二次創作小説(紙ほか)

番外編 合同合宿1日目 「花園へ至る道の防衛線10」 ( No.431 )
日時: 2016/08/22 14:23
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

 女子の入浴中、先に上がった男子たちは暇を持て余していた。
 今回の合宿は旅行のようなものなので、特に詳細を決めていないのだ。明日になにをするのかは既に決定しているようだが、今のような空いた時間の活用には少々困る。
 なにかゲームでもしようかとも思ったが、気づけば軽く遊べるようなものは、デュエマを除いてトランプ一つとしてなかったので、とりあえず適当に雑談などで時間を潰していた。
 もっとも、ただの雑談でもなかったが。
「青単ってコントロールにするには辛いと思うんだ。除去がバウンスに限定されるし、相手にディスアドを押し付けるようなカードも少ないから、詰めづらそうだし」
「その通りですね。だから、決められるタイミングでは決めるようにしてます。青単は下手に長引かせると、逆に不利ですからね。隙を見極めるのが肝要かと」
「バウンスしか除去がないとなると、《キル》みたいなカードだけで逆に詰んだりするんじゃないんですかー?」
「今は入れてないですけど、《コーライル》みたいな山札への除去もあるんで、多少はなんとかなります。あとは、《パクリオ》でハンデスとか……サイバーロードなんで、《エリクシール》入りの時は大抵採用してますね」
「なんか難しそうっすねぇ。なんでそんな難しいデッキ使ってるんすか?」
「なんでと聞かれると困るんだが……そうだな。確かに、純粋に勝ちを求めるなら効率は悪いが、あえて難易度の高いデッキを使う訓練みたいなものだな。難しいからこそ、一手一手を考えなければならないし、構築の際もどのように組み替えるかという思考を強く巡らせることになる。考えることで、自分を高めるためだな。もしくは、自分自身の追求とも言える」
「自分自身の追究? どういうことですかー?」
「以前の俺は、俺にデュエマを教えてくれた人——俺の従兄なんですけど——のデッキを真似てたんです。だけど、中学上がってから、それじゃダメだと思って、自分のスタイルに最も合うデッキはなにか、というのを探しているところで……今のところこの青単がしっくりきてますけど、まだより良い形があるんじゃないかと思って、研究中ですね」
「ははぁ、努力家っすね」
「勤勉だとは思ってましたけど、霧島君って、思ったよりもストイックですねー」
「浬君らしい気はするけどね」
 一人一人、各人のデッキやデュエマのスタイルについて質問しながら語るという、話の内容を限定した雑談だった。
「浬君に聞くのはこんなものかな」
「じゃあ、次は焔さんの番ですね」
「そうっす! 自分、空護先輩に聞きたいことがあったんすよ!」
「……なんか食いつきが凄いのが怖いんですけど、なんですかね、夢谷君」
「空護先輩、いつかお城で氷麗さんがさらわれた時から大きくデッキ変えたっすけど、なんでっすか?」
「そういえばそうだね。前の焔君は、確かシノビと新型マッドネスを上手く混成したカウンターバイケンだったけど、いつの間にかドラグハートも持ってて、今じゃナイトメア軸の黒赤シーザーだ」
「それは随分と大きくデッキを変えたものですね。なにかきっかけとかがあったんですか?」
 デュエマは常にデッキを組み変えていくものだが、自分の中でこれ、と決めた一つのデッキは、その軸は変えないことが多い。ゆえにデッキコンセプトを根幹から変えた。そのことについて、なにか意味があるのではないか。
 そう思ってのことだろう。そんな質問が飛び出た。すると、空護は少し困り気な表情を見せる。
「あー、その話ですかー……」
「答えにくいこと? だったら無理には聞かないけど」
「いや、答えにくいってほどじゃ……まあ、この場ですし、部長たちにならちょっとくらい話してもいいですかねー」
 そう言って、空護は語り始めた。
「僕には一つ上の兄がいるんです。色々事情があって、今は別れて暮らしてるんですけど」
「焔君、お兄さんがいたんだ」
「今はなにをしてるんすか?」
「詳しくは知らないですけど、今はデュエマの養成学校みたいなとこに通ってるみたいですよー」
 デュエマの養成学校。その予想外の言葉に、三人は目を丸くしていた。
 日本だけなく、世界中にそのような学校があることは知っている。専門学校に近いが、学校制度に則って運営されており、簡単に言えばデュエマに関連するカリキュラムを導入した学校だ。
「そういえば、御舟先輩だったか。カードショップの店員やってる三年の先輩も、東鷲宮に来る前はそういうとこ通ってたらしいって、青葉が言ってたな……」
