二次創作小説(紙ほか)

Another Mythology 1話「始動」 ( No.4 )
日時: 2014/04/18 16:45
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「——《ガイアール・カイザー》でダイレクトアタック!」
「うあぁぁぁ! 負けたあぁぁぁ!」
 ここは某県某市の某所に存在する中学校、東鷲宮中学校。
 1—2というプレートがかかった教室の中では、生徒たちの歓声が響いていた。
「また私の勝ちぃ」
 生徒の中でも、二人の生徒は教室の中央で机を隔てて向かい合っていた。片方はがっくりと項垂れながら崩れているが、もう片方の少女は、したり顔で勝ち誇っていた。
 空城暁。それが彼女の名前だった。
「まーそんなに落ち込まなくてもいいよ。君は結構強かったもん。でも、相手が悪かったね」
 暁は相手の生徒にそんな言葉を投げかけると、机の上に並べられていたカードを片付け、ギャラリーと化した生徒たちの方へと歩いていく。いや、生徒たちではない。
 一人の女子生徒に、だ。
「ゆず、これで何勝?」
「えっと……三十九勝です。なので、あきらちゃんは一年二組の生徒みんなに勝ったことになります」
 ゆずと呼ばれた、栗毛のショートボブヘアーに、白いリボンを左右で結った小柄な少女は、手元のメモを見ながら答える。
 霞柚。暁のクラスメイトで幼馴染だ。
「おぉ、てことはこれでこのクラスの最強は私ってことだね」
「そうなりますね。すごいです、あきらちゃん」
「えへへ、まあねー」
 はにかみつつも、どこか誇らしげな暁。
 今、東鷲宮中学ではデュエル・マスターズなるカードゲームが流行っている。その理由は昨年の卒業生にあるのだが、今は割愛するとして、暁は今回の対戦でクラスメイト全員を倒したのだ。
「よし、じゃあ次は隣のクラス……一組に突撃だ!」
「え? 一組に行くんですか?」
「二組を制覇したら、次は一組、その次は三組、四組と勝ち進んで、私がこの学校の頂点に立つ!」
「はぁ……」
 随分と大きなことを言い始めた暁に、柚は肯定とも否定とも取れない息を漏らす。
「というわけで早速行くよ、ゆず!」
「え、あ、ま、待ってくださいーっ!」



「たーのもー!」
 やってきた一年一組の教室。暁の道場破りの如き第一声で、教室内の視線が一気に集まった。
「あ、あきらちゃん……そんな道場破りじゃないんですから……」
「一組制覇が目的なんだから、似たようなもんだよ。それよりゆず、このクラスで強い人って誰?」
「わたしに聞かれても……」
 暁も柚も、東鷲宮中学に入学してから一ヶ月と経たない。自分のクラスの生徒でも怪しいのに、他のクラスの生徒のことなんて、まだ記憶にインプットされていない。
 しかし、なんらかの理由によりその名が広まっている場合は、その限りではないが。
「おい、あれって空城じゃないか……?」
「二組の生徒をデュエマでのしてるっていう……」
「いずれここに来るかもしれないとは思っていたが、まさか本当に来るとは……!」
 ざわざわと一組の生徒たちが騒ぎ始める。
「あきらちゃん、有名人ですね……」
「お兄ちゃんも自分がそんなだったって言ってたなー。いい気分じゃないとか言ってたけど、そうでもないね」
 むしろ気分が高揚してくる。
 きょろきょろと教室内を見回し、暁はそれらしい生徒を探す。そして、暁から最も近い、最前列の席で本を読んでいた眼鏡の少年を見つける。
 見つけるもなにも、その存在感は他の生徒の比ではないが。入学したての中学一年生とは思えないほどの長身で、座っている状態でもどこか威圧感を感じる。
 しかし、暁はそんな威圧感に等動じずに、ずんずんと教室内へと入っていく。
「ねぇ、君」
「……誰?」
「二組の空城暁だよ。君さ、デュエマするんだよね。腰にデッキケース吊ってるし」
「…………」
 少年は仏頂面で自分の腰に目線を落としたのち、暁を見据える。言葉はなにも発さない。
「しようよデュエマ」
「…………」
「あきらちゃん、いきなりすぎですよ……」
「えー、そんなことないと思うけどなぁ」
 そう思っているのは、恐らく暁だけだ。
「まあ、本人に聞けばいいや。で、どう? デュエマする?」
 する? と聞いておきながらも、暁の目の奥には「デュエマをする」以外の選択肢が見えなかった。
 しばらくして少年は、ゆっくりと口を開く。
「……しない」
「え?」
 暁がフリーズする。だがすぐに解凍し、
「な、なんでっ? どうして!?」
「どうしてもだ」
「むー……あ、そうか。私に負けるのが怖いとか?」
「……じゃあ、そういうことにしておいてくれ」
「なにさそれ!」
 まともに取り合う気のない少年と、その態度に憤慨する暁。
 この二人のやり取りは昼休み中ずっと続けられた。



