二次創作小説(紙ほか)
- 番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て33」 ( No.477 )
- 日時: 2016/09/10 16:05
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
「あっれー……おかしいわね。絶対に勝ったと思ったのに……」
「絶対に勝ったは絶対に負けるフラグ……思っちゃいけない……」
「まあ正直危なかったですけどねー。盾に《シリウス》《ヘブンズ・ゲート》《スミス》《ダイヤモンド・カッター》と、逆転に必要なパーツが全部揃っていたのはわかってたんですけど、《シリウス》ブレイクされてから天門引かないと負けてましたからねー」
結局は運が良かっただけですよー、と言う空護。
しかし運で勝とうとも、勝ちは勝ちだ。トップの沙弓から削り取れたのは、上位を走る空護にとっては嬉しいだろう。
「でも、なんで最後に《シリウス》と《スミス》で殺しにかからなかったの?」
「トリガーで凌がれるのが嫌だったんですよー。エタトラで火文明を選んでおけばとりあず死なないと思ったので、トリガーで《スパイラル・ゲート》やら《デーモン・ハンド》やら踏んで止まらないよう、《スミス》と《ダイヤモンド・カッター》は出し惜しみしてました」
「ブロッカーは考えなかったんですか?」
「出されたら負けでしたねー」
「おい」
「……まあ、元がアウトレイジダッシュでしたし、見た感じブロッカーはいないだろうと踏んでましたよ」
流石にまったく考えていなかったわけではないが、出された時の対応ができたわけでもないので、出されたら負けというのは避けられなかっただろう。
一同は固まっていた。
四人のプレイヤーが、ジッと一点を見つめている。
「サンドイッチ、おいしい……」
「恋、俺のおにぎりもちょっとは食べてくれよ……冷めるぞ?」
「別に……冷めてもいいし……」
「酷い……」
「つきにぃのご飯は、冷めてもまあまあ……おいしい」
「恋……」
「暁のは、冷めても凄くおいしいと思うけど……」
「恋……」
「そこ。いちゃついてないで、ちゃんとこの大きな一戦を見届けなさい」
「あ、ごめん沙弓ちゃん。それで、レギュレーションはどうなったの?」
「ふふふ、まさかこれが引けるとは、嬉しい誤算だわ。今回は『ワンデッキデュエル:タワー』」
やたら楽しそうな沙弓。ゲームが始まってから大抵は笑っている彼女だが、そのボルテージがどんどん上がっている気がする。このゲームが終わる頃には、魔王のような高笑いをしているのではないだろうか。
「で、これどーするの? 四人が同じマスに止まったけど」
「だから四人用のレギュレーションなのよ、これは」
そう。
今回の対戦は、他の対戦とは一線を画す。
美琴、空護、浬、そして八。四人のプレイヤーが偶然にも同じマスに止まり、対戦が勃発したのだ。
「四人対戦とか嫌な気しかしないが……」
「『ワンデッキデュエル』は一度あったけど、『タワー』ってなにかしら?」
「確か最初の『ワンデッキデュエル』は、『リミテッド』、でしたよねー?」
リミテッド。事前に用意されたデッキを使用したが、あれは沙弓がハイランダーにするという点だけに気を配って作った、清濁併せ持つあらゆるカードのごった煮デッキ。
ならば今回の『タワー』というのも、デッキになにかしらの工夫がなされたレギュレーションなのだろうか。
「今回のレギュレーションでは、このデッキを使ってもらうわ」
と言って沙弓がドンッと差し出したのは、一つの巨大なカードの束。
『ワンデッキデュエル』でも使用した、ワンデッキだ。しかし、枚数は浬と八が対戦した時よりもずっと少ない。半分以下に見える。
「まあ、『ワンデッキデュエル』と称するからにはワンデッキを使うんだろうけど……」
