二次創作小説(紙ほか)
- 番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て30」 ( No.474 )
- 日時: 2016/09/07 18:20
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
「……疲れた」
「あたしもだ……」
対戦が終わるや否や、二人はぐったりとしていた。
「二人とも情けないわねぇ」
「てめえは実際にやってないからわからないだろうが、これ、めちゃくちゃ頭使うぞ。カード数が少ないから1ターン一手のミスも許されない。カード数とは対照的に相手のカード情報は無駄なく多いから、考えることもそれに比例してとにかく多い」
「人間という脳の処理速度に限界があり、コンディションという不安定で不確実な要因が介入する生物だからこそ、この情報量の多さはきついものがあるな。考えすぎてプレミしかねん。公開情報の多さがここまでプレイヤーに負担をかけるとは思わなかったぞ」
相手のデッキタイプに応じて、相手がなにをするか、ということを予想することはある。相手がサーチしたカード、そのデッキに投入されているだろうカードを考えて、それらの情報を駆使して戦略を練るというのも、対戦においては基本的なテクニックだ。
だがこの対戦はお互いにすべてが筒抜け。しかも戦えるターン数が極端に短いというサドンデスのような状態。そしてとどめとして、文明、種族、方向性がバラバラで見たこともないようなカードプール。瞬間的な思考が凄まじい負担となっていた。
「もう二度とこんな対戦はしないからな……!」
「それは今後のあなたの引き次第ね」
「さぁみんな! ランチの時間だよっ!」
スパーンッ! と勢いよく襖を開け放ち、台所から暁と一騎が戻ってきた。
「暁さん、襖が傷んじゃうから、もっと優しく……」
「お、来たわね。待ってました! 私もうお腹減っちゃって」
「だったら飯をどうするかちゃんと考えとけ」
「お昼は、ゲームしながらでも食べられるように、おにぎりを握ったよ」
「私からはサンドイッチだよ! あ、フルーツサンドもあるから、後で持ってくるね」
「サンドイッチ伯爵の考え方ね。悪くないわ」
「トランプしながらでも食事ができる料理というが、発明というにはえらく単純だよな……」
「一応ラップで包んではいるけど、お手拭きも持ってきたから、気になる人は使ってね」
単純であっても、単純だからこそゲームを邪魔しない食事になるのだろう。
なんにせよ、この昼食はありがたい。モノポリーは続行したまま、各人、同時進行で食事も済ませていく。
「『バニラ・準バニラ限定戦』?」
暁たちが昼食を持ってきた直後、沙弓と空護が同じマスに止まり、対戦が発生した。
レギュレーションを決めるために紙を引き、空護が引いたのは上の通りだ。
「まあまあね。見ての通りこのレギュは、バニラと準バニラのクリーチャーしかデッキに入れられないわ」
「バニラはわかるが、準バニラの定義はどうなってるんだ?」
「S・トリガー、ブロッカー(とそれに付随する攻撃不可能力)、アンブロッカブル、スレイヤー、スピードアタッカー、パワーアタッカー、ガードマン、多色カードのマナタップイン、各種ブレイカー、あとついでに覚醒リンクよ。これらの能力のみを含むクリーチャーは、すべて準バニラとみなされるわ」
「覚醒リンクにリンク解除……ということは、《ドン・マシュマロ》は使えるんですねー」
「まあね。裏面は解除持ちだけど、超次元ゾーンにあるうちはセル扱いだから。あぁでも、裏面が能力持ちの《ストーム・カイザーXX》は使えないわ。両面があるなら、覚醒面も準バニラでないといけないってルールよ」
「そもそも、《ストーム・カイザーXX》は覚醒能力があるがな」
なんにせよ、今回は思った以上に単純なルールだった。
そして、バニラも使えるのであれば、バニラビートを有する空護は、初期デッキから使えるカードが多い。
「でも、バニラと準バニラしか入ってないんじゃ、ただの殴り合いになるんじゃない?」
ブロッカーなども使えるのだろうが、複雑な動きのできないバニラと準バニラだけでデッキを組むとなると、動きも単純になる。ゆえに、単なる殴り合いになると一騎は考えるが、
「……そうはならないですよ、たぶん」
「あぁ。だな」
「え? どうしてですか?」
浬やミシェルは、そうは考えなかった。
「このルールで取れる戦術は、恐らく、大きく分けて二つ」
「一つは、数にものを言わせてぶん殴る方法。殴り合いの典型だな」
「殴り合いじゃん」
そう。一騎の言う通り、勿論単純な殴り合いも発生するだろう。
しかし、このレギュレーションには、穴がある。少し考えればすぐわかる隙だ。
それにこのレギュレーションで対戦するのは、空護だけではく、沙弓もいるのだ。彼女の性質から、ある程度は推察できる。
「もう一つは——」
あの遊戯部部長が、ただの殴り合いで対戦を進めるとは、到底思えなかった。
「さて、どうデッキを組んだものか……」
一方、空護は悩んでいた。
ここまでのゲームを見て、対戦相手の性質は、彼も理解するところ。
そしてこのルールの隙間の影響を強く受けている空護は、またしても構築に悩まされることになる。ある意味、ハイランダー戦の時以上にやりにくいかもしれない。
やがて順番が一巡する。デッキを確定させ、対戦に臨まなければならない。
顔を上げると、不敵な笑みで沙弓が待っていた。
「それじゃあ、始めましょうか」
空護と沙弓の『バニラ・準バニラ限定戦』。
対戦開始だ。