二次創作小説(紙ほか)
- Another Mythology 12話「幻想妖精」 ( No.39 )
- 日時: 2014/05/05 21:33
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
「ま、ざっとこんなもんかな」
「思ったより大したことはなかったわね」
「こんなところで時間を食ってる場合でもないしな」
三体のドラゴンを倒し、神話空間から戻って来た三人は、口々にそんなことを言う。
「み、みなさん、お疲れ様です」
「まー私たちなら楽勝な相手だったしね。早く《語り手》探しに行こう——」
と、その時。
またしても近くの木々が揺れ、地鳴りが起こり、空からなにかが飛来してくる。
「っ、こいつら……!」
「《バルガザルムス》《ミルドガルムス》《ドラピ》……! まだいたのね……」
「たぶん別固体だけどね」
なんにせよ、敵意剥き出しの三体のドラゴンが再び襲ってきた。ならば、応戦するしかない。
「面倒だなぁ……」
「だが、三体で囲まれてるならやるしかない」
三人は再びそれぞれドラゴンを相手取る。しばらくして、三人は神話空間から出て来た。
「終わったか」
「デッキも戦術も変わり映えしないわね」
「さて、今度こそ《語り手》を探しに——」
と暁が一歩踏み出したその時、またしても三体のドラゴンが姿を現す。
「またぁ!? どんだけいるのさ!」
辟易としながら叫ぶ暁。その傍らでは、浬が怪訝そうな視線をドラゴンに向けていた。
「……妙だな」
「そうね。群れでいるにしても、こんな小分けにして出て来るなんて、おかしいわ」
仮に近くにドラゴンの群れがあって、テリトリーに入った暁たちを襲っているにしても、それなら一斉に出て来ればいいはずだ。三体ずつ分けて出て来る必要なんてない。
なにかしらの思惑が働いている。そんな匂いがした。
「どこかにこのドラゴンたちを操ってる奴がいそうだな……」
「と言っても、近くにそれらしい気配は感じません。というか、あのドラゴンたち、怖いです……ご主人様ぁ」
「黙れ、変な声を出すな。というか泣くな! お前クリーチャーだろ!」
浬は涙ぐむエリアスを叱咤する。だが、確かに唸りを上げるドラゴンたちは恐ろしい形相でこちらを睨んでいた。
「さて、どうしたものかしら。このままドラゴンたちと戦ってもねぇ……」
「……む」
ドライゼがなにかに気付いたかのように、視線を近くの茂みへと向ける。
「そこにいるのは誰だ?」
そう問いかけながらホルスターから二丁の拳銃を抜き、トリガーを引く。ほぼ同時に銃口から弾丸が射出され、茂みへと吸い込まれていった。
「ビンゴだ」
茂みの中から、何者かの影が飛び出す。
「っ、クリーチャー!?」
「《幻想妖精カチュア》だな」
自然の大型スノーフェアリーだ。
「どうもあのクリーチャーが、このドラゴンたちの発生源みたいね」
「そっか、《カチュア》はドラゴンを呼んでくる能力があるんだった……その能力を使って、このドラゴンたちを呼んでるのか」
「……ここから立ち去りなさい」
ドラゴンたちが現れる種は分かった。そして、カチュアが静かに口を開く。
「ここは私の地。貴方たちのような者が足を踏み入れていい場所ではないの」
「おやおや、随分と嫌われてしまったようだな。女性に嫌われるのは悲し——」
「行きなさい、地龍たち!」
ドラゴンの咆哮が鳴り響き、地を揺るがす。そして三体のドラゴンが飛び掛かって来た。
「やっば……コルル!」
「結局こうなるのか……!」
「仕方ないわね」
咄嗟に神話空間を展開してデュエルに持ち込む三人だが、ここでドラゴンを倒したとしても、カチュアの能力でまた新しく出て来てしまうので、いくらドラゴンを倒して耳はない。カチュアを倒さなくては、いたちごっこだ。
「みなさん……」
リュンと取り残された柚が、どこか悲しげで、寂しげに呟く。
「もしも、わたしが戦えれば……」
また状況は違ったかもしれない。そう思うと、悔しさが込み上げてくる。
「わたしは、役立たずです……みなさんの足を、引っ張るばかりで……」
