二次創作小説(紙ほか)

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て17」 ( No.461 )
日時: 2016/09/04 00:05
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

 対戦が終わり、巨大なワンデッキは片付けられる。
「くぅー、負けたっす! 流石、浬さんさんっすね!」
 敗北したものの、八はにこやかだ。モノポリーの順位としても下位なので、ここでの敗北は痛いはずなのだが、笑っている。
 対照的に、勝利した浬はぐったりしていた。
「……疲れた」
「あらカイ、情けないわね。たった一回の対戦でお疲れ? まだまだ先は長いわよ?」
「マイナーカードが多すぎんだよ、このゲーム……見覚えのないカードや、効果を把握していないカードが出るたびに、テキスト確認して、そこから推察される展開と相手の手札、数ターン先の盤面影響にフィニッシュまでの道程を考慮すると、普段使わない脳に加えて普段使う脳も普段の何倍も——」
「あー、はいはい。わかったわ。あ、次は柚ちゃんね。よろしくー」
「は、はひ」
「聞けよ」
 浬のことは無視して、沙弓は柚に手番を促す。
 そして柚がルーレットを回して、マスを進むと
「あ……対戦マスです。前方の一番近い人、ですね……」
「柚の前で一番近いのって」
「僕ですねー」
 空護だった。
「珍しい対戦カードね。レギュレーションはなにかしら? 早く引いて」
「せ、急かさないでくださいよぅ……えっと、レギュレーションは……『ハイランダー限定構築戦』です……」
「あぁ、面白くないやつね……」
「あんたの面白いの基準はなんなんだ?」
 さっきまで生き生きとしていたのが、一転して項垂れる沙弓。テンションのアップダウンがウザいほど激しい。
 沙弓は面白くないと言うが、このレギュレーションは、浬らにも理解でき、ありがたいレギュレーションだと言える。暁、柚、八は疑問符を浮かべているが。
「ハイランダーって、なんですか?」
「最初の方に一回やっただろ……もう忘れたのか」
「仕方ないから、もう一度説明するわ。ハイランダーっていうのは、すべてのカードを一積みにするってことよ。同じ名前のカードは一枚しかデッキに入れられない。それ以外は普通のレギュレーションやルールを順守するわ」
 デッキに同じ名前のカードは一枚しか入れられない。すべてのカードが殿堂入りしたようなものだ。ただし、プレミアム殿堂カードは使用不可能。
 ゲーム進行に関するルールには干渉しない。あくまで、構築段階での規制をかけるレギュレーションだ。
「うーん、これは少し困ったものですねー……」
 そのレギュレーションを見て、唸る空護。
 空護のデッキは、浬が組んだ青緑バニラビート。《アクア・ティーチャー》と《駱駝の御輿》によるバニラサポートを受けて殴るデッキの基本形なのだが、このレギュレーションは好ましくない。
 ビートダウンに限った話ではないが、序盤の動きを安定させるために、《フェアリー・ライフ》など一番最初に使う予定のカード——いわゆる初動と呼ばれるカードは、最初の五枚の手札にあってほしいため、最大数の四枚フルで積むのが鉄則だ。それがデッキにおける核、キーカードであれば尚更である。
 バニラビートの核は、バニラを出すたびにドローする《アクア・ティーチャー》と、バニラの召喚コストを下げる《駱駝の御輿》。これらのカードが場に出なければ、その強みを十分に生かすことができない。しかしデッキにそれらのカードが一枚しか入らないとなると、初期手札で引ける可能性は著しく落ちる。サーチカードである程度は補強できるかもしれないが、ワンテンポ遅れるし、そもそもそんな都合よくサーチカードが今の資産にあるわけでもない。
(確か霞さんのデッキは、僕の組んだナイトコンでしたねー。四積みが多いですけど、ハイランダーならコントロールの方が比較的有利ですし、キーカードに頼った僕がかなり不利ですかねー)
 空護は柚のデッキ内容を把握していることがアドバンテージと言えるが、レギュレーションの関係で確実に内容は弄られる。使われるカードの種類がある程度絞れるくらいだ。それほど大きなアドバンテージでもない。
「……焔君、大丈夫? 考え込んでるけど」
「ゆず……がんばれ……」
「えぇ、まあ。できるだけやりますよー」
「はひ……わたしも、がんばります……」
 他の人がルーレットを回している間に、デッキを素早く組み替える二人。短時間でデッキを組むという技能も、このモノポリーでは重要だ。
「あ、僕の番ですかー。えーっと、数字は2……ショップマスですね、ちょうどいい。500万デュ円ほど使って、カード資産を整えますか」
 空護の番が回ってくる。空護は一旦デッキを組む手を止めてルーレットを回し、ショップマスでカードを購入。サッと購入したカードを眺める。
(うーん……やっぱりレギュレーションそのものがアレなんで、どうしようもなさそうですけど……一応、別パターンを作っておきましょうかねー)
 特別おかしなレギュレーションというわけでもないが、構築の段階から既にかなり悩まされる。
「それじゃあ、二人とも対戦開始ね。頑張って」
「なんかやる気ないな、部長。もっとしゃっきりしろよ……」
「レギュがつまらないのがいけないのよ」
 順番が一巡して、対戦の時が来た。
 柚と空護の『ハイランダー限定構築戦』、開始だ。