二次創作小説(紙ほか)
- 126話「賭け」 ( No.384 )
- 日時: 2016/05/06 01:34
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: uB4no500)
超奇天烈 ベガスダラー SR 水文明 (7)
進化クリーチャー:マジック・コマンド/侵略者 8000
進化—自分の水のクリーチャー1体の上に置く。
侵略—水のコマンド
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手は自身の山札の上から1枚目を見せ、その後山札の一番下に置く。そのカードのコストが5以上なら、バトルゾーンにある相手のクリーチャーをすべて手札に戻す。それ以外なら、カードを2枚引く。
《ベガス》が侵略し、現れたのは、《ベガス》をさらに大きくした、ロボットの如きクリーチャーだった。
建造物を変形させたかのような巨躯。金色に輝くタワーを備え、背と胸には巨大な回転盤が取り付けられている。
その姿はまるで、今からルーレットでも始めると言わんばかりだった。
いや、事実、今から始まるのだ。
狂いに狂った、熱狂的な賭博が。
「さぁさぁ、次のゲーム開始ですよ!」
「っ、なにを勝手に——」
「拒否権はありませんよー? 賭け金を払った時点で、ゲームが終わるまで逃がしませんからね!」
「金を払った覚えはないぞ!」
浬の言葉は虚しく響くだけで、奇々姫は、彼女の言う“ゲーム”を進める。
再びトランクを蹴り開け、ステッキで回転盤を弾き飛ばし、場に設置する。
ここは既に、彼女が取り仕切る賭博場だ。浬に逃げ道はなかった。
「ではでは、《超奇天烈 ベガスダラー》の能力発動! 《ベガスダラー》がバトルゾーンに出た時、相手の山札の一番上をめくって、それがコスト5以上のカードなら、相手クリーチャーをすべて手札に戻します!」
「なに……っ!?」
奇々姫の言葉に、驚きを見せる浬。
そう、驚いてしまったのだ。
それは運気の流れという非科学的な事象を前提として、その事象を信じていることと同義。
そして、浬が既に、奇々姫に飲まれていることを示していた。
「種目はルーレット、本日の数字は5。皆さまふるってご参加ください! わたし主催のギャンブルゲーム、スタートです!」
回転盤が回り始める。同時に、《ベガスダラー》はその中にボールを放る。
投げられたボールが、回転する盤の縁を跳ねる。
当たった時のリターンが大きいこの一球だ。浬も、思わず見入ってしまっていた。
やがて盤の回転が停止へと近づいていく。その瞬間に、奇々姫はステッキを振るった。
「種も仕掛けもございません。はい!」
同時に、浬は山札を捲る。
捲られたカードは——《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》。
コスト4のカードだった。
浬は一瞬、目を疑った。
「は……? これは……」
「あっれー? おかしいですねー、コスト5以上のカードが出ると思ったんですが……まあ、こういう時もありますか。なにせギャンブルですからね! 当たるも八卦、当たらぬも八卦です!」
あっけらかんとそんなことをのたまう奇々姫。特に気にした風もなく、気楽に笑いながら、ステッキをくるくると回している。
一方、浬はこの結果に、唖然としていた。
(本当に種も仕掛けもなかったのか……)
そして、ガクッと肩を落とす。なにか変な力が働いているのではないと分かり、ある意味ホッとした。
だが同時に、こんな子供のハッタリにかかってしまった自分が恥ずかしくなる。
「あ、でも《ベガスダラー》は、外れてもカードを二枚ドローできますからね! アフターケアはバッチリなんですよー! カードを引いて、Wブレイク!」
《ベガスダラー》の振りまいたコインを奇々姫は掴み取り、それを知識——手札へと変換する。
直後、浬のシールドが二枚砕け散った。だが、クリーチャーは無事だ。シールド二枚の損害なら、まだリカバリーできる。
「俺のターン。呪文《幾何学艦隊ピタゴラス》で、《マイパッド》と《ベガスダラー》をバウンスだ」
「わ、わわっ! あっという間に戻されてしまいましたが……わたしは負けませんよ! 《マイパッド》と《ベガス》を再び召喚! 《ベガス》の能力で、山札を捲ってください!」
浬が山札を捲ると、それは《アクア特攻兵 デコイ》。コスト2のカードだ。
「やはり種も仕掛けもないようだな。はずれだ」
「う、うぅー……ターン終了です」
先ほどまでのお気楽な態度はなんだったのか、奇々姫は弱ったように呻く。
なんにせよ、謎は解けた。
奇々姫のマジックとやらはただのハッタリ。やけに自信ありげに口にしていた言葉も、すべて根拠のない自信とただの虚言。今まで彼女がコスト5以上のカードを当てたのも、浬が《アヴァルスペーラ》の効果を不発させたのも、単なる偶然の産物であり、確率の中の数字を拾っただけに過ぎない。ただ少しばかり運が悪かっただけだ。
それが判明した瞬間から、浬の脳は切り替わる。
「俺の場にリキッド・ピープルは二体、さらに《ロココ》の能力でコマンド・ドラゴンのコストを1軽減。合計コストを3軽減し、こいつを召喚だ」
余計な要素を排除した浬の計算が、正常な値を算出し始める。