悔しさの後には、情けなさが湧き上がる。本来なら、自分はこの世界に来るべきではなかったのかもしれない。来たところで戦えず、月魔館の時のように足手まといになるだけだ。
だが、そんな彼女にも、希望がないわけではなかった。
「だったら、賭けてみるかい?」
「え……?」
リュンの言葉に、柚は顔を上げる。
「この森のどこかに《語り手》が眠っているのは確かだ。その眠りを覚まさせることができれば、君も戦うことができる」
「で、でも……」
「彼らを助けたいと思う気持ちがあるのなら、ここで悲観してる場合じゃないよ。君にも、可能性はある」
「……分かりました」
リュンの言う通りだ。このままここでジッとしていても、状況はなにも変わらない。この状況を変えたいのなら、自分が動くしかなかった。
「行きましょう、リュンさん!」
「了解した。じゃあ、ついて来て。案内するよ」
「はいっ」
そして、柚とリュンは駆け出した。この森に眠る、《語り手》の封印を解くべく。
「——あれ? ゆずがいないよ?」
「先に逃げたのかもな。ここにいても、戦えないあいつらじゃ危険なだけだ」
「だったら、私たちもその後を追って逃げたいところなんだけど……」
そうはいかない。
ドラゴンを倒した瞬間、新たなドラゴンがまたしても現れ、行く手を塞ぐ。
「貴方たちは逃がさない」
「そうもいかないみたいね……仕方ないわ、やるだけやりましょう。あの子たちが私たちを見捨てるってこともないだろうし」
「なにをしようとしてるかは分からないが、今は霞たちに賭けるしかない」
「うん……」
結局は、できることをするしかないのだ。
暁たちは再び神話空間を開き、目の前のドラゴンたちとの戦闘に入る。
その最中、暁はふっと呟いた。
「……ゆず、信じてるからね」
しばらく森の中を走ると、少しだけ開けたところに出た。そこだけは木々や茂る草ではなく、小さな花畑のように、花々が咲いている。
そして中央に鎮座するのは、祠というよりも社、もしくは小さな神殿だった。
中に入ると、そこは今まで見た《語り手》が封印されていた小部屋とほぼ同じ景色が広がっている。壁には幾何学的な模様が描かれ、祭壇の中央には台座が、そしてその上には、掌ほどもある蕾のようなものがあった。
「ここに、《語り手》のクリーチャーが眠っているんですか……?」
「うん。ここに封印されているのは《萌芽神話》の配下だ」
もしその封印が解ければ、柚もカチュアと戦える。延々とドラゴンと戦い続けるループを打破できるかもしれない。
だが、それは柚がその封印を解ければの話だ。この前、《焦土神話》の配下を目覚めさせられなかったばかりなので、不安がよぎる。
しかし不安に駆られているのは柚だけではなかった。
(《萌芽神話》は十二神話の中でも最も幼いクリーチャーだ。秘めたる力は相当なものだけど、十二神話入りを疑問視するクリーチャーも数多くいるほどに、彼女は未熟だった。そんな彼女が信頼を寄せるクリーチャーって言っても、正直あまり期待できない……)
そもそも、リュンとしてはコルルやエリアス、ドライゼの力も期待していたものからほど遠いものだった。彼らの主たる十二神話は、十二神話らしく優秀であったが、《萌芽神話》は普通のクリーチャーとしても未熟であったので、その配下が如何ほどの力か、疑問である。
「で、では、行ってきます……!」
「あ、うん。お願いね」
とはいえ、今はそれに賭けるしかないのだ。期待できないとか、実力に疑問を覚えるだとか、そんなことをぐだぐだと抜かしている場合ではない。
今の自分たちに残された手は、これだけしかない。ならば、その可能性を信じるしかなかった。
柚は台座の前に立つ。目の前の蕾が事の成否に関わると思うと、凄まじい緊張感とプレッシャーに襲われる。
だが、それに臆するわけにはいかなかった。自分の可能性が、仲間たちの命に直結すると言っても過言ではないのだ。ここで臆している場合ではない。
「い、いきます……っ!」
勇気を振り絞って柚は手を伸ばす。そして目の前に蕾に、静かに触れた。
刹那、萌芽の殻が破れる——