二次創作小説(紙ほか)
- 129話「奇襲」 ( No.399 )
- 日時: 2016/05/28 13:49
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
神話空間が閉じる。
一部始終、事の成り行きを見ていた沙弓は、慌てて一騎の下に駆けた。
「一騎君!」
「沙弓ちゃん……なんでいるの……逃げてって言ったのに」
「そんな話は聞いてないわ」
意識が朦朧としかけている一騎を寝かせる。テインはカードに戻り、そちらも動けないようだった。
「口ほどにもなかたtでありますな」
壁のように立ちはだかる男の声が響く。
「単純な軍力で言えば、それほど遜色はなかったように感じたであります。彼の従える火と自然の戦士たちは、自分の目から見ても優秀な兵でありましたが、如何せん指揮が悪い。指揮官がこれでは、どれほど兵隊が優秀であろうとも雑兵に成り下がるでありますよ」
見下すように一騎を酷評する。事実、一騎は男に負けている。その評価を今ここで覆すだけの反駁の言葉は、誰も持ち合わせていなかった。
だが、それはそれだ。
沙弓の中には、別の感情が渦巻いていた。
後輩の前で格好つけようとする自分はいない。ただ一人の自分としての本心が、ここにあるだけ。
後輩の前ではない。だから格好つける必要はない。だからこそ、部長でもなんでもない自分として、友人のために戦う。
まだ地に伏したままのドライゼを、横目で見た。「う……」と微かな呻き声が聞こえる。
「……ドライゼ。もう十分休んだでしょう。いつまでも寝てないで起きなさい」
「寝てねぇし……どうやってあいつのドタマぶち抜くか考えてただけだ」
「ならそれを実践してもらわないとね」
どうやら相方は十分元気なようだ。安心した。
起き上がったドライゼにカードにならせて、手元に引き寄せる。
それを見ていた男の視線は、沙弓に向けられていた。
「次はあなたがたでありますか」
淡々と、しかしどこか呆れを感じさせる声で、男は言う。
「次から次へと、よくもそう無謀なことができるでありますね。奇々殿でもそのような賭け方はしないでありますよ。まあ、これが余裕を失くしたものの辿る末路と考えるのであれば、得心いかなくもないでありますが」
「戦う前から勝った気でいるのね」
「戦わずとも力量差は知れているでありますからな」
「測り違えということもあるでしょう?」
「誤差、不測の事態等々も見越して高く見積もったとしても、あなたがたは我らが獣軍隊には敵わないと言っているのでありますよ」
はっきりと、断定する。
それがただの自信過剰ではなく、実際の実力に基づいているから、というだけでもなく。
本当にすべてを見透かしているからこその言葉であることは、感じられた。
それでも勝算がないわけではない。
「さっきの戦いは見てたわ。情報は最大の武器……あなたの戦略は見切ったわ」
「……ほぅ」
と、そこで、男はまた妙な微笑を見せる。
不敵な笑み。どこか楽しそうにしているが、同時にこちらを貶すような嘲笑。
その笑みは、沙弓の意識の外にあることを暗に知らせているかのようでもあった。
「自分の戦略を見切ったとな。それはまた、随分な大言壮語でありますね。そこまで申すなら、試してみるでありますよ」
挑発を受けたのに、挑発するかのような物言い。言動のペースが絶妙に乱れて捉えきれない。
一騎との対戦では、終始彼をかき乱していた。
だが今も、沙弓は心の中まで攪乱されているようだった。
戦争でも論争でも、なにかが隠され、なにかが見えず、どこからか現れては、どこかに消え、なにも読めない、厳格な兵士。
男は、沙弓を煽るように、言い放った。
「本当に自分の軍略のすべてを、見切ることができたのかどうか——」
そして、神話空間が開かれる。
沙弓と男のデュエル。
沙弓の場には、なにもない。《特攻人形ジェニー》を一発撃ち込んだのみだ。
対する男の場には《冒険妖精ポレゴン》と《一撃奪取 ケラサス》が一体ずつ。しかし、まだシールドは割っていない。
「私のターン……できることはないわね。マナチャージだけするわ」
このターンはなにもできずにターンを終える沙弓。しかし手札には《ホネンビー》に《リバイヴ・ホール》《魔狼月下城の咆哮》まで揃っている。もう少しターンが進めば、除去やハンデスを連打し、相手を妨害してコントロールしていくことができる。
同時に沙弓は、相手の場を見た。
(《ポレゴン》に《ケレサス》……1コストクリーチャーがいて、しかもマナ加速が得意な自然で、わざわざコスト軽減の《ケラサス》を使っている……間違いなく速攻に近いビートダウンね)
デッキタイプは概ね確定できた。ならば、あとはその穴を突くだけだ。
手札を攻め、息切れさせる。次に場を攻め、戦場を壊滅させる。最後は大型クリーチャーで場を制圧し、とどめを刺すだけだ。引きは決して悪くないため、ハンデスにしろ除去にしろ、スムーズに行えるだろう。
だが、不安要素もある。
(相手のデッキ、一騎君と戦った時のものとは違うように見えるのよねぇ……デッキを変えてきたのかしら?)
