二次創作小説(紙ほか)
- 128話「円筒の龍」 ( No.393 )
- 日時: 2016/05/21 22:45
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
超奇天烈 ダイスダイス 水文明 (5)
進化クリーチャー:マジック・コマンド/侵略者 7000
進化—自分の水のクリーチャー1体の上に置く。
侵略—水のコマンド
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、カードを4枚引く。その後、自分の手札を相手に2枚、見ないで選ばせ、好きな順序で山札の一番下に置く。
《サイコロン》が侵略し、現れたのは、やはり巨大なロボット。両手がサイコロのような立方体になっており、ライトのようなレーザーを発している。
「……はぁ」
「おや? 溜息なんてついてどうされました?」
「君の侵略クリーチャーを見ていると、どうにも苛々するのだよ。設計者が誰かが分かっているだけにね」
「そういえば博士は、あの方とは仲が悪かったですね。でもでも、わたしのゲームには一切合切無関係なので、お気になさらず!」
そう言って奇々姫は、侵略した《ダイスダイス》へと目を向ける。
「《ダイスダイス》の能力発動! このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、カードを四枚引けますよ!」
両手から放たれるレーザーが、奇々姫の山札を照らす。照らされ、浮かび上がった四枚のカードを、奇々姫は手に取った。
場に出るだけに四枚の手札を手に入れる能力。ビートダウンで積極的にクリーチャーを出して殴り、侵略というギミックによって手札消費も激しい奇々姫にとっては、重要な能力だ。
しかしそれを差し引いても、侵略による踏み倒しに、大きなハンドアドバンテージ、素のコストの軽さなどを考慮すれば、四枚の手札補充は強すぎると言っても過言ではない。
「それゆえに、当然それだけのデメリットはあるんだろう?」
「デメリット? さて、どうでしょう?」
まさか本当に四枚もカードが手に入るとは思えない。ミリンはデメリットがあると予想するも、奇々姫ははぐらかす。
「ですがおっしゃるとおり、四枚も配当はもらえません。こうして増えたわたしの手札から、カードを二枚山札に戻さなければならないのです。そして、それを決めるのが」
奇々姫はポケットから“それ”を取り出すと、またもミリンに投げ渡す。
それは、やはり二つのサイコロだった。
「ダイスか……」
「二つのダイスで、わたしの手札は変わります。手札が変われば、戦略も変わります。その六面の賽で、わたしたちの運命は分かたれるのですよ!」
四枚のカードを引き、手札から二枚をランダムで山札に戻す。
《サイコロン》と同じだ。なにが手札に残るかが分からない不安定さと、そのスリル。
手札に残したいカードが戻るのか、不要なカードが戻るのか。蓋を開けるまで結果は分からない。だからこそ、ゾクゾクする。
そんな緊張感を味わいながら、奇々姫はミリンが投げる賽の目の行方を眺める。
カランカランと、二つのダイスが運命を決めた。
「1・1(ピンゾロ)……」
賽の目が表しているのは、二つとも1。1(ピン)のゾロ目でピンゾロだった。
「では、この二枚を山札に戻しますね。《アクア・ベララー》の能力で、あなたの山札を見て……ふふ、そのままです。そして、《ダイスダイス》でシールドブレイク!」
「《アクア・スーパーエメラル》でブロック」
奇々姫の手札が確定し、《ダイスダイス》の攻撃が続行される。
相手の手札がどうあれ、ミリンとしては今の状態でWブレイクを受けるのは厳しい。それに、奇々姫の手札に新たな侵略者が引き入れられたことも考慮して、先にブロッカーを消費しておくことにした。
「……ふっふっふ、この手札はなかなかですね。どうやらこの賭けに勝ったのは、わたしのようですよ!」
《ダイスダイス》で増えた手札を眺めつつ、わざとらしく笑みを見せる奇々姫。
彼女はまだ攻撃していない《ギャンブル》に手をかけた。
「《ギャンブル》で攻撃——する時に!」
「また侵略か……」
「その通り! 侵略発動です!」
既に侵略を為した《ギャンブル》は、さらに侵略を重ね、熱狂に憑りつかれる。
