二次創作小説(紙ほか)
- 番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て29」 ( No.473 )
- 日時: 2016/09/07 07:05
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
速攻で決めると高をくくり、シールドを減らしたことが裏目に出た。2ターンかければ、ミシェルのアタッカーに殴り切られる。
(……いや、まだだ)
だがそれでも、終わりではない。
(まだ見えていないカードの中に、《一角魚》と《チックチック》がある。《一角魚》を出せれば《ブラック・フェザー》をバウンスして、とどめまでのターンを稼げる。《チックチック》が引ければそのまま殴り切る。その場合はトリガーが不安材料だが……)
浬にはまだ、この状況を逆転するチャンスがあった。数少ないクリーチャー除去に、唯一のスピードアタッカー。これらが引ければ、勝てるチャンスはある。
さらに、可能性はもう一つある。
(加えて俺のシールドに《ゾローメ》が埋まっていれば、相手の攻撃を止めて耐えることができる)
浬の勝ち筋は、それら三つ。
一つ目に、《一角魚》を引いてアタッカーを減らす。
二つ目に、《チックチック》を引いて殴り切る。この場合はトリガーがない前提になる。
そして三つ目に、シールドに《ゾローメ》が埋まっていること。トリガーすれば相手のアタッカーを止められる。
以上の三つのうちどれかが達成できれば、浬の勝ちだ。
(懸念があるとすれば、俺のカードはまだ見えていないものが多いから、確率が怪しいことだが……ここまで来たら、もう祈るしかないな)
いくら考えてもトップデックは変わらないのだ。生存の可能性を見出したのであれば、あとは引けることを願うしかない。
「……まあこれ以上はいいだろ。さて、どっちで殴るか……こっちだな。《ブラック・フェザー》でシールドをブレイク」
「来たか、シールドは……?」
シールドを確認する浬。捲れたのは、《熱血龍 リトル・ガンフレア》。この状況ではわりとどうでもいいクリーチャーだ。
一枚目は失敗したが、まだシールドは二枚残っている。このうちどちらかに《ゾローメ》があれば……と浬が思っていると、
「ターン終了だ」
「え……終わりですか?」
「そう言ったはずだが? お前のターンだ」
ミシェルはそれ以上攻撃せず、ターンを終える。
ここで殴って次のターンに殴り切るという勝ち筋は、ミシェルもわかっているはずだ。だからこそ殴ったのだと思ったが、違うのか。
浬は、彼女になにが見えているのか、わからない。
「えっと、じゃあ俺のターン。ドロー」
ここで浬は最も成功確率の低そうな、《チックチック》を引いた。
しかし、ここで殴る必要はあるのだろうか。
浬のシールドは二枚。次のターン、ミシェルはとどめを刺せないはずだ。ならばここで浬が殴る理由は一切ない。
むしろミシェルは、なぜ前のターンに《カーズ》で殴らなかったのだろうか。ミシェルの勝ち筋はそれしかなかったはず。スピードアタッカーもデッキにはいないし、それ以前に、トップは《キング・アルカディアス》に固定されているのだから。
(ん? 《キング・アルカディアス》……そういえば、さっき、《ロスト・ウォーターゲイト》を使っていたが、あれの意味は……)
ミシェルがなにも考えずにカードを使うわけがない。《カーズ》で殴らなかったのも、そこになにか意味があるはず。
このまま進めば、ミシェルはデッキ切れで負けだ。デッキを回復する手段は存在しない。となればミシェルが勝つには、殴り切るという方法しか取れない。しかし殴り切るにはアタッカーが足りていない。正確には、アタッカーが足りていたはずなのに、わざと攻撃しなかった。
わからない。なにかが足りない。
なに、必要な情報が足りていないような気がする。まだ自分が知らない情報。見えてないカードは自分のカードだけ。相手のシールドに埋まっているカードは、ある程度予想がつく。
では、なにが足りないのか。盤面を見る。そして、
(……そういえば、《カーズ》の能力って……)
ミシェルが最初の方に取ったカードだ。最初は色々と考えており、カード一枚一枚の能力をよく確認していなかった。なので浬は《カーズ》のことを、3マナ、パワー2000、味方をパンプアップする鳥人間くらいにしか思っていなかった。
この対戦でも、序盤からずっと場に出ているが、このクリーチャーは一体なんなのか。眼鏡の位置を直し、テキストに目を向ける。
そして、欠け落ちていた情報が今、揃った——
染風(せんぷう)の宮司(ぐうじ)カーズ R 火文明 (3)
クリーチャー:フェザーノイド 2000
バトルゾーンにある自分の闇のクリーチャーと自然のクリーチャーはすべて、火のクリーチャーでもある。
バトルゾーンにある自分の他の火のクリーチャーすべてのパワーは+1000される。
(っ! こいつ、場のクリーチャーを染色するのか……!)
