二次創作小説(紙ほか)

番外編 合同合宿1日目 「花園へ至る道の防衛線1」 ( No.422 )
日時: 2016/08/13 16:05
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「ふぃー……つかれたよー……」
「おつかれですね、あきらちゃん。でも、わたしも、ちょっとねむいです……」
「充電切れ……」
「あんなにはしゃぐからよ……まあ、かくゆう私も、かなりキツイんだけど……」
 時刻的には夕方と言ってもいい頃。夏ゆえにまだ日は高いが、このように、エネルギーをほとんど使い切った者が続出したため、早々に切り上げて屋敷に戻ってきたのだった。
 男の目など露程も気にせず、畳敷きの広い居間で豪胆なまでに四肢を投げ出して寝そべる暁は、思い出したように半身を起こし、ぐるりと居間を見回す。
「そういえば一騎さんは?」
「……つきにぃ、消えてる……どこに行った……?」
「あぁ。剣埼さんはシェリーたちを駅まで迎えに行ったわ。もうそろそろ帰ってくると思うけど……」
 と思ったら、外から微かな話声と、玄関先で扉が開く男が聞こえてきた。
「帰ったよー!」
「噂をすればなんとやら、ね。行きましょう」
 残った五人は玄関へと出向き、烏ヶ森の面々を出迎える。
 広い玄関には、まだ荷物を持った烏ヶ森の四人——四天寺ミシェル、黒月美琴、焔空護、夢谷八——がいた。
「流石に県を跨ぐと疲れるな……誰だよ、この合宿を企画したのは」
「私よ」
「そうだったな……荷物はどこに置けばいいんだ?」
「向こうに男女で分かれて寝室を用意しているので、そこに……えと、案内しますね」
「助かる」
 見るからに疲れ切った表情のミシェル。烏ヶ森が普段なにをしているのかはあまり知らないが、仕事というからにはそれなりの作業かなにかをしてきたのだろう。そこから県境を越えての移動なのだから、彼女たちの疲労も頷ける。
 しかしこの面子には、どことなく違和感を覚える。暁はキョロキョロと見回したり、人数を数えたりして、疑問をぶつけた。
「氷麗はいないの?」
 この場にいる烏ヶ森の面子は、恋と一騎を合わせても六人。しかし烏ヶ森にはもう一人、葛城氷麗という、クリーチャーの少女がいる。
 クリーチャーではあるが、仮にも部員として扱われている彼女がいないのはどういうことだろうか。
「ごめん、そういえば言ってなかったね。氷麗さんは、リュンさんの介護をしないといけないからって、今回は不参加だよ」
「介護ってなによ……あいつ、今どんな状態になってるのよ」
 恐らく、なにか比喩か誇張表現なのだろうが、介護という言葉に疑念を募らせる沙弓。
 柚と『蜂』の一件以来、彼とは音信不通になっており、まったく音沙汰がない。あの時も、どこかおかしな様子で、慌てたように転送され、元の世界に戻されたが、向こうでなにかあったのか。
「リュンさん、だいじょうぶでしょうか……?」
「まあこっちからは確かめようがないし、リュンか氷麗か、いずれどっちかから連絡があるでしょう。それまで待ちましょう。それより今は、合宿よ合宿」
「うーん、でも氷麗いないのかぁ……」
 残念そうな表情を見せる暁。
 とその時、思い出したように沙弓が口を開いた。
「そういえば、まったく考えてなかったんだけど……」
「ん? なんだ、部長」
 浬が尋ねる。まったく考えていない、という言葉の響きにどことなく恐ろしさを感じた。
 そしてその恐ろしさは、ある意味では、的中してしまう。
「晩ご飯、どうしましょうか?」
「一番大事なこと考えてねぇな!?」
 ややオーバー気味だが、驚愕、と表現しても良さそうな表情でツッコまれる。
 まったく考えてなかったということは、夕食の用意はない。ここは旅館ではないのだ。待っていても飯が出て来るはずなどない。なので自分たちで用意しなくてはならないのだが、それを考えていないとは。
 この合宿を計画した人物は、想像以上の無計画さを持っているようだ。
