二次創作小説(紙ほか)
- 番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て4」 ( No.448 )
- 日時: 2016/08/29 20:48
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
ミシェルと沙弓の対戦。レギュレーションは、『殿堂ゼロ』。
『殿堂ゼロ』とは簡単に言えば、殿堂、プレミアム殿堂といった、枚数制限をかけられたカードがすべて解禁されるレギュレーションだ。
このレギュレーション内であれば、ボルバルマスターズと称された《無双竜機ボルバルザーク》でも、坊主捲りと言われた《鬼丸「覇」》でも、どんなカードでも四枚フルで使うことができる。八枚は入れられない。
殿堂、プレミアム殿堂の制約を解禁するレギュレーション。それ以外は原則的なルールに従うため、このモノポリーだと意味がないこともあるが、最初に沙弓が止まったマスは、脱落者からカードを一枚奪うマス。それによって、一騎のプレミアム殿堂しかないカード群から、確実に殿堂ゼロデュエルでしか使えないカードが引き抜かれている。現状況に対して有用に作用するレギュレーションだ。
「沙弓ちゃんのデッキは確か、ミシェルの作った青赤アウトレイジ墓地ソ……」
「というか、まんまアウトレイジダッシュの構築済みそのままだったけどね」
「作るのが面倒くさかったからな。それに、お前がなにか企んでいることは読めてた。まともに作る気なんか最初からなかった」
「でも完成度の高いデッキをチョイスするあたり、流石シェリー。使いやすくていいわ、これ」
「煽り方がうぜぇ……!」
そんなやり取りのうちに順番が一巡し、二人の対戦が始まった。
「先攻は私ね。とりあえず、《ブータン転生》をチャージするわ。ターン終了よ」
「黒のカード? 闇入りか?」
「ちょっとだけね」
「……なんかキナ臭いな。あたしのターン。《無双竜機ドルザーク》をチャージして終了だ」
ミシェルのデッキは、暁が組んだ、ステロイドで旧式のバルガ連ドラ。《紅神龍バルガゲイザー》からドラゴンを踏み倒す、古き良き連ドラだ。
「私のターン。《アクア・サーファー》をチャージして、呪文《エマージェンシー・タイフーン》よ。二枚引いて一枚捨てるわ」
捨てられたのは《飛翔する啓示 ゼッツー》。まずは一枚、墓地が増えた。
沙弓のデッキで最も気を付けるべきは、《クロスファイア》による奇襲だ。パワータッカー100万での殴り返し、単純なスピードアタッカーの二打点。墓地にクリーチャーが六体いるだけで、タダで出て来るのだから脅威的だ。
理想としては、《クロスファイア》が出て来る前、つまり墓地にクリーチャーが六体以上落ちる前に勝負をつけること。幸い、特化した墓地ソースとは違い、墓地にクリーチャーが落ちる速度はそこまで早くないはずだ。先に《バルガゲイザー》を出せれば、十分チャンスはある。
「《ナチュラル・トラップ》をチャージ。呪文《フェアリー・ライフ》。マナを一枚追加して、ターン終了だな」
ミシェルはマナを伸ばしてターンを終える。この動きなら、最速パターンで《バルガゲイザー》を出せそうだった。
「私のターン。《ゼッツー》をチャージ。3マナで《デュエマの鬼!キクチ師範代》を召喚。ターン終了よ」
「《キクチ》だと?」
出て来たのは、人型のクリーチャー……というか人間だ。ある人物がカード化した、一種のジョークカードだ。
しかしその能力は本物である。かの《禁術のカルマ カレイコ》と同じ能力を持っており、山札から手札以外にカードが移動することを禁止する。
本来ならば、どちらかといえば墓地ソースの動きを阻害するメタカードだ。山札からの墓地肥やしを邪魔するのだから、相容れないこともある。
それが、どこか妙だった。
「嫌な予感がするな……あたしのターン。《炎獄スクラッパー》をチャージして、《ルピア・ラピア》を召喚。ターン終了だ」
これで次のターンには《バルガゲイザー》が出せる、というところで、ミシェルは気づいた。
「……まさか」
この《キクチ》は、自分へのメタカードなのではないかと。
「ミシェル、ちょっと厳しいかな」
「そうですねー。《師範代》がいるから、《バルガ》が止められちゃいますからねー」
空護の言う通り、《キクチ》はミシェルの《バルガゲイザー》を無力化する。
《バルガゲイザー》は、山札から直接クリーチャーを出す。つまり、山札が手札以外から移動しているのだ。《キクチ》でその能力は阻害されてしまう。
墓地ソースはドローして、手札から捨てることで墓地を増やすカードも少なくない。そのため、《キクチ》に邪魔されないことも多いのだ。だとすると、この《キクチ》は《バルガゲイザー》へのメタだと考えた方が自然だ。
