二次創作小説(紙ほか)
- 130話「死の意志」 ( No.403 )
- 日時: 2016/06/01 10:55
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
「そろそろ決めるでありますよ。《ジラホン軍曹》を召喚!」
隠兵王のターン。
次に戦場に立ったのは、侵略者ではないが、ゲリラ・コマンドの兵士だ。
二足歩行で、迷彩柄の軍服を着たキリンのような姿。その手には、カラクリを施した星球武器が握られている。
「《ジラホン軍曹》のマナ武装3。自分のクリーチャーは、そのクリーチャーよりパワーの低い相手クリーチャーにブロックされないでありますよ」
「ブロックをすり抜けるのかよ……!」
《ホネンビー》《ヴェイダー》《ドルルン》と、小型ブロッカーを並べ続けていたラーザキダルクにとっては、あまり嬉しいクリーチャーではない。どころか、致命傷になりかねない一手だった。
《ジラホン》の支援を受け、隠兵王のクリーチャーたちは、ラーザキダルクの守りをすり抜ける。
まずは、《ゲリランチャー》がミサイルランチャーを構えた。
「《ゲリランチャー》で攻撃! シールドをWブレイクであります!」
再び、シールドを爆撃された。《ゲリランチャー》のパワーは11000。一度はブロックせずに通したが、二度目はブロックできずに通す。これで、ラーザキダルクのシールドはすべて失われた。
だが代わりに、爆撃されたシールドのうち一枚が、光の束となり、収束する。
「……S・トリガー《インフェルノ・サイン》」
煉獄の印が結ばれた。
地獄の門扉が開かれ、死者を戦場へと呼び戻す道が出来上がる。
「…………」
ラーザキダルクは自身の墓地をジッと見つめ、考え込むように目を閉じた。
ややあって、墓場から一枚のカードをすくいあげる。
「……《暗黒鎧 キラード・アイ》を復活。能力で、山札の上から四枚を墓地へ」
蘇ったのは、刺々しい鎧を纏った暗黒騎士。胸には邪悪な魔眼が埋め込まれている。
《キラード・アイ》は手にした刀剣を一振りし、山札から四枚を墓地へと落とした。
「それだけでありますか。ならば追撃であります! 《獣軍隊 フォック》で攻撃!」
「《フォック》のパワーは4000。なら、同じパワーの《ヴェイダー》でブロック——」
「させないでありますよ」
ラーザキダルクが《ヴェイダー》に手を伸ばそうとしたその時、隠兵王はまた彼の行動にストップをかける。
このタイミングで隠兵王がなにかを仕掛けるとしたら、することは一つしかない。
戦場を駆ける《フォック》の眼光がギラリと光り、その身を侵略者の衝動に委ねる。
「《フォック》が攻撃する時、侵略発動であります!」
このターンも隠兵王は侵略を行う。
そのような策を弄そうと、それらすべての軍略は勝利のためにある。
勝利に必要なもの。それは、突き詰めれば攻めること。
誘導し迎撃するのも、包囲し連撃するのも、侵攻し侵略するのも、すべては敵を攻め落とすため。
変幻自在で多種多様。されども、彼も侵略者。
ゆえに、攻撃的に、進軍を続ける。
「作戦開始——《超獣軍隊 フォックスリー》!」
このターンにも、隠兵王は侵略する。
銀色の毛並は《フォック》の時よりも勇ましく輝き、機械的な杖は近代的な弩へと変質する。
《ゲリランチャー》に続き、《フォックスリー》までもが戦場へと駆けつけてしまった。
「《フォックスリー》のパワーは9000! その辺に転がっているブロッカー程度では、止められないでありますよ!」
今は《ジラホン》がいるため、ラーザキダルクはチャンプブロックができない。
しかし、《フォック》は《フォックスリー》に侵略してしまったため、《ヴェイダー》でも止められない状態だ。
黒い守りを突き抜けて、《フォックスリー》の矢が放たれる。
それはつまり、ラーザキダルクの敗北を意味していた。
「《超獣軍隊 フォックスリー》で、ダイレクトアタックであります——!」
とどめの一撃が迫る。確実に、明確に、完全に、対象を殺すことを目的とした、弩の矢。
一本でも致命傷の矢が、束ねられて三本。これを受ければラーザキダルクもただでは済まず、またこの矢を防ぐ盾もない。
だが、しかし、
「……ちっ、かったりぃことしやがって」
今まさに、自分を射抜く弓矢が飛来するという時に、ラーザキダルクは気だるげに息を吐いた。
この絶望的な状況でも、絶望を感じていない。
いや、そもそも、彼にとってこの状況は、絶望ではないのか。
「本当は、もっと最後までとっておくつもりだったんだがな。だがまあ、こうなってしまった以上は、使わざるを得ねぇか」
