二次創作小説(紙ほか)

番外編 合同合宿1日目 「花園へ至る道の防衛線12」 ( No.433 )
日時: 2016/08/24 08:04
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

 一騎が部屋を出てから少し立つと、浬が立ち上がった
「浬さん? 浬さんも、どっか行くんすか?」
「……トイレだ」
「とかなんとか言って、実は部長のところに行くとかじゃないですかー?」
「……そんなことはしませんよ。必要ないって、言ってましたし」
 とはいえ、まったく考えていなかたとぁけではないが。
「君がそれに本当に納得しているのかは定かじゃないですけど、一応言っときますよー。少し前ならいざ知らず、今の部長は頼る時にはちゃんと頼ってくるので、その時まで安心して構えてればいいかと」
「別にそんなんじゃ……とりあえず、行きます」
「いってらっしゃいっすー」
 居間を出て、襖を閉める。そして廊下を歩き始めてから、そういえば台所とトイレは逆方向だったな、ということを思い出す。
 手伝いに行く口実のためにトイレと言ったわけではないが、ついでに様子も見に行こうか、くらいには考えていた。しかし完全に方向が逆なので、それもできなさそうだ。
 空護の言葉もあったので、一騎を信じて、待つことにした。
 すぐにトイレには着いた。扉を開けて中に入る。
 この屋敷の内部は、実のところ、見た目ほど大きくはなかった。まず一階建てで、建物として背が低い。また、軽く散策したところ、一階には大きな倉庫のような部屋があり、そこにはよく分からにものが大量に詰め込まれていた。刀のようなものがあったり、火薬っぽい匂いがした気がするが、模造刀と大量のマッチだと沙弓は思い込むことにしたらしい。無理に決まっている。正直、あれを見た瞬間、こんなところで寝泊まりするのが嫌になった。法律的に許されるのか、色々気になるところだ。
 そんな触れない方がいい部屋が一階の空間を圧迫していることもあり、使用できる空間は意外と広くない。それでも、浬の家の空間よりもずっと広いのだが。そのため、部屋は個室ではなく、居間を通らなければ行けない大部屋(というより恐らく居間の一部)が二つ。男女で分けている。
 また、風呂は半分ほど外に出ており、露天風呂のようになっていた。
 このように、驚愕するところがいくつかあるが、概ね普通の家と似た感覚で過ごすことができる。そのせいかなんなのか、人数が十人いてもトイレが一つしかないので、そこだけ若干困るのだが。
「おっと」
 などと思いながら、用を足して再び廊下に出ると、誰かとぶつかりそうになる。トイレ待ちかと思ったが、どうやらトイレの前を通り過ぎようとしたところで、ぶつかりかけたようだ。
 だが、ここで問題なのは、そこではない。
 誰がこの場所を通ろうとしたかだ。
「ん? お前……」
「……っ」
 小さく舌打ちするような音が聞こえた。
 浬は視線を落とす。見下ろさないと姿が見えないほど小柄な体躯。
「……メガネ」
 その人物——恋は、忌々しげに浬を呼んだ。
「こんなとこでなにしてるんだよ。というか今までどこに行ってたんだ? お前ら揃いも揃っていなくなるから、呆れて女子はもう風呂に行ったぞ」
「メガネは、なにをしてるの……?」
「見て分かるだろ……わざわざ言わせるな」
 お前もトイレか? とあまりにデリカシーに欠ける発言が出て来る直前、浬よりも先に、恋が言葉を発した。
「……メガネ、そこを退いて」
「は? なんでだ? まあ別に構わないが——」
「私は……風呂場に行かないと、いけないから……」
「……こっちは風呂場とは逆方向だぞ?」
 そもそも、恋は見たところ着替えや洗面具などを持っていない。小さなポーチをかけているだけだ。
 浬が用を足している間に、部屋に戻って取りに行き、風呂場に置いてからトイレのためにここまで戻ったのだろうか。いや、部屋に行くには居間を通る必要がある。浬はついさっきまで居間にいたのだ。その間に恋の姿は見ていないし、用を足すのに時間がかかったわけでもない。そんな短時間で、居間を経由しながら風呂場とこの場所を往復するようなことはできないだろう。
 ならば、誰かに自分の着替えなどを任せたのか。これもない。恋は女子が風呂に向かう時点で、既にいなかった。誰かに頼むタイミングはないだろう。後で偶然会ったにしろ、その場合は別の誰かが居間を通っているはず。その姿も見ていないため、この可能性もない。
 そもそも不可解なのは、恋が風呂場に行くと言っておきながら、明らかに逆方向に進んでいることだ。
「メガネは知らないだろうけど……あの温泉は、半分、露天風呂になってる……」
「は? なんだ急に……入ったからそれは知ってる」
「玄関を出て屋敷の外を迂回すれば、温泉と外を仕切る壁がある……でもその壁は、ただの仕切り……小さな隙間がある……」
「あっそ……ん? 隙間?」
 どうでもいい情報だと脳が即座に切り捨てようとしたが、少しだけ引っかかった。
 風呂、隙間。この二つから、一つの行為が連想される。
 そして、恋自身も、答え合わせのように宣言した。