「なんなのさー、あいつ!」
「ま、まぁまぁ……」
 放課後。暁はしつこくあの少年に対戦を申し込もうとしたのだが、終礼が終わると少年は忽然と姿を消しており、下校時間ギリギリまで探しても見つかることはなかった。
 そして二人は、夕暮れの中の帰路を歩く。
「誰だって、対戦したくない時はありますよ」
「ない!」
「だ、断言されちゃいました……」
 暁はもう、あの少年と対戦するまで気が収まらない様子だった。柚がなんとかなだめようとするも、効果はない。
「また明日、改めて対戦を申し込むしかないですねぇ」
「勿論そのつもりだよ。私の記念すべき四十勝目は、あいつで決まり!」
「四十勝って、あんまりキリよくないですね……」
 などと話しながら曲がり角を曲がる。と、その時。

 ドンッ

「あうっ」
「おっと」
 人とぶつかってしまった。暁はその衝撃で後ろに倒れ、さらに倒れた時の衝撃で腰に提げていたデッキケースの蓋が開き、中のカードが飛び散ってしまった。
「ごめん、だいじょう——」
「あ、あぁ! 私のデッキ!」
 暁はぶつかった相手の声など微塵も聞いておらず、地面に散らばったカードをかき集めていた。
「……これって」
 その人物はしゃがみこむと、暁のデッキを構成するカードのうち一枚を手に取る。そしてそのカードのイラストを、ジッと見つめていた。
「ん? ああ、すみません。拾って貰っちゃって」
 ここで初めて、暁は相手の存在を認識する。まだ若い青年だった。しゃがんでいるので体格が分かりづらいが、線は細い。背はわりと高いように思える。
「これって、クリーチャー?」
「え? まあ、そうですけど……お兄さんもデュエマするんですか?」
「……そうか、この世界だと僕らの世界のような姿を保てないのか。だからこうしてカードの姿に……」
 暁の言葉などまるで聞いていない様子の青年は、しばらくぶつぶつと呟いていた。
「でも、どんな形であれクリーチャーは存在している……だったら……」
「あのー……どうしました?」
 暁が心配そうに問いかけると、青年はスクッと立ち上がる。
「成程そういうことか。この世界にクリーチャーが存在できるカラクリは分かった。となると次は、勇者探しだけど……」
「?」
 青年の視線が暁に向く。暁は、なにか嫌な予感を覚えながら、疑問符を浮かべていた。
「とりあえず、この子でいいか。カードの状態でとはいえ、クリーチャーを操ることはできるみたいだし」
 青年はやたらボロボロな携帯電話を取り出すと、不慣れな手つきでそれを操作する。
「えっと、これでいいのかな……よし」
「……えっと」
 暁も柚も、まったくこの状況について行けない。というより、青年が一人で勝手になにかしている、という認識しか持てなかった。
 しかしその認識は改めるべきだった。
 少なくとも、今この時に限って言えば、暁だけは無関係ではなかったのだから。
「いきなりでごめんね。詳しい説明は後でするから、とりあえず来てもらえるかな?」
「え?」
 刹那。

 暁と青年は、この世界から姿を消した。