二次創作小説(紙ほか)
- 126話「賭け」 ( No.383 )
- 日時: 2016/05/05 12:56
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: uB4no500)
浬と奇々姫のデュエル。
互いにシールドは五枚。
浬の場には、《アクア超人 コスモ》と《アクア鳥人 ロココ》。
奇々姫の場には《一撃奪取 マイパッド》が一体。
「それじゃあ、わたしのターンですね!」
奇々姫は威勢良くカードを引くと、マナを3枚、タップした。
「《マイパッド》の能力でコストを1下げて、《奇天烈 ベガス》を召喚です!」
奇天烈 ベガス R 水文明 (4)
クリーチャー:マジック・コマンド/侵略者 4000
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手は自身の山札の上から1枚目を見せ、その後、山札の一番下に置く。そのカードがコスト5以上なら、カードを3枚引く。
現れたのは、両手にルーレットの回転盤を持った、ロボットのようなクリーチャー、《奇天烈 ベガス》。
《ベガス》が場に出ると、奇々姫は小さく微笑んで、足元のトランクを蹴り上げるようにして開け、ステッキでトランクの中身を飛ばす。
そして、甲高い声をさらに大きく響かせた。
「さあさあ、わたしのゲームの始まりですよ! 種目はルーレット! そして本日の数字は5です!」
「なんだ……?」
ドンッ! とトランクの中身が場に落ちてきた。それは《ベガス》が手にしているものと同じ、ルーレットの回転盤だ。
回転盤の縁には窪み(ポケット)があり、それぞれ数字が割り振られている。
その数字の中で、5の数字だけが、青く光っていた。
「《ベガス》の能力は、相手の山札の一番上をめくって、それがコスト5以上のカードであれば、カードを三枚引けるんです!」
「なにかと思えば……そんなことか」
いきなりなにが出てくるかと思ったが、浬はその能力に拍子抜けする。
「そんな運任せの能力、そう簡単に当たるものか」
「それはどうでしょう? やってみないとわかりませんよ?」
奇々姫はまったく表情を変えないまま、自信満々に言う。
「それではお客さんも疑っていることですし、お金(手札)も欲しいですし、百聞は一見にしかず。お見せしましょう。わたしのマジックを!」
奇々姫の声と同時に、《ベガス》がボールを投げ入れた。ボールは回転する盤の縁を、カンカンと音を立てながら跳ねていく。
「……ふんっ、こんな相手依存な能力、易々と当たってたまるか」
「まあまあ、とにかく見てくださいよ。絶対に当ててみせますから、ほら」
くるくるとステッキを回しながら、奇々姫は胸を張る。
そして、ルーレットに向かって一言、掛け声と同時に、そのステッキを振るった。
「種も仕掛けもございません。はい!」
そして、カツンッ、と跳ねたボールが窪み(ポケット)に収まった。
それと同時に浬はデッキの一番上のカードをめくる。
そのカードは——《幾何学艦隊ピタゴラス》。
コスト5のカードだった。
「っ……!」
「数字ピッタリ大当たりです! やりましたよ、カードを三枚ドローします!」
青く光った箇所に玉が入り、大量の掛け金(ベット)が奇々姫の手元に入ってくる。その掛け金を知識——手札へと変換された。
パワー4000のクリーチャーを出しつつ、三枚ドロー。結果だけを見れば、そのアドバンテージはプレミアム殿堂カードである《サイバー・ブレイン》を超えている。
「ふふふ、いい手が入りました。では《ベガス》、そのルーレットの回収をお願いしますね。わたしはこれでターン終了です」
《ベガス》が運んでくるルーレットをトランクに仕舞いつつ、奇々姫はターンを終えた。
パチンとトランクを閉めると、立ち上がり、奇々姫は自慢げに胸を張る。
「どうです? これでわかりましたか? わたしのマジックが」
「……ただの偶然だ、こういうこともある。ましてや、俺のデッキは比較的コストの高いカードが多いしな」
と、負け惜しみのように言う浬。
