二次創作小説(紙ほか)
- 129話「奇襲」 ( No.400 )
- 日時: 2016/05/29 10:28
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
超獣軍隊 フォックスリー 自然文明 (5)
進化クリーチャー:ゲリラ・コマンド/侵略者 9000
進化−自分の自然のクリーチャー1体の上に置く。
侵略—自然のコマンド
W・ブレイカー
このクリーチャーの攻撃の後、このクリーチャーの一番上のカードをバトルゾーンから自分の手札に戻してもよい。
兵士となった《ポレゴン》が侵略し、現れたのは、白銀の毛並を持つ、狐のようなクリーチャー。
胸に走る刺青と、迷彩色の軍服。羽織った上衣の肩章には、征服を示す【鳳】のシンボルが煌めく。
そしてなによりも、長大な弩が目を引いた。
青紫色の配色。近代的なフォルム。姫反から小反にかけての胴の部分には、エネルギーを充填しつつある砲が取り付けられている。
《フォックスリー》はエネルギー状に構築された三本の矢をまとめて引き、一気に解き放つ。
「《ポレゴン》を、《フォックスリー》に侵略! Wブレイクであります!」
「っ、!」
《フォックスリー》の放つ矢が、沙弓のシールドを二枚撃ち抜く。一瞬の出来事だった。
《ポレゴン》は本来、種族にコマンドを持たないが、《フォック》の能力によってゲリラ・コマンドを得たため、このターンに限り自然のコマンドとして扱われる。
つまり、侵略の元となるのだ。
「でも、Wブレイク一回程度なら、まだ立て直せる……」
「なに甘いことを考えているでありますか。戦場では常に最悪を想定すべきでありますよ。そんなぬるい幻想は捨て去る方があなたのためであります」
鋭く厳しい言葉を浴びせ、男はさらに動く。
《フォック》で自軍をコマンド化し、侵略する。それ自体はなにもおかしくはない。コスト4の《フォック》に繋ぐため、《ケラサス》を用意していたことも頷ける。
しかし、ならばなぜ、わざわざ《ポレゴン》から並べたのか。小型クリーチャーを二体も並べる必要があったのか。
その理由を、沙弓は身をもって知ることとなる。
「さぁ、ここからが作戦の本番であります。《フォックスリー》の攻撃後、《フォックスリー》の能力発動! 侵略した《フォックスリー》のみが手札に戻るでありますよ」
侵略元となった《ポレゴン》はそのままに、《フォックスリー》だけが剥がされ、手札に舞い戻る。
手札には自然のコマンドの攻撃で侵略する《フォックスリー》、場には《フォック》によってコマンド化した《ケラサス》が残っている。
この二つの事実は、なにを意味するか。
「っ、まさか……!」
「気づいたでありますか。まあ、気づいたところで時すでに遅し……いや、気づこうが気づかまいが、あなたの敗北は確定事項だったのでありますよ。《ケラサス》で攻撃——」
する時に、
「——侵略発動!」
徴兵された《ケラサス》の攻撃に呼応して、獣軍隊の兵士が、再び侵略を始める。
「作戦開始——《超獣軍隊 フォックスリー》!」
白銀の毛を散らして、《フォックスリー》は弩を引く。
風を切る速度で矢が放たれ、さらに沙弓のシールドを二枚、撃ち抜いた。
「侵略進化した《フォックスリー》で、シールドをWブレイクであります! さらにこの攻撃後に、《フォックスリー》を手札へ戻すでありますよ」
「く、う……!」
確かに、気づいた時には遅かった。それに、気づいたとしても、手札に手の打ちようはなかった。
序盤から小型クリーチャーを並べていたのは、《フォックスリー》による“連続侵略”の布石。攻撃後に《フォックスリー》は手札に戻る。その能力を利用し、男はクリーチャーを並べ、《フォック》でクリーチャーすべてをコマンド化させたうえで、《フォックスリー》へと連続侵略し、沙弓のシールドを一気に叩き割った。
速攻気味な構築のわりに《ポレゴン》で攻撃しなかったのも、この連撃を見据えて、手札に戻ることを嫌ったからだろう。
