二次創作小説(紙ほか)
- 番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て9」 ( No.453 )
- 日時: 2016/08/31 18:09
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
「またか!」
ミシェルは思わず叫んでしまった。二連続で同じプレミアム殿堂カードが出て来たのだ。その気持ちは分からなくもない。
しかしこれは、ミシェルの時と状況が違う。ミシェルの《ボルバルザーク》は勝利に近い一手だったが、
「あれ? これって……」
「……やばい」
恋の《ボルバルザーク》は、敗北に近い一手だ。
「《無双竜機ボルバルザーク》の登場で、恋はもう一度自分のターンができるけど、次のターンで勝たなきゃ負けだから……」
「一転して、今度はれんちゃんが追い込まれたわね」
美琴のシールドは十三枚。普通に殴っていては、1ターンや2ターンでは割り切れないほどのシールド枚数。そこで恋は、そのシールドを無視して、美琴の山札切れを狙っていた。
しかし、恋は計略ドローで《無双竜機ボルバルザーク》を引いてしまったことで、残されたターンが、このターンを含めて2ターンしかなくなった。ゆっくり倒すつもりが、2ターンの間に美琴を倒す必要が出て来たわけだが、恋が美琴を倒すにはどうすればいいか。
答えは簡単だ。殴り切るしかない。
しかしここで問題が発生する。それは、美琴のシールド枚数だ。
「普通に考えて、十三枚のシールドを割り切ってとどめを刺すには、十四体のクリーチャーが必要ですよねー」
「でも、恋の場にクリーチャーは三体しかいないよ? 手札もないし……」
「このターンに召喚しても四体。エクストラターンを考えると、打点は純粋に二倍。このターンには八打点稼げるわね」
だがそれでは全然足りない。
追加ターンでもう一体クリーチャーを出したとしても、九打点。やはり足りていない。手札が枯渇していることも、恋に追い打ちをかけていた。さらに計略クリーチャーが攻撃できないというルールも、ここで響いてくる。
よって恋も計略ドローに頼らざるを得なくなったわけだが、一枚のカードで即時四打点を生成できるものだろうか。それも、他のカードに働きかけるような効果で。
敗北回避カードなどがあると仮定して、それらのカードを引くこと考え、殴らないという手もなくはないが、しかしあまりに非現実的だろう。そうなれば、
「……これはもう、全力で殴るしかない……《ブレイズ・クロー》を召喚……《コルナゴ》《コダマンマ》《ファルゲン》《ブレイズ・クロー》でシールドをブレイク……」
「トリガーはないわ」
「これだけ殴ってもまだシールド九枚、三分の一も削れてないわね……」
しかし恋にとっては、《スカイ・ジェット》があることが救いだった。お陰で、どのようなクリーチャーでも、そのまますぐに打点となる。
「私の追加ターン、計略ドロー……」
ターンを終了し、追加のターンを得る恋。
この対戦最後となる計略ドロー。最後に彼女が引いたのは、
「……まだ、いけるかも……《偽りの名 スネーク》」
偽りの名(コードネーム) スネーク VR 水/闇/自然文明 (8)
クリーチャー:アンノウン 11000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
このクリーチャーまたは自分の他のクリーチャーをバトルゾーンに出した時、カードを1枚引き、その後、自分の山札の上から1枚目をマナゾーンに置く。
このクリーチャーが攻撃する時、自分の墓地のカードを裏向きにしてシャッフルし、山札の一番下に置く。
W・ブレイカー
「《スネーク》の登場時、《スネーク》の能力……マナと手札を一枚ずつ増やす……この時、私のマナが六枚以上になったから、《ファルゲン》はパワーが0になって破壊……」
マナゾーンの枚数分、パワーが下がる《ファルゲン》。恋のマナが6マナに達したため、ここで破壊されてしまった。貴重な打点が一つ減ってしまったことになる。
しかし、今の恋は考え方を変えていた。
今は小さな打点を大事にする時ではない。打点が減ったなら、増やせばいい、と。
「《エグゼドライブ》をチャージ……1マナで《コルナゴ》召喚、《スネーク》の能力で手札とマナを追加……《コダマンマ》を召喚、《スネーク》の能力で手札とマナを増やして、シールドを回収……1マナで《螺神兵ボロック》を召喚……《スネーク》がいるから破壊されるけど、《スネーク》の能力で手札とマナを増やす……3マナで《襲撃者エグゼドライブ》召喚、《スネーク》の能力発動……」
次々とカードを捲っていく恋。美琴は、それをただただ見ていることしかできない。
なにより、《スネーク》と恋のデッキの噛み合い方が凄まじかった。
「これは凄いわね……赤単速攻で《スネーク》だなんて、計略デッキじゃないと見られないシナジーよ」
「あの、こいちゃんはなにを……?」
