二次創作小説(紙ほか)

Another Mythology 13話「萌芽の語り手」 ( No.43 )
日時: 2014/05/06 15:06
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

『さあ、行きなさい! 《ドラピ》でTブレイク!』
「う、んぅ……っ!」
『《バルガザルムス》でシールドをブレイク!』
 立ち並ぶドラゴンによる猛攻が開始され、一瞬で柚のシールドが四枚も吹っ飛ばされた。
 このターンにとどめは刺されないが、しかし《カチュア》の場には《バルガザルムス》と《ミルドガルムス》《ドラピ》、そして《カチュア》が残る。次のターンにこれらのクリーチャーを除去するか、勝負を決めなければ、まず間違いなくやられる。
「う、うぅ……痛い、です……」
 砕けたシールドの破片が身体を切り裂き、その痛みで目じりに涙を浮かべる柚。
 この不利な状況と、全身を駆け抜ける痛みで、柚の思考も悪い方向へと向かっていく。
「やっぱり、わたしじゃ役に立てないんです……みなさんを、助けることもできない……」
 せっかく《語り手》のクリーチャーの封印が解けたというのに、暁たちを救う可能性が見出せたというのに、自分の力不足のせいでその可能性を潰してしまう。
 そんな情けない事実に、またも悔しさが、そして無力感が込み上げてくる。
「やっぱり、わたしでは——」
「ルー!」
 柚が諦めかけたその時、ルーの声が届く。
「プルさん……」
「ルールー! ルー!」
「諦めちゃ、ダメ……?」
「ルルー、ルー!」
「まだ、可能性は残ってる……?」
「ルー。ルールー、ルー」
 プルに言われて、柚は自分の手札を見る。それだけを見れば、このターンに勝負をつけることはできない。
 だが、もしも“あのカード”が来れば、逆転も不可能ではない。
「……そうでした。わたしは、負けるわけにはいかないんです」
 ルーに叱咤激励され、柚は残る唯一の可能性を、信じることができた。
「あきらちゃんは、大切な友達です。ぶちょーさんも、かいりくんも……失うわけにはいかない、大事な仲間なんですっ!」
 その可能性を信じ、柚はカードを引く。そして、
「……来てくれました。お願いします……!」
 《萌芽神話》によって手懐けられた、凶暴なる太古の龍の咆哮が、大地を揺るがす——

「増殖します、帝王様——《帝王類増殖目 トリプレックス》!」


帝王類増殖目 トリプレックス 自然文明 (9)
クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 12000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンから進化ではない自然のクリーチャーを、コストの合計が7以下になるように2体まで選び、バトルゾーンに出してもよい。
T・ブレイカー


 大地を砕き、その姿を現す、龍となりし太古の暴君、《トリプレックス》。
 《トリプレックス》は大地を粉砕するほどの咆哮を放ち、砕けた地中より命を生み出す。
「お願いします……《トリプレックス》の能力発動です! 《トリプレックス》がバトルゾーンに出た時、マナゾーンからコストの合計が7以下になるように自然のクリーチャーをバトルゾーンに出しますっ。出て来てください《霞み妖精ジャスミン》《護蓮妖精ミスティーナ》!」
 《トリプレックス》の能力で柚のクリーチャーが増殖し、一気に三体ものクリーチャーが並ぶ。
 しかも、この増殖は止まらない。
「さらにマナ爆誕0で、マナゾーンから《陰陽の舞》を二体召喚ですっ!」
『これで五体揃った……でも、攻撃できなけば無意味。貴女のクリーチャーは召喚酔い、攻撃はできない』
「どうでしょうか。あなたが増やしてくれたお陰で、わたしにはまだマナが残っていますっ」
 柚は残る3マナをタップする。
「呪文《ダイヤモンド・ソード》!」
『っ!?』
 これで柚のクリーチャーから召喚酔いが打ち消された。すべてのクリーチャーが、攻撃できるようになったのだ。
「《ミスティーナ》で攻撃です!」
 まずは《ミスティーナ》から攻撃。柚の場にはクリーチャーが五体いるので、柚のすべてのクリーチャーのパワーは5000上昇し、シールドのブレイク数も一枚増える。
「《陰陽の舞》で攻撃、Wブレイクです!」
 パワーアップした《ミスティーナ》と《陰陽の舞》で、四枚あったシールドを消し飛ばされた《カチュア》。
 皮肉なことだ。龍を操る彼女を噛み砕くのは、彼女の僕たる龍。太古の龍が、牙を剥く。

「《帝王類増殖目 トリプレックス》で、ダイレクトアタック——!」



「…………」
 柚の神話空間が閉じ、彼女の手元に《幻想妖精カチュア》のカードが舞い落ちる。
「ゆずっ!」
 ほぼ同時に暁もデュエルを終えたようで、神話空間から出て来た暁が柚に駆け寄る。
「ゆず、大丈夫!? っていうか、デュエマできた——」
「あきらちゃん」
「っ、なに……?」
 珍しく柚が暁の言葉を遮り、そして、ゆっくりと振り返る。
 その表情は、柔らかな笑顔だった。
「デュエマって、面白いですね……っ!」
「……うん。そうだね」
 柚のその一言で、暁の中でもやもやと渦巻いていたものがすべて吹き飛んだ。なにも心配することなどなかったのだ。
「……なんかよく分からないけど、色々といい感じの結果が出たのかしら」
「そう、みたいですね……」
 こちらも神話空間から出て来た浬と沙弓は、遠巻きに柚と暁を眺めていた。二人の事情は知らないが、しかし、結果的にはいい方向にことが運ばれたということだけは分かった。
「私たちも助かったわけだし、柚ちゃん様々ね」
「はい……っていうか、いつの間に霞のことを柚ちゃんなんて呼ぶようになったんですか。あと、敬称付けるなら『ちゃん』か『様』かどっちかにしてください」
「あの子、妹にしたい感じね」
「俺の話、聞いてます?」
 とまあ。
 そんなこんなで、事は綺麗に丸く収まった。
 暁たちは助かり、《萌芽の語り手》が目覚め、そして柚はこれを機に、デュエマを始めるようになったのだった——



「《太陽の語り手》《賢愚の語り手》《月影の語り手》《萌芽の語り手》か……その情報は、本当なの……?」
「当然。ボクが今まで君に嘘をついたことがあるかい?」
「ないけど……でも、そう……だったら私も、動かなきゃ」
「その辺のクリーチャーに任せてはおけないってこと?」
「半分は……でも、興味も出て来た」
「……君が興味を示すなんて、よっぽどだね。いいよ、ボクもついて行くよ」
「おねがい……じゃあ、とりあえずは、行く」
「どこに?」
「他の、《語り手》を探しに……そうしたら彼らも、そこに現れるはず」
「成程」
「それに、他の《語り手》にも、興味、ある……」
「え? それは、ボクのお役御免ってこと?」
「違う……」
「そう? それならいいんだけど……」
「なんでもいいから、行こう……キュプリス」
「はいはい。分かったよ……ラヴァー」