二次創作小説(紙ほか)

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て13」 ( No.457 )
日時: 2016/09/02 15:12
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「……なんか面白みがないわね」
 対戦が終わるや否や、ぽつりと沙弓が零した。
「そう? 《チェイサー》の墓地肥やしとスピードアタッカー付与、それに《GENJI・ファイアー》のリサイクルが上手くシナジーして、噛み合ってたと思うけど。なかなかいい対戦じゃなかった?」
「私はもっと、美琴が想定していなかった死神の使い方を見たかったわ。構築者の考えにない、斬新で奇想天外な一手で逆転、みたいなのを見たかった。なのに、即席で速攻染みた黒赤ビートなんて作っちゃって。出て来た死神なんて、《ボーン・アミーゴ》と《ドルゲドス》だけじゃない」
「部長、それはちょっと無茶振りだよ」
「ここは普通にコントロールデッキをビートダウンに改造した空城さんの構築を褒めなさいよ」
「あんな対戦じゃ満足できないわ。もっと面白いものが見たいの、私は」
「……面倒くせぇ奴だな」
「えぇ……いつも以上に」



「やっとショップマスに止まったか」
「霧島君は、これが初ショップですねー」
「えぇ、やっとカードが買える……2000万払う」
「おぉ? いいの、カイ? そんなに使っちゃって」
「構わん。買える時に買わないと、いつ対戦になるか分からないしな。それにこのモノポリー、思った以上に対戦要素が重要みたいだ」
 普通のモノポリーなら、土地などを他のプレイヤーに買い占められて、なかなか逆転できないというような状況もあるが、このモノポリーは一発逆転の要素が強い。その要素が、対戦に集約されている。
 どれだけ収入源がなくとも、対戦できれば収入になる。そして初っ端、沙弓が「地雷」と称した1億デュ円の賭け金。恐らく、もっと莫大な金額の賭け金もあるのだろう。それを引けば、最下位がトップに浮上することも不可能ではない。
 勿論、狙ってやるにはかなり博打だが、対戦で負けても搾り取られるのだ。それなら、いつでも対戦で勝てるように、カード資産を整えておいて損はないだろう。
「それに、俺のデッキは誰かの怠慢で、ただのカードの束だからな。いい加減、まともな形にしておきたい」
 浬は恋へと視線を向ける。すると彼女に睨み返された後、視線を逸らされた。なぜこちらが悪い、みたいな反応なのか。
「とりあえず、2000万デュ円分のカードを買うぞ。これで俺の番は終わりだな」
「この出費で、四位以下の順位が変わりましたね……」
 トップは今でも沙弓のままで、二位がミシェル、三位が空護と並び、四位だった浬だが、この大きな出費で下位の美琴、恋に抜かれてしまった。
 とはいえこの順位変動は仕方ない。浬はそれなりに土地も入手しており、ある程度の収入は確保されている。あとは対戦で勝てるように、デッキを弄るだけだ。
「自分の番っすねー。数字は……8っす! 自分の数字っすよ!」
「あっそ」
「……というか、お前の8マス先って……」
 八が8マス進むと、ちょうど浬とぶつかった。
 大戦勃発だ。
(まだ、あまりまともと言えるデッキじゃないから、対戦は避けたかったんだが……仕方ないな)
 200枚のカードを手に入れたとはいえ、その中にはカードはカードパワーの低い、見たこともないようなカードも少なくない。カード間のシナジーもなく、方向性などがバラバラなので、まとまりのあるデッキを作るのはまだ難しい。
 しかし二人のプレイヤーがかち合ってしまった以上、対戦は避けられない。
「そういえば、浬君はこれが初対戦だね」
「何気に対戦に関与してなかったからね。つまらない奴ね」
「俺に非はない」
 沙弓のいちゃもんを受け流しつつ、レギュレーションの紙を引く。変なレギュレーションでなければいいが。
 そう思いながら紙を開くと、
「……なんだこれ? 『ワンデッキデュエル:リミテッド』……?」
「おっと、それを引いたわね……待ってて、準備するから」
「準備? 計略デッキみたいなものが他にもあるのか?」
「いくらでもあるわよ。私の準備に抜かりはないわ」
「なら飯の準備も考えとけ……」
 という苦言を聞き流しながら、沙弓はまたもバッグの中からカードの束を取り出す——
 ——箱ごと。
「デッキはこれ一つよ」
「は?」
 ドンッ、と浬と八の間に、その箱を置いた。その行為も意味が分からないし、彼女の言葉の意味も分からない。
「ワンデッキデュエルは、その名の通り、一つのデッキだけで対戦するデュエマのルールよ」
「え? デュエマって普通、デッキ一つじゃないの?」
「そういう意味じゃないわ、暁。デュエマは普通、お互いのプレイヤーがデッキを一つずつ持ち寄って対戦する。だから場に出ているデッキは二つになるわ。だけどワンデッキデュエルは、“二人のプレイヤーが一つのデッキを共同で使う”のよ」
「成程な……一つのデッキを共有するから、互いの戦略ではなく、その場その場の状況やカードで即時対応しなければならないということか。それで、リミテッドってどういうことだ?」
「あら、カイ知らないの?」
「リミテッド自体は知ってる。その場で開封したパックで即席デッキを作るレギュレーションだが……これは即席なのか? 確かに部長が出したカードは、明らかにカードの束から適当に引っこ抜いたように見えたが……」
「あー、そのへんはあまり深く考えなくてもいいわ。そのデッキの中身はかなり適当ってだけだから」
「おい、どういうことだ部長」
「正確にはリミテッドじゃなくて、用意したデッキってことなんだけど、でも、ハイランダー構築になってるだけだから、それ以外は本当に適当よ? なにが入ってるのかとか、枚数とか覚えてないし。たぶん枚数は600くらいはあるかしらね? あと、デッキだけじゃなくて、墓地も共有だから、そこんところよろしくね」
 デッキと墓地は共有、。デッキの枚数はおよそ600枚……要するに山札切れはないということだろう。そして、ハイランダー構築。
 特に重要なのは、デッキ内のカードがすべて一積みということだろう。一枚カードが見えれば、二枚目はない。一度出たカードが使える選択肢が消えるわけだ。もっとも、枚数が多すぎて、どのカードが入っているかなどという考えは無意味だろうが。
「とりあえずルールは概ね理解した。随分と破天荒だが……仕方ない。やるか」
「そうっすね」
 正直、このレギュレーションは浬にとってはありがたい。というのも、浬はまともなデッキが作れていないため、使用デッキの時点で不利がついているからだ。
 しかし一つのデッキを共有ということであれば、デッキに関してはイーブン。お互いに内容を把握しておらず、同じデッキを使うのであれば、そこに有利不利はない。そこをフラットにできれば、あとは実力と運だ。
 己の力だけが物を言う対戦。リミテッドのワンデッキデュエル。
 浬と八の対戦が、始まった。