二次創作小説(紙ほか)

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て31」 ( No.475 )
日時: 2016/09/07 22:53
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

 沙弓と空護の対戦。ルールはバニラ・準バニラ限定戦。
 特殊な能力のないクリーチャーのみ使用可能なこの対戦は、なんの変哲もない殴り合いになるのか、それとも——
「私が先攻ね。《虚空の力 レールガン》をマナに置いて、ターン終了」
 沙弓のマナに置かれたのは、《レールガン》。初期デッキに入っているカードの一枚。この時点で沙弓のデッキカラーは、少なくとも青赤であることがわかる。
 問題は、他に色がないか。そして、このデッキがビートダウンなのかコントロールなのかだ。
 ミシェルとの殿堂ゼロデュエルでは、闇を入れてキクチパトロールでフィニッシュするコントロールのような動きも見せていた。今回は殿堂ゼロではないが、これだけでビートダウンと判断するのは危険だ。
「とりあえず、《霊騎デュナス》をチャージ。終了ですよー」
「私のターン。《エナジー・ライト》をチャージ。2マナで《飛翔する啓示 ゼッツー》を召喚よ」
「《ゼッツー》ですか、普通ですねー」
 それよりも気になるのは、《エナジー・ライト》だ。
 バニラ・準バニラしかデッキに入らないため、墓地を利用したビートダウンは難しいが、それにしても《エナジー・ライト》を入れていることに、少々違和感を覚える。
 単純に数合わせのために、使いやすそうなドロースペルを入れたのか。それとも他の意味があるのか。よくわからない。
「まあ、やるだけやるしかないですよねー。《シープス・キーン》をチャージ。2マナで《鎮圧の使徒サリエス》を召喚ですー」
「《サリエス》……?」
 空護のデッキは、浬の組んだ青緑のバニラビート。そのため、バニラクリーチャーが多いようだが、その中で異彩を放つ軽量準バニラブロッカー。
 バニラビートに入るようなカードではないが、そもそも空護のデッキがバニラビートなのかどうかからして怪しい。というのも、
「バニラビートは《アクア・ティーチャー》と《駱駝の御輿》のサポートに依存しているからな。《アクア・ティーチャー》は《純白設計図》、《駱駝の御輿》は軽量バニラを投入することで、ある程度は補えるが……少なくともメインエンジンの片方が使えなければ、戦術として大きく弱体化する」
「そこが焔君の苦しいところだね」
 《アクア・ティーチャー》《駱駝の御輿》というサポーターがいるからこそ、バニラビートはそのデッキタイプを確立させた。その後もバニラサポートが増えてきているとはいえ、この二体が両方とも使えないのであれば、バニラビートとしてデッキを運用するのは難しいだろう。
 だからなのか、空護のデッキには本来は入らないブロッカーがいる。バニラビートではないのか、それとも特殊なギミックを施したバニラビートなのか。それはまだわからない。
「ブロッカーねぇ……面倒だけど、だったらこうよ。呪文《勝負だ!チャージャー》。《ゼッツー》をアンタップキラーにするわ」
「チャージャー呪文……? 殴り返される前に、殴ってブロッカーを破壊する気ですかねー……」
「そんなところね。《ゼッツー》で《サリエス》を攻撃! 《ゼッツー》はパワーアタッカー+2000だから、攻撃中のパワーは4000。《サリエス》を破壊よ」
 《サリエス》のパワーは3000。パワーアタッカーで強化されている《ゼッツー》には勝てず、破壊された。
 普通にシールドを狙ってくるなら、このターンは通して、返しのターンに殴り返せたのだが、流石にそこまで甘くはないか。
「僕のターン、《イソロック》をチャージ。《蒼狼アクア・ブレイド》を召喚して、終了ですかねー」
「あら、そんな悠長でいいの? あんまりゆっくりやってたら、痛い目見るかもしれないわよ? 《ロスト・ソウル》をチャージ。3マナで《エナジー・ライト》。二枚ドローするわ」
「《ロスト・ソウル》? 黒いカード……」
 マナに置かれたカードを見て、空護は鋭く目を細める。闇入りのデッキ。そして、重量級ハンデス呪文の《ロスト・ソウル》。
 この瞬間、ほぼ確信に近い形で、沙弓のデッキタイプが判明した。
 確信に近いそれは、次の沙弓の一手で、本当の確信へと到達する。
「さらに2マナで《ゴースト・タッチ》! 一枚ハンデスよ」
「この動き……やはり」
 鋭く、しかしながらやや苦しげな目で、空護は呻くように声を絞り出す。

