二次創作小説(紙ほか)
- Another Mythology 13話「萌芽の語り手」 ( No.40 )
- 日時: 2014/05/06 08:41
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
桜色の花弁と薫風を発しながら、萌芽の殻が綻び、破れる。そして——
「ルー!」
「はわわっ、な、なんですか……っ?」
中からクリーチャーが飛び出し、柚の胸に飛び込んできた。
二頭身の体躯に、妖精のような薄い羽を持つ少女のようなクリーチャーだ。
「ルー、ルー!」
「え、えっと……」
「その子が、《萌芽神話》の《語り手》……なのかな?」
想像以上に幼かった。もしかしたら《萌芽神話》を支えるために、逆にしっかりしたクリーチャーが出るかと淡い期待をしていたが、出て来たのは言語能力すら発達しきっていないほど未成熟ま稚児とも言えるようなクリーチャー。
「ルー、ルールー」
「プルさんっていうんですか。わたしは柚です、よろしくお願いします」
「言葉分かるの!?」
「あ、はい。なんとなくですけど」
リュンにもプルというらしい彼女の言葉は理解できない。だが、柚には分かるようだ。
「もしかしたら、一番クリーチャーに近いのは柚さんかもしれないな」
「……なんだか、すごく失礼なことを言われてる気がします」
やや非難するような視線をリュンに向ける柚。
それに割って入るように、プルが声を上げた。
「ルー!」
「ど、どうしましたか?」
「ルールー、ルー!」
「ルピナちゃんのペットが、ここで寝てる……?」
なんのことかさっぱりだった。
柚が疑問符を浮かべていると、プルはスーッと幾何学模様の走る壁へと飛んで行く。
「ルピナっていうのは、たぶんプロセルピナ……《萌芽神話》のことだと思うよ」
「そうなんですか。でも、プルさんはその《萌芽神話》ってクリーチャーの配下、なんですよね? ルピナちゃんって……」
随分と馴れ馴れしい呼び方だった。主人と配下という関係では、およそ成立しないであろう呼称だ。
「僕も十二神話と配下との関係までは詳しく知らないけど、《萌芽神話》は幼いクリーチャーだからね。主従関係も他の十二神話とは異なるものだったと思うよ」
それを言えば、その主従関係は各十二神話ごとに少しずつ違っているのだが、その中でも《萌芽神話》は、もはや主従関係などとは呼べるようなものではなかったのだろう。
純粋に対等な関係の仲間。もっと言えば、友達、くらいの意識だったのかもしれない。
「ルー」
そんな話をしていると、プルが戻ってくる。同時に、壁の幾何学模様から花弁のようなものが散り、柚の手元へと落ちていく。そしてその花弁は、一つの形を形成した。
「これは……デュエマの、カード……?」
今まで暁や浬、沙弓と同じように、かつて《萌芽神話》と共に戦ったであろうクリーチャーの一体だ。
「ルールールー!」
「! そうでしたね……」
プルの呼びかけで、柚は元々の目的を思い出す。
すると彼女は、素早く踵を返した。
「行きましょう。みなさんを、助けるんです……!」
「う、っくぅ、きっつー……」
「…………」
「もう何回戦ったかしら……?」
連戦に連戦を重ね、暁たちは満身創痍の状態だった。
カチュアが呼び出すドラゴンたちは倒せど倒せど現れ、じわじわと三人の体力を毟り取っていく。
「最大の誤算だったのは、クリーチャーが短時間しか実体化できないところよね……」
「ですね……」
三人も、いつまでもこうして戦っていても埒が明かないことは分かっていた。なので隙を見てクリーチャーを実体化させ、ドラゴンとカチュアを薙ぎ倒して逃走するつもりだったが、ドラゴンを吹っ飛ばしたところで実体化させたクリーチャーが消えてしまったのだ。
どうやらこの世界でも、神話空間外ならカードからクリーチャーを実体化させた場合は、短時間しか実体化できないようだ。先に言えよ、とここにはいないリュンを少し恨んだりもした。
「幸いなのは、あのクリーチャーがドラゴンを三体ずつしか出せないことか……」
「不幸中の幸いだけどね。不幸が大きすぎるわ」
三体ずつでも、無限に呼び出せるのならそれが幸いだとは言いづらい。
「よくもここまで粘れるものね……でも、そろそろスタミナ切れ。行きなさい、私の僕たち!」
カチュアの呼び声で、またしてもバルガザルムス、ミルドガルムス、ドラピの三体が現れる。
「うぅ、もう限界だよ……」
「愚直に戦い続けても、ジリ貧になるだけ……一か八か、背中を向けて逃げてみるべきだったかもな」