多数のクリーチャーで包囲して、進化と退化を繰り返し、連撃を繰り出す。これもまた、ゲリラ・コマンドの得意とする特異な戦い方だ。
なんにせよ、この連撃で沙弓のシールドは一枚になってしまった。たった3ターン目で、もう窮地に立たされてしまったのだ。
「わ、私のターン。《白骨の守護者ホネンビー》を召喚! 二体目の《ホネンビー》を手札に加えて、ターン終了……!」
沙弓はブロッカーを一体出すだけで、ターンを終える。
マナが足りないため、《魔狼月下城の咆哮》で除去することもできない。ここでクリーチャーを一体に減らせていれば、まだ耐えられた。
しかし、今はそれができない。
「それだけでありますか。ならば、これで終わりでありますな。《ポレゴン》を《超獣軍隊 フォックスリー》に進化!」
今度は侵略ではなく普通に進化させる。
また連続侵略によって、包囲した沙弓を攻め落とすつもりなのだ。
「《ケラサス》でシールドをブレイクであります!」
「う……《ホネンビー》でブロック!」
「《フォックスリー》でシールドをブレイクであります!」
《ケラサス》の攻撃が止められようとも、後に続く兵士がいる。《ホネンビー》が《ケラサス》の前に立ち塞がるそばから、《フォックスリー》が飛び越え、沙弓へと駆ける。
弩を構え、素早く矢を飛ばし、最後のシールドを撃ち抜く《フォックスリー》。砕かれたシールドの破片が飛び散る中、《フォックスリー》は再び、瞬く間に手札へと戻ってしまった。
「攻撃後、《フォックスリー》は手札へ」
ヒット&アウェイ。それを防御ではなく、攻撃に転用する。これもまた、一つの奇襲の形だ。
最後のシールドにも、トリガーはなかった。
「それでは、これで終わりでありますよ」
男は、淡々と宣言した。
最後の最後まで、油断することなく、気を緩めず、最大の攻撃を放つ。
「《獣軍隊 フォック》で攻撃する時、侵略発動であります」
《フォック》が攻撃に出る。その瞬間、化けるかのように、《フォック》は侵略する。
今作戦における重役、そして最後に出撃する兵士として。
「作戦開始——《超獣軍隊 フォックスリー》!」
素早くボウガンが引かれ、空を穿つかのように矢が放たれる。
それが、包囲作戦による連撃の、最後の一撃だった。
「《超獣軍隊 フォックスリー》で、ダイレクトアタック——」
「取るに足らない相手でありましたね」
二度に渡って開かれた神話空間。その二度目が閉じられると、男はなんでもないように言い放った。
しかしそう言われても仕方ない。それほどに、一騎も沙弓も、男には歯が立たなかった。手も足も出なかった。還付なきまでに、叩きのめされた。
意識はまだ少しある。だが、先ほどのダメージで体は動かない。よしんば動けたとしても、立ち向かうことはおろか、逃げることもできないだろう。
「妙な足掻きをされても面倒でありますし、早く処理してしまった方が、得策でありますか」
そう言って男は、再びサバイバルナイフを取り出す。木漏れ日に照らされた光が当たり、鈍い銀色が怪しく反射する。
男はまず、一騎へと近寄る。比較的力が強い男だからなのか、単なる偶然なのか、他の意図があるのかは分からない。どちらにせよ、同じことだが。
男は足で蹴り飛ばすように乱暴に一騎の体を転がし、仰向けにする。ナイフを逆手に握ると、軽く振りかぶって構え、狙いを定めた。
射殺すような眼孔が見据えるのは、心の臓。男が人間の体の構造を知っているのか、クリーチャーと人間の構造に違いはあるのか、そもそも自分たちを人間と認識しているのか。そんなどうでもいいことが頭をよぎったが、本当にどうでもよかった。
男はそこが急所だと判断した。ただそれだけであり、腕を刺されようが足を斬られようが、あの刃渡りでは致命傷だ。
どこを狙おうが、彼の目的はただ一つ。
本気で殺す気なのだ。
「それでは、さようなら」
銀色の刃が、暗い森で鈍い煌めきを放ちながら、風を切き、空を裂く。
そして、その兇器は、皮を、肉を突き破って。
一騎の心臓を、刺し貫いた——