マナには《ランキー》や《ランボンバー》なども見えているが、ここまでの動きがワンテンポ速い。
しかしデッキカラーは同じで、どちらにせよビートダウンであることに違いはないのだ。ならば、今の考えで進めて正解のはず。
「ターン終了よ」
そんな風に相手を分析しながら、今後の戦略を組み立てていく沙弓。
だが、そのような彼女に、男は一言、告げる。
「……遅い。遅すぎるでありますよ」
「え……?」
「そんなに遅くては、自分の連撃に対応できないでありますよ。自分の侵略作戦は、もう始まっているのであります」
言って、男はカードを引く。
さらに、マナチャージ。
そして、
「《獣軍隊 フォック》を召喚!」
獣軍隊 フォック 自然文明 (4)
クリーチャー:ゲリラ・コマンド/侵略者 4000
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、そのターン、自分のクリーチャーすべての種族にゲリラ・コマンドを追加する。
シュタッ、と戦場に立ったのは、白銀の毛皮に覆われた、狐のようなクリーチャー。
どこか機械的ながらもファンタジーっぽい杖を持ち、共に戦場に立つ仲間たちを見つめている。
「このクリーチャーは……?」
「今回の作戦の肝となる、重役でありますよ。《獣軍隊 フォック》。その能力は、自分のクリーチャーすべての種族に、ゲリラ・コマンドを追加することであります」
「種族に、コマンドを……? ……っ!」
沙弓は理解した。しかし、理解しても、もう遅い。
《フォック》は杖を一振りする。そうして放たれた光の粒子を、他のクリーチャーは浴びる。
刹那、男の場にいたすべてのクリーチャーの空気が、一変した。
鋭いナイフのように研ぎ澄まされ、銃を握る手のように静かな殺気を持つ。
その姿はまるで兵隊。森の中で潜み、狙い、戦う軍人の如きだった。
「全軍はコマンドとなった。これで作戦準備は完了であります……あとは、攻めるのみ」
ギラリと。
男の眼が、鋭く光る。
「《冒険妖精ポレゴン》で攻撃……する時に、侵略発動!」
いつもは陽気に冒険を楽しむ《ポレゴン》だが、今の彼は己の任務を全うすることに全身全霊をかける一兵卒。
冒険心を忘れ、ただただ、作戦遂行のために、その身を捧げる。
「包囲作戦発令。ここは我らが戦場、全軍は並び立ち、連撃せよ! そして——侵略であります!」
兵隊となった《ポレゴン》は、進化し、侵略する。
司るは吃驚。操るは意表。突くべきは空虚。
作戦内容は包囲と連撃。彼
徴兵された兵隊たちを駒として、十全に動かし、息を持つかせぬ絶え間ない攻撃を繰り出す。
まずは一撃。俊敏に舞い、獰猛に射殺す。
隠されてきた切り札の出番が来る。作戦開始の指令は放たれた。
あとはただ、一網打尽にするのみ。
白銀の統率者が、得物を握り、森を駆ける。
「作戦開始——《超獣軍隊 フォックスリー》!」