二次創作小説(紙ほか)

134話「一難去って」 ( No.415 )
日時: 2016/08/01 01:02
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

 神話空間が閉じる。
 佛迦王が片膝を着いて崩れ、ウッディが地面に立った。
 その、瞬間だった。
「ふんっ!」
 着地と同時に地面を蹴り、ウッディは柚を拘束している僧侶たちを、瞬く間に薙ぎ払っていく。たった六人の雑兵では話にならなかった。
 敵の頭は倒し、人質は解放した。
 もはやここに残る理由は存在しない。ウッディは柚に叫び、駆け出した。
「ゆず! にげるぞ! はしれ!」
「は、はひ……っ!」
「ルー!」
 どこか既視感を覚える流れだったが、柚はウッディに促されるまま、先導するウッディの後を追うように走る。
 先ほどの僧侶たちが追ってこないか不安だったが、ほんの少しだけ振り向いた時、追っ手はいないように見えた。
 僧侶たちは全員、ウッディに斬り捨てられ、頭である佛迦王も、ウッディとの対戦の末に敗れた。そのダメージは決して小さくない。
 小さな矮躯。小動物のような姿をしていても、彼は戦士なのだ。
 愛くるしい見た目とは裏腹に、そして彼自身の言葉通り、彼は強かった。
 その強さは、革命という力にあるのか。
 それとも別のところにあるのか。
「……とまるぞ」
 そんなことを考えていると、ウッディの足が止まった。
 柚も合わせて止まる。全速力で走ったので、やはり疲れた。ぺたん、とその場に座り込む。
「あいつらは、おってこないな。あれだけのきずをおわせたんだ。しばらくは、うごけないだろう」
 ウッディは今まで走ってきた道筋を、確認している。その際にも柄を握り、警戒は怠らない。
 まったく呼吸の乱れていないウッディ。一方で柚は、肩で息をしていた。少しずつ呼吸を整えていく。
「ウッディくん……その、ありがとう、ございました。助けていただいて」
「きにするな。ゆずをまもる。そういったはずだ。おれは、そのちかいを、まもっただけだ」
 腕を組んで、少し誇らしげに言うウッディ。
 彼は、実際にその誓いに則って、柚の身を守っている。それは、誇るべきことだ。
 だが、ウッディの表情は、すぐに鋭くなった。
「それよりも……」
「な、なんですか?」
「だれかのけはい……いや、さっきを、かんじる」
「さ、さっき?」
「ころす、きはく、だ」
 即ち、殺気。
 一難去ってまた一難。【鳳】には複数の部隊があると、ウッディは言っていた。敗北した佛迦王が応援を呼んでいてもおかしくないため、その可能性も考えられた。
「……ちかいぞ」
 剣の柄を握りながら、ウッディは森の奥へと視線を向け、間合いを詰めるように歩を進めていく。
 言われて、柚も空気に違和感を感じた。どこか、空気が刺すように痛い、気がする。ピリピリと肌を突き刺すような感覚が伝わってくる。
「な、なんだか、こわいです……ウッディくん……」
「…………」
「ウッディくん? どうしましたか?」
「……あ、あぁ。いや、なんでもないぞ」
 ウッディはそう答えて、剣の柄に手を伸ばす。
 いつでも抜けるように柄を握り、構えを保ちながら、見えない殺気へとジリジリとにじり寄る。
 そして、彼は一際強く、地面を蹴った。
「——だれだ!」
「てめぇこそ——!」
 一息に抜かれた刃が閃く。
 同時に、向こうの禍々しい爪が光った。
 一瞬、両者の目が揺れる。
 二つの凶器はそれぞれかち合うことなく、交錯し、お互いの身体にも触れず、空振りする。
 両者は攻撃が当たらなかったが、特に気にした風もなく、どころか落ち着き払って武器を収めていた。
 そして、振り返る。
「ザキ!」
「ウッディ……!」
 ウッディは、相手の男へと駆け寄った。ザキと呼ばれた男も、さっきまで発していた殺気を収めている。
「かくすきがいっさいかんじられない、あのさっき……やはり、おまえだったのか」
「こっちは薄い気配と、素人同然の見え見えの気配が混同して、誰が誰だか分からなかったぜ……」
「……?」
 よく分からないが、二人とも親しげで、敵意もない。
 もしかしてあの男が、ウッディの言っていた、彼の仲間なのだろうか。
 その時、ガサガサと茂みが再び揺れ、奥から人が出て来た。
「ザキ! もういいかしら?」
「誰かと話してる……? もしかして、仲間の人かな」
 出て来たのは、男女の二人組。
 人のよさそうな少年。そして、道化じみた雰囲気の少女。
 それは、柚が探し求めていた人物だった。

「ぶ、ぶちょーさん……!」