二次創作小説(紙ほか)

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て27」 ( No.471 )
日時: 2016/09/06 22:55
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

『ジェドルール』ルール
・デッキ枚数は十五枚。
・ゲーム開始時、山札から置く手札、シールドの配分は自由。
・デッキ構築は、三十枚のカードの束から、交互にカードを選択して十五枚にする。
・カード選択の時間は一分。


 じゃんけんの結果、カードを取るのは浬が先となった。それと同時に、対戦の先攻はミシェルに決定する。
 選択時間は一分。一分以内にデッキに組み込むカードを選択肢、相手に束を渡さなければならない。
 浬は三十枚のカードの束にさっと目を通す。その中身はこうなっていた。



《聖鎧亜キング・アルカディアス》
《猛菌剣兵チックチック》
《霊王機エル・カイオウ》
《ワーニング・スパイク》
《たたりとホラーの贈り物》
《慈悲と自愛のアシスト》
《伝説の秘法 超動》
《雷撃と火炎の城塞》
《預言者リク》
《雷光の使徒ミール》
《機術士 ゾローメ》
《一角魚》
《アクア・ソルジャー》
《K・リミー》
《ゼピメテウス》
《ロスト・ウォーターゲイト》
《怒りの影ブラック・フェザー》
《剣舞の修羅ヴァシュナ》
《デーモン・ハンド》
《熱血龍 リトル・ガンフレア》
《染風の宮司カーズ》
《クック・ポロン》
《飢えと乾き ケローラ》
《職人ピコラ》
《火炎流星弾》
《躍喰の超人》
《覚醒するブレイブ・ホーン》
《フィーバー・ナッツ》
《フェアリー・ギフト》
《再誕の社》



