二次創作小説(紙ほか)

128話「円筒の龍」 ( No.395 )
日時: 2016/05/22 19:23
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「——革命0トリガー発動!」

 《コイコイ》の攻撃が届く寸前。
 ミリンは手札から、一枚のカードを晒した。
「呪文——《革命の水瓶》」



革命の水瓶 R 水文明 (2)
呪文
革命0トリガー—クリーチャーが自分を攻撃する時、自分のシールドがひとつもなければ、この呪文をコストを支払わずに唱えてもよい。
自分の山札の上から1枚目を表向きにする。それが水のクリーチャーなら、クリーチャーを1体選び、持ち主の手札に戻してもよい。
この呪文を唱えた後、墓地に置くかわりに山札に加えてシャッフルする。



「え? な、なんですか、それは……?」
 唐突に放たれる呪文に、戸惑う奇々姫。
 混乱する彼女を待たずして、巨大な水瓶がミリンの前に現れた。
「私の仲間たちが繋いでくれた、とっておきの一枚さ。こいつは山札の一番上を捲り、それが水のクリーチャーであれば、相手クリーチャーを一体手札に戻す」
 とどめを刺される寸前で仕様することができる、革命0トリガー。
 山札の一番上次第では《コイコイ》の一撃を防ぐことが可能。つまり、このターンを凌ぐ可能性ができてきたということだ。
 今まで散々、奇々姫のギャンブルで引っ掻き回されてきた山札。その一番上を、ミリンは捲る。
 捲られたのは、《K・マノーミ》。
 水のクリーチャーだ。
「ビンゴだ。《革命の水瓶》の効果で、《コイコイ》を手札に戻してもらおうか」
「う、うぅー……!」
 山札で眠っていた《K・マノーミ》の、敵を押し流そうとする意志を汲み取り、その意思の水を瓶の中に満たす。
 そして、瓶が倒れる。
 瓶の中から流れる水は激流となり、《コイコイ》を奇々姫の手札に戻した。これでミリンはこのターンを凌いだ。
「そういえばさっき、次のターンでゲームセットと言ってなかったかね?」
「う……お、覚えてませんね! ターン終了です!」
 奇々姫はターンを終えるが、しかし勝ちを諦めてはいない。
 まだ、勝てる可能性は残っている。
「念のためにブロッカーも出しましたし、このターンは凌げるはずです……」
「させんよ。《マイパッド》を召喚し、進化! 《大船長 オクトパスカル》!」
「う、進化クリーチャーですか……!」
 《シリンダ》《クロック》《オクトパスカル》。W・ブレイカーが二体と、シングルブレイカーが一体。ブロッカーがいようと関係なく、このターンにとどめを刺すだけの打点が揃った。
「これでも君は耐えられるかな? 行きたまえ、《オクトパスカル》でWブレイク! 《オクトパスカル》はブロックされない!」
「ト、トリガーは……!?」
 《オクトパスカル》の攻撃が、奇々姫のシールドを砕く。
 ここでトリガーを引かなければ、奇々姫に活路はないが、しかし盾は収束しない。光もなにも見せず、手札に収まった。
「《クロック》でとどめだ!」
「あ、う………《マリン・フラワー》でブロックです!」
 無駄なブロックだ。その攻撃を防いだところで、最後の一撃を防ぐことはできない。
 無防備を晒す幼い賭博者に、革命の結晶龍が迫る。
 これで、このゲームは終幕だ。

