二次創作小説(紙ほか)

132話「煩悩欲界」 ( No.410 )
日時: 2016/07/05 14:35
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「S・トリガー発動。呪文《パニック・ルーム》」
 佛迦王の盾からトリガーが放たれるが、その聞き覚えのないカードに、ウッディは首を傾げる。
「……? なんだ、それは。きいたことないぞ」
「そうか、それは無知なことだな。《パニック・ルーム》の効果で……そうだな、《ステージュラ》をシールドに送る」
「っ! 《ステージュラ》!」
 《ステージュラ》は光の部屋の中に閉じ込められる。混乱と困惑を孕むその部屋は、種の防衛本能を無理やり発現させ、命そのものを防御の形へと変質させてしまう。
 即ち、クリーチャーをシールドへと変換させるのだ。
「その後、相手のシールドを一枚手札へ加える。トリガーならば、使用可能だ」
「……トリガーはない」
 シールドが増えるも、増えた分はすぐさま手札に加えられ、帳消しとなる。
 相手クリーチャーをシールドに送り、その後シールドを手札に加えさせる呪文、《パニック・ルーム》。
 マイナーな呪文ではあるが、フィールド、ハンド、シールドのアドバンテージを差引しつつ相手クリーチャーを除去することが可能だ。
 実質的なバウンスのような形になるが、光では珍しい除去に向いた呪文だ。
「クリーチャーをシールドにおくって、シールドをブレイクするのか……だが、《ステージュラ》のこうげきはつづいている! もう1まいも、ブレイクだ!」
 続けて《ステージュラ》の未解決のシールドブレイクが、佛迦王の盾を粉砕するが、
「おっと、こちらもトリガーだな。呪文《DNA・スパーク》。相手クリーチャーをすべてタップ」
「またか……」
「さらに儂のシールドが二枚以下なので、シールドを一枚追加する」
「……ターン、しゅうりょうだ」
 二枚のトリガーで、攻撃の手が一気に削がれてしまった。
 結果としてウッディは、《ステージュラ》を失い、シールドも一枚しかブレイクできなかったことになる。
「儂のターン。《ガガ・ピカリャン》を召喚し、一枚ドロー……ほぅ?」
 二体目の《ガガ・ピカリャン》を召喚し、カードを引いた佛迦王は、引いたカードを見てニヤリと笑みを浮かべた。
 僧侶とは思えない、邪悪な笑みを。
「邪魔な《ステージュラ》もいなくなったことだ。貴様の雑魚を掃除してやろう。《ブッディ》で《ジャーベル》を攻撃! その時、侵略発動!」
 《ブッディ》が攻撃する。その時、《ブッディ》に神々しき光が差す。
 その光は、《ザゼンダ》が《ブッディ》に侵略した時の光と同じだった。
「《三界 ブッディ》を、《三界 ブッディ》に侵略!」
「……? 《ブッディ》に《ブッディ》をかさねた、だと……?」
 首を傾げるウッディ。まるで佛迦王のやっていることの意味が分からない。
 侵略進化したクリーチャーの上に、さらに侵略することは、よくあることだ。 侵略者は登場時に発動する能力が多いため、侵略に侵略を重ねることで、その能力を連打するというのは、【鳳】においては知れ渡った戦術だ。奇天烈隊の隊長が、特にこの戦術を多用している。
 しかし、登場時能力を持たない《ブッディ》が、二体目の《ブッディ》に侵略する意味が分からない。ただ手札を消費しただけで、打点もパワーも変わらず、盤面に与える影響は皆無だ。《ブッディ》自身が抱えるカードが増えただけである。
 明らかなディスアドバンテージに見えたが、しかしそれを思考させる余裕は与えられない。《ブッディ》の攻撃が、ウッディのクリーチャーへと襲い掛かる。
「そのまま《ジャーベル》を破壊だ!」
 《ステージュラ》がいなくなってしまたっため、ウッディのスノーフェアリーを守るものはいない。《ジャーベル》は《ブッディ》の振るう短剣に切り裂かれ、破壊されてしまった。
「次だ。前のターンに召喚した《ガガ・ピカリャン》で攻撃。その時にも、侵略発動! コスト3以上の光のクリーチャーの攻撃に反応し、侵略進化! 煩悩を絶ち、欲界を超え、餓鬼道にて巡れ! 《三界 ゼンジゾウ》!」
 《ガガ・ピカリャン》が攻撃する時にも、侵略の光が差した。
 今度の侵略は、種族を指定しない。クリーチャーの文明とコストを参照し、進化する。
 《ガガ・ピカリャン》は光の中で姿を変え、小さな僧侶の姿となる。どことなく機械的な灰色の身体。手には錫杖を持ち、周囲には光る数珠が浮いている。



