二次創作小説(紙ほか)

番外編 合同合宿2日目 「月夜に二人は冥府を語る4」 ( No.442 )
日時: 2016/08/27 13:42
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「う……これは……」
 まずいクリーチャーが出て来てしまった。
 《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》がいる限り、闇以外のクリーチャーはすべて、タップされてバトルゾーンに出る。これで一騎は、《グレンモルト》を始めとする、スピードアタッカーによる奇襲ができなくなった。地道に打点を並べて、《ガイギンガ》などで一気に打点増強して押し切るという戦法も通用しない。大型クリーチャーで対抗しようにも、《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》は自身の闇のクリーチャーすべてにスレイヤーを付与するため、どれだけ巨大なクリーチャーを出そうが、問答無用で破壊されてしまう。
 このクリーチャーがいる限り、一騎は絶望的なまでに厳しい戦いを強いられる。そのため、一刻も早く《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》を処理したいところだが、
「《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》は自分のドラゴンが破壊されると、墓地から手札に戻る……しかもその対象は、《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》自身も含まれる……だったよね」
 つまり、いくら破壊しても手札に戻るのだ。破壊しか除去手段がない一騎では、ほぼ対処不可能な存在だった
「……なにもできないな。ターン終了」
 互いに手札が切れ、トップ対決になったが、盤面では沙弓が圧倒的有利。そもそも一騎はトップでなにを引こうが、ほとんど《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》で無力化されてしまう。スピードアタッカーも、強制バトルも、このクリーチャーの前では無力だ。
 なにもできないまま、ターンを終える。
「私のターン。《特攻人形ジェニー》を召喚よ。そのまま破壊」
「うぐ……」
 念のためにと残した手札も、無残に叩き落された。
 落としたカードを見て、沙弓は少しだけ意外そうな声を上げる。
「あら、《ハヤブサマル》。入ってたのね。まあ、《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》がいるから、自身をブロッカーにはできないけど。ターン終了よ」
「俺のターン……《ジョニーウォーカー》をマナチャージして、ターン終了」
 《アンタッチャブル》は選べないので、《ジョニーウォーカー》では破壊できない。場に出してもタップインで殴り返されるだけ。まるで盤面に影響を与えられないカードは、マナに置くしかなかった。
「《白骨の守護者ホネンビー》を召喚。山札の上から三枚を墓地へ、墓地の《アバヨ・シャバヨ》を回収。さらに《黒神龍アバヨ・シャバヨ》を召喚して、自身を破壊。そっちも一体破壊してね」
「《グレンモルト》……!」
 辛うじて残っていた《グレンモルト》も破壊されてしまった。これで一騎は、手札も場も空だ。
「……《焦土と開拓の天変》を唱えるよ。マナを一枚増やして、相手のマナを一枚墓地へ。ターン終了だ」
「呪文《リバイヴ・ホール》! 墓地から《ジェニー》を回収して、《勝利のガイアール・カイザー》をバトルゾーンに!」
「《勝利のガイアール》……来るか」
「えぇ、そろそろ決めるわ」
 打点はギリギリだが、沙弓の場には《アンタッチャブル》がいる。ダイレクトアタックの際にこのクリーチャーが生きていたら、一騎のS・トリガーでは対処できずに負けるだろう。
 沙弓はどのクリーチャーから殴るか、少し思案してから、《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》に手をかけた。
「トリガーも考慮して、まずはこっちからかしらね。《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》でWブレイク!」
「S・トリガー発動! 《イフリート・ハンド》!」
 いきなりトリガーを踏んだ。
 ここまであまりトリガーが見えなかったので、一枚くらいは踏むかもしれないと思ったが、早速踏むとはついてない、と彼女は心中で溜息を吐く。
 しかしトリガーを考慮したからこそ、沙弓は《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》から殴ったのだ。
 ここで沙弓にとって怖いのは、《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》が場から離れること。一騎の行動をほぼすべて止めることができる《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》がいなくなると、その隙に《グレンモルト》からの《ガイハート》を龍解などで逆転されかねない。一度場をリセットされて、《ガイギンガ》が出て来ると、流石にまずい。《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》は制圧した盤面を詰ませるには有能だが、既に出ているクリーチャーへの対処は難しい。
