二次創作小説(紙ほか)
- 番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て51」 ( No.499 )
- 日時: 2016/10/01 13:07
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「——むぅ……」
「ふぅ。これでなんとか、れんちゃんも脱落させたわね」
だいぶ日が傾いた頃。五人目の脱落者として、恋が破産した。
これで残りは、沙弓、浬、ミシェル、空護、美琴の五人となる。
ちょうど、半数まで人数が減った。
「さぁ、ここで人数が半分になったから、追い込み戦になるわよ!」
「なんだよ、追い込み戦って」
人数が半数になると追加される特別ルールらしい。そういうルールは最初に言っておけ、と注意する気も、もはや起きなくなっていた。
「追い込み戦のルールは単純よ。ここからは一気にゲームを加速させるわ。対戦におけるお金の移動額が、1〜6倍になるの」
「1から6倍?」
支払額が増えることは予想できたが、その幅が奇妙だった。
2倍、3倍ではなく、1〜6倍という振れ幅は一体どういう意味なのか。
「対戦で支払額を決めた後、サイコロを振って、出た目の数字を支払額にかけるのよ。つまり、サイコロで2が出たら2倍、3が出たら3倍って具合にね」
「最高で6倍まで支払額が加算されるのか……恐ろしいな」
1倍で加算額がゼロの場合もあるとはいえ、2倍になるだけでもかなりの痛手だ。最高額の6倍になろうものなら、下手すれば一撃で破産しかねない。
ここからは、より一戦一戦の重要度が増すことになるだろう——
「——とか言ってるそばから、四人も対戦マスを踏むなよな……」
「まあ、仕方ないですよねー」
「不可抗力です」
「面白いじゃない」
人数が半数になった途端、ミシェル、空護、浬、沙弓の四人が同じマスに止まり、四人対戦が勃発した。
「私だけ外された……」
「まあ仕方ないわね。それじゃあ、引くわよー」
沙弓が例の箱から、レギュレーションを決めるために紙を引く。
四人対戦で行うとなれば、今度はなんなのか。タッグ戦や単なるバトルロワイヤルなら割合マシだが、また『EDH』のような特殊ルールになると面倒だ、と思いつつ、成り行きを見届ける。
そして、沙弓が引いたレギュレーションは、
「……最高に面白いものを引いたわね。今回のレギュレーションは、『計略デュエル:魔王戦』よ」
「また計略デッキを使うのか? だが、魔王?」
『計略デュエル』は既に一度行っている。しかし今回は、『魔王戦』と銘打たれている。
響からして、嫌な予感しかないが、諦めるしかなかった。
「じゃあ、対戦前にじゃんけんしましょう」
「じゃんけん? 先攻後攻を決めるものじゃないよな?」
「違うわ。単なるチーム分けよ。最終的に勝った人が一人だからね」
「?」
沙弓の言っている意味がわからない。しかし、まともに説明しないまま、じゃーんけーん、などと言い始めて、慌てて各々が手を出す。
結果。沙弓一人がチョキで、残りの三人がパー。沙弓の一人勝ちだった。
「ふふふ、私が魔王ね」
「だから魔王ってなんだよ」
「じゃあ説明するわ。『計略デュエル:魔王戦』。これは三人以上限定の特殊レギュレーション。今回は四人だから、四人のうち一人が魔王、他の三人は愉快な勇者と仲間たちという設定よ」
「……一対三ってことか?」
「そゆこと。ターン進行も、魔王側と勇者側って分かれて、勇者側は三人で同時進行よ」
変な設定は単なるイメージだとして、要するにこれは多数対一人の対戦であることがわかる。
魔王が一人で、勇者はパーティーを組んで複数で戦う。RPGの王道的展開から着想を得て、このような名前なのだろう。
今回の場合は、沙弓が魔王として一人で戦い、浬、空護、ミシェルの三人が勇者一行という設定になる。
「タッグマッチとか、バトルロワイヤルとかは考えていたが、まさか複数人で一人をボコるのかよ。シールド枚数とかで多少の差をつけても、流石に三人相手に一人はきつくないか?」
「あらら、シェリーもう忘れちゃったの?」
「あん?」
「これは『計略デュエル』よ。だから当然、計略デッキが使えるわ……私だけね」
「あ? ……あぁ、成程な」
細かいルールはわからないが、人数の差は、例の計略デッキによって埋める。
前回の『計略デュエル』は、なにが起こるかわからない、常に盤面に影響を及ぼすパンドラの箱のようなものだったが、今回は沙弓だけが計略デッキを用いることで、人数で不利な状況を覆すということなのだろう。
いや、むしろ沙弓が有利になるくらいの調整かもしれない。なにせ、魔王なのだから。