 ふと浬はそんなことを思い出す。そのような学校は数が少ない、なにか関係あるのではないか、と考えたが、流石に無関係だろう。
「兄も僕と同じで、シノビを軸にしたデッキ使ってるんですけど、なんと言いますか、僕より兄の方が強いんですよね。プロ志向ですし、そんな学校に行ってまで、自分自身を高めようとしているくらいですから」
「それは、凄いね。焔君はそういう学校に通おうとは思わなかったの?」
「僕は楽しいからデュエマをしているのであって、強くなるためっていうのは違うと思うんですよねー。だからそっちの方向には進みませんでした」
「しかし、その手の学校に通っているからといって本当のプロになれる人間は一握りと聞きましたよ? それに、中にはデッキビルダーみたいな、同じデュエマでも違う方面に進む人もいるみたいですし」
「いやー、身内自慢じゃないですけど、僕の兄って結構凄い人なんですよ? 大きな大会の優勝経験とかありますし、たまに新聞に載ってたりもしますしねー」
 だからこそ、だろうか。
「僕がシノビを使ってるのも、結局は兄の真似事だったのかな、とか考えてた時期がありましたよ」
 スッと、空護の表情が暗くなったような気がした。
 彼がなにを考えているのか、なにを思っているのか。そのすべてはわからないが、自分なりに解釈する。そして一騎は小さく口を開いた。
「……コンプレックス、ってこと?」
「そういうことになるんですかねー……自分でもよく分からないですけど、たぶんそれが一番近いです」
 そんなことを考えていたのが去年の話なんですけど、と言って空護は続けた。
「ちょうどそのくらいの時期に烏ヶ森に入学して、部長と野田先輩の勧誘で今の部活に入って、しばらくそのことは忘れてました。デュエマは本当に嗜む程度になって、それはそれで楽しかったですからねー。ただ今年になって、クリーチャーの世界に行くなんて不思議な体験をして、また思い出しましたよ」
 極端な話、あの世界においては強さが生死に直結する。己の強さ、弱さをダイレクトに感じる世界だ。
 だからこそ、空護も忘れていた劣等感を思い起こしたのだろう。
「まあ、そこまで深刻ってわけじゃなかったんですけどねー。ただ、あの城での出来事があって、色々と考えるきっかけができたんですよ」
 シノビならざるシノビや、龍の世界におけるシノビ。自分の知らないシノビの存在を見てから、彼の中でなにかが生まれた——のかもしれない。
「で、そこからは霧島君同様、自分自身の追究、みたいなものでしょうか。いや、もっと単純に、兄を超えられるくらいの強さを身につけられるかもしれない、と思って、一度今までの自分を捨てたのかもしれませんねー」
 あんまりはっきりとしたことは言えないですけど、と空護は締め括る。
 少しばかりの沈黙が訪れた。
「……俺は、それでいいと思うな」
「部長……」
「俺には兄弟はいないし、誰かを超えたい気持ちはよくわからないけど……焔君がどれだけ悩んで努力してきたのかは伝わってきたよ。努力が必ず実を結ぶとは限らないけど、自分が納得するまで好きなようにやればいいんじゃないかな」
「俺も同感です。超えたいものがあって、そのために考えて、自分をどう変えようか悩むというのは、よくわかります。超えるために今、将来的な自分の成長に向けて邁進する姿勢は、評価されるはずです」
「自分はよくわかんなかったっすけど、空護先輩のこと、少しは分かったっす。いつもあっさりなんでもこなすんで、そんなイメージなかったっすけど、空護先輩も凄い努力してたってことはわかったっすよ!」
「……そんな褒めちぎられると、ちょっと照れるんですけどねー……とりあえず、僕がデッキを変えた理由はそんな感じです」
 誤魔化すように笑う空護。
 知ってはいたが、烏ヶ森も、東鷲宮も、ここの人間は誰もが優しい。
 一騎は人に対して真摯に向き合うし、浬は堅物そうに見えても、努力というものを理解して、彼なりの答えを出してくれる。八は単純だが純粋で、難しく考えていないからこそ、好感が持てた。
 機会がなければ話すこともなかっただろう話題だが、この場で話せてよかったと思う。
「それで、他になにか聞きたいこととかありますかー?」
「あぁ、そうだ。さっきの《シーザー》のデッキを見てて思ったんですけど、呪文がギミックの核になるデッキにおいて、除去呪文の比率はどのくらいにしてるんですか?」
「俺も後でいいかな? 他文明との親和性が薄い赤を入れた混色デッキで、タッチでも三色以上にするのはどうなのかを聞きたいんだけど……」
「自分も自分も! 空護先輩に聞きたいことが……」
「一度に言われても困るんですけど……えーっと、じゃあまずは霧島君から——」