味方の友好色をパンプアップするという能力だと浬は記憶していたが、それは結果としては正しい。
しかしこの状況では、結果のための過程を無視してはいけなかったのだ。。
《カーズ》がパンプアップする対象は、あくまでも火文明のクリーチャーのみ。ただし、闇と自然のクリーチャーに火文明を追加するため、結果として友好色を強化しているというだけだ。
この場合重要なのは、場のクリーチャーに火文明を追加するという点。具体的には、ミシェルの場にいる《ブラック・フェザー》だ。
今の《ブラック・フェザー》はパワーが4000。なぜそうなっているのかと言えば、《カーズ》によって強化されているから。なぜ強化されているかと言えば、今の《ブラック・フェザー》は闇と火文明だから。
そう、《ブラック・フェザー》は今、闇と火の、“多色クリーチャー”と化しているのだ。
(だから《キング・アルカディアス》をトップに固定したのか……! となると、手札には《K・リミー》か《デーモン・ハンド》か、どちらかの多色カードを握っている。次のターンに7マナ溜められ、進化される……!)
そうなれば、《キング・アルカディアス》と《カーズ》で三打点。残り二枚の浬のシールドを突き破って、とどめを刺せる。
前のターンに《カーズ》で殴らなかったのは、次のターンに打点が揃うため。そして、浬に手札を与えて、場のクリーチャーが除去されたり、行動不能にされることを防ぐためだろう。
相手のデッキ内容を知っているのは、なにも浬だけではない。ミシェルだって、浬が《一角魚》や《ゾローメ》を取ったことは知っている。それらを警戒するのは当然だろう。
浬は次のターンの《キング・アルカディアス》を止められない。ターンを返せば、確実にあのプレミアム殿堂クリーチャーが降臨する。
ならばターンを返さなければいい。このターンに殴り切る希望を持って《クック・ポロン》と《チックチック》で特攻するか。
(いや……トリガー確率は三分の二だぞ? 約66%……流石に躊躇うだろ……!)
さらに記憶を引き出す。《再誕の社》でマナを増やした後、ミシェルは少し考えてから、《ブラック・フェザー》で殴った。
あの場面で考えるということは、恐らく手札に握っているのは《K・リミー》。だとすれば、シールドには必ず《雷撃と火炎の城塞》か《デーモン・ハンド》が埋まっていることになる。そうなれば、全力で殴っても届かない。
浬の勝ち筋は完全に潰えたのか。
(……待てよ。まだ、生き残れるかもしれない……!)