「面倒くさいことしやがって……!」
「あらら、気が立ってるわね、シェリー。でも、次はもっと面倒よ。《ダキテー・ドラグーン》をチャージ。4マナで呪文、《スケルトン・バイス》!」
「な……!?」
ここで飛び出すのは、凶悪なハンデス呪文、《スケルトン・バイス》。あまりの凶悪さに、プレミアム殿堂となったカードだ。
4コストで二枚のハンデス。《ゴースト・タッチ》二回分と言えば普通に聞こえるが、これはたった一枚で二枚のカードを叩き落すのだ。そのうえ、《フェアリー・ライフ》などの2コスト加速から繋がり、僅か3ターン目で相手の行動を大きく縛ることができる。
実際ミシェルは、この一撃で手札が一枚まで削られてしまった。これは痛い。
「あたしのターン……一応、《紅神龍バルガゲイザー》を召喚だ。《ルピア・ラピア》でシールドをブレイク」
《バルガゲイザー》を最速で出すも、場には《キクチ》がいるため、能力は無力化されている。打点も少ないため、戦力としてはかなり弱くなっていた。
「私のターンね。《ゴースト・タッチ》をチャージ。呪文《ドンドン吸い込むナウ》よ。山札から五枚見て、《ロードスター》を手札に加えるわ。火のカードだから、クリーチャーをバウンスできるけど……」
沙弓はミシェルの場を見て、なにを戻すべきかを考える。
「そうねぇ……《バルガゲイザー》は《師範代》がいるから怖くないし、コスト軽減の《ルピア・ラピア》をバウンスよ」
バウンスされたのは《ルピラ・ラピア》。ドラゴンのコストを下げるため、大型のドラゴンを呼ぶサポートとなる可能性がある。一打点のアタッカーにしかならない《バルガゲイザー》より、そちらの方が重要と考え、沙弓はそちらを除去したのだろう。疑似的なランデスとも言える。
そして沙弓のターンは終了。ミシェルのターンだが、
「……《ルピア・ラピア》をチャージ。ターン終了だ」
「あら、なにもしないの?」
「あぁ……なんか、嫌な予感がするしな」
「ふぅん。ま、いいけど。私のターン。《エナジー・ライト》をチャージ。2マナで《エマージェンシー・タイフーン》を唱えるわ」
再び《エマージェンシー・タイフーン》で手札を整えつつ、墓地を肥やす沙弓。まだ墓地にクリーチャーは一体だが、油断はできない。
なぜなら、ここまでの沙弓の動きは、およそ墓地ソースらしくないからだ。墓地ソースは、墓地を増やしながら《クロスファイア》などのクリーチャーに繋げる“ビートダウン”デッキ。にも拘わらず、沙弓は《キクチ》で《バルガゲイザー》をメタったり、ハンデスでこちらの動きを封じたりと、コントロールのような動きをしている。このターンにチャージされた《エナジー・ライト》も怪しい。
《キクチ》で殴らなかったのは、《バルガゲイザー》を抑えるためとしても、どうにもここまでの動きがおかしいのだ。彼女は確実に、なにかを隠している。
「効果で二枚引いて……お、やっと来たわね、このデッキの切り札」
「切り札? 《クロスファイア》はまだ出せないはずだが……」
その、隠されたものが今、明らかになろうとしていた。
「残念ながら、今回のメインディッシュはこっちよ」
そう言って沙弓は、残りの4マナをタップした。
「ジ・エンドよ、シェリー——《アクア・パトロール》」
「キクチパトロールだ!」
「鬼畜パトロールだ……」
一騎と恋が同時に言う。
そしてミシェルも、悔しそうに歯噛みしていた。
「ぐっ、まさかと思ったが、本当に来るか……しかも、こんな早く出るとはな……!」
「じゃあ、覚悟してもらうわ、シェリー。《アクア・パトロール》の能力発動。対象はシェリー、勿論あなたよ。シールドを全部山札に戻して、同じ枚数だけ山札からシールドに置いてちょうだい」
「ん? シールドを全部山札に戻して、同じ枚数のシールドを回復させるの? 意味ないじゃん」
「いや、違うよ暁さん。これは殿堂ゼロだけで可能な、恐ろしいコンボだ」
状況が理解できていない暁に、一騎が説明する
「《デュエマの鬼!キクチ師範代》は、山札のカードが手札以外に移動することを禁止する。こいつがいる時に《アクア・パトロール》を出せば、シールドがすべて山札に戻されてゼロになった後、山札からシールドを追加する行為だけが阻害され、シールドはゼロのままになるんだ」
アクア・パトロール VR 水文明 (4)
クリーチャー:リキッド・ピープル 2000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、プレイヤーをひとり選ぶ。そのプレイヤーは自分自身のシールドの枚数を数え、それを山札に入れてシャッフルし、その後、山札の上から同じ枚数のカードを裏向きのまま自分自身のシールドゾーンに置く。
