二次創作小説(紙ほか)
- 番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て26」 ( No.470 )
- 日時: 2016/09/06 18:32
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
「《メガ・ブラスター》で勝負を決めるデッキだなんて……想定外」
「リビング・デッドなんてフィニッシャーのいないような種族でどう勝負をつけるのかと思ってたけど……展開してブレイク数を増やすのね」
序盤はブロッカーで耐え、墓地回収でリビング・デッドを使い回しながら展開。数が並んだところに、《メガ・ブラスター》を撃ち込んでフィニッシュ、というのが暁のデッキだったようだ。
「でも、なんでリビング・デッドなんですか?」
「いや、そこは最初に言った通りだよ。枚数があるのが、この種族だけでさ……《スケルトン・シーフ》なんて三枚あったし」
「まあでも、貧弱なリビング・デッドの先入観がいい具合に働いて、放置されてたものね。相手の心理の穴を上手く突いていたとは思うわ」
「そうかなぁ、あはは」
「だが、黒赤で手札を消費する《メガ・ブラスター》は、どうにも効率が悪いように思えるが……」
確かに相手の虚を突くことができる一撃だが、《メガ・ブラスター》は効果発動に手札を消費する。二体をWブレイカーにするだけでも二枚の手札が必要になるため、手札補充手段に乏しい黒赤では、使いづらいことだろう。
「だからこそ墓地回収なんでしょう。戻せばブロッカー、出せばアタッカー、ハンドキープで《メガ・ブラスター》のコストと、手札に持ってても場に出してもいいわけだし」
「《マグマ・ゲイザー》もbとする際には補助の役割があったんじゃないかな?」
「実は《スネークアタック》も入ってて、本当はそっちが本命だったんだよ。今回はたまたま、《メガ・ブラスター》が引けたけど」
《スネーク・アタック》はシールドを消費することで自軍をWブレイカーにする呪文だ。《メガ・ブラスター》よりも重いが、こちらの方が手軽に場のクリーチャーをフィニッシャーにできる。メインに据えるなら、確かにこちらの方が使いやすいだろう。
どちらにせよ、今回の対戦は暁の勝利で、恋からデュ円を得ることができた。
「よーし! この調子でデュエマに勝って、お金を稼いでいくよ!」
まだまだ一位までは遠く、破産に近い場所にいる暁。
それでも彼女は、頂点を目指して、また盤上の周回を始める——
数十分後。
GAME OVER —空城 暁—
「負けたあぁぁっ!」
暁は破産した。
「普通に土地から搾り取られて終わったな」
「最初にちゃんと土地や不動産を買収しないからこうなるのよ。デュエマだけで食っていける世の中じゃないのよ」
「現実を突きつけていくな……」
恋との対戦後、暁は誰かと対戦することもなく、止まった土地の支払いで残り少ないデュ円を搾り取られ、数巡のうちに破産した。
「しかし、一人破産するのに随分と時間がかかったな」
「ミシェル、一人目は俺だよ……」
「朝からはじめて、もうお昼ですね」
「そういえば昼飯ってどうするんだ?」
「なにも考えてないわ」
「おい部長」
今日も考えてないのか、という浬の非難を、どこ吹く風で聞き流す沙弓。昨夜の準備とはなんだったのか。
「まあでも、まったく考えてないわけじゃないのよ? 少しだけなら考えてるわ」
「少しだけって表現が気になるが、言ってみろ」
「とりあえず私は、このゲームを中断する気はないわね」
「ただの我儘じゃねえか!」
考えと言うにもお粗末な思考だった。ゲームを中断せず、昼食を摂れと言うのか。
「それなら、ゲームしながらでも食べられるような簡単なものを作ろうか?」
「あぁ、それいいわね。ナイスよ一騎君。暁もちょうど破産したし、二人にお願いするわ。お金がないんだから、働かざる者食うべからずよ」
「俺たちはゲームしてるだけだがな」
どちらかと言えば働いていないのは、自分たちではないだろうか。
なんにせよ、このモノポリーも現状がかなり複雑怪奇になっているので、下手に中断したくないというのはある。
一騎の申し出もあり、暁と二人で昼食は任せることにした。
「あーあ、ようやくデュエマでも調子出て来たのに、あそこで終わっちゃうなんて……」
「残念だったね、暁さん」
「まあでも、楽しかったですよ。いつもと違うカード使うのも、難しいけど、新しい発見とかあって、新鮮でした」
「そっか……俺もやりたかったな……」
「……なんか、ごめんなさい」
「いや、いいんだ。俺の運がなかっただけだから……それより、お昼のこと考えないとね。確か、ご飯はまだ結構残ってたよね」
「パン食の人が多かったですからね。ご飯だったのって、ゆずと一騎さんと、あと空護さんくらいだったと思いますけど」
「昼にも使う予定で炊いたけど、これならおにぎりでも握ろうか。あの人数分は大変だけど」
