二次創作小説(紙ほか)

番外編 合同合宿2日目 「月夜に二人は冥府を語る6」 ( No.444 )
日時: 2016/08/28 13:02
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「負けたわ……言い訳がましいけど、あそこはあの一手が絶対に正解だと思ったのに、まさか《デス・ゲート》期待の《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》が正解だったなんて」
「仕方ないとは思うけどね。俺も同じ立場だったら、《デッド・リュウセイ》を選んでたと思う。トリガー期待で後続を潰す手なんて、それが正解だという可能性があっても、他により確実そうな可能性があったら、選べないよ」
「それでも、こういう分の悪い選択には自信あったんだけどなぁ……ちょっとへこむわ」
「いや、今回は俺も運が良かったよ。トリガーの出方がかなり都合よかったし。殴られる時も、殴る時も、トリガーの出るタイミングに救われたね」
 この対戦、どちらも間違ったプレイングはなかった。
 ただ、ほんの少し、一騎に良い流れがあった。それだけだ。
「はぁ、この選択ミスは流石に悔しいわね。もう一戦、お願いできるかしら?」
「俺は構わないけど、、明日——もう今日だけど——も早いんじゃないの? 大丈夫?」
「多少睡眠時間を削るくらいなら問題ないわ。それに」
「それに?」
「……もう少し、話たいことがあるからね」
 一度、断ち切った話を沙弓は持ち出した。
 彼女の方から切り出して、彼女が一度断ち切って、また彼女が蒸し返すというのは、なかなかどうして勝手な話題運びだろうと思うが、もっと話したいという一点に関しては、一騎も同意だった。
 同じような境遇の人物が目の前にいるということが、自分たちにとってどれほど大きなことなのか。それは、お互いに感じていた。
 もっと、より深く、語り合いたいと、思える。初めてで、不思議な感覚だ。
 言葉を酒に、カードを肴に。
 二人の夜宴は、もう少しだけ続いた——



「——おはようございます」
「あ、おはよう浬君」
 朝日が昇り、鳥の鳴き声が聞こえてくる頃。
 浬や空護、八。男部屋の面々が起きて来た。食事用の居間には、一騎がいた。
「昨日はよく寝れた?」
「えぇ、まあ……一騎さんは、朝食の準備ですか?」
「そうだよ。もう準備はできてるから、食べるならご自由に」
「すいません、ありがとうございます」
「気にしないでいいよ。準備してたのは、俺だけじゃないし」
 一騎がそう言うと、台所の方から、ひょっこりを誰かが顔を出す。
 暁だ。
「お、浬だ。ハチと空護さんもいる。おはよー」
「……お前もいたのか」
「空城さんって朝強いんですねー。ちょっと意外です」
「別に強いってほどじゃないですけど、私が起きないと、兄ちゃんの朝ごはんが抜きになりますからねー。だから朝は起きるようにがんばってるだけですよ」
「へぇ、偉いっすね」
「いやー、そんなことないよー」
「謙遜しなくてもいいよ。お兄さんのために、立派じゃないか」
「お兄ちゃんのためっていうか、家のルールがそうなってるから、かなー……別に私はお兄ちゃんの朝ごはんがなくても困らないし。たまに作るの面倒くさくなって、パンだけ置くこともありますしね」
 無情な妹だった。
 しかし、浬は少し彼女の評価を改めた。沙弓に似て、もっと奔放かと思ったが、少しはマメなところもあるようだ。
 雑談もそこそこに、各々が席に着く。すると続けて、今度は女子たちがやって来た。
「みなさん、おはようございます」
「よう。早いなお前ら」
 入って来たのは、柚、ミシェル。そして美琴。その後ろに、恋も続いてた。
 これで全員揃った、とはまだ言えない。浬は足りない人にの所在を尋ねた。
「うちの部長はどうしました?」
「まるで起きる気配がなかったが、無理やり起こした。たぶんそろそろ来るとは思うが……」
 などと言っていると、猫背になって瞼を擦りながら、沙弓が現れた。とても眠いです、とわかりやすく主張している。
「おはよう……皆揃って早いわねぇ……ふわぁ」
「あ、部長だ。おはよー」
「暁ね……あなた、早起きとかできたのね」
「できますよ! みんな、私のことちょっと誤解してません!?」
 そこは否定できない。
「沙弓ちゃん。おはよう」
「おはよう……昨晩、結構遅かったと思うんだけど、一騎君はよくこんな時間に起きれるわね……」
 そんな何気ない言葉を交わす二人。
 しかしその様子には、今までにない、決定的な違いがあった。
 一瞬の沈黙の後、代表するかのようにミシェルが口を開いた。
「……お前ら、どうしたんだ?」
「どうしたって、なにが?」
「部長、なんか一騎さんと仲良くなってる? 前まで名前で呼び合うなんてなかったよね?」
「なにかあったんですか……?」
 訝しげな視線を向ける遊戯部の面々。しかし沙弓は、眠気のせいで視線の意図することに気付いていないのか、はたまた彼女らが訝しく思っていることに自覚がないのか、何事もなかったかのような様子だった。
「あぁ、ちょっと昨日の夜、二人で色々あったのよ」
「色々……?」
「なんでしょう、この不穏な響き」
「いや、流石にだろ。二校合同の合宿で、一騎だぞ? あり得ないだろ」
「? なに? どういうこと?」
「……つきにぃ」
 同じく訝しげな視線を向ける烏ヶ森の面々に、首を傾げる一騎。
 そんな一騎の裾を、恋はくいくいと引っ張る。そして、小さな握り拳を突き出し、親指を天に向けて突き立てた。
「……ぐっじょぶ」
「え?」
「つきにぃは、やるときはやる男だと思ってた……」
「ごめん、なんの話?」
「妖精さんになるのは情けない……でも、つきにぃにそんな心配はなかった……」
 一騎には彼女がなにを言っているのか、なにを意味しているのかはよくわからない。
 いきなりこの場で困惑の渦が発生し、皆一様にざわついている。そんな空気を打ち払うかのように、沙弓はぱんぱんと手を叩いた。
「とにかく早く朝食にしましょう。私、お腹減っちゃった。この後の予定もあるしね」
「そうだね。人数分のご飯は炊いてあるけど、パンがいい人は食卓に置いてあるから。焼きたい人は台所で——」
 二人の長の言葉を皮切りに、皆は疑問を抱えたままだったが、とりあえず動き、各自朝食を摂りはじめる。



 月の夜は明けた。
 東鷲宮、烏ヶ森、合同合宿。
 二日目の朝の始まりだ。