「除去コン……!」

 除去コン、正式には除去コントロールと呼ばれるデッキタイプ。
 その名の通り、相手のカードを片っ端から除去し、場を制圧する。そして、身動きが取れなくなったところを仕留めるデッキだ。
 デッキを回転させるためのドローソースに、動きを封じるためのハンデス。それに確定除去などの除去呪文も入っているだろう。デッキカラーも、除去コンらしい
「やっぱり除去コンか」
「ミシェルは分かってたの?」
「なんとなく察しはついてた。如何にもあいつの考えそうなことだ。このレギュレーションの穴を突いてる」
「穴?」
「『バニラ・準バニラ限定戦』……クリーチャーこそ制限されているこのレギュレーションだが、呪文やクロスギア、城といったカードに制限はない。除去やハンデスの呪文を多く詰んで、それらのカードを上手く利用すれば、除去コンに似たデッキも作れなくはない。勿論、詰めは甘くなるし、完全にコントロールできるとは言えないがな」
 呪文には多くのコントロール向けのカードが存在する。闇文明には確定除去を放つ《デーモン・ハンド》や、オールハンデスの《ロスト・ソウル》。水にはそれらのカードを円滑に回すためのドローソースに《エナジー・ライト》や、万能サーチの《クリスタル・メモリー》。これらのカードを上手く使えば、自分はアドバンテージを稼ぎ、逆に相手のアドバンテージは削り、盤面を支配できる。
 常に場をロックするようなことはできないため、完全に場を制圧しきることはできないだろうが、相手もまずクリーチャーでは盤面をひっくり返すことができない。
 S・トリガーによる逆転を防ぎづらいところはあるものの、バニラと準バニラだけでも、コントロールの動きは可能なのだ。
「最初の《ゼッツー》はブラフなのか、数合わせなのか……なんにせよ、こうなると単純な殴り合いにならない」
 沙弓は空護の手札を削り、場のクリーチャーも徹底的に除去してくるだろう。フィニッシュをどうするつもりなのかはわからないが、少なくともしばらく殴ってくる気配はない。
「なんとなく予想はしてましたけど、少しきついですねー……とりあえず、3マナで《ソーラー・チャージャー》! 《アクア・ブレイド》を指定して、チャージャーをマナへ。残る2マナで《純白設計図》ですよー」
 空護はやはり、元のバニラビートを軸に、バニラサポートを取り入れているようだ。
 捲れた五枚は、《トリプル・ブレイン》《無垢の面 ラニヴ》《月光の守護者ディア・ノーク》《ノウメン》《ポッツーン》。
「《ラニヴ》《ノウメン》《ポッツーン》の三枚を手札に加えますねー。《アクア・ブレイド》で殴って、これでターン終了。《アクア・ブレイド》は《ソーラー・チャージャー》の効果で起き上がりますねー」
「その手札、全部叩き落すわ。2マナで《ゴースト・タッチ》、まずは一枚ハンデスよ」
「っ、《ノウメン》が……」
「まだよ、さらに4マナで《スケルトン・バイス》! 次は二枚ハンデスよ!」
「そして当然のようにプレ殿カード……!」
 《ゴースト・タッチ》から《スケルトン・バイスへ連続でとハンデスが放たれ空護の手札が一気にもぎ取られていく。
 これで空護の手札はゼロ。まずは、カードを使う根源的なリソースを一つ、断ち切った。
「これはまずいですねー……呪文《ライトニング・チャージャー》。《ゼッツー》をタップして、チャージャーをマナに。《アクア・ブレイド》で《ゼッツー》を攻撃!」
「私のターンね。4マナで《ブレイン・チャージャー》。一枚ドローよ。さらに4マナで《サイバー・ブレイン》! 三枚ドローするわ」
「またプレ殿……」
 容赦なく痛烈なカードパワーを叩きつけてくる沙弓。単純にアドバンテージに差をつけてくるカードゆえに、どんどん二人の優位性は広がっていく。
「……6マナで《デス・ブレード・ビートル》を召喚。《アクア・ブレイド》でシールドをブレイク」
「お? トリガーね、《サイバー・ブック》よ。カードを三枚引いて、手札を一枚、山札の下に戻すわね」
「……ターン終了ですー」
 バニラサポートはないが、それでもデッキの方向性はビートダウンなのか、ちまちまと殴る空護。沙弓のシールドは三枚まで減らしたが、代わりに手札を一騎に増強された。
 こちらはトップを投げるだけの作業。相手は潤沢な手札から好き自由な選択が可能。完全に主導権を沙弓に握られてしまった。
「私のターンね。5マナで《死海竜》を召喚よ」



