二次創作小説(紙ほか)
- 番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て44」 ( No.488 )
- 日時: 2016/09/17 21:34
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「——はい、じゃあ私の勝ち。ハチ君から1200万デュ円徴収ね」
「自分の手持ち、残り900万デュ円なんすけど……破産っすね……」
「ハチくんも負けちゃいました……」
「ハチもこっちの仲間入りだねー」
モノポリー開始から、六時間ほど経過した頃。
一騎に始まり、暁、柚、八と、続々と脱落者が現れてくる。
残っているのは、いまだトップを走る沙弓、その後を空護、ミシェル、浬、恋、美琴の順で追っている形だ。
「3マス進む……う、また沙弓の土地ね」
「序盤の下積みがちゃんと効いてきたわね。美琴から400万デュ円を徴収ー。次はシェリーね」
「あたしはそろそろ疲れてきたんだが……えーっと、5マス進むのか」
ルーレットの指示に従って、マスを五つ分進むミシェル。進んだ気にあるのは、対戦マスだった。
対戦は、対戦前の準備、対戦中の思考、対戦結果による金銭の移動と順位変動など、1アクションに対して考えることが非常に多くなるため、労力がかかる。ミシェルにとっては、あまり踏みたくないマスだった。
しかし今回の対戦マスは、今までと少し違った。
「対戦マスかよ……ん? なんか他にも書いてあるな」
「『後方三人と四人対戦』? 人数指定があるのか?」
「少しだけね。えーっと、後方四人って言うと……」
まず、対戦マスを踏んだミシェル。
その後ろには浬、沙弓、そして恋がいる。
「厄介そうな奴ばっかりだな……まあいいか。とっととレギュを決めるぞ」
「せっかちねぇ。はいどうぞ」
沙弓に渡された箱から、レギュレーションの書かれた紙を引くミシェル。
四人対戦用のレギュレーションは、今までだと『ワンデッキデュエル:タワー』ぐらいしかなかったが、他にはなにがあるのか。
タッグマッチくらいなら覚悟しておいた方がいいだろうと思いつつ紙を開く。そこにそこに書かれていたレギュレーションは、
「『DM EDH』……? なんだこれ?」
「あぁ、それは『EDH(エルダー・ドラゴン・ハイランダー)』……通称、統率者戦よ」
「統率者……?」
まるで知らないレギュレーションだった。
ただし、エルダー・ドラゴンという名前だけは、ほんの少しだが、理解できる。
「エルダー・ドラゴンって……まさか、マジックのか?」
「元はそうね。計略デッキとかのギミックも、あれがモデルだったりするし」
「それで、統率者戦ってなんだ?」
「んーっとね、今はざっくりとした概要だけ説明するけど、統率者戦っていうのは、統率者を軸にしてデッキを構築するレギュレーションよ」
「その統率者っていうのはなんだ?」
「デッキを組む際に、統率者としてクリーチャーを一体だけ選択するのよ。いわばプレイヤーの相棒ね。デッキ構築の際は、デッキ枚数60枚、ハイランダーという制限の他に、選択した統率者が持っていない文明のカードは使えない、っていう制約もつくの」
「つまり、デッキの内容は統率者に左右される、ってことか」
「その統率者っていうのは、ゲーム前に公開するだけなのか?」
「まさか」
そんなわけないでしょう、と沙弓は悪戯っぽく微笑む。
「統率者は、統率者領域という別ゾーンに置いておくのよ。召喚する際は、手札にある時のように、普通にコストを支払って召喚するんだけどね。だからコスト軽減、増加、G・ゼロなんかの影響も勿論受けるわ。バトルゾーンを離れる時は統率者領域に戻せるから、何度でも出し直せる。ただし、一度統率者領域から出るたびに、召喚コストは2ずつ上昇していくわ」
「なるほどな……ということは、その統率者をどう扱うかが、鍵になりそうだ」
統率者は常に手札にあるようなカードなので、できるだけデッキの核になるようなキーカードを据えたいが、デッキカラーが統率者に左右されるので、その点も考慮しなくてはならない。ハイランダーという安定性を欠く構築に、統率者に左右される文明縛り。
強力な統率者を軸として、その文明に合わせるような構築が基本になるのだろうが、統率者を選択するだけでも考え物だ。何度も出し直すことを考慮して、低コストで出せるクリーチャーを選択するべきか。それとも、ハンデスなどの影響を受けず、常にハンドキープして好きなタイミングで出せる確実性を生かすべきか。
また、構築に頭を悩ませそうなレギュレーションだった。
「詳しいルールはこんな感じね。ちょっと複雑だから、ちゃんと目を通しておいてね」
『DM EDH』ルール
・参加プレイヤーは四人。時計回りでターンを進める。