「《スネーク》は自分のクリーチャーが出るたびに、手札とマナを増やします。手札とマナはクリーチャーを展開するための根源的なリソース……クリーチャーを並べながらこれらを補充することで、手札もマナも途切れることなく、クリーチャーを召喚し続けられるんですよー」
「と言っても、1コスのクリーチャーばかりでもないだろうから、流石にどこかで尽きるがな。シールドを割り切るほどの打点を生成できるまで、クリーチャーが並べられるかどうか……」
しかし実質的に、すべてのクリーチャーのコストは1減っているのだ。1コストのクリーチャーも0コストとなり、恋が手札を消費し始める瞬間のマナは7マナあった。場には《スカイ・ジェット》もある。このターン中に十打点以上を作ることは、非現実的でもなければ不可能でもない。
その後、恋は《ボロック》で手札のみを増やし、《チョキパン》《ブレイズ・クロー》《コダマンマ》とクリーチャーを展開していく。
「遂に九打点揃ったぞ……!」
「なら、もうひと押しね。残りは2マナだから、大抵のクリーチャーは出せるはずよ」
この時点で、恋は美琴のシールドを割り切るだけの打点を揃えた。後は、とどめを刺す一体を出すだけだ。
「……ダメ押し……《コダマンマ》を召喚、シールドを一枚手札に加える——」
最後に《コダマンマ》を召喚し、シールドを回収するが、回収したシールドを、恋は即座に手放した。
「——代わりに、墓地へ」
「っ、まさか……」
「そのまさか……《デュアルショック・ドラゴン》を召喚……《スネーク》の能力で、手札とマナが二枚ずつ増える……シールドは焼却」
これで恋の山札は残り一枚。まだ2マナ残っているが、《スネーク》の能力は強制なので、これ以上は展開できない。
並べた打点数は十二打点。残り九枚のシールドを貫くには、十分な戦力だ。
「れんちゃんの場には《スカイ・ジェット》がジェネレートされてるから、全クリーチャーはスピードアタッカー……決まるわね」
後は美琴のトリガー次第。しかしそのトリガーすらも見据えた恋の大群。
美琴はこの大群の猛攻を、耐えきれるのか。
「《デュアルショック》でWブレイク……」
「トリガーはないわ……!」
「《エグゼドライブ》、《チョキパン》、《ブレイズ・クロー》……シールドをブレイク」
「こっちにもトリガーはなし……」
「……《コダマンマ》でブレイク」
「S・トリガー! 《エウル=ブッカ》で《コルナゴ》をマナゾーンへ!」
「でも、まだ足りない……《チョキパン》でブレイク……」
これで残りシールドは一枚。
しかし恋の場には、アタッカーが三体残っている。マナ武装が発動していない《エウル=ブッカ》では、とても止めきれない。
だからこそ、そういう場面を想定したカードが、役に立つ。
美琴は捲ったカードを見て、息を吐いた。
「……あぁ、計略デッキに振り回されて、今回は結局なにもできなかったけど……これだけは、自分の力だって言えるかしらね」
「《コダマンマ》でシールド——」
「ちょっと待って。S・トリガーよ」
その一言で、恋の動きが一瞬、止まる。
「……なに? 《エウル=ブッカ》程度ならまだ問題な——」
「いいえ。これは《エウル=ブッカ》ではないし、そもそも霞さんの入れたカードじゃないわ。日向さんが速攻デッキなのは知ってるから、対策として入れたカードよ」
「……?」
どうやら理解できていないようだ。確かに、口で言うより、実際に見せた方が早い。
そう思い、美琴はそのS・トリガーを発動する。
「S・トリガー——《クレイジー・マンドレイカー》!」
「……なにそれ」
しかし、恋は見ても理解していなかった。そもそも、このカード自体、知らないようだ。
それもそうだろう。それほど強いカードでもなく、比較的マイナーなカードだ。皆の顔を見ても、どうやら知らない人も結構いる。かくゆう美琴も、ショップマスでこのカードを引くまで効果を知らなかった。
だが今は、このカードがこの状況で、大きな効果をもたらしてくれる。
「《クレイジー・マンドレイカー》の効果! 次の私のターンの始めまで、パワー3000以下のクリーチャーは攻撃できないわ」
「……え」
クレイジー・マンドレイカー C 自然文明 (2)
呪文
S・トリガー
次の自分のターンのはじめまで、パワー3000以下のクリーチャーは攻撃できない。
自然文明の防御手段の一つ、攻撃規制。
規制される対象は自分も含まれるが、全体的なクリーチャーのパワーが低い赤単速攻になら、時間稼ぎには有用だろう。ゆえに美琴は、色も合うということで、恋対策として投入していた。
恋の場にいるクリーチャーでパワー3000を超えるのは、《デュアルショック》と《コルナゴ》。しかし《デュアルショック》は行動済み。このターン動けるのは、もう《コルナゴ》しかいなかった。
「……《コルナゴ》でブレイク」
「トリガーはないわ」
「……もう、《コルナゴ》いない……攻撃、できない……?」
「そういうこと」
「……ターン終了」
諦めて目を閉じる恋。大人しくターンを終了する。
そして、この瞬間《無双竜機ボルバルザーク》の能力が発動する。
追加ターンの終わりに、敗北する能力。
即ち——勝者は、美琴だった。