「それはもっと早く言うべきよね……」
半ば諦めかけている三人。それでも、デッキを離さないのは意地か。
そんな時、彼らにとっては救いの女神が来たかのような、彼女の声が聞こえてくる。
「みなさんっ!」
「ゆず!? っていうかその浮いてるのって、クリーチャー……?」
息を切らしながら駆けて来る柚とリュンの姿が目に映る。そしてその傍らには、クリーチャーらしき妖精っぽいものが浮いていた。
「三人とも! そのドラゴンたちを神話空間に引きずり込むんだ!」
リュンが叫ぶ。なにをするつもりなのかは分からないが、言わんとしていることは大体伝わってくる。なので、問い返すことも躊躇うこともなかった。
「っ! コルル!」
「エリアス、お前もだ」
「これが最後みたいね。ドライゼ」
『了解!』
三体の《語り手》は、各々の主人と共に、目の前のドラゴンを神話空間へと引きずり込む。
そして柚は、速度を落とすことなくカチュアへと駆けて行った。
「プルさん、お願いします!」
「ルー!」
「!」
三体のドラゴンが消え、ただ一人残されたカチュアは、プルの展開する神話空間へと、消えていくのだった。
「とんだ伏兵がいたものね……まあいい。貴女は、私が直接屠ってあげる」
「……っ」
カチュアの言葉に、思わず気圧されてしまう柚。性格的なものもあるだろうが、よく考えてみればこれが彼女にとっての初陣なのだ。
そして子の一戦には、仲間の命運がかかっている。負けるわけにはいかない。
「わたしには、重すぎます……でも」
プレッシャーに押し潰されそうになる柚。だが、
「絶対に、負けるわけにはいかないんです……っ」
勇気を振り絞って、精一杯の力強い目で、カチュアを睨みつける。
かくして始まった、柚とカチュアのデュエル。
柚の場には《青銅の鎧》《無頼聖者スカイソード》《霞み妖精ジャスミン》。シールドは五枚。
対するカチュアの場にはなにもなく、シールドはこちらも五枚ある。
「クリーチャーを出してこない……だったら、今が攻めるチャンスかもしれません。《青銅の鎧》でシールドブレイク、ですっ」
《青銅の鎧》がカチュアのシールドを一枚ブレイクするが、
「S・トリガー《大きくて小さな農園》。パワー3000以下のクリーチャーをすべてマナゾーンへ」
「はぅっ、クリーチャーがいなくなっちゃいました……」
早速トリガーを踏んでしまい、展開したクリーチャーを一気除去されてしまう柚。
「私のターン。《緑神龍バルガザルムス》を召喚」
「わ、わたしのターンです……」
勢いを削がれ、柚は弱気になってしまう。
「つ、使えません……マナチャージして、ターン終了……」
しかもドローまで悪い。手札がない状況で使えるカードが引けず、やむなくマナチャージだけしてターンを終えた。
「そろそろエンジンをかけていこうかしら。この私《幻想妖精カチュア》を召喚!」
幻想妖精カチュア 自然文明 (7)
クリーチャー:スノーフェアリー 3000
このクリーチャーで攻撃するかわりに、タップして次のTT能力を使ってもよい。
TT—自分の山札を見る。その中から種族にドラゴンとあるクリーチャーを1体選び、バトルゾーンに出してもよい。その後、山札をシャッフルする。そのクリーチャーは「スピードアタッカー」を得る。このターンの終わりに、そのクリーチャーを破壊する。
遂に《カチュア》自身が現れ、追い詰められていく。
「うぅ、どうすれば……」
なんとか巻き返しを図りたい柚だが、
「……呪文《セブンス・タワー》です。わたしのマナは七枚以上あるので、山札の上から3マナ増やしますっ」
できることはマナを増やすことだけ。マナこそ大量にあるが、手札もクリーチャーも存在しない。
『お粗末な展開ね。このまま私の地龍たちに押し潰されるがいいわ』
《カチュア》のターン。遂に彼女が攻めに出る。
『まずは《緑神龍ミルドガルムス》を召喚。登場時の能力で、私はマナを追加、貴女はマナを一枚墓地へ。さらにこれで私のマナゾーンのカードが九枚になった。《緑神龍ドラピ》を召喚』
マナゾーンにカードが九枚あるので、《ドラピ》のデメリットは打ち消されている。破壊はされない。
『そして私で攻撃、する代わりに能力発動。山札からドラゴンを一体、スピードアタッカーを付加してバトルゾーンに出すわ。出て来なさい《ドラピ》!』
「ま、まずいです……っ」
柚の目の前に立ち並ぶ、大量のドラゴンたち。
その光景を目の当たりにし、柚は恐怖を感じずにはいられなかった。