・カードの効果は原則として、プレイヤー一人、またはそのバトルゾーンを指定する。
・勝利条件は、他のプレイヤーをすべて倒すこと。最後まで残ったプレイヤーの勝利とする。
・敗北したプレイヤーは、自身のカードをすべて場から除外する。ただし、バトルゾーンはプレイヤーに及ぼした効果は継続する。
・初期シールドは七枚。
・先攻ドローあり。
・デッキは「統率者」を含むメインデッキ60枚、超次元ゾーンは最大8枚のハイランダー(全カード一積み)構築。
・「統率者」に含まれていない文明のカードはメインデッキに入れることができない(無色カードは「統率者」の文明関係なく投入可能)。
・ゲーム開始時に「統率者」として選択したクリーチャーを「統率者領域」に置く。
・「統率者」は通常通り規定のコストを支払うことで、「統率者領域」から召喚できる。
・「統率者」の召喚タイミングは、通常の召喚タイミングが適用される。
・「統率者領域」から「統率者」を召喚するたびに、「統率者」のコストは2ずつ上昇する(この上昇コストは累積する)。
・「統率者」がバトルゾーンから離れる時、「統率者」を「統率者領域」に戻すことができる。
・「統率者」が相手プレイヤーを攻撃してブロックされなかった時、デッキからカードを一枚引くことができる。
・支払いはトップに対して下位の三人がそれぞれ支払う。
沙弓に示されたルールを見て、ふと浬が尋ねた。
「部長。カードの効果とゲームのルールがかちあった時は、どちらが優先されるんだ?」
「え? そりゃあ、カードの効果でしょうね。召喚酔いっていうルールは、スピードアタッカーっていう効果に上書きされて、後者が優先されるわけだし」
「そうか。なら、カードに書いてある効果であれば、ルールは無視できるんだな」
「? まあ、乱暴に言ったらそうなるかしら……?」
念を押すように問い詰める浬。いまいちその意図は掴みかねるが、沙弓は答えた。
「そうか……なら、大丈夫だな」
最後にそう言うと、浬は自らのデッキ構築に戻っていった。
やがて、ミシェルが対戦を起こしてから、順番が一巡した。
全員デッキは組みあがり、対戦が始まる。
各々が自分の相棒として選んだ統率者。
パートナーとの連携を魅せ、頂点に立つのは、誰になるのか——
対戦が始まる。まずは通常より二枚多い、七枚シールドを展開し、手札を五枚取る。
そして、統率者領域のカードが公開され、各人の統率者が明らかとなる。
浬
統率者《龍素記号IQ サイクロペディア》
ミシェル
統率者《超神星グランドクロス・アブソリュートキュア》
沙弓
統率者《死海竜》
恋
統率者《星龍グレイテスト・アース》
「浬君は《サイクロペディア》か。浬君らしいチョイスだね」
「でも、60枚のハイランダーで青単……単色は基本的にビートのカラーですし、構築段階で辛そうですけどねー」
「沙弓は青黒赤カラーで予想通りだけど、四天寺先輩は、アブキュア……?」
「恋って火文明単色じゃなかったっけ? 《グレイテスト・アース》って、五色レインボーだよ?」
四人がそれぞれ選択した統率者。それだけでデッキカラーが分かるのだが、それ以外にも、選択された統率者に首を傾げる。
60枚ハイランダーというビートには不向きのレギュレーションでありながらも、ビートダウン向きのスペックを持ち、そのうえデッキカラーを単色にしてしまう《サイクロペディア》を選んだ浬。
あまりメジャーではない文明の組み合わせである白赤緑カラーに加え、比較的マイナーどころにあるフェニックス《超神星グランドクロス・アブソリュートキュア》を選んだミシェル。
赤単速攻だったはずが、いつの間にかビートダウンではありえない五色デッキを構築する、五文明を併せ持つ大型ワールド・ドラゴン、《星龍グレイテスト・アース》を選んだ恋。
この三人が、寄って集って異彩を放っていた。
そのせいか、トップを走り余裕をかましていた沙弓が戸惑っている。
「なんか皆の統率者が意外過ぎるのだけれど……カイの青単はまだマシとしても、シェリーは白赤緑だし、れんちゃんに至っては赤単速攻とはまるで関係ない五色クリーチャーって……私も、もっと変な統率者連れて来ればよかったわ」
「別に意外性の勝負をしているつもりはないんだがな」
むしろ、沙弓がわかりやすすぎるのかもしれない。
ここまで、沙弓はほとんどの対戦において、青黒赤の除去コントロール、または中速ビートを使用している。今回もその文明に合わせるためなのか、統率者は準バニラの《死海竜》だ。
予想通りのデッキカラーである。
「なーんか出だしから負ける気分ね……まあいいわ。始めましょう」
対戦の準備は完了し、いよいよ対戦が始まる。
統率者に先導され、統率者を操りて戦う、『DM EDH』——対戦開始だ。