二次創作小説(紙ほか)

番外編 合同合宿1日目 「陽光の下に大海あり6」 ( No.421 )
日時: 2016/08/12 13:07
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

 現れたのは、究極のゼニスの一体、《超絶軌跡 鬼羅丸》。
 出されるカードとしては予想の範疇ではあったが、だからこそ、その恐ろしさが理解できてしまう。
 《鬼羅丸》の能力は、召喚して場に出せば山札の上から三枚、ガチンコ・ジャッジで勝ったカードを使うことができる。強いカードはそれだけマナコストが高く設定されていることが多いため、強いカードを踏み倒して使うという点では、理に適っている能力と言えるだろう。
「どうやら今の俺のデッキは相当、中身が偏っているようだからな。覚悟した方がいい」
「…………」
 流のデッキは、恐らくビマナ系のデッキ。増やした大量のマナから、重い大型カードを連打して、盤面を制圧するデッキ。しかしここまでの対戦で、リソースを得るためのマナ加速やドローカード、防御を固めるカードは今までいくらでも見たが、肝心のフィニッシャーとなり得るカードはまったく見えていない。
 流がぼやいていたように、盾落ちしている可能性はあるが、すべてがそうであるとは考えにくい。切り札級のカードは、山札の底に眠っている可能性が高いだろう。
「ガチンコ・ジャッジ三連戦……行くぞ」
「……ん」
 そして二人は、それぞれ山札を捲る。
 一戦目。
 流はコスト2《霞み妖精ジャスミン》、恋はコスト3《エンジェル・フェザー》。
 二戦目。
 流はコスト4《フェアリー・シャワー》、恋はコスト5《音感の精霊龍 エメラルーダ》。
 三戦目。
 流はコスト8《偽りの名 イージス》、恋はコスト7《護英雄 シール・ド・レイユ》。
「一勝だけか……だが、十分な成果だ。《偽りの名 イージス》をバトルゾーンへ!」
 大きく出たわりに、勝った回数は一度のみ。
 しかしその勝利カードには、大きな意義があった。
「《イージス》がバトルゾーンに出た時、バトルゾーンからアンノウン以外をすべて山札に送り込む!」



偽りの名(コードネーム) イージス SR 水文明 (8)
クリーチャー:リヴァイアサン/アンノウン 5000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、各プレイヤーはバトルゾーンにあるアンノウン以外のクリーチャーをすべて自身の山札に加えてシャッフルし、こうして山札に加えたクリーチャー1体につき1枚カードを引く。



「っ……」
 一瞬でバトルゾーンのクリーチャーが消し飛んだ。
 《偽りの名 イージス》。大型種族であるアンノウンに相応しく、豪快な盤面リセット能力を有している。その山札へ除去する一方で相手に手札を与えてしまったり、その被害は自分にも向けられるなど、決して良いことばかりではないが、二連打された《ヘブンズ・ゲート》から展開した恋のクリーチャーを一掃できたことは大きい。
「俺の《鬼羅丸》はエターナル・Ωで手札に戻る。そして山札に戻されたクリーチャーの数だけドローだ。これで俺はターン終了だな」
「もう一度……《ヘブンズ・ゲート》……《ヴァルハラナイツ》と《ラ・ローゼ・ブルエ》をバトルゾーンへ……」
「残念だが、無駄だ。《「修羅」の頂 VAN・ベートーベン》を召喚。相手クリーチャーをすべてバウンスだ」
 続けて流は、新たなゼニスを繰り出す。それも、恋にとっては非常に痛手となるゼニスを。
 《VAN・ベートーベン》。召喚時に相手クリーチャーをすべてバウンスするだけでなく、ドラゴンとコマンドの登場をも禁止するクリーチャーで、ちょうど暁の《ドラゴ大王》とロックする範囲が対極だ。
 恋のデッキのクリーチャーは、ほとんどエンジェル・コマンド・ドラゴンだ。サポートとしてジャスティス・ウイングもいるとはいえ、この盤面を覆す可能性のあるフィニッシャークラスのクリーチャーが封じられたのは大きい。
「私のターン……《聖龍の翼 コッコルア》を召喚して、ターン終了……」
「《「智」の頂 レディオ・ローゼス》を召喚。カードを五枚までドロー、その後、相手の手札を五枚、捨てさせる」
「んぅ……」
 恋が小さく呻く。
 盤面をリセットされ、クリーチャーの登場も制限され、その上で手札まで叩き落された。
 もはや、打つ手はないに等しい。
「俺はこのターン、五枚以上のカードを引いたので、《エビデゴラス》を《Q.E.D.+》に龍解だ」
「私のターン……終了」
 手札がなく、クリーチャーが出せない恋は、使えるカードがない。なにもせず、ターンを終えるしかなかった。
「悪いが、さらに詰ませてもらうぞ。《「祝」の頂 ウェディング》を召喚。場と手札のカードをそれぞれ、シールドに置いてもらう」
「…………」
 最後に手札に残されたカードも、シールドへと埋められる。
「……ターン、終了……」
「《オリーブオイル》を召喚。俺の墓地をすべて山札に戻すぞ。そして、《ウェディング》でTブレイク。ブレイクしたシールドは墓地へ」
 逆転の余地などまるで与えない。《ウェディング》でシールドを焼き払い、トリガーの可能性、増えた手札からの巻き返しすらも潰していく。
「《コッコルア》を召喚……ターン終了」
「《キング・ケーレ》を召喚だ。《コッコルア》をバウンス」
 苦し紛れに出した《コッコルア》も、捨て石にすらならず、手札に送り返される。
「《ウェディング》でTブレイク」
 そして、《ウェディング》によって恋のシールドはすべて墓地へと落ちていった。
 完全に、詰んだ形だ。
 恋はゆっくりと目を閉じる。
 この対戦は、これで終わりだ。

