二次創作小説(紙ほか)
- 烏ヶ森編 プロローグ「とある意思」 ( No.44 )
- 日時: 2014/05/06 18:35
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
とある町のとある道。今は人通りがないものの、なんの変哲もない道だった。
その道を駆ける少年の姿。少年は、前方を歩く少女に向かって走りながら、叫ぶ。
「恋! 待て、恋!」
「……なに?」
恋と呼ばれた少女はゆっくりと振り返る。その動作さえも鬱陶しく面倒くさいと思っているかのような、緩慢な動きだ。
小柄で全体的に華奢な体躯の少女だった。肌もふんわりとしたロングヘアーも色素が薄く、病室の窓際にでも座っていそうな、儚げで可憐な雰囲気を醸し出している。
まるで世界を見限った世捨て人のような、暗く濁った眼でなければ。
「なにか用?」
「なにか用、じゃないぞ。お前、こんなに早く帰るのか?」
「学校、終わったし……」
「だったら一緒に部活に行こう。お前、ほとんど顔を出してないじゃないか」
少年は少女を手招くように手を差し出す。
「別に……いい」
「そう言うなよ。そりゃあ、ちょっと強引に誘ったのは悪かったよ。でも部活は楽しいぞ。慣れるまでにちょっと時間はかかるかもしれないけど、毎日来てればすぐに——」
「いいから」
淡々と、そして冷淡に、少年は拒絶された。
少女はまた背を向け、歩を進める。
「待て、恋!」
「…………」
今度は反応がなかった。しかし、少年はめげない。
「お前、最近ずっと家にこもりっきりじゃないか。なにか悩みでもあるのか? 俺でよければ、話を聞くぐらいなら——」
「なんでもないから」
またしても拒絶。ここまで冷たくあしらわれると、流石に精神的にきついものがあるはずだが、しかし少年は、それが自分の使命であるかのように、少女へと向かっていく。
とはいえ、これ以上なにを言えばいいのか分からなくなった。どうやって次の言葉を紡ごうかと思っていると、ふとあることを思う。
「……もしかして、恋。まさかあの時みたいなことが——」
「違う」
少年が言い切る前に、きっぱりと否定した。
その否定も心に突き刺さるような冷たい声だったが、しかし少年は少しだけ安堵する。
「違うから……放っておいて」
「あ……恋!」
ほぼ反射で手を伸ばすが、少年の手は、軽く払われてしまった。
言葉だけではなく、物理的な拒絶。少年は、流石にこれ以上踏み込むことができず、少女が歩き去るのをただ見ているしかなかった。
「恋……」
「……あれ?」
その男はキョロキョロと周囲を見回す。まるで自分がどこにいるかが分かっていないかのようだ。
「ここ、どこだろ……?」
そして実際、分かっていなかったようだ。
「転送先、間違えちゃったみたいだな……」
そんなことを言いながら古びた携帯電話を取り出し、操作する。メール画面を開いて、どこの携帯会社かも分からない不可思議なアドレスを入力し、今まさに送信しようとするが、
「……いや、ちょっと待った」
寸でのところで送信する指を止める。
「偶然とはいえ、せっかく来たんだ。彼らのところに戻るなんていつでもできるし、ちょっとこの辺を探検していこう」
それは彼の気まぐれだった。いつもならそんなことは思わなかったはずだが、“彼ら”と関わるようになって少なからず変わった彼の、ちょっとした出来心だった。
その気まぐれが、彼の果たすべき使命の鍵に繋がるであろうことを、この時の彼はまだ知らなかった——
剣埼一騎。烏ヶ森学園中等部三年。
仲間思いだが、少々過保護なところがある点を除けば、ごくごく一般的な中学生だ。そして彼の在籍する学校には数多くの部活動が存在し、その中の一つの部の長を務めている。
本来なら、彼はそれだけの人間だった。しかし様々な偶然が重なり合い、様々な思いが交錯した結果、彼は“それだけの人間”ではなくなる。
それは偶然の産物であるが、しかし根本のところでは、彼の決断によるもの。過保護で心配性な彼が選んだ道だ。それを否定することは誰にもできない。
しかし、その選んだ道の先にあるものは、彼自身の意志とは関係のない戦いに身を投じることとなる未来だ。
これは《太陽の語り手》たちと、間際で平行する物語。
一人の少女と少年の目的が合致した時に交錯する物語である——