二次創作小説(紙ほか)

130話「死の意志」 ( No.402 )
日時: 2016/06/01 00:29
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「……一騎君、起きてる?」
「うん……一応」
 神話空間が開かれ、二人が飲み込まれていくところを確認し、二人は起き上がる。
 意識は朦朧としかけていたが、強烈な殺気に叩き起こされた。突き刺すようなあの気配のせいで、いまだに目が冴えている。
 ラーザキダルクと隠兵王が対話している最中、二人は覚醒していたが、あえて起きなかった。どの程度の効果が見込めるかは分かったものではないが、あそこでしゃしゃり出ても危険なだけだと判断したからだ。
「とりあえず、俺たちはあの……ラーザキダルク、さん? に助けられたのかな」
「助けた、って感じじゃないけどね。結果的には助かったわけだけど」
 それは、ラーザキダルクの意図ではない。
 だからこそ、悩ましいのだ。
「どうしましょうか。このまま逃げる、っていう手もあるけど」
「その方が安全かもしれないけど。でも……」
 このまま、この場を去っていいものなのか。
 ラーザキダルクが隠兵王に勝つ保証など、どこにもない。それに彼は、こちらに好意的ではなさそうだった。だから今のうちに、危険なこの場所から去るべきだ。
 それが、正しい選択のはずなのだが、
「……もう少し、様子を見よう」
「そうね。私たちだけで動いても、アテもなにもないし」
 情報源としては、役に立つかもしれない。
 そんな打算的な考え。
 しかしそれだけではない。
 胸の奥でざわつく嫌な予感。
 その正体を確かめたいがために、二人は革命軍と侵略者の戦いを、見届けるのだった——



 ラーザキダルクと隠兵王の対戦。
 ラーザキダルクのシールドは四枚。隠兵王のシールドは五枚。
 場にはザキの《一撃奪取 ブラッドレイン》と、隠兵王の《成長の面 ナム=アウェイキ》《青銅の面 ナム=ダエッド》。
「《白骨の守護者ホネンビー》を召喚。山札の上から三枚を墓地に送り……《ブラッドレイン》を回収。そのまま《ブラッドレイン》を召喚だ」
 既に攻撃を開始している隠兵王に対してラーザキダルクは、攻撃的な口振りとは対照的に、静かな展開を見せていた。
 《ブラッドレイン》を並べ、《ボーンおどり・チャージャー》で墓地とマナを増やし、次に備えている。
「ターン終了だ」
「では、自分のターンであります」
 隠兵王のターン。マナチャージして、6マナ。
 彼は自分の手札を数秒見つめ、その中から一枚のカードを抜き取り、戦場へと放った。
「《獣軍隊 フォック》を召喚。全軍コマンドとなれ!」
 白銀の毛を散らしながら、杖を持った獣軍隊の侵略者、《フォック》が現れる。
 《フォック》は登場と同時に杖を振るい、光の粒子を味方のクリーチャーに振りかける。
 すると、《ナム=アウェイキ》と《ナム=ダエッド》は、研ぎ澄まされた刃物のような鋭い気迫を発する、兵士となった。
「自軍をコマンド化するクリーチャーか……ってことは」
「えぇ、お察しの通りであります! 《ナム=アウェイキ》で攻撃する時、まずはマナを追加! そして——」
 《ナム=アウェイキ》は駆け出すと、マナを肥やす。だが、それだけではない。
「——侵略発動!」
 兵隊となった《ナム=アウェイキ》は、侵略の糧となる。
 今回発令される作戦は、誘導。
「誘導作戦発令。ここは我らの戦場、敵を誘い込み、迎撃せよ! そして——侵略であります!」
 《フォック》の徴兵を受け、《ナム=アウェイキ》の攻撃を引き金に、獣軍隊の統率者が進軍する。