「《偽りの名 イージス》でダイレクトアタック——」



 対戦が終わると、勝者である流を称えて、また子供たちが彼に集っていた。やはり彼はここの人気者のようだ。
「構築に妙なところはあったが……強かったな」
「えぇ。天門二連打からの最後の巻き返し。トップの強さもあったとは思うけど、終盤の爆発的な制圧は見事だったわ」
 恋のデッキは場をクリーチャーで制圧してから攻めに移るのだが、盤面を固める前にすべて押し流されてしまった。
 一枚もシールドを割れず、完膚なきまでに完封負けした対戦だ。
 しかし、それでも、
「……よかった」
「恋? どうした?」
「対戦できて……よかった」
 静かに言って、恋はデッキをケースに戻した。
「……なかなか良かった。《エメラルーダ》から暴発して天門を二回撃たれた時は、少し焦った」
「まったくそんな風には見えませんでしたけど……」
「返しの《シャワー》で《鬼羅丸》を手札に加えていなければ、負けていたかもな」
「あー、やっぱりあれ、ほぼトップ解決だったのね」
「まあ手札に握ってるなら、とっとと使っていただろうからな」
 ともあれ対戦は終わった。恋も満足している様子で、これからどうしよう、というところで、一騎が流に尋ねる。
「あの、この後、なにか用事とかありますか?」
「この後? ここの店じまいをした後という意味か?」
「はい、そうです。俺たち、近くのお屋敷に宿泊しているんですけど、都合が合えば、もう少し一緒にいられないでしょうか?」
 唐突な質問。それに、そんな話は聞いていなかった。
 しかし一騎からしても、間接的に彼は恩人のようなものだ。それに、こうして奇跡的に再会できた。すぐに別れたくないという気持ちも、理解できる。
 それが分からない相手ではなさそうだが、流は重く口を開いた。
「……ないとは言い切れないな。荷作りがまだ終わっていない」
「荷作り? どこかへ行かれるんですか?」
「あぁ。もうすぐ、この地を去ろうと思ってな」
 その一言に、衝撃が走る。
 特に強く衝撃を受けたのは、一騎と恋だった。
「っ!? ど、どうしてですか?」
「俺が今通っている高校が、廃校になることが決定した。夏の終わりには、転校する。それに合わせて他県に移ることになる」
「そ、そうなんですか……」
 廃校。
 縁遠いようで、案外身近に存在する現象。
 多くの学童が集い、様々な知識と経験を得て、成長する場所。
 一騎や恋にとって烏ヶ森がそうであるように、暁たち遊戯部にとって東鷲宮がそうであるように、自分が育ち、成長し、学んできた場所が廃れ、潰えるということが、どれほど悲哀なものか。
 それは経験していない自分たちには分からない。それでも、流の重い口振りから、推察できた。
「……しかし、この時期に廃校って、なんか中途半端だな?」
「そうね。普通は学年末を区切りにするものだけど」
「学校の運営が停止するのは学年末だが、移り住むことになる家の管理について少し揉めていてな。他にも諸々の事情はあるが、細かいうえに込み入っている。説明は遠慮したいところだ」
 はっきりとしていながらも曖昧に濁す流。言いにくいことなのだろうか。
 流はこの地を去る。こうして再会したのも偶然だが、しかし、どこか物寂しさを覚えるのも、確かだ。
「でも、そっか……ここから出るんですね……」
「あぁ。名残惜しさもなくはないがな」
 微塵もそんなことを感じさせない口振りだが、本心ではそう思っているのだろう。
「まあ、俺の用事と言えばそんなところだ」
「そうですか……すみません、お時間を取らせてしまって」
「構わない。またこの地に来ることがあれば、ここに寄ればいい。少なくとも夏の間は、俺はいるからな」
「……はい。また、いずれ」
 流はあの店長に呼ばれ、店に戻る。
 去り際。彼は恋に言った。
「では、またな」
「ん……また……」
 恋も、その言葉に応えた。
 また再会できる時が来ることを、願って。