「確かにこれはワンデッキだけど、正式にはタワーデッキというのよ。『ワンデッキデュエル:タワー』は、タワーデッキを使って対戦してもらうわ」
タワーデッキ。ワンデッキの種類の一つ、ということだろうか。それを使うから、レギュレーションの名前が『ワンデッキデュエル:タワー』ということか。
「タワーデッキは見ての通り、このどデカいデッキよ。『ワンデッキデュエル:タワー』は全プレイヤーがこのデッキからカードを引いて使うの。墓地とマナも共有よ」
「……リミテッドとほとんど同じじゃねえか」
「それが違うのよねー。まずマナ共有ってところが違うし、リミテッド版は適当なカードをぶち込んで作っただけだけど、タワーデッキはタワーデュエル用に調整されてるから」
つまり、この対戦のルールに沿って作られているということ。
デッキ、墓地、そしてマナが共有。人数は四人。通常のデュエマにおける根本的なところまで手が加えられており、確かに『リミテッド』の時よりも勝手は変わりそうだ。
「大体のルールはこんな感じよ」
『ワンデッキデュエル:タワー』ルール
・参加プレイヤーは四人。時計回りでターンを進める。
・デッキは約200枚のワンデッキを使用する。
・山札がなくなったら、墓地のカードをすべて山札に戻してシャッフルする。
・山札、墓地、マナゾーンは全プレイヤーで共有する。
・先攻ドローあり。
・最初の5ターンの間は必ず手札からマナチャージをしなければならない。
・カードの効果は原則として、プレイヤー一人、またはそのバトルゾーンを指定する。
・敗北したプレイヤーは、場のクリーチャー、手札をすべて破棄(墓地に置く)し、その後対戦に関与できない(破壊された時の効果などはすべて無効となる)。
・支払いはトップに対して下位の三人がそれぞれ支払う。
「カードの効果の影響範囲が気になるんだが……」
「それはここで事細かに説明する暇がないから、私がジャッジ代わりに逐一説明するわ」
「沙弓がジャッジ代わりって、不安しかないんだけど……」
「勝った場合の取り分がトップだけっていうのはわかりますけど、それぞれっていうのは?」
「下位の三人が、最初に指定された金額をそれぞれ払うのよ。今回の場合は700万デュ円。だからトップになれば、三位以下が700万ずつ支払って、2100万デュ円ゲットね。」
「勝てば手にはいる金が三倍になるのか……」
となると、いつも以上に対戦の重要性が高くなる。
これに勝つだけで、一気に大量のデュ円が手に入る。単純に収入が増えるのだ。悪いことはなにもない。
多人数ゆえに勝手がよくわからないが、それは全員同じ。如何にこの特殊なレギュレーションに適応できるかの勝負だ。
「それじゃあ、始めるか——」
順番は、美琴、空護、浬、八。
まずは美琴のターンから始まる。
「えっと、先攻ドローがありで、最初の5ターンはマナチャージしないといけないのよね。じゃあ、《コマンダー・ラッキーロトファイブ》をチャージ。終了よ」
「僕のターンですねー。《血風精霊ザーディア》をチャージして終了です」
「……俺のターン」
カードをドローし、手札を見る。
《未知なる弾丸 リュウセイ》《スカイ・ジェット》《傲慢の悪魔龍 スペルビア》《転生プログラム》《超速リベンジ・ドラゴン》《骨食怪人ボーン・リーパー》。
(なんだこの手札……)
思ったよりも色が固まっているが、妙に癖のあるカードばかりだった。
全プレイヤーにランデスを放つ《未知なる弾丸 リュウセイ》。敵味方関係なくスピードアタッカー化する《スカイ・ジェット》。勝てないデメリットを持つ《スペルビア》。手札を捨てなければならない《ボーン・リーパー》。
下手に使えば自分も被害を被るカードが多く、まだどのようなカードがあるかがわからない現状、軽々にカードは使えない。
(出せるとしたら《ボーン・リーパー》だが、手札を一枚捨てるデメリットつき……だが、《転生プログラム》で化けられる可能性を考えると、案外ありか?)