場のリキッド・ピープルたちの力を得て、龍素が抽出され、一つの龍素記号が導き出された。
「浬の知識よ、結晶となれ——《龍素記号IQ サイクロペディア》!」
神秘的な結晶を砕き、その中から、IQの龍素記号を持つクリスタル・コマンド・ドラゴン、《サイクロペディア》が飛び出す。
「《サイクロペディア》がバトルゾーンに出た時、カードを三枚ドローする。ターン終了だ」
「うーむ、大きなクリーチャーが出てしまいましたか……これは早急になんとかしなければ! 呪文《ピーピング・チャージャー》を唱えて、《奇天烈 ディーラー》を召喚!」
シールドを見て、マナを伸ばし、クリーチャーを並べる奇々姫。さらにこのターンには《ベガス》が攻撃できる。つまり、《ベガスダラー》へと侵略可能な状態なのだ。
浬のクリーチャーがすべてバウンスされる可能性はあるが、それはただの運でしかない。当たったら事故だ。
「こうなってしまえば、奥の手を使いますか。とっておきのマジックです」
「なにがマジックだ。もうお前の戯言に耳を貸すつもりはない」
「さーて、どうでしょう? 戯言かどうかは、見てから判断してくださいな! 行きますよ! 呪文発動です!」
そう、なんの仕掛けもなければ、当たったとしても、ただの事故で済ませられるのだ。
なにも、仕掛けられていなければ。
「呪文! 《ガード・ビジョン》!」
「な……それは……!」
唱えられた呪文に、またも吃驚の色を見せる浬。
《ガード・ビジョン》。1マナの水の呪文で、唱えれば、山札の上から三枚を見て、好きな順番に入れ替えられる効果を持つ。
このカード一枚では、次のドローの質を少し変える程度の効果しかなく、基本的にアドバンテージは取れない。手札一枚と、マナを1マナ消費するだけ。
ただしそれは、このカード一枚だけで考えた場合だ。
水は未来を変える。自分たちにとって都合の良い結果を生むために、不確定な未来を確定的にする。
それは同じく水文明を使う浬も知っている。だからこそ、これから起こるだろう“未来”が分かった。
《ガード・ビジョン》の山札操作は、プレイヤーを問わない。
つまり、“相手プレイヤー”の未来すらも、変えられるのだ。
「さぁ、山札を見させていただきますよ? どれどれ?」
浬の山札の上から三枚が、公開される。ただし、浬の目には触れず、奇々姫だけが、その未来を知っている。
狡猾な水文明が変える未来は、必ずしも自分たちの未来だけとは限らない。場合によっては、相手の未来すらも、書き換える。
そして書き換えた未来を利用するのが、彼女の従えるギャンブラー——奇天烈の侵略者たちだ。
「これでよし、と。では、お待たせいたしました!」
山札の上を操作し終えた奇々姫は、満面の笑みでステッキを回す。
これから始まるのは、最悪の出来レース。彼女にとってのボーナスゲームで、浬にとっての罰ゲームだった。
「またまたわたしのゲームの開演です! 《ベガス》で攻撃して、侵略発動!」
《ベガス》が浬へと突貫し、コインの雨に降られ、その中で姿を変える。
「オールイン——《超奇天烈 ベガスダラー》!」
コインの雨が降り止み、《ベガス》は《ベガスダラー》へと進化し、侵略していた。
「本日の数字は5。あなたの山札を捲ってコスト5以上のカードが出ればジャックポット、わたしへの配当金がガッポリで、あなたのクリーチャーをすべて手札に送り返させてもらいますね!」
律儀に説明を繰り返して、ゲームが始まった。
ディーラーが放ったボールは縁を跳ね、窪み(ポケット)に収まる。
それは、分かり切った結末だった。
「さぁ、種も仕掛けもございません。はい!」
浬は山札を捲る。彼女の熱狂は、もはや止められない。
捲られたカードは、《龍覇 メタルアベンジャー》。
コスト6のカードだ。
「ビンゴ、大当たりです! それではわたしは配当金として、あなたのクリーチャーをすべて手札に戻しますよ!」
《ベガスダラー》は、今度は大量のコインを吐き出した。その量は洪水のようで、コインの激流によって、浬のクリーチャーはすべて手札に押し戻される。
流された自分のクリーチャーたちを見て、浬は小さく舌打ちする。
「ちっ……なにが種も仕掛けもございません、だ。思い切り仕込みやがって……!」
とんだイカサマだった。
しかし、不確定要素をできる限り確定に近づけるそのプレイング自体は、浬の目指すデュエマの形そのもの。
風水と同じく、自分とは真逆の性質を持っているかと思えば、自分と同じ性質も見せる奇々姫。
どうにも掴みどころがない。ゲームの種がないと分かり、巻き返せたと思った直後にこの展開。最初からずっと、翻弄されてばかりだ。
そんなことを考えていると、目の前に《ベガスダラー》の影が差す。
「ルーレットは終わりましたが、こっちは終わってませんからね! 《ベガスダラー》でWブレイクです!」
「っ……! S・トリガー《幾何学艦隊ピタゴラス》! 《マイパッド》《ベガスダラー》をバウンスだ!」
はっと我に返る。《ベガスダラー》に割られたシールドから出たS・トリガーで、とりあえず奇々姫の場数を減らしていく。
クリーチャーは全滅し、シールドは残り一枚。相手のクリーチャーも絶え間なく出て来る。今はとにかく、凌ぐしかない。
賭博に身を投じ、熱狂に取りつかれてしまった、侵略者の猛攻から——