二次創作小説(紙ほか)
- 132話「煩悩欲界」 ( No.408 )
- 日時: 2016/07/09 16:03
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
「あいつらは、【鳳】のせんしだ」
暗い森を歩く中、ウッディはそう語る。
突如現れた三人の僧侶。彼らは【鳳】という組織に所属する者らしい。
最初は気にしていなかったが、話を聞くうちに、柚も思い出した。
【鳳】。いつしか自分たちの前に現れた、バイクの人物。
恋を倒し、暁を求めていた者だ。
「そんなすごい人たちなんですね……」
「いいや。あいつらは、よわいぞ。あのいしょう、いでたちからして、おそらく、さんかいたいのものだな」
「さんかい……?」
「【鳳】のぶたいのひとつだ。よわいぶたいだけどな」
「そうなんですか? えっと、じゃあ、強いのは……?」
「おんそくたい、きてれつたい、じゅうぐんたい。このみっつは、つよいぞ。鳳】のかんぶさんにんしゅうで、おんそくたいちょうは、【鳳】ぜんたいの、たいちょうでもある」
「音速……」
確か、最初に出会ったバイクの人物は、音速隊を率いる者、と名乗っていた。
ということは、あの人物が【鳳】のリーダーなのか。
「ウッディくんは、ものしりですね」
「そんなことはない。おれよりも、もっとものしりな、なかまがいる。ミリンという。すごいかがくしゃだ。あたまがいい」
「あたまがいい……かいりくんみたいです」
「それに、おれたち【フィストブロウ】は、もともと【鳳】と、どうめいをくんでいたからな」
【フィストブロウ】。その名前にも、聞き覚えがあった。
【鳳】の音速隊長が現れた時と同じく現れた者。
「【フィストブロウ】、って……あの、メラリーさん? の——?」
メラリー。その名を出すと、途端にウッディの目の色が変わった。
そして彼はまくしたてるように柚を問い詰める。
「! ゆず! おまえ、メラリーをしってるのか!?」
「え? え、えっと……」
「あいつは、どこにいるんだ!? しってるなら、おしえてくれ!」
凄まじい剣幕だった。あまりの勢いに、柚も気圧されてしまう。
「ご、ごめんなさい……会ったことがあるだけで、どこにいるかまでは……」
それでもなんとか声を絞り出してそう言うと、ウッディは我に返ったように、しゅんとうなだれた。
「……そうか」
「ごめんなさい。力になれなくて……」
「いや、いい。おれも、わるかった」
「……なにか、あったんですか?」
柚が問うと、ウッディは少し口ごもっていたが、やがておもむろに口を開き始める。
「メラリーは……やられた。【鳳】の、かしらに」
「え……」
「だが、あいつはいきてる。どこかで、ぜったいに」
舌足らずながらも、確信しているかのように、ウッディはハッキリと言い切った。
それだけ、ウッディはメラリーのことを信頼しているのだろう。
その思いの強さは、なにも知らない柚にも、十二分に伝わってきた。
「……大切な人、なんですね」
「あぁ」
小さく、短く、ウッディは頷いた。
「なかまは、たいせつだ。おれのなかで、いちばん、たいせつなものだ」
そして、続ける。
「メラリーだけじゃない。ルミス、ミリン、ザキ……みんな、おれのたいせつな、かけがえのない、なかまだ」
「……いいですね。そういう、信頼できる仲間がいるって」
「ゆずには、いないのか?」
「いますよ。とっても大切な、おともだちが」
「ともだちか」
「はい。小学校からの大親友と、頼りになるおねえさんとおにいさん、ちょっとこわい男の子に、ちょっとふしぎな女の子……わたしの、大切なおともだちです」
ウッディの言う仲間と、柚の言うともだち。
言葉は違えど、二人が思い描く意味は同じだ。
「ルー!」
「あ……も、もちろん、プルさんもそうですよっ。わすれていなんて、いません」
「おもしろいやつだな、ゆずは」
そこで初めて、ウッディは笑った。
小さな微笑だったが、確かに彼は笑っていた。
「それに、おれのめに、くるいはなかった」
ウッディはそう続けた。
その言葉は、柚の中で疑問として響く。
「? くるい? それって、どういう——」
そう、柚が尋ねた。
その時だ。
しゃりん
「! ゆず!」
「ふぇ……っ?」
ウッディの声が聞こえたかと思うと、二人の間に、なにかが突き刺さった。
錫杖のようなものが、地面に刺さる。その衝撃で柚とウッディは分断される。
それだけではない。
何人もの影が、柚のみを取り囲んだ。
「っ、プルさんっ、ウッディくんっ!」
「ルールー!」
見れば、柚を取り囲んでいるのは、袈裟を着た人物——あの三人組と同じ格好の者たちだ。