「てっきり、ご飯は既に用意しているものと思ってましたねー」
「夏だし、バーベキューとかかなって、勝手に思ってたっすけど……」
「はぁ……ないならないで、先に言っとけよな。駅近くにコンビニもあったし、ここ来る途中に弁当なりなんなり、なにか買って来たっていうのに……」
 そして烏ヶ森からも苦言が発生する。しかし当人の沙弓はあっけらかんとしていて「まあないものはないんだし、仕方ないわよ」などと言って浬に殴られていた。
 だが、確かに困った。ここから駅まで歩くとなると、それなりに時間がかかる。先発の六人も、後から合流した四人も、皆一様に疲弊しているため、今からコンビニまで買い出しに行くのは、できれば避けたい。
 とはいえこのまま食べずにいるというわけにもいかない。どうしたものか、頭を悩ませていると、ふと一騎が尋ねる。
「……食べるもの、なにもないの?」
「あ、えっと……なくは、ないですよ? 冷蔵庫があるので、その中に三日分の食材を、人数分用意してるって、言ってました」
「じゃあ最悪、野菜をそのまま丸かじりすれば生き残れるわね。マッチがあるから、肉は直火で焼きしましょう」
「あんたはもう黙ってろ」
 食料調達においてまるで役に立たない部長を会話から追いやる。
 そんな二人をよそに、ならばと一騎が提案した。
「だったら、俺がなにか作るよ」
「……まあ、そうなるよな」
 作られてはいないが、食材はある。買い出しに行くという選択肢を省けば、残るのは断食か調理の二択だ。前者は文化的で最低限度の生活を営む一般的かつ常識的な市民としてあり得ないとするならば、取れる選択は後者。
 つまり、ないなら作るしかない、ということになる。
 全員が分かっていたことではあるが、誰かが言いださなくては始まらなかった。
 しかしまだ、問題が残っている。
「それは助かるわ。でも一人で大丈夫かしら?」
「うーん、十人だよね……流石に、この人数を一人ってなると、大変かも……」
 調理する人数に対して、それを受ける人数だ。
 一人で十人分の料理を作るとなると、それだけ作業量も多くなる。二人や三人分程度なら、まとめて作ってもそれほど手間にはならないが、十人ともなると、流石に一人でこなすには辛い。
 せめてもう一人くらいはまともな人手が欲しい。そう思っていると、意外なところから声が上がった。
「あー……それじゃあ、私も手伝いますよ」
 暁だ。
 全員の目が彼女に向けられる。好奇というか、不思議なものを見ているような視線だ。
 それらの代表者のように、沙弓が言った。
「……暁って料理とかできたの?」
「失礼な、できますよ。これでも空城家の台所を仕切ってるのは私なんですよ!」
 口を尖らせる暁。
 しかし、無理もないと言えば無理もない。ガサツで、男っぽくて、なにも考えずに体だけが動き回っているような彼女と、料理という一種の女性を象徴するような概念を結びつけることが誰にできようか。
 とはいえ、理解者もいないわけではなかった。
「あきらちゃんの作るお料理は、とってもおいしいんですよ」
「いいな……食べたい」
 幼馴染の柚はそのことを知っている。恋も疑いや好奇の目は向けず、純粋に欲望を膨らませていた。
「でも、作れるならもっと早く名乗り出ても良かったのよ?」
「えー、だって面倒くさいもん。作らないならそっちの方がいいし」
 なんとも正直な怠惰だった。正直すぎて窘める気も失せる。
 ともあれ一騎と暁、二人がメインとなって調理をするということで決まりだろう。
「それじゃあ暁さん、お願いできるかな?」
「お任せですよ! 面倒くさいけど!」
「ぶっちゃけたなこいつ……」
「でも、二人でも大変そうですね。これだけの人数だと」
「あ、あの、それなら、わたしもなにかお手伝いします」
「そうだな、タダ飯食うのもなんだし、手くらいは貸すぞ」
「なら私も……」
「あんたは座ってろ」
「皆、ありがとう。じゃあ、とりあえず冷蔵庫になにがあるかを確認しないと——」