「私は今から……覗きに行く」

「……なに言ってんだお前」
 わけがわからない、と言いたげな浬。なにが分からないと言われると、あらゆる面で理解不能、というより理解したくもないことがあるのだが、とりあえず飲み込んだ。
 とにもかくにも、恋は覗きを宣言している。変に詮索するのも面倒なので、常識として教えておく。
「同性同士でも、覗きは犯罪らしいぞ。四天寺さんだったか? あの人、結構気性が荒いように見えたが、そんなことしたら後で怒られるんじゃないのか?」
「勘違いしないでほしい……ミシェルなんかに興味はない……私の目的は、一人だけ……」
 なんとなく誰を指名するのか想像ついたが、黙って聞いている浬。すると恋は、案の定、その名前を口にした。
「私の目的は……あきらの裸だけだから……」
「…………」
「あと、ゆずも……」
「一人じゃねぇじゃねぇか」
 黙っているつもりだったが、思わずツッコんでしまった。
「ゆずは結構いい身体してたから……とりあえず見といて損はない」
「そんなついでみたいに言われてもな……」
 なにはともあれ。
 恋の性格や趣味嗜好は、多少なりとも理解している。女好きの女という存在も、理解できなくもない。沙弓もその気はあるから、身近なところにその手の人間は少なくない。その事実は理解はしている。だが、理解があるかは別だ。、
「というか……女同士なんだから、一緒に入ればいいんじゃないのか?」
「メガネはなにも分かってない……一緒に入るなんて、そんな機会はいくらでも作れる……でも、覗きは違う」
 身体を見ることが目的なら——その目的の時点で色々と危ないが——特に不都合なく合法的な方法もあるのではないかと思い、そんなことを言った。しかし、すると恋は猛烈に反発を示す、わけがわからない。
「一方的に裸を見ている優位性、犯罪であるという背徳感、恥じらいを感じさせることなくありのままの姿が見れる真実性……これらすべてを満たすことができる行為は、覗きしかない。その重要性と希少性は、他の追随を許さない……興奮度が違う……」
「なんだよ興奮度って……俺にはお前がなにを言ってるのか理解できん。もう好きにしろ……」
 相手にするのも面倒になったので、呆れて息を吐くと、なにを勘違いしたのか、恋は浬を睨みつける。
「メガネ……邪魔しないでほしい……」
「しねぇよ」
「待ち伏せしてまで私の邪魔をするなら……ここでメガネを倒して、私は風呂場に行く……そして、あきらを手に入れる……」
「おい、勝手に話を進めんな!」
 どうやら、恋は浬がここにいる理由を、恋を止めるためだと思い込んでいるようだ。実際にはただのトイレなのだが。
「ちっ、とことん人の話を聞かない奴だな……!」
 しかし、覗きが発覚して、後で騒ぎになるのも面倒だ。そう考えると、彼女をここで止めるべきなのかもしれない。
 もっとも、それ以上に関わり合いになりたくないのだが、恋が完全にやる気なので、これはもう止まらないだろう。

「邪魔は……させない——」