二次創作小説(紙ほか)

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て2」 ( No.446 )
日時: 2016/08/29 05:04
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

ルールまとめ
・プレイヤーの行動は、原則的にそのプレイヤーの手番にルーレットで決める。
・止まったマスに書いてあることは、可能な限り実行しなければならない。
・同じマスに二人以上のプレイヤーが止まったら、デュエマを行う。この時、レギュレーションを即座に決定する。ただし、対戦開始は次の巡目の順番が遅い方のプレイヤーの手番が終わってから。
・同じマスに三人以上のプレイヤーが止まったら、新しいプレイヤーが止まるたびにレギュレーションを更新する。
・デッキはゲーム用に作成されたものを使用する(今回は各プレイヤーが事前に制作したデッキをランダムで使用する)。初期カード資産はそのデッキとなる。
・レギュレーション違反をした場合、その対戦で敗北扱いとなる(ゲーム自体は破産していなければゲームオーバーにはならない)。
・ゲームにおけるカード購入は、原則的にゲーム用に用意されたカードを用いる。
・所持金が0デュ円未満になったら破産。破産したプレイヤーはゲームオーバーとなり、ゲームに関わることができない。
・プレイヤーが最後の一人になった時点でゲームは終了。最後に残ったプレイヤーの勝利となる。



「まずは私からね。ルーレットを回して……4が出たから、4マス進むわ。『デュエリストとリアルファイトで勝利。500万デュ円を巻き上げる』で、500万デュ円ゲットよ」
「おい、デュエルしろよ」
「いきなりデュエマ要素を無視しやがった」
 しかもやっていることは強盗とまるで変わりない。思った以上に殺伐とした世界設定だった。
「次は俺だね」
 一騎もルーレットを回す。すると、ルーレットの針は4を示した。
「おっと、いきなり同じマスに止まったね。とりあえず俺も500万デュ円を手に入れて……ここからどうするの?」
「まずはレギュレーションを決めるわ。レギュレーションは……」
 沙弓がリュックの中から別の箱を取り出す。カードが収納されていた箱よりも小さい箱だ。中には、なにやら大量の折り畳まれた紙が入っており、一見するとくじ引きのように見える。
「この紙からランダムで一枚選んで。レギュレーションはそこに書いてあること準拠よ」
「いつもと違うルールで対戦っていうのも、面白いね。なにが引けるかな……」
 一騎は引いた紙を広げる。そこには『普通』と書かれていた。
「『普通』?」
「いつもと同じレギュレーションね。今現在の公式ルール準拠よ」
「面白くないですねー」
「まあ、分かりやすくていいだろ」
「次に、この対戦で賭ける金額を決めてもらうわ。対戦に負けたら、負けた側は勝った側に、その金額を支払わなくちゃいけないから」
 ここが、このゲームの肝になる部分だろう。
 不定期に様々な相手と対戦し、金が移動する。大量の土地や不動産を買収してゲームを有利に進めるのがモノポリーだが、デュエマによって金を稼ぐことができるということは、土地を先に取られたとしても、またそれを買収して逆転するチャンスが生まれるのだ。
 土地や不動産に金をかけて、通常のモノポリーのセオリーを守るか。カード資産に金をかけて、対戦を有利に進めるか。ゲームの幅が普通のモノポリーより広く、戦略性を増していた。
 一騎は『賭け金』と書かれた箱から、一枚の紙を取る。どうやら対戦する場合は、レギュレーションから賭け金まで、すべてランダムのようだ。
「賭け金は……『2億デュ円』? え? これ、まずくない?」
「レギュレーションはつまらなかったけど、こっちは面白いの引いたわね。ごく少数しか入ってないとんでもない地雷を引き当てるなんて」
 賭け金は2億デュ円。初期の資産は1億デュ円。一騎はさらに500万デュ円を手に入れているが、2億−1億500万は、どう考えても数字が負の数になる。
「つまり、負けた方が一発で破産、ゲームオーバーか……」
「まさか初っ端からゲームオーバーを出すゲームになるだなんて思わなかったぞ……」
 いきなり負けられない戦いが始まった。ここで負けた方が、なにもせずにこのゲームを降りることとなる。
 それがどれほど恐ろしいことか、この場にいる全員は理解できているはずだ。
「ふふふ、燃えるわね一騎君。最初からクライマックスじゃない。絶対に負けられない戦いね」
「そうだね。たかがゲーム、されどゲーム。負けてなにかを失うわけではないとはいえ、俺も全力だよ」
「いいえ。ここで負けたら、地獄の苦痛が待っているわ」
「え?」
 地獄の苦痛、という大仰な表現に、一騎は呆けてしまう。
 確かにここで負ければゲームオーバー。大事な一戦だが、そこまで苦しむことはないだろう。そこまで一騎はこのゲームにかけているつもりはなかったが、
「考えてもみなさい、そして思い出しなさい。私は、“今日一日かけて”このゲームをするって言ったのよ。この意味、わかる?」
「え、えーっと……つまり?」
「つまり、ここで負けてゲームオーバーになったら、今日一日皆が楽しくわいわいモノポリーをやっている様子を、脇で銀行員をしながらずっと黙って見ているしかないのよ。皆は楽しい思いをしているのに、自分だけは混じることができず、せっせとデュ円を皆に配るだけに従事するのよ」
「それは地獄だ!」
 そういうことである。
 ここで負ければ、一日中ただ皆が遊ぶ様子を見ているだけ。退屈という名の苦痛が待っている。
 ゆえに、絶対に負けられない戦いなのだ。
「あぁ、それと。レギュレーション違反は負け扱いだからね。対戦開始時点で、レギュレーションに合うデッキを用意できなかったら、問答無用で敗者だから」
「成程。そういう面でも、カード資産が重要になるのね……」
「デッキかぁ。そういえば俺、まだデッキを確認してなかったな……」
 すべてのルール説明が終わってから確認するつもりだったが、すっかり忘れていたことを思い出す一騎。
 そして彼は、自分に分配されたデッキに目を通すが、その瞬間、
「って、ちょっと待って! なにこのデッキ!?」
 吃驚のあまり、素っ頓狂な声を上げる。
 それもそのはずだ。なぜなら、彼のデッキは、