浬はこのデッキにほとんどトリガーを積んでいないが、それでも、《ゾローメ》以外にも相手の攻撃を止めるカードが入っている。
そのカードは——
「《慈悲と自愛のアシスト》」
「!」
浬がシールドに目を向けた瞬間、ミシェルの口から発せられた。
ここから浬が勝つために必要な、唯一のカード。
「あたしもお前がなにを取ったのかくらい記憶してる。タイミングが限定されてるから後回しにしてたら、先に取られたと思ったよ。色基盤と防御用トリガーとして、投入する候補だったんだがな」
慈悲と自愛のアシスト C 光/自然文明 (3)
呪文
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
S・トリガー
次の自分のターンのはじめまで、バトルゾーンにある自分のクリーチャー1体のパワーは+3000され、「ブロッカー」を得る。
《慈悲と自愛のアシスト》。アシストの名を持つ呪文の中で唯一のトリガー呪文だが、場にクリーチャーがいなければ使えず、能動的にアドバンテージを取れる効果でもないため、アシスト呪文の中でも使い難さのあるカードだ。
しかしそれでも、この状況では、浬が熱望するカードである。
「残り二枚のシールドからそいつを引けば、ブロッカーができる。そうなればあたしは殴り切れず、お前の勝ちだ」
「…………」
「それとも、あたしの最後のシールドが《K・リミー》であることを願って殴るか? そこまで悩んでるってことは、《チックチック》を引いたんだろ?」
浬はここまで一人で思考を進めていたが、多くの情報はミシェルと共有しているようなものだ。
ミシェルからしても、すべてお見通しのようだった。
ここで取れる選択肢は二つ。
《チックチック》を出して殴るか、《慈悲と自愛のアシスト》が捲れることを信じてターンを終えるか。
このタイミングでミシェルが呼びかけてきたことも、少々気になる。もしかしたら、悩んでいたのはただのポーズで、手札に《デーモン・ハンド》を持っていて、シールドに埋まっているのは《K・リミー》なのかもしれない。
しかしその読みを外せば、《雷撃と火炎の城塞》にしろ《デーモン・ハンド》にしろ、トリガーを踏んだら浬のクリーチャーはすべてタップしたままとなり、《慈悲と自愛のアシスト》がトリガーしても、ブロックするクリーチャーがいなくなってしまう。
つまり、殴るか、殴らないか。ただそれだけの二者択一だ。
永遠に悩んでいたい○×問題だが、いつかは結論を出さなくてはならない。
やがて、浬は選択する。
自分の回答を。
「……《アクア・ソルジャー》を召喚。ターン終了」
「トリガーに賭けたか……とりあえず、その判断は正解だと言っておく。あたしのターン、ドロー」
これがラストターンだ。
ミシェルはトップの《キング・アルカディアス》を引き、手札を一枚マナに落とす。
「《K・リミー》をチャージ」
ミシェルが握っていたのは《K・リミー》。やはりシールドには、トリガーが埋まっていたようだ。
ひとまず殴らないという選択肢は良い方向に進んだが、問題はこの次だ。
シールドに、《慈悲と自愛のアシスト》が埋まっているかどうか。
(俺のシールドは二枚。山札は三枚。絶望的というほどの確率ではないが……)
どんなに低確率でも、可能性がゼロでなければ起こり得るように。
どんなに高確率でも、可能性が100でなければ起こらないことがある。
それが、デュエル・マスターズだ。
「さて、この詰将棋みたいなデュエマも終わりだな。《ブラック・フェザー》を進化——」
ミシェルは予定調和のようにマナを払い、唯一の手札を場のクリーチャーに重ねた。
赤く染まった怒りの黒影が、聖なる鎧を纏う精霊の王となる——
「——《聖鎧亜キング・アルカディアス》!」
聖鎧亜キング・アルカディアス SR 光/闇文明 (7)
進化クリーチャー:エンジェル・コマンド/ロスト・クルセイダー 9000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
進化—自分の多色クリーチャー1体の上に置く。
W・ブレイカー
相手は、多色以外のクリーチャーをバトルゾーンに出す時、バトルゾーンに出すかわりに墓地に置く。
※プレミアム殿堂
《カーズ》の能力で赤く染色された《ブラック・フェザー》が、《キング・アルカディアス》へと進化する。
凶悪なロック能力を持つプレミアム殿堂のクリーチャーだ。
「ほとんどただの打点だが、まあいいか。とにかく決めるぞ! 《キング・アルカディアス》でWブレイク!」
「一枚目……! くっ!」
最初にブレイクされたのは、《機術士 ゾローメ》。前のターンのブレイクで来ていれば、片方のクリーチャーを拘束して、ダイレクトアタックを防げた。
《ゾローメ》は水文明単色のクリーチャー。《キング・アルカディアス》の管理下では、バトルゾーンに出せない。
残るシールドは一枚。この一枚で、すべてが決まる。
最後のシールドが、ブレイクされた。
「…………」
シールドを捲る。
——《剣舞の修羅ヴァシュナ》。
果てしない思考の末、短いこの対戦が、終わった。
「《染風の宮司カーズ》で、ダイレクトアタック——!」