ただし、人数は増えている。全部で六人。左右中央前後をすべて囲んでいる。
柚は身動きできない。ほとんど拘束されたも同然だ。
さらに六人の僧侶の奥から、静かな足音が聞こえてくる。
「こうして相対するのは初めてだな。クスリケウッヅ」
「おまえは……!」
ウッディの目つきが鋭くなる。
その視線の先には、男がいた。六人の僧侶と同じく、禿頭に袈裟を着込んだ男だ。
しかし、着ている袈裟は、他の僧侶と違って、白い。手にした錫杖も、他の者たちよりも立派に見える。
明らかにこの男が、僧侶たちの頭だ。
「だ、だれ、ですか……?」
「三界隊長、佛迦王。それが【鳳】での儂の名だ」
佛迦王。男はそう名乗った。
「ゆずをはなせ!」
「そうはいかないのだ。若い娘は貴重だからな。想像以上に幼い娘であったが……まあ、いいだろう」
しゃりん、と佛迦王は錫杖を鳴らす。
「【鳳】は、侵略というその存在意義は、あらゆる欲望を解放する。精々、有効に利用させたもらう」
「ふざけるな!」
「ふざけてなどいない」
激昂の色を見せるウッディに対して、嘲るように佛迦王は返す。
佛迦王はもう一度、しゃりん、と錫杖を鳴らした。すると、森の奥からさらに三人、続けて三人、その後にも三人——多くの僧侶たちが姿を現す。
あっという間に、柚だけでなく、ウッディやプルまでもが包囲されてしまった。
「いくらクスリケウッヅといえど、この人数では、多勢に無勢だろう?」
ずらりと並ぶ僧侶たち。一人一人がどれほどの力を持っているのかは分からないが、佛迦王が余裕の笑みを見せているところから、決して弱くはないだろう。
少なくとも、ウッディを倒す算段が立つ程度の力はあるはずだ。
柚は人質、周囲は圧倒的な戦力。状況は絶望的。
誰もがそう思った。佛迦王はそれを狙ってこの場を用意したのだ。柚も泣きそうな表情でウッディを見つめている。
それほどに、危機的な状況だ。
「……おい」
だが、それでも。
それはあくまでも、第三者の視点による評価でしかない。
ウッディは俯きながら、小さく口を開く。
彼は剣の柄に、手をかけた。
「あまり、おれをみくびるなよ」
そして、一閃。
一瞬の閃きのうちに、三人の僧侶が、地に伏していた。
「……! 一瞬で、三界隊の僧兵を、三人も……!」
戦慄する佛迦王。そして舌打ちする。ウッディの力量を見誤った。
続けて、返す刀でもう一閃。さらに三人の僧侶が倒れた。六人倒れてようやく、僧侶たちは錫杖を手に襲い掛かるも、一撃たりともウッディには当たらない。
振るわれる錫杖を、ウッディは小柄ながらもしなやかな身体で、とにかく避ける。避けきれないものは弾く。隙間を縫って懐に飛び込み、剣を振るう。
飛んで、跳ねて、走る。森の中を、三次元的に動き回り、僧侶たちを攪乱しながら、次々と薙ぎ倒していく。
「おれは、はくへいせんならザキよりつよいぞ。このけんのとどくきょりなら、おまえらなんかにまけはしない」
そう言って、剣をぶんっ、と振るった。
その時にはもう、ウッディを取り囲んでいた僧侶たちは、すべて地に伏していた。
「ぐ……こいつ……!」
「どうする? つぎは、おまえか?」
剣の切っ先を向けながら、ウッディは佛迦王に告げる。
僧侶たちは目覚める見込みがなさそうだ。戦力は、柚を取り囲んでいる僧侶たちと、自分のみ。
佛迦王は、諦めたように息を吐くと、しゃりん、と錫杖を鳴らした。
「……いいだろう。こうなれば、儂が直々に手を下そう」
そして佛迦王は前に出る。
その様子を見て、ウッディは少し意外そうに口を開いた。
「ほんとうに、やるのか。おいぼれのからだで、おれにかてると、おもうのか?」
「誰が老いぼれだ。そこまで歳は喰っていない」
こう見えても儂は若いんだ、と苦言を呈す佛迦王。確かに、喋り方は古臭いが、顔つき自体はそこまで歳を取っているようには見えなかった。
「だが確かに、貴様と直接肉体をぶつけあうのは、得策ではないな」
先ほどの動きを見れば、ウッディがどれほど強いか、すぐに理解できる。
実戦部隊ではあるが、三界隊は肉弾戦を得意とする部隊ではない。佛迦王が出張ったところで、ウッディの剣裁きに圧倒されるだけだ。
「ゆえに、こちらの戦場で、戦わせてもらうぞ……!」
「! これは……!」
一瞬のうちに、ウッディと佛迦王を取り囲む空気が一変する。
徐々に、二人だけの戦場が、空間が構築されていく。
「神話空間……ウッディくんっ!」
「……だいじょうぶだ、ゆず」
佛迦王の開く空間に飲み込まれながら、ウッディは柚を見据える。
くりくりとした眼差しの奥には、確かな意志が灯っていた。
そしてその意思は、彼の言葉として、告げられる。
「おれは、まけないぞ」
その言葉を最後に、彼は戦場へと向かって行った。