二次創作小説(紙ほか)

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て10」 ( No.454 )
日時: 2016/09/01 06:14
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「……ボルバルマスターズはもうおしまい……こんなの、誰も幸せにならない……」
「まあ、あそこであの引きは、最大級の爆弾だったよね……」
「残念だったわね、れんちゃん。でもあれが計略デッキよ」
 対戦が終わっても、恋はいまいち納得していない様子だった。《無双竜機ボルバルザーク》の特殊敗北によって負けた恋は、渋々美琴にデュ円を渡す。
「……そういえば沙弓。さっきのレギュレーション『計略デュエル:個人戦』ってあったけど、個人があるなら団体とかもあるの?」
「んー? さて、どうでしょうね」
「ちょっと」
「まあでも、計略デッキは色々と応用が利くから、また違う形で使うこともあるわよ」
「違う形、ねぇ……」
 どこか意味深な沙弓の発言だったが、それ以上はなにも言わなかった。ゆえに美琴もそれ以上は追及できず、そのままゲームに戻っていく。



「——じゃあ、暁から600万デュ円を徴収よ」
「うぅ、部長、容赦ないよ……もう2000万デュ円しかない……」
 その後のモノポリーでは、暁が順調に資産を削られていた。
 というより、沙弓が暁を暁を狙い撃ちしている。トップとして最下位を蹴落とす戦略は分からないでもないが、それにしても執拗だ。二位以下との差を広げるよりも優先させているのは、少々妙だった。
「ほら、次。暁の番よ」
「なんか今日の部長、いつもよりもイジワルだよ……えっと、5かぁ」
 ルーレットに示された数字の通り、マスを進める暁。
 そうして止まったのは、対戦マスだ。暁にとっては、あまり踏みたくないマス。このマスを踏むと、強制的に対戦が発生してしまう。
「対戦は嫌だなぁ……えっと、後方の一番近い人、一人と対戦?」
 暁の後ろで、最も近い人物は、
「美琴さん?」
「また私……? まあ、構わないけど」
 先ほどの恋との対戦もあり、美琴は連戦だ。そのためか、やや消極的に見える。
 しかし連戦の美琴以上に、暁の方が対戦意欲がなかった。
「はぁ、私のデッキ作った美琴さんかぁ……」
 資産が残り少ない暁は、あまり対戦をしたくなかった。対戦において勝てないというのも理由の一つだが、もう一つは美琴が相手という点だ。
 暁がまともに扱えない黒単死神は美琴が組んだデッキ。つまり、誰よりもそのデッキを理解している人物との対戦だ。
 既に情報戦で不利が付いているようなものだった。 はっきり言って、暁にはかなり苦しい対戦カードだ。
「まあでも、レギュレーション次第じゃない? さっきの計略デュエマも、私が不利だったのを、計略デッキで突破した感じだったし」
「そうですかねぇ……とりあえず引きますけど。えーっと、なにこれ?」
 とりあえずレギュレーションを決めるために、暁は紙を引く。引いた紙には、『DM Pauper』と書かれていた。
「これ、なんて読むんだろ。パウペラ?」
「それは『DM Pauper(パウパー)』、コモン限定構築戦のことよ」
「コモン限定構築戦?」
 デュエマにおいてコモンと言えば、レアリティだ。最も希少価値の低いとされる種類のカード。
 それ限定というのは、どういうことなのか。
「このレギュレーションは、ルールには干渉せず、構築段階にのみ制約が課されるわ。コモン限定構築、簡単に言うと、レアリティがコモンのカードしかデッキに入れられない構築よ」
「成程な。普通ならよりレアリティの高いカードの下位互換になるカードでも、活用可能ってわけだ」
「除去カードとかは、そういう傾向が顕著だよね。カードプール自体は広いけど、普段は使われないカードもたくさん見られそうで、面白そうだ」
 デュエル・マスターズは、数あるTCG(トレーディングカードゲーム)の中でも、かなり息が長く、長寿の部類だ。
 TCGは商業の側面もあり、その性質上、長く続けば続くほど、カード一枚のカードパワーが上がっていく。基本的に、過去のエキスパンションに収録されているカードよりも、現在のエキスパンションに収録されているカードの方が、総合的にカードパワーが高いのだ。
 そうなると、どうなるのか。結果は様々な形があるが、その一つが、完全上位互換の登場だ。
 たとえば、《地獄スクラッパー》という火の呪文がある。コスト7のS・トリガーで、パワー5000以下になるように割り振り火力を放つ呪文だ。かつては火の主要トリガーとして使われたが、まったく同じ効果、文明で、コスト6の《スーパー炎獄スクラッパー》という呪文が、後に登場した。