(なんとなく予想していたが、酷い中身だな……)
 比較的見覚えのあるカードが多めだが、それでも実用性に欠けるカードも少なくない。また、デッキ枚数が十五枚しかないにもかかわらず、かなり文明がばらけている。多色カードも少ない。
 たった三十枚しかないカードの中で、浬がまず最初に目についたのは、一枚だけ明らかに光り輝いているカードだ。
(《キング・アルカディアス》……当然のようにプレ殿が混じってるな。これを出せれば、ほぼ勝確になりそうだが……)
 浬は、そのカードを取るつもりはなかった。
 理由は二つある。
(見たところ、多色クリーチャーは《エル・カイオウ》と《チックチック》のみ。《エル・カイオウ》は軽くて使いやすいブロッカーだが、《チックチック》は色が合わない上にビート向けのスペック。それを考慮せずとも、進化元が少なすぎる)
 《キング・アルカディアス》は進化元がいなければ完全に腐るカードなので、進化元二体は流石に心もとない。デッキ枚数が少ないので、ある程度は狙ったカードが手に入りやすいだろうが、それでも躊躇われる。
 それに、浬が《キング・アルカディアス》を選ばない理由は他にもある。
(とにかく重い。普通に手札とシールドに五枚ずつ振り分けると、5ターン目にはLOだからな。使えるマナは加速しないで最大4マナ。《キング・アルカディアス》なんて出している暇はない)
 実際には手札の枚数をもっと減らすことになるだろうが、それでも山札切れ直前に《キング・アルカディアス》が出るようなものだ。そんな状態でロックしたところで、あまり意味はない。
 クリーチャーに単色が多いだけに、《キング・アルカディアス》は出せれば有効に機能するのだろうが、だからこそ出しにくく、出せたとしても無意味に終わりかねない。
 あくまでこのクリーチャーが強いのは、普通のレギュレーションにおいてだ。ここまで変則的なレギュレーションでは、その強さは十分には発揮できない。
 となると次に考えなくてはならないのは、勝ち筋だ。
 浬は後攻。つまり、カードを先に引く立場にある。カードを先に引くということは、山札の枚数を意図的に減らさなければ、先に山札を切らすということ。
 相手よりも山札切れに近いのであれば、コントロールのように長々と戦っている暇はない。自分にしかない優位性を生かしつつ、とっとと勝負をつけるべきだ。
 そう思って浬は一枚のカードを取った。
「……どうぞ」
「あぁ」
「58秒。結構考えてたわね」
「まあな」
 浬はちらりと選択したカードに目を落として、それを伏せた。
 最初に浬が選んだのは、《覚醒するブレイブ・ホーン》だ。
 コスト3、パワー1000のWブレイカーという、特異なスペックを持つ自然のクリーチャー。
 浬が考える勝ち筋とは、単純明快。ビートダウンだ。
 序盤から殴り切って倒す。そのために、《ブレイブ・ホーン》はかなり重要な一枚だった。
(3ターン目に出せるWブレイカーというだけで、かなり強いからな。それに四天寺さんは、“俺が《ブレイブ・ホーン》を持っていることを知らない”)
 そう、これが、浬にしかない優位性だった。
 先にカードを選択できるプレイヤーは、当然ながら先に三十枚の中身を把握できる。ここで重要なのが、三十枚把握できるのは、先にカードを選択するプレイヤーだけということ。
 後からカードを選択するプレイヤーは、既に一枚のカードが抜かれた状態で束を見て、カード内容を把握するため、相手がなんのカードを手に入れたのか。最初の一枚だけはわからないのだ。
 《ブレイブ・ホーン》はその軽さと打点の高さから、奇襲に最適だ。相手が知らないところに出してこそ、真価を発揮するだろう。
 浬はその優位性を利用する。
「……終わったぞ」
「はい」
 ミシェルの選択が終わり、浬の番が回ってくる。
 二十八枚になったカードの束を見て、ミシェルが選択したカードを見つける。先ほど見た中から、なくなっているカードは、
(……《躍喰の超人》、か)
 S・トリガー付のジャイアント。自身とコスト7以上のクリーチャーが出るたびにマナブーストするクリーチャーだ。
 ミシェルがどのような意図でこのカードをチョイスしたのかはわからない。S・トリガーのクリーチャーという点に価値を見出したのか、それともマナ加速することが重要だと考えたのか、はたまた自然のカードを持っておくべきだと思ったのか。
 恐らくは、先ほど挙げた理由が複合しているのだろうが、いまいちミシェルの考えが読めないのも確かだ。
 自然のマナを先に取って、浬の《ブレイブ・ホーン》出しにくくするという戦略もあるが、ミシェルは浬が《ブレイブ・ホーン》を選択したことを知らない。
 ということはつまり、彼女は自分の戦略のために、《躍喰の超人》を取ったのだろう。
(……なにが狙いか、まだわからないな。とりあえず俺は、自然を確保しよう)
 次に浬は、《フェアリー・ギフト》をチョイスした。
 使えるカード総数が少ないこのレギュレーションで、コスト軽減は重要だ。マナ加速は重いカードを使う手段となるが、同時に自分が使えるカードを減らしてしまう。山札から加速すれば山札切れに近づき、手札から加速すれば息切れする。
 ゆえに、このレギュレーションなら、マナ加速よりもコスト軽減の方が強いと浬は考える。特に《フェアリー・ギフト》は、1ターン中に実質2コストも下げる。いざとなれば《ブレイブ・ホーン》を出すための色にもなるので、取っておいて損はない。
「どうぞ」
 そうして、ミシェルに束を渡す
 ミシェルも浬と同じように考察しているのだろう。こちらが取ったカードと、自分の戦略を擦り合わせて、なにが最良の選択かを考えている。
 しばらくして、ミシェルが選択を終え、浬に束を渡す。また中身を見て、ミシェルの取ったカードを確認する。
(《再誕の社》……? 俺が緑のカードを取ったのを見て、緑色を減らしにきてるのか? しかし《再誕の社》とは……)
 墓地のカードを二枚までマナゾーンに置ける殿堂カード。確かに強いカードだ。この束には墓地回収もないので、破壊されたクリーチャーや唱えた呪文は、対戦中には使えない。それをマナに変換できるのは、無駄なくリソースを獲得できているので、合理的だ。