一度侵略したからといって、もうそのクリーチャーが侵略できないわけではない。
《ギャンブル》は水のコマンド。つまり、奇々姫が抱える侵略者の、侵略条件を満たしているのだ。
「この一球にわたしのすべてを賭けて、最高に狂ったゲームを始めましょう! そして——侵略です!」
条件を満たせば、あとは始めるだけだ。
熱狂的に奇天烈な、侵略という賭博を。
「オールイン——《超奇天烈 ベガスダラー》!」
《ベガス》から《ギャンブル》を経て、さらに侵略し、《ベガスダラー》が現れる。
恐らくは、《ダイスダイス》で引き入れ、山札に戻されることもなかったのだろう。直前に《アクア・ベララー》で自身の山札の上を把握していたため、《ベガスダラー》が引けることも分かっていたのかもしれない。
なんにせよ、《ダイスダイス》の能力で手札に《ベガスダラー》が残らなければ意味のないことで、結果として奇々姫はその賭けに勝ったのだ。
そして次のギャンブルが始まる。盤上には回転盤が設置され、《ベガスダラー》がディーラーとなってボールを放る。
「さあさあ、お捲りください。だいじょーぶです、種も仕掛けもございません。はい!」
そんな台詞を聞きながら、ミリンは山札を捲る。
捲られたのは、《サイバー・I・チョイス》。
コスト7のカードだった。
「ふぅむ。君は直前に《アクア・ベララー》で私の山札も見ていたね。ということは、私のトップデックを把握したうえでやってるね、これは」
「さーて、なんのことでしょう?」
とぼける奇々姫。顔が笑っている。
どこからどう見ても、奇々姫がミリンの山札を確認した事実は変わらない。とぼけても無意味だったが、それを摘発することこそ、この場では無意味だった。
《ベガスダラー》の能力によって、ミリンの場は一掃される。さらに、シールドを二枚、打ち砕いた。
「S・トリガー発動だ。《終末の時計 クロック》。君のターンはここまでだよ」
「うむむ、せっかく場を一掃したのに。しかしもう攻撃できるクリーチャーはいませんし、無問題ですね! それにあなたのシールドは残り二枚! わたしのシールドは五枚! 持ち金の差は心的余裕の差にもつながりますし、冷静さを欠いていては、勝てるゲームも勝てませんよ?」
「私は至って冷静さ。君の言う通り、この状況、私が不利なのは明確だ。だが、背水の陣という言葉もある。この窮地こそが、逆転へと結びつける要素にもなりうるのさ。それが、革命というものだ」
状況は圧倒的にミリンが不利。シールドの枚数、バトルゾーンの状態、手札の枚数、どれをとってもミリンは負けている。
「《K・マノーミ》を召喚。マナ武装3で、《アクア・ベララー》を手札へ」
ミリンのターン。ミリンは手札に戻された《K・マノーミ》を出し、《アクア・ベララー》を押し戻す。
奇々姫の場には、《ダイスダイス》と《ベガスダラー》、大型のマジック・コマンドが二体もいる。これら二体を差し置いて、ミリンは《アクア・ベララー》を戻した。 奇々姫の場には《BJ》もいるので、一体戻すだけであれば、とどめを刺す打点が残っていることに変わりはないのだが。もしかしたら、登場時の能力を使い回されることを嫌ったのかもしれない。
しかし、ミリンが考えているのは、もっと別のことだった。
「……決めたぞ」
「はい?」
「名前さ。私の開発したクリーチャーだ」
奇々姫は首を捻る。彼女の言っていることの意味が分からない、といった様子だった。
ミリンは奇々姫の理解力に合わせるつもりはなく、己の思うがままに事を進める。
「革命の力を宿し、龍程式を解いて生まれた、円筒に眠りし結晶龍——今、君に命名しよう」
そして、5マナがタップされ、彼女の手札から一枚のカードが飛ぶ。
「行くぞ。《K・マノーミ》を進化!」
《K・マノーミ》は、巨大な結晶に覆われる。その中で小さな身体を変質させていく。
鮮やかな鱗は、曇った結晶に。胸鰭は刃のような扁平な腕に。背鰭は海賊旗と共に両翼に。ゴーグルは金色の顔となる。
「安全装置解除。出力最大。データの解凍完了。円筒に眠りし龍よ、すべてを凍らせたまえ——さぁ、私の革命の完成だ!」
結晶が気化することを待たずして、結晶を砕き、中から龍程式によって導かれた結晶龍が現れる。
溢れ出るエネルギーを光線状に散らし、2の数字を描きながら、革命の龍程式が解明された。
「解析完了——《革命龍程式 シリンダ》!」