三界 ゼンジゾウ UC 光文明 (5)
進化クリーチャー:エンジェル・コマンド/侵略者 6500
進化—自分の光のクリーチャー1体の上に置く。
侵略—光のコスト3以上のクリーチャー
ブロッカー
W・ブレイカー
自分のターンの終わりに、このクリーチャーをアンタップする。



 《ゼンジゾウ》は錫杖を振るい、数珠を操って、《ジャーベル》の身体を光線で射抜く。
「《ゼンジゾウ》と《ジャーベル》でバトル! もう一体の《ジャーベル》も破壊する!」
「く……っ」
「続けて《クマウス》で《オチャッピィ》を攻撃! こちらも破壊だ! そして、これでターン終了だが、このターンの終わりに《ゼンジゾウ》の能力で、《ゼンジゾウ》をアンタップする」
 ターン終了時に《ゼンジゾウ》はアンタップされる。攻撃時に発動する侵略とブロッカーと噛み合わせは良くないが、《ゼンジゾウ》は自身をアンタップする能力を備えているため、その噛み合わせの悪さを自ら克服していた。これにより、攻防一体の動きが可能となる。
「まずいぞ……おれのターン」
 《ステージュラ》がいなくなり、ウッディのスノーフェアリーたちは要を失ったことで、大きく戦力が削がれてしまった。。攻めるにしても守るにしても、彼らは非力すぎる。
 ウッディの場に残ったのは《ジャスミン》が一体。相手の場には《ブッディ》《ゼンジゾウ》《クマウス》《ガガ・ピカリャン》と、クリーチャーの数が並んでおり、決してそのサイズも小さくない。
 今のウッディは手札も一枚だ。この状況を切り抜けるのは困難だが、
「! いいひきだ。まずは《雪精 ホルデガンス》をしょうかん。マナを1まい、ふやすぞ」
 《ホルデガンス》が場に現れる。《青銅の鎧》らと同じように、彼はマナを肥やす自然のクリーチャー。自慢のスコップで地面を掘り、マナを耕す。
 その耕されたマナを使い、ウッディはさらに呪文を詠唱する。
「そして、5マナをタップだ! 《古龍遺跡エウル=ブッカ》! 《ゼンジゾウ》をマナゾーンへ!」
 自身のアンタップ能力が仇となり、《ゼンジゾウ》は古龍の遺跡に飲み込まれ、マナに還されてしまう。
 《エウル=ブッカ》はウッディのマナの力を取り込み、さらに巨大な自然となって、佛迦王に牙を剥く。
 ウッディは、佛迦王の切り札の一枚である、《ブッディ》に目を向けた。
「さらにマナ武装5で《ブッディ》をマナゾーンに——」
 と、言いかけたところで
「……?」
 クリーチャーを飲み込むはずの《エウル=ブッカ》が、《ブッディ》へと向かない。
 まるで、それが神聖なものであるかのように、触れようとしない。
「? どういうことだ? 《エウル=ブッカ》が、《ブッディ》につうじないぞ……?」
「無知な畜生めが。これは《ブッディ》の能力だ」
「なんだと? 《ブッディ》のたいせいは、はかいのときだけのはずだぞ」
「その通りだが、そうではないな。なぜ儂が前のターン、《ブッディ》に《ブッディ》を重ねたのか。その意味をよく思索するがいい」
 言われて考える仕草を見せるウッディだが、すぐに音を上げた。
「……わるいがおれは、あたまはよくない。なにがいいたいのか、わからない」
「ふん、本当に無知な畜生だな。ならばせめてもの手向けだ、よく聞け。《三界 ブッディ》の能力は、侵略とWブレイカーを除き二つ。一つは、破壊を免れる代わりに、手札のクリーチャーを供物として捧げること」
 それは知っている。実際に、破壊耐性のコストとされた《トリガブリエ》を見ている。
「そしてもう一つ。《ブッディ》は奉納された供物を自らの中に取り込むが、その取り込んだ供物の数が三つ以上になった時、即ち——」
 その瞬間だった。
 《ブッディ》の身体が光り輝く。
 神々しく、すべての者を救う、仏のように。

「——《ブッディ》の下にカードが三枚以上あれば、《ブッディ》は如何なる場合においても場を離れなくなる!」