「もう少し細かい説明をするわね。『計略デュエル:魔王戦』は、一対複数人の特殊レギュレーションで、魔王側のプレイヤー一人に対し、勇者側のプレイヤーは複数、今回は三人ね。この組み合わせで対戦するわ」
「それはさっき聞いた」
「流れとして順番に言ってるだけだから。一応、確認も含めてね。それで、シールド枚数は、魔王側が七枚。勇者側は、今回の人数は三人だから、一人五枚ね」
二人の場合は七枚になるんだけどね、と沙弓は言う。
「で、ここからがこのレギュレーションの肝よ。魔王側は、ハンデとして計略デッキが使用可能なの。計略デッキのルールは、個人戦の時と同じ。毎ターンの始めにトップを捲って、そのカードは強制発動よ」
だが今回は、魔王側のハンデのための計略デッキだ。個人戦の時のように、自らにデメリットを振りかけるようなカードはないはず。
つまり沙弓は、毎ターン有利な恩恵を受けることが可能なのだ。
「大体のルールはこんなもんね。それと、魔王戦における、魔王様からのささやかな温情よ」
「ん?」
「この計略デッキは、魔王側のプレイヤーが使用するデッキカラーと一致しなくてはならず、最初にデッキカラーを公開するわ。つまりあなたたちは、最初から私のデッキにどの文明が入っているのかを知ることができるってわけ」
「へぇ……」
デッキカラーを最初に知れる。これは大きな情報アドバンテージだ。
沙弓は最初に宣言したデッキカラーでデッキを組まなければいけない制限が生まれるが、逆に勇者側は、魔王のデッキカラーから推察されるデッキタイプを予想して、メタを張ることができる。
これも、魔王の弱点を探って戦うRPGになぞらえているのだろうか。
「でも、そのデッキに含まれているカードでも、その文明のカードがデッキに一枚しか入ってなければ、そこは反映されないわ。二枚以上入って初めて、その文明を使っていると言える」
「つまり、青黒デッキに《ハヤブサマル》をピンで入れても、計略デッキは白青黒にならず、青黒のままということか」
ピン挿しはOKというルール。これも、気に留めておいた方がいいのだろう。
必ずしも、シノビだけがピン挿しで活用されるとは限らないのだから。
そんなことを考えていると、沙弓が早速、自分のデッキカラーを発表する。
「と、いうわけで。私が使用する計略デッキはこれよ! [計略デッキ:魔王クローシス]!」
ババン! と効果音を鳴らしたそうに、計略デッキを掲げる沙弓。しかし、周りからの反応は冷ややかだった。
「……デッキカラーは青黒赤、ということでいいのか?」
「その解釈でオーケーよ」
その反応をある程度予想していたのか、沙弓も特になにも言わなかったが。
「あ、そうだ。言い忘れてたけど、この対戦での支払額は、ちょっと変わるから」
「変わる? どう変わるんだ?」
「魔王側が勝った場合、支払いは勇者側のプレイヤー全員が、最初に決定された額をそれぞれ払うこと」
「つまり、魔王の手に入る収入は、単純に三倍になるわけか」
これは今までの複数人の対戦と同じだ。トップ総取りの法則である。
だが今回は、四人の個人戦ではなく、個人戦はあくまでも魔王のみ。勇者側はチーム戦なのだ。
当然、支払い方も変わってくる。
「魔王側は大きな変化はないけど、勇者側の場合は話が変わるのよね。勇者側のプレイヤーが勝った場合、魔王側のプレイヤーは、勇者側のプレイヤーそれぞれに決定された額を払わなければならないわ」
「えっと、つまり、仮に100万の支払額だとすると、魔王は負けたら勇者側のプレイヤーに100万ずつ支払う——三人いれば、合計で300万の出費になるわけか」
「魔王は三倍の収入を得られる代わりに、負けたら三倍の支出になるということですかー。ハイリスクハイリターン、ですねー」
四人分の金銭が移動するだけあって、かなり大規模な対戦を予感させる『計略デュエル:魔王戦』。
だが、今回はそれだけではない。
ゲーム参加者の総数が半数以下の今は、追い込み戦。支払額がサイコロの出目によって、さらに上乗せされる。
沙弓がサイコロを振る。カラカラと音を立て、一つの数字を示した。
「出目は……6よ」
支払額は6倍。
よりにもよって、最高額を引き当てた。
魔王からすれば、勝てば元の18倍の金額が支払われ、逆に負ければ、18倍の支出となる。
一撃でプレイヤーを破産まで導きかねない。この一戦がトップを走る沙弓の行く末を左右すると言っても過言ではない、大きな一戦となる。
「……デカいなぁ。これは流石に、負けられないか」
「ですねー。いつまでもトップを走られると、困りますからねー」
「そろそろ、部長にも退場してもらわないとな」
ミシェル、空護、浬の三人が結託して、魔王たる沙弓に挑む。
『計略デュエル:魔王戦』。ラスボスとの戦いの火蓋が、切って落とされた。