「《革命龍程式 シリンダ》で、ダイレクトアタック——!」



 神話空間が閉じる。
 ゲームは終わったのだ。
 勝者はノミリンクゥア。
 ミリンは白衣を翻して、奇々姫を見ることもなくスタスタと歩いていく。
「はぁ……負けちゃいましたか。ま、仕方ないですね。ギャンブルやってればこーゆーこともあります!」
 一方、敗者である奇々姫は、少々憂いげではあったが、負けたにしては存外あっさりしたものであった。
 これでこの研究所が爆破されることだけは防げたが、しかし相手は【鳳】だ。このあっさりした反応といい、もしかしたら事前の約束も反故にするのではないかと、浬は身構えていたが、
「ご安心ください! わたしから提案した賭けですし、ゲームのルールは守りますよ。ルールのないゲームなんて楽しくないですし、価値もありません。ルールを破るなんてもってのほかです!」
 浬の心中を読んだかのように、奇々姫はそんなことを言う。
 その言葉もどこまで信用できるのかと思うが、奇々姫はトランクを立て、その上に跨った。
「それではみなさん! 本日のゲームはこれにて終了です! お疲れさまでした! また会うときまで!」
 そうして奇々姫は、何事もなかったかのように去ってしまった。
 長い長い出来事のようだったが、終わってみれば呆気ない。さっぱりしているとは言い難いが、変な後味もなく終わったのだった。
「できれば、もう二度と会いたくないね」
 ビーカーの中に透明な液体を満たしたミリンが戻ってきた。一見して水に見えるそれを、ミリンは床にぶちまける。まだ散らばったままのサイコロ型の爆弾を濡らすためだろう。
「地上のモニターを見る限りでは、本当に撤退するようだね。それを望んでいる私がこう言うのもなんだが、一隊長としては良い判断とは言えないな。そのあたり、奇天烈隊は甘いというか、おかしいというか。思考回路が奇怪な連中だ」
 出て言ってからも奇々姫らに毒づくミリン。彼女も彼女で、案外毒舌家なのかもしれない。
「さて、浬君」
「……なんだ」
「私はこの研究所を出ようと思うのだが、君はどうかね? 一緒に来るかい?」
 唐突な誘いだった。
 しかし、彼女の選択は理解できる。いくら奇々姫を追い払ったとはいえ、この場所は【鳳】既に知られてしまった。賭けの内容に、この場所を口外しない、などというようなことは含まれていない。
 この秘密基地の場所が割れてしまえば、ここに居座るのは得策ではないのは確かだ。
「私は仲間を探さなければいけないからね。ここでしかできないこと——革命の力の開発は、君の協力で達成できた。私としては、もうここに残る意味はないのだ」
 だから、ここから出ていく。
「君のことはずっと見ていたが、君にも仲間がいるんだろう? その仲間を探すならば、私も手を貸そう」
「……いいのか?」
「構わんよ。君は私の研究に協力してくれた恩人であり、研究者仲間とも言える。いや、いっそ同志と言ってしまってもいいかもしれないな」
 流石にそこまで言われると、買いかぶりすぎというか、否定しないところではあるが、ミリンとしては浬と共に行動することを歓迎しているようだった。
 打算的に考えれば、浬としてもミリンと行動することには意味がある。彼女の知識と経験、技能、そして力があれば、心強い。
 仲間を探すと言っても、まるでアテはないのだから、それならばミリンの有する科学力に縋りたい、というのもある。
「…………」
 少しだけ感情的に考えるなら、歓迎されているのであれば、拒否するのは悪いと、思わないでもない。
 なんにせよ断る理由はなかった。
「分かった。よろしく頼む」
「うむ。こちらこそだ」
 話はまとまった。
 二人はすぐに準備を済ませ、共に仲間を探すために、研究所——そしてこの広大な砂漠から出ていく。



「——む、浬君。生体反応だ。三つある。二つはクリーチャー、もう一つは君とよく似た反応だな」
「俺と? ということは……」
「あぁ、十中八九、人間だろう。なにやら急にレーダーに引っかかって急停止したが……どうする?」
「どうするもこうするも、行くしかないだろう。もし人間なら、クリーチャーのうち一体は語り手のはずだ」
「問題は、もう一体のクリーチャーですね。敵——【鳳】の侵略者に捕まった、とかだったら……」
「その時は救出するしかないな。私も手を貸すよ」
 そう言って、ミリンはアクセルを強く踏む。
 一体、誰がそこにいるのか。沙弓は捕縛なんてされそうにないが、柚ならありえそうだ、などと部員たちの顔を思い浮かべる浬。
「……しかし、この生体反応が本当に人間のものなのかは分からないな。君に似ているとはいえ、決定的に違うところもある」
「今ここでそれを言うのかよ……」
「だがクリーチャー反応のうち一つは、恐らく【フィストブロウ】のものだ。波動を解析するうちに、その可能性が高まった」
「俺とあんたみたいな関係の連中が、他にもいるかもしれないってことか」
「その可能性は十分あるね」
 走り続けていると、人影が見えてくる。人影は二つだ。
 一つは、長い白銀の髪の女性。
 そしてもう一つは——
 アクセルを弱めて徐行しながら、二人の前で止まる。
 ミリンは運転席から首を伸ばした。
「レーダーを見てたら【フィストブロウ】らしき反応に、他のクリーチャーの反応、あとはよく分からない生体反応もあって、一体なんなのかと少しばかり混乱したけれど、君だったか、ルミス」
「ミリンさん……っ!?」
 ミリンの顔を見るなり、吃驚の表情を見せる、ルミスと呼ばれた女性。
 どうやら、一人はミリンの仲間であったようだ。
 浬は、もう一人の人間と思しき生体反応——遊戯部の部員の誰がいるのかと、期待のようなものをしていたのだが、その期待は裏切られた。
 いや、正確には、探していた面々には含まれるのだが、個人的事情と感情によってどうにも納得できない。
 浬が思った言葉をそのまま吐き出すのとほぼ同時に、向こうから声がかかった。
「……メガネ」
「お前か……」

 こうして、霧島浬とノミリンクゥアは、日向恋とクルミスリィトの二人と、合流することができたのであった。