「このデッキ——プレミアム殿堂カードしか入ってないよ!?」

「え」
「というか枚数がそもそも足りてないし! これ誰が作ったの!?」
「あぁ、それは私が組んだデッキね」
「沙弓ちゃん!? これデッキじゃないでしょ!?」
「デッキよ。私は各自デッキを用意してと言ったけど、“今現在のレギュレーションにおけるデッキを用意しろ”だなんて一言も言わなかったわ」
「……そういうことか。部長め、なんて姑息な真似を……」
「……あぁ。理解した……」
「? どういうこと?」
 首を傾げる暁に、恋が説明する。
 まず、レギュレーションとルールの違いからだ。レギュレーションとルールを混同する者も少なくないが、厳密には違う。ルールはそのゲーム全体の規則であり、レギュレーションはその規則の中にある枠組みの一つにすぎない。
 さらに言えば、レギュレーションとは、概ね“デッキ構築段階における制限”を意味する。
 つまり、「こういうデッキでなくてはならない」ということを定めるのがレギュレーションだ。デッキの枚数は何枚、殿堂ルール準拠、といった制約は、デュエマの大原則のルールではない。メガデッキデュエル7や、殿堂ゼロなど、デッキ枚数が変わっていたり、殿堂ルールを無視したものもある。デッキ四十枚、殿堂ルール準拠という規則はあくまで、一般的なレギュレーションというだけだ。
 ここで沙弓の言に立ち返ると、彼女の指示は、「安価でも寄せ集めでもジャンクでも構わない。いつものデッキとは別に、もう一つデッキを持って来てほしい」というものだ。その際に、彼女はレギュレーションについてはまったく触れていない。つまり、レギュレーションは『無制限』ということになる。
 レギュレーションが『無制限』とはどういう意味か。それは、デッキ枚数に指定はなく、殿堂ルールも無視できるということだ。ゆえに沙弓が作ったプレミアム殿堂カードのみ(しかも四十枚未満)のデッキも、デッキと言い張ることは可能だ。
 しかし、今から行う沙弓と一騎の対戦でのレギュレーションは『普通』。沙弓が作ったデッキのレギュレーションとはそぐわないものだ。
「だからつきにぃは、次のターンにデッキを揃えないと、不戦敗……」
「待って。このゲームって、そんなすぐに四十枚のデッキを用意できるの?」
「カードショップマスに止まれば、カードを購入できるわ」
「カードショップマスっていうのは?」
「これのこと?」
 と、いつの間にかルーレットを回していた暁が、一つのマスを指差す。そこには、『カードショップ』と書いてあった。
「そうそう、それそれ。そこに止まると、100万デュ円で十枚のカードを購入することができるわ」
「一度に十枚まで?」
「いいえ、購入に制限はないわ」
「ということは、部長は次のルーレットでカードショップマスに止まれば、まだワンチャンあるわけですねー」
 次の一騎の手番で、カードショップマスに止まり、四十枚のカードを購入して即席でデッキを作る。
 沙弓のデッキは、完成度は通常のデッキよりも劣るかもしれないが、それでもなにかしらのコンセプトに沿って作られただろうデッキ。ただの寄せ集めジャンクにしかならないだろうデッキで勝てるとも思えないが、なにもしないよりはマシだ。
「せっかく止まったし、とりあえず300万デュ円くらい払って買ってみようかな」
「じゃあ次は僕ですねー」
 そんな感じで、各人それぞれの手番が動いていく。
 対戦に発展した者はおらず、微小な資産の移動があったのみで、まだ大勢は動かない。
 そう、沙弓と一騎を除いては。
「私と一騎君の対戦はストックした状態で、私も移動するわ。次は……9ね。結構進んだわ。この土地は購入、っと。次、一騎君の番よ」
「一騎にとっては運命のターンだな……」
「よし……!」
 一騎は勇んでルーレットを回す。これでカードショップマスに止まれば、まだワンチャンス。可能性が残っている。
 そうして、彼が止めた数字は。
「……9」
「あ」
「私の土地に止まったから、500万デュ円徴収よ」
 絶望の徴収を受ける一騎。そして、
「対戦が確定した二人の手番が一巡したから、対戦開始よ。この時点でデッキを提示してもらうわ。私はこれね」
「……ありません」
「はい、じゃあレギュレーション違反扱いで一騎君は敗北決定。2億デュ円を私に謙譲して、財産が0デュ円以下になったから破産ね。ゲームオーバーよ。ありがとー」
「…………」
 対戦する望みすら与えられず、一騎は僅か2巡で破産した。
「これは酷い……」
「えげつねぇ……」
「ちょっと引くわね……」
 と、いうわけで。

 脱落者一人目——剣埼一騎。