二次創作小説(紙ほか)
- 129話「奇襲」 ( No.397 )
- 日時: 2016/05/24 11:41
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
「テイン……!」
「ドライゼ……!」
地に伏した二体の語り手を見つめる二人。その二人の前には、軍服の男。
「さて、次はあなたたちでありますか」
「っ!」
「沙弓ちゃん!」
一騎が、沙弓の盾になるようにして、前に出る。
「逃げて! ここは俺がなんとかするから」
「で、でも、一騎君……」
「その見るからに貧弱な肉体で、自分を相手できると? 力量の判断も戦士には重要な資質でありますよ」
諭すように語りかけてくる男。しかしその手には、テインの刀を捌いた大振りのナイフが握られている。
勿論、一騎だって分かっている。力の弱い姿とは言え、テインとドライゼを下した男だ。武道の経験が授業でやった程度の一騎では、足止めすらもできないだろう。
それでも男として、年長者として、なにより友人として、仲間として——彼女の盾にならないわけにはいかなかった。
「一騎……」
「テイン……!」
その時、テインが起き上がった。
ダメージは残っているようだが、彼はまだ立てる。
「ダメだよ、一騎。君は僕らの指揮官なんだから……前線に出るのは僕らだ」
そう言って、テインはカードの姿になって、一騎の手元まで飛ぶ。
「僕とドライゼじゃ無理だったけど、君とならあいつを倒せるかもしれない。君の指揮があれば、僕はより力を引き出せる。だから頼むよ、一騎」
「……分かった。任せてくれ」
そして、一騎と男の周囲が、歪んでいく。
「一騎君……」
「沙弓ちゃん、君は先に逃げて。後から追いかけるから」
沙弓の返事は待たずにそう言い残して、一騎は神話空間に飲み込まれていった。
「少しばかり様子を見ていたでありますが、この空間は……」
「こうなれば、こっちのものだよ。僕ら焦土隊の兵士たちに、一騎の指揮が合わされば、負ける気はしない」
「そうでありますか……ならば、比べてみるでありますか?」
「なんだって?」
テインが聞き返すと、男は初めて見せる笑みを浮かべて、言い放った。
「獣軍隊長たる自分の指揮と、あなたの指揮。そして我らが獣軍隊とあなた方の部隊——どちらがより優れているか」
一騎と軍人のような男のデュエル。
一騎の場にはなにもないが、シールドは五枚。《爆砕面 ジョニーウォーカー》と《フェアリーの火の子祭》でマナを伸ばしている。
対する男の場には《成長の面 ナム=アウェイキ》が一体。
「《青銅の面 ナム=ダエッド》を召喚。マナ武装3発動であります、マナを一枚追加。そして《ナム=アウェイキ》で攻撃、こちらもマナ武装3でマナを一枚追加でありますよ。そのままシールドブレイク」
「自然単色の、ビートダウン……? S・トリガー《フェアリー・ライフ》。マナを一枚増やすよ」
男の場には二体の小型アタッカー。男のデッキはかなり攻撃的に見える。となれば、できればクリーチャーは減らしておきたい。
「俺のターン。《ウインドアックス》をチャージして、これで7マナか……だったら、《ジョニーウォーカー》を召喚。破壊してパワー2000以下の《ナム=アウェイキ》を破壊するよ!」
「《ナム=アウェイキ》はマナ武装5でマナに置かれるであります」
「まだだ! 《斬英雄 マッカラン・ボナパルト》を召喚!」
斬英雄 マッカラン・ボナパルト 火文明 (4)
クリーチャー:ヒューマノイド爆 3000+
ガードマン
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにある相手のクリーチャーを1体選んでもよい。このクリーチャーと選んだクリーチャーをバトルさせる。
マナ武装7:自分のマナゾーンに火のカードが7枚以上あれば、このクリーチャーのパワーは+4000され、「W・ブレイカー」を得る。
現れたのは、友のために英雄となった《マッカラン》——《斬英雄 マッカラン・ボナパルト》だ。
「《マッカラン・ボナパルト》の能力発動! バトルゾーンに出た時、相手クリーチャー一体とバトルするよ! 《ナム=ダエッド》とバトルだ!」
「どちらもパワーは3000、相打ちであります」
「いいや! 《マッカラン・ボナパルト》のマナ武装7がある! 俺のマナゾーンに火のカードが七枚あるから、《マッカラン・ボナパルト》はパワー+4000されて、Wブレイカーを得る! 《ナム=ダエッド》は一方的に破壊だ!」
マナゾーンから火の力を得て、《マッカラン・ボナパルト》は刃を振るう。《ナム=ダエッド》の槍を打ち砕き、破壊する。
これで男の場にはクリーチャーがいなくなった。加えて一騎は、場に殴り返しができるクリーチャーを残すことができた。
たった4コストで、パワー7000のWブレイカー、おまけにガードマンも備えている。これで男が攻撃して来ても、並大抵のクリーチャーであれば殴り返すことが可能だ。
「ターン終了」
「……成程。こちらの攻撃を迎え撃つクリーチャーでありますか」
男も一騎の考えに気付いたようで、素直にクリーチャーを出して殴る手が止まる。
しかし、それはあくまで、素直に殴る手だ。
殴れば殴り返される。それならば、殴り返されないように殴ればいいだけだ。
「《ランキー》を召喚、《ランボンバー》に進化! シールドをWブレイクであります!」
「っ!?」
一瞬で、一騎のシールドが二枚削り取られた。しかし、気づいた時には場にクリーチャーはいなくなっていた。
男はいつの間にかターン終了を宣言しており、一騎のターンだ。
(今、どこから……それに、どこへ……?)