「作戦開始——《超獣軍隊 ゲリランチャー》!」

 《ナム=アウェイキ》が侵略し、ミサイルランチャーを担ぎ、【鳳】の軍旗を携えた、《ゲリランチャー》が戦場に立つ。
 《ゲリランチャー》はミサイルランチャーの標準を定めると、トリガーを引いた。
「シールドをWブレイク!」
 その瞬間、何発ものミサイルが放たれ、ラーザキダルクのシールドが爆撃される。
 ラーザキダルクのシールドは木端微塵に粉砕され、残り二枚だ。
 それでも彼は、臆することなく、なんでもないようにカードを引いて自分のターンを進める。まるで今の攻撃を気にしていない。マイペースな所作だった。
 もっとも、自分の調子を保ち続けるなどということを、獣軍隊が許そうはずもないが。
 《ゲリランチャー》が登場した時点で、この場は彼らの戦場なのだ。
「俺のターン。二体の《ブラッドレイン》でコストを下げ、2マナで《暗黒鎧 ヴェイダー》を召喚だ。さらに1マナで《葬送の守護者 ドルルン》、2マナで《ブラッドレイン》も召喚。ターン終——」
「おっと、まだ終わらせないでありますよ。《ゲリランチャー》の能力で、相手は1ターンに一度、必ず《ゲリランチャー》を攻撃しなければならないのであります」
「あん?」
 見れば、周囲を《ゲリランチャー》たちに包囲されている。
 退路はない。無理やり逃げるなら、誰かを《ゲリランチャー》に特攻させ、隙を作るしかない。
 選択肢は存在しなかった。
「ちっ……《ブラッドレイン》で攻撃だ」
 舌打ちして、ラーザキダルクは仕方なく《ブラッドレイン》を突撃させる。
 しかし、それも上手くはいかなかった。
 特攻する《ブラッドレイン》の前に、《ナム=ダエッド》が立ち塞がる。
「《ナム=ダエッド》のガードマン能力発動であります! 《ゲリランチャー》への攻撃を誘導!」
 そして、《ナム=ダエッド》は《ブラッドレイン》を殴り飛ばした。《ブラッドレイン》のパワーは1000、《ナム=ダエッド》は3000あるので、《ナム=ダエッド》の勝ちだ。
 しかしラーザキダルクは疑問符を浮かべていた。《ゲリランチャー》のパワーは11000、ガードマンで守らずとも、返り討ちにできたはずだ。
 にも関わらず、なぜわざわざ《ナム=ダエッド》のガードマン能力を使ったのか。
「よく分かんねぇな……ターン終——」
「待つであります」
 ターンを終えようとするラーザキダルクに、再びストップがかかった。
「まだあなたは、“《ゲリランチャー》に攻撃していない”でありますよ」
「あ? ……あぁ」
 一瞬、なにを言っているのか分からなかったが、すぐに理解した。
「成程な。ガードマンは“攻撃の対象を移し替える”。つまり、攻撃したという判定をずらすことができる。そうやって《ゲリランチャー》の攻撃誘導回数を稼ぐ寸法か。小賢しいな」
「小賢しくて結構であります。それで勝利を得られるのであれば」
 《ナム=ダエッド》との連携によって、ラーザキダルクはまだ、《ゲリランチャー》の戦場から抜け出せない。
 誘導は継続中。もう一体、誰かを犠牲にしなければ、この戦場から逃れることはできない。
「さぁ、《ゲリランチャー》への攻撃はまだ完了していないでありますよ。残る《ブラッドレイン》は、まだ未攻撃でありますな」
「……《ブラッドレイン》で攻撃だ」
 もう一体の《ブラッドレイン》も、《ゲリランチャー》へと特攻する。それを邪魔する者はいないが、邪魔しようがしまいが、《ブラッドレイン》は散る。
 《ゲリランチャー》の爆撃を受け、《ブラッドレイン》も墓地へと吹き飛ばされた。
「今度こそ、ターン終了だ。その時、《ヴェイダー》の能力で山札の上を墓地に置く。それがクリーチャーなら、ドローだ」
 墓地に落ちたのは、《革命の悪魔龍 ガビュート》。クリーチャーなので、ラーザキダルクはカードを引く。墓地と手札を同時に増やしたが、しかしその程度では、このターンのディスアドバンテージは返せない。
 自分のターンにもかかわらず、特に大きな行動を起こしていないはずなのに、クリーチャーを二体も潰された。
 獣軍隊長、隠兵王。
 様々な戦略、軍略、知略、策略、謀略、機略を巡らせ、攪乱し、欺き、惑わすように戦う、隠れた兵士。
 やはり、一筋縄でいく相手ではない。
「……終戦の時、見えたであります」
 そして彼は、宣戦布告するかのように、静かに宣言した。