 コストの微妙な違いが生かされる場面も稀に存在するが、基本的に同じ効果のカードなら、コストが低い方が有用である。《地獄スクラッパー》は《スーパー炎獄スクラッパー》が出たことで、その存在意義をほぼ失ったのだ。この関係が、《地獄スクラッパー》は《スーパー炎獄スクラッパー》の完全下位互換であり、《スーパー炎獄スクラッパー》は《地獄スクラッパー》の完全上位互換ということになる。
 要するに、カードパワーの上昇によって、過去のカードが新しいカードに淘汰されるのだ。これは、TCGの性質として、仕方ないことではあるのだが。
 しかし『DM Pauper』は、そういった過去の淘汰されたカードにも使う意義が出てくる。
 また、いわゆるエキスパンションのハズレ枠のカード、より汎用性が高く使いやすいカードによって押し潰された、低レアリティのカードなども、価値を持つことになるだろう。
「コモンって、この下にあるのが丸い奴でいいんだよね?」
「そうよ。まあ分からなくなったらこのPCを使ってちょうだい。データは全部入ってるから」
「準備いいな……」
 バッグの中からノートパソコンも取り出す沙弓。どれだけこのモノポリーのために用意しているのだろうか。
 さて、この『DM Pauper』。コモンしかデッキに入らないというレギュレーションの性質上、デッキの内容をかなり弄る必要が出て来る。そのため、暁と美琴はそれぞれ、一巡するまでの短い時間で、デッキを組み直していた。
(初動のカードは色々揃ってるけど……道中で買い集めたカードじゃ、いまいちパンチが足りないわね……)
 美琴はデッキの方向性に悩んでいた。
 コモンのカードしかないということは、一枚のカードパワーはそれほど高くないということだ。一撃で勝負を決するカードがないということは、カチュアシュートのフィニッシャーが軒並み使えないということ。そもそも《カチュア》そのものが使えない。
 マナ加速カードはそれなりにあるが、それだけで勝てるはずもない。かといって、今のカード資産では、どうしたってまともなデッキは作れない。
 デッキのコンセプトがまるで決まらなかった。となると、相手のデッキに対してメタを張るしかない。
(空城さんのデッキは、私が組んだ安価死神。レアリティの低いカードは多い。《デスプルーフ》や《ボーン・アミーゴ》あたりは入ってくるだろうから、ビートダウンで来るかも……なら、受けられるカードは入れておいた方がいいわね)
 低コストの死神を詰め込んだなら、ビートダウンの可能性が高い。本来なら、《ベル・ヘル・デ・バラン》でクリーチャーコントロールしながら、《ギガアニマ》でアンタップキラー付与の弾丸を装填する動きが基本なのだが、暁はそれを理解しておらず、今までの対戦でそのような動きはまったく見せていなかった。恐らく、コントロールが苦手なのだろう。
 しかし《ギガアニマ》のレアリティはレア。今回のレギュレーションでは使えない。他にも《ベルヘル・デ・ディオス》や《死神盗掘男》、《デスライオス》、《死神城》も使えないはずだ。コントロール向きのカードが軒並み使えないため、残るのは殴れる低コスト死神のみ。それらを投入するのであれば、必然的にビートダウンになるだろう。
(ビートダウンなら、《ザマル》や《デスマーチ》が使えないのは嬉しいわね。構築が縛られるけど、ハンデスしながら殴る《ザマル》は強力だし、殴り合いになりそうだから《デスマーチ》も厄介だからね)
 とりあえず美琴は、暁がビートダウンで来ると読み、それに対抗できるようデッキを組む。
「あ、ショップマスだ。どうしよっかな……」
 その間、暁は一巡する直前で、ショップマスに止まっていた。
 残り資産の少ない暁は、あまり無理ができない。かといって、今のデッキのままでいいものだろうか。改造する必要があるのではないか。
 しばらく悩んだ末、暁は口を開いた。
「……1000万デュ円払うよ」
「そんなに払っていいの? 一気に破産に近づくわよ」
「いいよ。ビビってゲームで負けるより、デュエマで全力尽くして負けるなら、そっちの方がいい」
 そう言って1000万デュ円を銀行員と化した一騎に渡し、代わりに1000万デュ円分のカード、百枚を購入。
 それらのカードにサッと目を通すと、その中から何枚か、カードを抜き取った。
「……うん。じゃあ、これはこうかな……あ、これもよさそう」
 美琴の手番が終わるまでに、手に入れたカードでデッキを弄る暁。
 そして、美琴のターンが終わった。対戦の時だ。
「……よしっ、じゃあ美琴さん。私は準備完了しましたよ」
「そう。じゃあ、始めましょうか」
 美琴の方は既にデッキが完成している。
 敗北を重ねる暁と、連戦となる美琴の、コモン限定構築戦、対戦開始だ。