死海竜 R 水/闇/火文明 (5)
クリーチャー:レインボー・コマンド・ドラゴン/エイリアン 12000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。



 あらゆる能力、打点すらをもパワーに変換したエイリアンの龍、《死海竜》。
 パワーしか取り得のないようなスペックだが、並大抵のクリーチャーではこのパワーには届かない。空護のクリーチャーは片っ端から殴り殺されることだろう。
「さらに4マナで《陰謀と計略の手》を唱えるわ。《デスブレード・ビートル》をバウンスして、直後にハンデスよ」
「ハンドが切れてるから、《獄門スマッシュ》の色違いじゃないですかー……僕のターンです」
 当然、殴り返しだけでなく、潤沢な手札から除去も撃ってくる。貴重な二打点が消えてしまった。
「《フェアリー・ライフ》……そのままチャージして、終了ですかねー」
「私のターン。呪文《ドンドン吸い込むナウ》を唱えるわ。山札の上から五枚を見て……お?」
 ここで疑似サーチ兼バウンス除去の《吸い込むナウ》は厳しい、
「いいカードじゃないの。《グラディアン・レッド・ドラゴン》を手札に加えるわ」
「! それは……」
「火のカードを加えたから、《アクア・ブレイド》をバウンス。そして2マナで呪文《ゴースト・タッチ》! その手札も落としてもらいましょう」
 バウンスの直後にすかさずハンデス。どうしても空護に手札をキープさせるつもりはないようだ。
 しかしそれよりも、空護は先ほど沙弓が手札に加えたカードに、気が行っていた。
「さらに3マナ《エナジー・ライト》よ。カードを二枚引いて、ターン終了」
 最後に手札を整えて、沙弓はターンを終える。
 マナは十分すぎるほどあり、手札も豊富。沙弓はこの対戦を掌握したも同然だった。
 一方、空護は手札がなく、マナも沙弓との差が開いている。
「こんな状況でトップ解決がすべてなんて、酷すぎでしょう……クリーチャーは全部バニラか準バニラですし……」
 愚痴るように呟きながらカードを引く。《フェーアリー・ライフ》だ。即座にマナに落とす。
「ターン終了です」
「動かないのね。じゃあ、そろそろ決めにかかりましょうか! 10マナをタップ!」
 沙弓は空護に動きがない隙を好機と見て、あらん限りのマナを支払う。
 そうして現れるのは、巨大であることの象徴。力の化身。
 限りなく始祖に近い巨竜。
 それが今、飛翔する。

「力こそパワーよ! 《グラディアン・レッド・ドラゴン》!」