二次創作小説(紙ほか)
- 番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て1」 ( No.445 )
- 日時: 2016/08/28 15:43
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
「それで部長、今日はなにするの?」
朝食を終えた後、全員が居間に集められた。
詳細がほとんど伝えられていないこの合宿だが、二日目と最終日だけは、なにをするのか、事前に言われていた。
今日は二日目。事前に聞いていた今日することは確か——レクレーションだ。
まるで具体性に欠けた、なにをするのかまったくわからない説明だと、浬が憤慨しているのを思い出した。
「ふふふ、刮目しなさい。今日は今回の合宿の目玉よ。今日一日かけて……これをするわ!」
そう言って沙弓が取り出したのは、大きな板だった。板の上には様々な絵が描かれている。板には小さいマスのような正方形が繋がって、大きく歪な円形を描いている。マスの一つ一つにもなにかが書き込まれていた。
その巨大な板を一目見て、暁は言った。
「……人生ゲーム?」
「いや、ゴールがないし、このマス目に書かれていることから考えると、モノポリーだよ」
「モノポリー? 人生ゲームと違うの?」
「あ、えーっと……似てるんだけど、細かいルールとかが違うんだよ」
すごろくのようなボードゲームだということは同じだが、細かいルールの違いを説明するが難しい。一騎も、決してモノポリーに詳しいわけではないのだ。
すると、空護が助け船を出した。
「人生ゲームの方が日本ではポピュラーだと思いますけど、日本で一番知名度が高くて、モノポリーと類似したゲームがあるとするなら、桃鉄とかになりますかねー」
「あぁ! それなら知ってる。小さい頃、お兄ちゃんやいとこの子とやったことある」
空護の例示で、暁も理解したようだ。他にモノポリーを知らない者もいないようだったので、話を進めることができる。
「しっかし、わざわざ合宿でやることがただのモノポリー? それに、この人数だと時間はかかると思うが、一日も使うか?」
「いやいや。これはただのモノポリーじゃないわよ、シェリー」
怪訝な表情のミシェル。当然だ。レクレーション、などとわざと曖昧な表現をされて出されたのが、ただのモノポリーだ。確かに大人数でプレイするにはうってつけのボードゲームだが、些か定番というか、インパクトに欠ける。
しかしそんな懸念を、沙弓は否定した。
「これは去年、先代部長たちが制作し、私がその意思を継いで、ついぞ一週間前に完成した、遊戯部特製オリジナルデュエマモノポリー……名付けて『人生はゲームだ! 生涯はデュエマだ! 目指せデュエリスト頂点! ゲーム』よ」
「頭悪そうなネーミングだな」
「私が付けたんじゃないもの」
先代部長のネーミングよ、と訂正する沙弓。
「まあ、名前なんてどうでもいいわ。とりあえず、簡単にルール説明ね。一騎君が言ったように、このボードゲームは基本的にモノポリーよ。ルーレット回してお金を稼いで、他人を破産させる。最後まで残った一人が勝ちよ」
ただし、と沙弓は付け加える。
「このモノポリーには、デュエマが介入するわ」
「そこが分からん」
名前から察するに、デュエマが絡んでいることは予想できるが、モノポリーとデュエマの関連性がまるで見出せない。
「じゃあ、まずこのモノポリーの設定から説明しましょうか。このモノポリーでは、プレイヤーは皆デュエリストよ。日々の生計を立てるため、そして最強のデュエリストになるため、あらゆる手を尽くして、あらゆるカードを使って、この世界のトップを狙う。それがこのモノポリーにおける目的になるわ」
「他人を破産させてトップになるっていうのも、生々しい話だな」
「デュエリストって設定ってことは、どこかで対戦するのよね。そこはどうなっているの?」
「簡単よ。周回するマスに、デュエマをするマスがあるから、そこに止まったら指定の誰かと対戦するの。もしくは、同じマスに止まった場合も、同じマスに止まった人同士で対戦してもらうわ。対戦のルールとかはその都度変化するわ。あと、対戦して負けた方は、勿論ペナルティとしてお金を払ってもらうから、そのつもりで」
「デュエマも戦略的に重要になる、ということですかー」
「三人以上が同じマスに止まった場合は?」
「シェリー。デュエマって、複数人でも対戦できるルールがあるのよ?」
「……マジか」
つまり、場合によって変則ルールでの対戦もあり得るということだ。慣れないルールでの対戦となると、少々不安になる。
「そういえば、皆。例のものは持って来た?」
「あぁ。各自、普段使ってるのとは別に、なんでもいいからデッキを作って持って来てほしい、ってやつだよね。俺は持って来てるよ」
「寄せ集めでもなんでもいいから作れ、ってやつだよな? 一応、組んできたが……」
「私もー!」
「自分もっす!」
「……面倒だったから適当にカードの束を持って来た……」
各々、自分が作ってきたデッキを提示する。
この合宿は、基本的に着替えや洗面具など、宿泊に必要な最低限のものさえあればいいということで、特別な持ち物は必要がない。
しかし沙弓は、事前にあるものを持ってくるように指示していた。そのあるものは、たった二つ。
自分が最も強いと思うデッキ一つと、それとは別に、安価でも寄せ集めでもジャンクでも構わない、もう一つのデッキ。
今回、沙弓が皆に求めたのは、後者の方だ。
「このデッキをどうするんですか?」
「今までの説明を聞いて分かったと思うけど、このモノポリーはデュエマで勝つことも重要な要素なの。だからそこもフラットに、それでいてエキサイティングで、モノポリーらしくしたいと思うわ」