とりあえずカードを引くが、先ほどの攻撃が気になる。
いつの間にか攻撃されて、いつの間にか消えていた。その姿は見えない。男のマナもいつの間にか一枚増えていた。
謎のクリーチャーによる奇襲が、一騎に不安感を抱かせる。
残りシールドは二枚。このターンでマナは8マナになる。こちらも、いつまでももたもたしていられない。
「とりあえず、マナを溜めようかな……《フェアリーの火の子祭》を発動! 山札の上から二枚を見て……」
山札の上から二枚を捲る。捲られたのは、《龍覇 グレンモルト》《暴龍事変 ガイグレン》。
「ん……《ガイグレン》をマナへ」
一騎は捲られた《ガイグレン》を、残念そうにマナに落とす。
「《ガイグレン》がマナに行っちゃったか……」
《ガイグレン》は一騎のデッキにおける最大のフィニッシャーだ。一度出すことができれば、そのまま勝利に直結する。このデッキのマナ加速も、ほぼ《ガイグレン》のためだと言ってもよいほどに、一騎は《ガイグレン》の攻撃性能を頼りにしていた。
だがそれがマナに落ちてしまったので、《ガイグレン》を引いて押し切るという手はなくなった。
それならそれで、別の作戦を考えるまでだ。
「だったら……もう一度《フェアリーの火の子祭》を唱えてマナを加速。《マッカラン・ボナパルト》でWブレイクだ!」
残り数ターンの短期決戦を見た一騎は、こちらもシールドを削っておこうと《マッカラン・ボナパルト》で攻撃するが、
「S・トリガー《瞬撃の大地 ザンヴァッカ》を召喚であります」
「っ、ここでS・トリガーのクリーチャー……!」
前のターン、男は謎の奇襲でシールドを二枚割った。
同じことをこのターンにもできるのであれば、残りシールドが二枚の一騎は、とどめを刺されるだけの打点を揃えさせてしまったことになる。
「《ナム=ダエッド》を召喚」
男は《ナム=ダエッド》を召喚し、マナを増やす。前のターンは見えない攻撃のみを行ったが、このターンは違うのか。それとも、その攻撃はこのターンではできないのかと、期待を抱いたが、
「マナゾーンから《獣軍隊 ランキー》を召喚! この《ランキー》を、マナゾーンの《獣軍隊 ランボンバー》へ進化!」
「マナゾーンから召喚、それに進化……!?」
「そうであります。《獣軍隊 ランキー》《獣軍隊 ランボンバー》は、マナゾーンから召喚可能。そして《ランボンバー》は、ターン終了時にマナへと還るでありますよ」
つまりはそういうことだ見えない奇襲の謎は解けた。
あれは、男が瞬く間に《ランキー》を《ランボンバー》へと進化させ、攻撃し、ターンを終えただけに過ぎない。ターン終了時に《ランボンバー》がマナに送られたため、場にはなにも残らなかったのだ。マナが増えていたのは、《ランキー》か《ランボンバー》、どちらかのクリーチャーを手札から召喚したからだろう。
なんにせよ、これで一騎を倒すだけの打点が揃ってしまったことになる。
「しかし、念には念を……《ランボンバー》で攻撃する時、侵略発動であります」
「っ、侵略……!?」
聞き覚えのある言葉だった。
いつか、彼女——恋が打ちのめされた、未知なる力。
それが今、この場でも発現する。
「誘導作戦発令。ここは我らの戦場、敵を誘い込み、迎撃せよ! そして——侵略であります!」
大地から現れ、進化する兵隊は、吃驚を司る。
闇に潜み、準備を整え、驚愕させ、隙を窺う。
そうして、自分たちの戦場を作り上げていく。
地の利を最大限に利用し、人の和を限界まで引き出し、今、兵隊たちに一つの作戦が発令された。
その先陣を切り、統率する者が——進軍する。
「作戦開始——《超獣軍隊 ゲリランチャー》!」