表面上は平静を保っているつもりだが、内心では焦燥が渦巻いている。
その時、浬はいつか出会った少女——風水とのデュエルを思い出していた。
運気の流れが読めると言っていた少女。その流れを読むプレイングで、彼女も相手依存で運任せなカードを操っていた。
もしかしたら、この少女にも、彼女と似たような力があるのではないか。風水は運気の流れを読むだけだったが、奇々姫は人間ではない、クリーチャーだ。もしかしたら、風水にはできなかったことが、運気の流れを操ることが、可能なのではないか。
そんな考えが、浬の脳裏を幾度とよぎり、彼の思考を鈍らせる。
そんなものはあり得ない、運気など確率の中の数字でしかない。そう何度も言い聞かせる。頭では分かっているはずだ。
しかし、浬の疑惑が、疑念が、彼の組み立てる式に、不要な材料を混ぜ込んでしまう。
彼女は、意図的に《ベガス》の能力を発動したのではないか、となにかが耳元で囁く。
「……違う、あんなものは偶然だ。デッキにコスト5以上カードがあれば、確率はゼロではない。たまたまだ」
自分に言い聞かせるように呟いて、浬はカードを引く。
「《ロココ》でコストを下げ、《龍素記号JJ アヴァルスペーラ》を召喚! 山札の上五枚から、呪文を手札に加える」
奇々姫がどのような動きをしたところで、浬は自分のプレイングを貫くだけだ。
とりあえず、今出せるカード、《アヴァルスペーラ》で呪文を回収しようとするが、
「っ、なに……?」
山札からめくったカードは、《龍覇 M・A・S》《龍素記号Og アマテ・ラジアル》《アクア・サーファー》《パクリオ》《賢愚の語り手 エリアス》の五枚。
すべて、クリーチャーだった。
「……呪文は手札に加えない。この五枚を山札の下に置くぞ」
「呪文がなかったんですか? あーあ、ついてませんでしたねー。ま、そういうときもありますよ。あまり気落ちしないでください」
と、敵から慰められる浬。小馬鹿にされているようにしか思えない。
確かに《アヴァルスペーラ》の疑似サーチ能力は不発の可能性もある。だが、それでも呪文も多く積んでいる浬のデッキであれば、五枚めくって一枚も呪文がないということは、ほとんどないはず。不発の可能性は、確率的にかなり低いのだ。
それが、今回は不発だった。
そのことが、浬にさらなる疑念を募らせる。
(まさか、こいつが……?)
——こいつが俺の運を操っているのか?
浬はそう思ってしまった。
確かな言葉として、心中でそう感じてしまったのだ。
その感受は、運などという浬が最も忌避する不確定要素を、一時でも信じてしまった証左だ。
「では、わたしのターン! まずは《ピーピング・チャージャー》です。シールドを拝見させていただきますよー?」
相変わらず甲高い声でカードを繰りだす奇々姫は、《ピーピング・チャージャー》で浬のシールドを一枚覗き込む。
シールドを見るだけではなんのアドバンテージにもならないが、しかし情報というアドバンテージは得ることができる。さらにマナも伸ばせるので、彼女はこの先の戦略も組み立てやすくなっただろう。
「ふむふむ、なるほどなるほど。では、使い終わったチャージャーはマナへ置きますね。そして、《奇天烈 ベガス》で攻撃——」
刹那、
「——する時に、侵略発動です!」
コインの流れる音が、響き渡る。
「侵略……!」
奇々姫の言葉に、浬の表情が一気に険しくなる。
浬もこの眼で一度だけ見ている、侵略。
攻撃中に進化し、大型クリーチャーがいきなり現れる、攻撃的で驚異的な踏み倒し能力。浬が見たものとは文明こそ違えど、根幹は同じはず。十分に警戒しなくてはならない。
「この一球にわたしのすべてを賭けて、最高に狂ったゲームを始めましょう! そして——侵略です!」
《ベガス》は、天から降り注ぐ大量のコインを浴びる。
それは、最上級のグレードへと昇格するための、多額の賭け金。
確率の先にある熱狂に憑りつかれた奇天烈の侵略者は、狂喜と狂気に満ちたギャンブルを開始する。
そして、そのためのディーラーがやって来た。
「オールイン——《超奇天烈 ベガスダラー》!」