 沙弓に負け筋があるとすれば、そこだ。それだけは潰さなくてはならない。
 ここで一騎が《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》を破壊を選んだら、残るクリーチャーで押し切れる。後続のアタッカーを破壊すれば、《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》が場に残る。懸念がまったく残らないわけではないが、今この場では、この手が最善なはず。
 一騎もそれは分かっているのだろう。S・トリガーの発動を宣言してから、かなり悩んでいる。
 やがて彼は、《イフリート・ハンド》の対象を指し示した。
「……《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》を破壊」
「あら、そっちなのね。それじゃあ残りのクリーチャーを止められないけど?」
「でもそのクリーチャーがいると逆転もできない。俺の勝ち筋は、それしかないんだ」
「やっぱり分かってるんだ……でも、私の場には《アンタッチャブル》がいる。次でまたトリガーを出さないと、止まらないわよ」
「分かってる……それでもだよ」
 とりあえずこのターンを凌いで次に賭ける手もあっただろう。しかし、一騎はそんな場当たり的な処置を選ばなかった。
 彼は、これしか勝ち筋がないと言っていた。それはつまり、負けないための選択ではなく、勝つための選択をするということ。
 こんな絶望的な盤面でも、諦めることなく抵抗する姿勢。沙弓には、彼が輝いて見えた。
 だからこそ、こちらも最大限の力で答えるのが礼儀だ。ここは攻める。トリガーや増える手札に臆して攻撃をやめたりはしない。逆転なんてさせまいと、確実に、そして全力で、一騎を仕留めにかかる。
「じゃあ……《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》は破壊された後、墓地から手札に戻すわ。そして、《勝利のガイアール・カイザー》で、三枚目のシールドをブレイクよ!」
 次に殴るのは《勝利のガイアール・カイザー》。一騎が勝ち筋を手繰り寄せるプレイングをするなら、沙弓は負け筋を潰すプレインが必要だ。
 一騎は勝つための第一タスク、トリガーで《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》を処理するという課題をクリアした。そうなると次の課題は、後続のアタッカーをトリガーで除去して、このターンを生き残る、ということになる。逆に言えば、それが沙弓の負け筋になるので、トリガーの可能性はなるべく減らさなくてはならない。
 このターンで決める前提なら、《勝利のガイアール・カイザー》から殴っても、《ダークマスターズ》から殴っても同じ。とどめは《アンタッチャブル》が残っていればほぼ確実に通るので、《アンタッチャブル》を残してシールドを割りきれれば、沙弓の勝ちだ。そのうえでトリガーを警戒するなら、ブレイク数が少ない《勝利のガイアール・カイザー》から殴った方がいい。仮にトリガーを踏んでも、《ダークマスターズ》のパワーは7000と高めなので、比較的火力にも強い。もしかしたら生き残る可能性もあるかもしれない。
 そんな諸々の考えから、沙弓は《ダークマスターズ》を残して、《勝利のガイアール・カイザー》で殴る。これが正解のプレイングのはずだ。
 しかし、
「……来た、S・トリガー!」
 いくら最善のプレイングをしていても、最悪の結果は起きてしまうのだ。
「呪文《天守閣 龍王武陣》! 山札から五枚を捲って、《次元龍覇 グレンモルト「覇」》を選ぶよ! パワー7000以下の《ダークマスターズ》を破壊だ!」
「っ、本当に引くのね……しかも、ここでそんな最高のカードが引けるなんて、凄い豪運……!」
 一騎にとっては最高だが、沙弓にとっては最悪のカードだった。
 これで沙弓のターンは終わり。このターンに起こったことをまとめると、沙弓は《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》を場から離してしまい、《ダークマスターズ》を失った。一騎のシールドも二枚残っている。一方、一騎は《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》がいない盤面を作り、手札には《グレンモルト「覇」》を加えている。
 トリガーで完全に逆転の準備を整えていた。
「俺のターン! 《次元龍覇 グレンモルト「覇」》を召喚! そのまま《勝利のガイアール・カイザー》に攻撃する時、マナ武装7発動! 超次元ゾーンから、コスト6以下のカードを出すよ。出すのはこれだ! 《覇闘将龍剣 ガイオウバーン》!」
 超次元ゾーンから呼び出されたのは、《ガイオウバーン》。場に他のクリーチャーがいないため、《ガイハート》ではなかった。《ガイハート》よりも幾分マシなカードだが、盤面を返されるという意味では、厳しいカードだ。
「《ガイオウバーン》の装備時の効果で、《ホネンビー》とバトル! さらに《グレンモルト「覇」》の攻撃で、《勝利のガイアール・カイザー》ともバトルだ!」
「っ……!」
「俺のクリーチャーがバトルで二回勝ったから、《ガイオウバーン》の龍解条件成立!」
 《ガイオウバーン》の龍解条件は、自分のクリーチャーがターン中に二回バトルに勝つこと。
 その条件を満たし、《ガイオウバーン》は龍解する。

「龍解! 《勝利の覇闘 ガイラオウ》!」