「部長、前置きや余計な修飾はいいから、単刀直入に要点だけを言え」
浬に切り捨てられた沙弓は、やれやれと大袈裟な身振りで、仕方ないわね、などと言いながら説明を続ける。
「今回、皆には別に用意してもらったデッキを使ってもらう。ただし、皆の用意したデッキはシャッフルされて、各プレイヤーに再分配されるわ」
「え? どういうこと?」
「つまりね、皆が作ったデッキをモノポリーで使うプレイヤーは、ランダムで決められるのよ」
「俺たちが組んできたデッキは、組んだ人が使うとは限らない。他人の手に渡る可能性がある、ってことか?」
「そうね。誰が誰のデッキを使うかは、アミダかなにかで決めましょう」
と、いうわけで。
即興でアミダくじを作り、各自のデッキをそれぞれ分配する。
分配されたデッキを見た、各人の反応は、
「うわ、デッキの中身が真っ黒だ。部長みたい!」
「このデッキ……呪文が多くて、難しそうです……」
「自分のデッキ、凄く見覚えがあるんすけど。これ絶対に自分が組んだやつなんすけど!」
「あきらのじゃない……やりなおし……」
「私のデッキも見覚えあるわねー。市販品?」
「おい……なんか俺の、枚数が既におかしくないか?」
大体こんな感じだった。
自分の作ったものではないデッキ。しかも、メインのデッキとは別に作られたデッキだ。決して一般的な型に収まっているとは限らない。
「……つきにぃ、デッキ、見ないの……?」
「うん、まだいいかなって。説明が終わってからの方が、先入観なくゲームができそうだし」
「そうね。説明もそこそこにして、ちゃっちゃと始めちゃいましょう」
次に沙弓は、ゲーム内における資産について説明する。
「このゲームの通貨はデュ円よ。各自、100万デュ円を十枚、500万デュ円を十枚、1000万デュ円を二枚、2000万デュ円を一枚、合計1億デュ円が初期財産ね。これが0デュ円未満になったら破産となってゲームオーバーよ」
「デュ円……このぺらぺらの紙か?」
「流石に本物は用意できなかったから、印刷したわ」
「まあ、そうなるよな」
この辺は普通にモノポリーなどで使用される疑似通貨を使えばよいと思うのだが、妙なこだわりだった。
「さらにこのゲームでは、通常の貨幣資産に加えて、カード資産も重要になるわ」
「カード資産? カードをお金代わりにできるってこと?」
「いい視点よ、美琴。それもあるけど、この場合のカード資産っていうのは、私たちが普段使用している感覚の言葉でいいわ」
「つまり、所持しているカードの量、質だな」
「このモノポリーでは、お金を稼ぐことは勿論だけど、稼いだお金を使ってカードを買うこともできる。さっき分配したデッキは、手に入れたカードで改造してもOKよ」
「成程ね。そうやってお金の使い方に幅を持たせるってわけか。面白そうだ」
「だが、カードを買うって、買うカードはどうするんだ?」
「大丈夫、用意してるから」
そう言って沙弓は、浬が運んでいた大きなキャリーバッグとリュックサックの中から、これまた巨大な箱を一つ取り出した。
その箱を開けて、一同は目を丸くする。
「え……これって……」
「す、すごい量です……」
「これ……全部デュエマのカード?」
「えぇ、そうよ」
箱の中には、びっしりとカードが詰まっていた。バッグを見る限り、箱は他にもある。枚数は全部合わせて何枚あるかも分からない。少なくとも、千や二千では利かないだろう膨大な枚数だ。
「俺が運んでいたのは、これだったのか……」
「しかし、よくこんなに集まったな……これ全部、このゲームのために集めたのか?」
「まあね。色んなカードショップのストレージやオリパを漁ったわ。ちなみに、一番協力してくれたのは『御舟屋』と『Wonder Land』よ」
「『御舟屋』って、シオ先輩のとこだ」
「合宿で一度やるゲームのために、ここまでするなんて……」
「遊戯部部長、侮りがたし、ですねー……」
カードの傷を見る限り、不要なカードの寄せ集めだろう。しかし、いくらストレージに眠った日陰もののカードと言えど、これだけの数を集めるには、労力、時間、そして資産をかなり費やしたことだろう。
馬鹿げたことをやっていると笑うのは簡単だが、その馬鹿げたことのために、ここまで身を削る彼女の遊びへの姿勢には、頭が下がる。
「原則的に、カードの購入はこれらのカードの中から行うこと。ゲーム全体の総カード資産はこれってことになるわ」
これで説明は終わり。対戦のおける規定など、細かいルールはその都度説明していくようだ。
「皆、お金とデッキは持ったわね? じゃあ最後の仕上げ、ルーレットを回す順番を決めましょう」
「どうやって決めるの? じゃんけん?」
「いや、これで決めるわ」
そう言って沙弓が取り出したのは、カードだった。
「おい、まさか順番までュエマで決めるのか?」
「流石にそこまで手間のかかることはしないわ。ここに十枚のカードがある。中身は、《1月》から《10月》までのカレンダーよ。《1月》を引いた人が一番、《二月》を引いた人が二番、って感じで、引いたカードで順番を決めるわ」
「意外とまともだな……」
「まさかカレンダーもこんな使われ方をするとは思わなかっただろうな」
浬とミシェルの言葉を受けながら、沙弓は各自にカードを配る。
そうして決まった順番は、以下の通りだ。
1月.沙弓
2月.一騎
3月.暁
4月.空護
5月.八
6月.柚
7月.恋
8月.美琴
9月.ミシェル
10月.浬
準備は完了。説明も終了。
あとは、指示円盤を回すだけだ。
いつもと違うデッキで、いつもと違う動機で、一同はカードを握る。
二日目の遊戯の始まりだ。
「それじゃあ——ゲームスタート!」