二次創作小説(紙ほか)
- 番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て22」 ( No.466 )
- 日時: 2016/09/04 22:16
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
「しかし助かりましたー、普通に殴られてたら終わってましたよー」
対戦が終わると、空護は言った。
「《クイック・スパーク》と《アクア・リバイバー》が埋まっていたのはわかってましたけど、一斉攻撃でゴッドから殴られなかったら、止められませんでしたからねー」
シールドに埋まっているトリガーが分かっていたので、柚の攻撃を一1ターンだけなら耐えられる可能性はあると、空護は踏んでいた。
なので空護としては、《パーロック》を引きさえすれば、ブロッカー諸共封じて逆転の可能性が見えていたわけだが、柚がトリガーを警戒して1ターン待ったことや、リンクした《魔光神》から殴ったことが、結果的に良い方向に進んだだけで、運が良かったのだ。
いや、運が良かったというよりも、柚のプレイングにミスがあったから。小さなミスが積み重なって、逆転される道を歩んでしまったから、と言えるだろう。
殴る順番はまだしも、殴るタイミングは、間違えていたかもしれないと言えるだろう。
「臆病になりすぎた結果ね。《スーパー・スパーク》がマナに見えていたし、光入りなら《スパーク》呪文は警戒すべきだったわ」
「うぅ……耳が痛いです……」
打点は十分すぎるほど揃っていた上に、リンクした《魔光神》はアンタッチャブル。除去呪文警戒だとしても、こちらを残す手も十分に考えられた
ある程度は仕方なかったかもしれないが、柚の詰めが甘かったのも確かだっただろう。
「……ヤバい」
深刻な表情で、暁は口を開く。
彼女目は自分の手元。もっと言えば、自分の残り資産に向けられてた。
彼女の手に握られているのは、数枚の紙。そこには、100万、500万と書かれたものがいくつかある。
「残金が1000万デュ円を切った……!」
「暁リーチ!」
「うわあぁぁ! このままじゃ破産だよー!」
「……うるさい奴らだな」
ついさっき、暁は沙弓からデュ円を搾り取られ、これで残りの資産が700万デュ円になってしまった。
下手すれば、一試合負けるだけで破産する金額だ。
「……ショップマス……一応、600万くらい買っとく……次、ゆず……」
「うわぁー、どうしよう本当に……このままじゃ最初の脱落者になっちゃう……!」
「いや、最初の脱落者は俺だよ、暁さん」
などとやっている間に、暁の番だ。
残り資産がごく僅かの暁は、ここで下手に対戦を起こしたくはない。むしろ金が拾えるマスに止まりたいところだが、
「うげ、ショップマス……しかも」
「そこは、私がいる……あきらと、勝負……」
恋と止まったショップマスだ。
「はーい、対戦勃発ねー。暁はレギュレーションの紙を引いてちょうだい」
「うー、恋のデッキは強いからなぁ。変なルールじゃないといいけど……えいっ」
気勢を発しながら紙を引く暁。そこに書かれていたレギュレーションは、
「……『一種族限定構築戦』?」
「なんとなくわかるようなレギュレーション……」
一種族限定。それだけで、このレギュレーションの概要が理解できた気がした。
それでも一応、沙弓が説明する。
「レギュ的には微妙だけど、対戦カードも加味すると、そこそこ面白そうなもの引いたわね。『一種族限定構築戦』は、その名の通り、一つの種族だけでデッキを組んでもらうわ」
最初に自分の使いたい種族を一つ選び、その種族を持ったカードのみ、デッキに入れられるというルールらしい。
種族カテゴリは通常通りで、ナイトを選べばファンキー・ナイトメアもデッキに入れることができる。ただし、ナイトを選択して、サムライのクロスギアを入れることはできない。種族の範囲はクリーチャーだけではなく、カードにも及ぶ。
また、無種族、つまりナイトやサムライのない呪文やクロスギアに関しては、普通に使用可能らしい。
「デッキ内の種族を一つに統一かぁ……恋のデッキも、別に種族が固まってるわけじゃないけど、比較的ヒューマノイドが多いし、ヒューマノイドかな」
「問題は空城さんね。あの死神デッキ、死神でほとんど統一しているけど、種族はこの上なくバラバラだから……」
ちらりと、暁の方を見遣る。すると、
「……!? ……! ! !?」
錯乱していた。
死神は名称カテゴリでサポートを受ける種族なのだが、死神の名を持つクリーチャーは、ほとんど種族がバラバラだ。デーモン・コマンドが比較的多くはあるが、暁の安価死神には、重量級の死神悪魔はいない。
