不安と、焦燥と、痛苦と、陰鬱と、悲哀に染め上げられたルミスの表情と心情は、恋が理解するにはあまりに深い。
 深淵の中にある闇が深すぎて、恋でも踏み出せなかった。
 それを見てなのか、それとも自分の中で決起したのか、ルミスは弱音を取り消すように自分の中で渦巻く闇を否定する。
「……いいえ、弱気になってはいけませんね。私も、諦めませんよ」
 恋の言葉を借りて、ルミスも自身を奮い立たせる。
「メラリーは……私の想い人は、必ず生きている。私はそう信じています」
 それがただの希望的観測で、自らの醜態を晒すだけになるのか。
 それとも、追い続けた光が、自分の目指す未来となるのか。
 どちらにせよ、ルミスは前に進むことを最後まで諦めない。
「希望は捨てず、革命を起こすまで、私は私の時を刻み続けます……あの人と、再会するまで」
 【フィストブロウ】の仲間としてだけではない、クルミスリィトという個人としての意志。
 それを胸に抱いて、ルミスは歩み続ける。
「……すみません。長々と話し込んでしまいました」
「いい……気にしてない」
「私は仲間を探さなくてはならないのですが、恋さんは?」
「私も……あきらたち、見つけないと……」
「では、一緒に行きましょう」
「いいの……?」
「ええ。ここまで来て見捨てることなんてできませんし、一人より二人の方が心強いです」
 目的も、境遇も、胸の内に秘めた思いも似通った二人。
 二人は、お互いの目的を果たすべく結託し、共に進む。
 ふとルミスは、ちらりと流し目を向ける。先ほど、自分が戦っていた場所を。
 しかしそこには、誰もいなかった。
 人っ子一人、影すらも残っていない。
「……少々、面倒なことになったかもしれませんね」