ピッ、と。
ラーザキダルクは手札から一枚のカードを放つ。
「——革命0トリガー発動」
《フォックスリー》の矢がラーザキダルクを射抜く直前。
彼は、宣言した。
「呪文——《革命の裁門》」
革命の裁門 R 闇文明 (4)
呪文
革命0トリガー—クリーチャーが自分を攻撃する時、自分のシールドが1枚もなければ、この呪文をコストを支払わずに唱えてもよい。
自分の山札の上から1枚目を見せる。それが闇のクリーチャーなら、相手のクリーチャーを1体破壊する。
この呪文を唱えた後、墓地に置くかわりに自分の山札に加えてシャッフルする。
「っ!? それは……!」
「てめぇらに見せたことはなかったか? まぁ、なんでもいいか」
再び、地獄へと続く門扉が現れる。
ただし、この門扉は地獄のものを現世へと呼び戻すための道ではない。
現世の生者を地獄に突き落とすための道だ。
「革命0トリガーは死ぬ直前に使える最後の防衛線。《革命の裁門》の場合、デッキの一番上を捲り、それが闇のクリーチャーであれば——」
言いながら、ラーザキダルクは山札を捲る。
捲られたのは、《暗黒鎧 キラード・アイ》。
闇のクリーチャーだ。
「——相手クリーチャーを破壊する。《フォックスリー》を破壊だ」
《キラード・アイ》が執行人となり、裁きの門が開かれる。
放たれた矢は門の奥に広がる闇へと飲み込まれ、消えていく。
その中に消えるのは、矢だけではない。その矢を放った本人——《フォックスリー》も、飲み込まれる。
逃げることはできない。地獄の底から湧き上がる闇が《フォックスリー》の全身を包み込み、門の中へと引き摺り込む。
そして獣軍隊の兵士は、死に絶えた。
「《フォックスリー》が……!」
「てめぇのクリーチャーはぶっ殺したぜ。《ナム=ダエッド》はどうすんだ? 殴るか?」
「……いや。ターン終了であります」
《ヴェイダー》がいる以上、《ナム=ダエッド》で攻撃する意味はない。ここは大人しくターンを終えるしかなかった。
「俺のターン……そろそろ、てめぇに俺の革命を見せてやる」
そう呟いて、ラーザキダルクはカードを引く。
その言葉で、隠兵王の表情は険しくなる。
(【フィストブロウ】の有する“革命”の力。自分でも、その力の全貌は詳しく知らないであります……)
常に前衛として、幾度と前線に立ってきた【鳳】と違い、【フィストブロウ】はそもそも戦うことが少ない。仮に戦うとしても、実際に革命と呼ばれる力を行使することはほとんどない。
意図的に隠しているのか、偶然そういう場面がないだけなのかは分からないが、それゆえに、【鳳】は【フィストブロウ】の力の正体を知らないのだ。
(聞くところによると、窮地を脱し、戦況を逆転させるほどの大きな力を持つとのことでありますが、果たしてその力は如何なものなのか……)
そして、その窮地は、“今”なのか。
「行くぜ。《キラード・アイ》の能力発動だ」
暗黒鎧 キラード・アイ R 闇文明 (5)
クリーチャー:ダーク・ナイトメア/革命軍 4000
このクリーチャーがバトルゾーン出た時、自分の山札の上から4枚を墓地に置いてもよい。
闇の進化クリーチャーを自分の墓地から召喚してもよい。
《キラード・アイ》の胸に埋め込まれた魔眼が、ギョロリと大きく見開いた。
「《キラード・アイ》の能力で、俺は墓地から闇の進化クリーチャーを召喚できる。よって、墓地からこいつを召喚だ」
「!」
ゾッ、と。
悪寒が走り抜ける。
悍ましい声が聞こえた気がした。
恐ろしい咆哮が聞こえた気がした。
死者が叫んでいる。亡者が唸っている。
そして、魔眼が自分を見つめている。
そんな感覚に囚われながら、隠兵王の目の前に、深い闇が広がっていく。
「《暗黒鎧 キラード・アイ》を進化」
ボゴッ、と胸の魔眼が盛り上がる。
胸だけではない。腕が、脚が、胴が膨張し、さらに刺々しい鱗を形成する。
背中からは、闇夜よりも暗く、白夜を塗り潰すような、悪魔であり天使の翼が開く。
「目覚めろ、殺戮の魔王。生に胡坐をかいた者どもに、俺たちの死に様を見せつけろ——さぁ今こそ、革命を起こせ!」
よりいっそう、大きく魔眼が見開かれる。
すべての生を、死を、生者を、死者を見続けてきた、禍々しき魔眼。
右手の甲には明の拳、左手の甲には暗の拳。それぞれ紋章が浮かび上がり、《キラード・アイ》だったクリーチャーは、邪悪な雄叫びをあげる。
それは、死を司る革命軍の王であるという、証だ。
「死の意志を掲げろ——」
生を死を貪り、統べる王。
「——《革命魔王 キラー・ザ・キル》!」