美琴とのコモン限定構築戦を見る限り、手に入れているカードも多くは種族が統一されていないようなので、デッキを組むのはかなり難航することだろう。クリーチャーの枚数は五枚程度で、残りはすべて呪文やクロスギア、城という可能性さえある。
「暁がどうやってデッキを組むのか。ここが今回の見物ね」
「……確か空城さんは《ジェニー》を持ってましたねー。《デスマーチ》がいるなら、デスパペットとかでしょうかー?」
「入手しやすさだと、《ドルゲドス》のいるティラノ・ドレイクとかもありそうですよ。ブレイブ・スピリットのサポートは受けられないにしても、火と闇のハイブリット種族ですし、混色にしやすい」
「その二体は進化だし、軽さ重視で《デスプルーフ》のいるゴーストだと私は踏んでるけど、空城さんの考えてることはよくわからないわ」
錯乱したままの暁を放置して、各人はそれぞれルーレットを回して、盤上をぐるぐると周回する。
「……そういえば部長。このゲーム、カードの売買が可能らしいが、カードを売ることもできのか?」
「ん? できるわよ」
「マジで!? ど、どうやるの!? ショップで!? カードショップでするの!?」
「ちょ、暁、近い近い、離れなさい……!」
カードを売るという言葉に過剰反応を示した暁が、沙弓に迫る。沙弓は暁を引きはがしつつ、カードの売却について説明する。
「とはいえ、買うのに対して、売るのには制限がつくわ。制限というか、資格というか」
「資格?」
「まだ誰も止まってないみたいだけど、この盤上に1マスだけ、ルーレットマスがあるのよ。そこに止まるとルーレットが回せる。回した結果、特定の数字を出せば、カード売却券が手に入るわ」
「カード売却……それがあれば、カードを売れる、ということですか?」
「なんか面倒だな」
「皆が皆、こぞっていらないカードを売ると、一日じゃ終わらなくなっちゃうからね。基本的にカード資産は増やすことしかできないわ。売るにしたって、100枚単位で100万デュ円だし」
「買う時と比べて、随分と燃費が悪いな。まあ、ゲームバランスの調整を考えると、当然か」
カード売却券を手に入れるにしても、この広い盤上のたった1マスに止まり、ルーレットで特定の数字を出さなければいけないので、まず売却で金を増やすことは考慮しなくていいだろう。
「なーんだ、期待して損した……」
それを知って、暁も少しへこんでいる。簡単に金が増やせるなんて、そんな美味い話はないということだ。
なにかメリットになるマスを踏めないかと、ルーレットを回す暁。刺された数字は2。
「あ、タダでカードがもらえるマス……『残り資産が2000万デュ円以下の時に発動。あまりの金欠ぶりを見かねたカードショップ店員が、温情でカードパックをくれる。カードを40枚ゲット』だって」
「そんなマスあったのか……」
理由が悲しくなるが、なんにせよ、暁はタダで40枚のカードを手に入れることができた。金がないうえに、デッキ構築でも悩む今の暁にはちょうどいい。
「む……うーん、このカード……むー、どうしよ……」
「あきら……対戦……」
「あー、うん。ちょっとタンマ。あと少し待って、三分」
「そんなに待てないわ。十五秒で準備しなさい」
「十五秒!? え、えっと、じゃあ、これはこーして、ここはこーで……これだ!」
沙弓の冗談半分の物言いを真に受けて、本当に十五秒でデッキを組み終えた暁。
これで、恋との『一種族限定構築戦』の準備ができた。
「じゃあまず、二人には使用種族を公表してもらうわ」
「最初に言うのか」
「別にその必要はないんだけど、言った方が面白いじゃない」
「ルール的にいいのか? それ」
多数の種族を持つクリーチャーや、呪文などを多く搭載したデッキだと、自分の種族を悟らせないプレイングもできるのだが、それをガン無視した沙弓の発言。
無視したければ無視してもよいのだろうが、それに乗っかってか、それとも知られたところで問題がないということなのか、恋は自分の種族を告げる。
「私はヒューマノイド……」
「まあ、鉄板ですねー」
「とすると、赤単速攻の要である《ブレイズ・クロー》と《ボロック》はないから、1ターン目からのアタッカーはないけど……それでも、早いビートダウンでしょうね」
《ファルゲン》《マッカラン》《鬼切丸》。ヒューマノイドはウィニーの宝庫だ。ビートダウンというコンセプトが崩れることはないだろうし、使い勝手もそこまで変わらないだろう。
「……あきらは……?」
「私は……」
問題は暁だった。
種族がバラバラな初期デッキ。掻き集めたカードとそれらを組み合わせ、どの種族が最善か、彼女は必死で考えただろう。
暁が中身の少ない頭をフル稼働させ、考えに考え、考え抜いた結果。
彼女が選び取った種族は——
「——リビング・デッドだよ」