今は慎重にならなければいけないが、臆病になりすぎても、逆効果だ。
他のプレイヤーを出しぬかなければ勝てない。一歩先んじることが、この対戦では重要なはずだ。
「……《スペルビア》をチャージ。《骨食怪人ボーン・リーパー》を召喚。能力で手札の《未知なる弾丸 リュウセイ》を捨てる」
考えた結果、浬は《ボーン・リーパー》を召喚する。手札が一枚消えたが、どうせいらないカードだ。惜しくはない。
「ターン終了だ」
「自分のターンっすね。《キューブリック》をマナに置いて、終了っす」
ターンが一周した。ほとんど全員マナチャージのみで、動きを見せたのは浬だけだ。
美琴ターン
マナ:4
手札:5
場:なし
「このターンまでが、強制マナチャージだったわね。《コマンダー・イノセント》をチャージして……うーん」
美琴は手札を見て、悩んでいる。
悩んでいうということは、使えるカードがあるのだろうが、単純にアドバンテージを稼いだり、自分が有利になれるカードではないのだろう。浬のように、デメリットにもなりうるカードを持っているのだと思われる。
「なんか、出してもいいのかどうか悩ましいカードばかりだわ……一応出しておきましょうか。《牢黒の伝道師ミリエス》を召喚」
牢黒の伝道師ミリエス UC 光文明 (5)
クリーチャー:バーサーカー 2500
ブロッカー
このクリーチャーがバトルゾーンにある間、闇のクリーチャーを召喚するコストと闇の呪文を唱えるコストは、それぞれ+2される。
(闇メタか……自分にも影響を及ぼすが、このデッキの闇の比率が分からんからな……)
確かに、出すことを少しためらうカードかもしれない。浬の手札には比較的闇のカードが多かったので、先に《ボーン・リーパー》を召喚して正解だったかもしれない。
「僕のターンですねー」
空護ターン
マナ:5
手札:5
場:なし
美琴のターンが終わり、空護のターンが訪れる。
「じゃあ僕は、《ヴォルクラウザー》をチャージ。《ミリエス》でコストが2増えて、《センシング・ドラグーン》を召喚しますねー」
センシング・ドラグーン C 闇文明 (4)
クリーチャー:ティラノ・ドレイク 3000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から2枚を表向きにする。そのうちの1枚を山札の一番上に裏向きにして置き、残りを墓地に置く。
「山札を二枚見て……一枚を墓地へ」
墓地に落とされたのは《インフェルノ・サイン》。殿堂入り呪文で、このルールでも使い勝手の良さそうな呪文だが、墓地に捨てたということは墓地利用でもするのか——と、巡らせたところで気付く。
(……まさか)
浬ターン
マナ:6
手札:3
場:《ボーン・リーパー》
「…………」
引いて来たのは、《世紀末ヘヴィ・デス・メタル》。
明らかなはずれを掴まされた。
「《ヘヴィ・デス・メタル》をチャージ」
どうせ握っていてもまともに使えない。13マナも溜まるまでハンドキープするつもりはさらさらなく、とっととマナに埋めてしまう。
「3マナで《転生プログラム》! 俺の《ボーン・リーパー》を破壊」
浬は予定通り、《ボーン・リーパー》を転生させ、なにかしらの大型クリーチャーを狙う。
そこまで大型でなくとも、なにかアドバンテージを得られるようなカードが来れば、と思い、山札を捲る。すると、
「げ……《緑神龍ガミラタール》か……」
緑神龍ガミラタール R 自然文明 (4)
クリーチャー:アース・ドラゴン 6000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、相手は自分自身の手札からクリーチャーを1体選び、バトルゾーンに置いてもよい。
W・ブレイカー
《緑神龍ガミラタール》。コストに対しパワーの高いドラゴンだが、相手に踏み倒しをさせてしまうというデメリットを持つクリーチャーだ。それ以外は少しコストパフォーマンスの良い準バニラというだけなので、どんな大型でも出されてしまうデメリットが強烈すぎるため、普通は採用しない。
「この場合はプレイヤー一人を指定して、そのプレイヤーに踏み倒しをさせるからね」
「あぁ……」
浬は踏み倒しをさせる相手を選ばなくてはならない。誰がいいだろうか。
下手したらゲームを終わらせかねないフィニッシャーを出される可能性があるため、クリーチャーを握っていないか、握っていても小型クリーチャー、もしくはデメリット付きのクリーチャーしか持っていないようなプレイヤーが好ましい。それは誰なのか。
(確か黒月さんは、出すクリーチャーに悩んでいた。《ミリエス》の召喚も考えていたし、出せるクリーチャーはいるかもしれない)
あの思考は、他にも出せるクリーチャーがあったけれども《ミリエス》を出した、というようにも取れるし、手札に大型の闇クリーチャーを抱えているから、《ミリエス》を出しにくかったのかもしれない。もしくは、いざとなれば自分で《ミリエス》を退かす手段があるのかもしれない。そして、それはクリーチャーとは限らない。
(そうなれば焔さんか夢谷だな。手札枚数的には焔さんだが……)
手札の枚数が少なければ、その分、選択肢も狭い。強いクリーチャーを出されにくいだろう。
空護は既にクリーチャーを出しているので、さらにクリーチャーが増えるのは好ましくないが、単純に手札枚数が少ない方が、当たる確率が低いだろう。
「……焔さん、出していいですよ」
「ん、僕ですかー?」
「えぇ」
「そうですかー……それはどうも」
言って、空護は手札のクリーチャーを繰り出した。
「それじゃあ、出しますよー——《星龍グレイテスト・アース》」