「あ、それなら、冷蔵庫に海苔とか梅干とかシャケフレークとか、いろいろありますよ」
「……本当、多種多様な食材が揃ってるよね。これを全部俺たちのためだけに用意してもらったと思うと、なんか申し訳ない……」
「食パンもたくさん残ってますねー。おにぎりだけだとアレですし、私はサンドイッチ作ろうかな」
「あ、いいね。缶詰もたくさんあるよ。スイートコーンにツナに、あとホイップにフルーツ系の缶詰とかもあったから、デザートにフルーツサンドも作れるね」
「……合宿の食材としてホイップがあるって、なんか変ですね?」
「うん……誰が選んだんだろうね、この冷蔵庫の中身……」
「——対戦マス。後方の二番目に近い人と対戦」
「あたしか」
浬が対戦マスに止まり、その相手として選ばれたのは、ミシェルだった。
幾戦も経験し、他人の対戦の流れも見ているので、レギュレーションの選定も手慣れたものだ。ささっと今回の対戦のレギュレーションを決めてしまう。
そうして決まった今回のレギュレーションは、『ジェドルール』だった。
「……なんだ? 『ジェドルール』って」
「おっと……カイ、そのレギュを引き当てるとは、なかなかやるわね」
沙弓が楽しそうに笑っている。沙弓がこのような表情をしている時は、十中八九、ロクでもないことが起こる。
今回のレギュレーションも、嫌な予感しかしない。
「『ジェドルール』……このレギュレーションは、二人で対戦するレギュとしては、一際特殊なのよね」
「二人で対戦するレギュレーションとしては? どういう意味だ?」
「ほら、二人で対戦する場合のレギュレーションって、構築に縛りを課すものが多くて、ルールそのものにはあんまり干渉しないでしょう?」
「言われてみればそうだな。ルールに干渉したのは、『全カードオープンデュエル』と『計略デュエル』の時くらいか?」
「一応、『ワンデッキデュエル』もルールに干渉してましたよ」
デュエル・マスターズのカードを使う以上、デュエル・マスターズの基本ルールには沿わなければ、このカードを使う意義がなくなるので、ルールに大きく干渉するようなレギュレーションが難しいという理屈は理解できる。
わざわざ沙弓が『ジェドルール』で、そんな話をしたということは、このレギュレーションは基本ルールに大きく干渉してくるということなのだろう。
「とりあえず、説明するわね。『ジェドルール』は超変則的なデュエマで、デッキ枚数は十五枚よ」
「じ……十五? 通常デッキの半分以下だぞ!」
「手札とシールドに五枚振り分けるだけで、もうデッキ枚数が五枚になる。すぐにLOを起こして、まともに対戦できるとは思えないな」
「まあまあ、カイ、シェリー、最後まで聞きなさいな。『ジェドルール』はデッキ枚数十五枚。で、対戦開始時に十五枚の山札を、手札、シールド、山札にそれぞれ好きな枚数を振り分けることができるの」
「振り分ける……?」
つまり、初期手札とシールドの枚数は、必ずしも五枚でなくてもいいということ。
極端な話、初期手札とシールドをゼロにすれば、山札が十五枚になる。シールド十五枚、手札十五枚ということも、理論上は可能だ。そうした瞬間に負けるので、意味はないが。
「最初に手札とシールドの枚数を調整できるわけか……手札を増やせば戦略の幅が広がる、シールドを増やせば防御力が高まる」
「ただし手札やシールドを増やすと、山札が少なくなってLOの危険性も高まる、と。最初の配分をどうするか、という段階から、勝負は始まってるんだな」
「流石二人は呑み込みが早いわね。だけど、それだけじゃないわ。今回の対戦では、このカードの中からデッキを作ってもらう」
そう言って沙弓は、箱の中から適当にカードを引っ張り出して、枚数を数える。
二十八、二十九、三十、と数え終えると、浬とミシェルの間に、ポンと置いた。
「……これは?」
「『ジェドルール』で使うためのデッキを作る用のカードの束」
「明らかに適当に引っ張り出したようにしか見えないんだが……この束の中からカードを選んで、デッキを作るのか?」
「そういうことよ。ここには三十枚のカードがあるから、二人で交互に一枚ずつ選択していって、最終的に十五枚のデッキにしてね」
「互いに選択、か……」
三十枚の束から互いに一枚ずつ取っていくということは、逆に相手がどのカードを取ったのかもわかるということだ。
相手が選択したカードから、相手がなにを狙っているのかも読むことができるだろう。相手の狙い通りにデッキを組ませないよう、先に相手が取りたがるカードを取るという戦略も取れる。
お互いのデッキは筒抜けなので、シールドや手札の枚数に加えてデッキの中身も考慮して戦略を組み立てる必要がある。対戦ターンそのものは短そうだが、その短さに反して、考えるべきことは通常の対戦よりもずっと多そうだ。
とにもかくにも、まずはデッキを作らなければいけない。
普段のデッキよりも少ない三十枚の中から、たった十五枚のカードを、選択する。