※プレミアム殿堂
デュエマの鬼!キクチ師範代 闇文明 (3)
クリーチャー:ヒューマノイド 3000
いずれかのプレイヤーの山札から、手札以外のゾーンにカードが置かれる時、かわりにそのプレイヤーはそのカードを山札に加えてシャッフルする。
この強力無比なコンボゆえ《アクア・パトロール》は、単体ではそれほど高いカードパワーを持っていないにもかかわらず、プレミアム殿堂カードに指定されているのだ。
もっとも、このクリーチャーがプレミアム殿堂入りした頃では、《海王龍聖ラスト・アヴァタール》という別のカードとのコンボによるものだが、挙動は似ている。というより、《キクチ》《カレイコ》とのコンボの方が、早くて強力だ。そのあまりの理不尽さから、鬼畜パトロールとも呼ばれ、畏怖されている。
「山札に送還するから、S・トリガーは勿論、《キューブリック》みたいな墓地に送られた時の能力も誘発しない……決まりね」
シールドをすべて山札に戻した後、ミシェルは山札からシールドゾーンにカードを置こうとするが、《キクチ》がそれを許さない。
五回分のシールド回復すべてが山札に戻され、ミシェルのシールドはゼロ。ブロッカーもおらず、がら空きだ。
「くっ……!」
「ごめんなさいね、シェリー。どっちも一積みなんだけど、思った以上に上手く決まっちゃったわ」
「一積みカードのためにここまでするか……!? 盾落ちしてたら殴るほうがよかった場面になるだろ……!」
「せっかくだから、ちょっとやってみたかったのよ。いざとなれば打点並べて殴るプランも、なくはなかったけど」
しかし、決まってしまったものは決まったのだ。
沙弓は静かに《キクチ》を横に倒す。
「《キクチ師範代》でダイレクトアタック!」
「させるか! ニンジャ・ストライク6! 《不知火グレンマル》!」
《キクチ》の攻撃が届く寸前、ミシェルはたった一枚の手札から、クリーチャーを叩きつけた。
「《グレンマル》の登場時能力で、パワー4000以下の《キクチ》を破壊だ!」
ダイレクトアタックの直前で《キクチ》を破壊し、なんとか難を逃れたミシェル。間一髪だ。
沙弓はこのタイミングでの《グレンマル》は予想していなかったようで、目を丸くしていた。
「ちょっとビックリ。連ドラにそんなカードを入れてるなんて」
「お前はビートダウンだと思ってたらな。対策として一枚だけ積んだ。まさか、こんな時に使うとは思わなかったが」
「……まあいいわ。シェリーはシールドゼロだもの。私の場にはまだ《アクア・パトロール》が残ってるし、次で決めるわ……懸念材料はあるけどね」
ミシェルの手札はゼロだが、マナは6マナ。マナゾーンには《フレミングジェット・ドラゴン》が見え、場には《バルガゲイザー》。沙弓は《キクチ》を失ってしまった。
ここで、《バルガゲイザー》の対策を《キクチ》で甘え、《ルピラ・ラピア》をバウンスしたツケが回ってきた。
「《バルガゲイザー》で捲れるカード次第では、危険ね……それでも、大丈夫そうではあるけど……」
《フレミングジェット》をドローしてこのターンに召喚。ドラゴンを三枚捲ってこのターンにブレイク数を三枚増やしたうえで、《バルガゲイザー》でスピードアタッカーも捲る。ドラゴン四連打だ。
ドラゴン比率が多いと言っても、そこまで都合よく捲れるものだろうか。確率はゼロではないが、かなり低い。
しかし、確率が低いほど。ゼロに近いほど。
ここぞというところでは、恐怖心を煽る。
「あたしのターン……もう一体《バルガゲイザー》を召喚」
マナチャージはせず、そのまま二体目の《バルガゲイザー》を繰り出すミシェル。
しかしまだ安心できない《バルガゲイザー》から《バルガライザー》、その《バルガライザー》からさらに《バルガライザー》を呼んで、スピードアタッカーに繋げるなど、考え得る可能性は残っている。
「一体目の《バルガゲイザー》で攻撃! その時、山札を捲りドラゴンならバトルゾーンへ!」
ミシェルは山札を捲る。
すると、
「……!」
捲ったカードを見て、彼女は一瞬、停止した。
そして静かに、言った。
「……お前が一騎のデッキからプレ殿カードを抜いたように」
「ん?」
「あたしもプレ殿カードをゲットしてるんだよ。それも、デュエマ史上最悪のとっておきをな」
ミシェルは、捲ったカードを公開する。
過去のデュエマを支配した、一強の権化。恐れられ、疎まれ、そして愛された天下無双のドラゴン。
その原点は封じられ、禁じられた。しかし、今この時、この場だけで——復活する。
「さぁ、ボルバルマスターズの始まりだ——《無双竜機ボルバルザーク》!」