 しかしそれは、逆に言えば、カードを二枚墓地に置かなければマナが増やせないという意味でもあり、マナ加速にラグが生じる。通常の対戦よりもずっと短い時間になるので、対戦が終わるまでに墓地が二枚以上あるかと言われると、ない可能性も十分に考えられる。墓地を増やすというのは、案外簡単ではないのだ。それは、墓地ソースを始めとする墓地戦略をデッキに組み込んでいるミシェルなら、よくわかっているはず。
 ミシェルの考えがやはりわからず、とりあえず浬は最後の自然のカード、《フィーバー・ナッツ》を選択する。
 《フィーバー・ナッツ》はクリーチャーの召喚コストを1軽減するクリーチャー。その範囲は相手にも及んでしまうが、自然の色確保の意味も込めて浬はこのカードを選んだ。
 ミシェルから束が返ってくる。次にミシェルが選んだのは、
(えーっと、あの鳥っぽい奴……《染風の宮司カーズ》だったか? 確か、自分の黒と緑のクリーチャーをパンプアップするクリーチャーだったと思うが……)
 如何せんマイナーなカードなので、あまりよく能力を覚えていない。カード選択は一分という制限時間があるので、一枚一枚のカードをじっくり見ていられないのだ。
 低コストでアタッカーになれるので、浬も採用しようか考えていたのだが、先に取られてしまった。
(まあいい。ここは相手の赤色を減らしつつ、二体目のWブレイカーを取るか)
 浬が次に取ったのは、《熱血龍 リトル・ガンフレア》。
 コスト4、火文明のWブレイカードラゴンだ。
 このレギュレーションでコスト4は重いが、《フェアリー・ギフト》を唱えれば最速2ターン目に出て来る。《ブレイブ・ホーン》と並んで、フィニッシャーとして使えるだろう。
 またミシェルに束を渡し、返ってくる。次にミシェルが取ったのは、《雷撃と火炎の城塞》のようだ。
(赤のトリガーを取られたか……まあ、白は使う予定がないから、いいとしよう。次は……こいつか?)
 次に浬は、《猛菌剣兵チックチック》を取る。この束の中にある唯一のスピードアタッカーという点で貴重であり、また攻撃時に手札を増やせる。
 山札切れの可能性があるので無闇にドローはできない。ドローするかどうかは慎重になる必要があるが、場合に応じて息切れを解消できるのは強い。こちらも《フェアリー・ギフト》を用いれば早出しができるので、取っておいて損はない。
 ミシェルの考えていることが今でもよくわからないが、次に選択したカードで、浬の頭になにかが引っかかった。
(《デーモン・ハンド》……またトリガーか)
 しかも、コスト6と重い呪文だ。手打ちするには重すぎる。トリガー頼りの呪文だと言えるだろう。
 しかしここまで、ミシェルは選択してるカードの色がバラバラだ。最初は自然、次に火、そこから光と火の多色に、闇。既に四文明になっている。
 だがそのうちの二枚はS・トリガーだ。つまり、マナコストを支払う必要がない呪文である。
(……まさか)
 浬は自分の選んだカードを確認する。
 《ブレイブ・ホーン》はばれていないとして、《フェアリー・ギフト》に《フィーバー・ナッツ》《リトル・ガンフレア》《チックチック》。
 明らかに殴る気満々のビートダウン気質なチョイス。ミシェルは当然、それに対して対策を講じようとするはずだ。
 ビートダウン対策において、最も簡単な方法は二つ。
 一つはブロッカーを並べること。
 そしてもう一つは、S・トリガーを充実させることだ。
(トリガーは俺のビート対策……そして、トリガーで唱えた呪文を《再誕の社》でマナに変換する気か……)
 これなら、運が絡むものの、浬の攻撃を止めつつマナを伸ばし、反撃に出ることができる。合理的だ。
(さらにここまでの四天寺さんのチョイスから察するに、相手の狙いは俺のLO……後攻がLOに近いわけだから、普通にやっていれば俺が先に山札が尽きる。トリガーで粘り切って勝つつもりか?)
 しかしそれならば、浬にも考えがある。
(LOに関しては対戦中に気を配るとして、押し込むための策が必要だな。こちらもリソースを切らさないことを考えなくてはならない。とすると……)
 浬はカードを一枚選択する。
 選択したのは、《アクア・ソルジャー》だ。
 3マナ、パワー1000という貧弱なクリーチャーだが、このクリーチャーは破壊されても手札に戻る。非常にしぶとく戦線に復帰できるクリーチャーなのだ。
 墓地に落ちたクリーチャーはそれで終わりだが、《アクア・ソルジャー》は死んでも終わりではない。いくら死んでも、何度でもバトルゾーンに戻って、殴り続けることができる。短いターン数なので、使い回せる回数は限られるが、リソースを枯らさないという点では大きな役目を果たしてくれるだろう。
 ミシェルの選択が終わり、また浬の手元に束が戻ってくる。今回、ミシェルが選んだカードは、概ね浬の予想通りだった。
(《ワーニング・スパイク》……やはり、俺の攻撃を徹底的に止めるつもりだな)
 三連続でトリガー呪文をチョイスしたミシェル。浬の予想は、ほぼ確信に変わった。
(なら次は、赤色確保と殴り返し防止に、《クック・ポロン》だな)
 《クック・ポロン》は相手クリーチャーに攻撃されない。つまり殴り返されないクリーチャーだ。
 2コストと軽く、殴り返しも受けないため、生き残りやすい。破壊されにくさも、この対戦では重要になるだろう。
(四天寺さんが次に選んだのは……《エル・カイオウ》か)
 パワー4500の光と水のブロッカー。軽くてパワフルなので、浬の選んだアタッカーでは突破しづらい。単純ながらも、出されると厄介なことになるクリーチャーだが、
(なら、その一点狙いで《火炎流星弾》を持っておくか)
 ブロッカー除去の《火炎流星弾》を手に入れる。効く相手が限られるが、1コストで手打ちしやすく、面倒なブロッカーを除去できるのは大きい。持っていたほうがいい一枚だと判断する。
 その後も、概ね浬の予想通りに、ミシェルはカードを取っていき、浬も色を合わせつつビートダウンするためのカードを選択していく。