二次創作小説(紙ほか)
- 番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て56」 ( No.504 )
- 日時: 2016/10/10 23:13
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「——というわけで、モノポリーデュエマ大会、優勝者は焔空護君に決定!」
「ありがとうございますー」
わー、ぱちぱちぱち!
「……いや、どういうことだよ」
「そういうことよ。あなたたちも途中経過は見てたでしょう?」
「確かに見ていたが、なにか端折ってないか……?」
「大丈夫よ。そうだとしても問題はないわ。仕方のないことだもの」
「またわけのわからないことを……」
もう少し詳細に経過を説明すると、『魔王戦』が終わってすぐ、まず沙弓が破産した。
当然と言えば当然だ。一撃で元の出費の18倍もの金額を失ったのだから、一気に最下位まで落とされるのは必然であった。それからの復帰も、他のプレイヤーが必死で阻止し、結果、脱落。
その後は小さな、ちまちまとした資金のやり繰りと、ささやかな対戦ばかりで、絶妙な競り合いを制したのが、空護だったというだけだ。
「最後の方はもう運が良かっただけですけどねー」
「でも焔君、資金繰りは上手かったよね」
「まあ、仮にもひづき先輩から直々にうちの会計任されたわけだしな」
と、いうわけで。
二日目、レクレーション。オリジナルデュエマモノポリー、『人生はゲームだ! 生涯はデュエマだ! 目指せデュエリスト頂点! ゲーム』は、終了した。
「いやー、たっぷり遊んだ後のお風呂は最高ねー」
「こっちはもう満身創痍の疲労困憊だ……そんな気楽な気分には浸れないっての……」
モノポリーが終わった時点で、時刻は午後九時を回っていた。なので一同はそのまま風呂へ。今回は、女子が先だった。
「それにしても、何時間やってたんだよあのゲーム……一騎が初っ端でリタイアしてなかったら、一日かけても終わらなかったんじゃないのか……?」
「その可能性は否定できないわね」
「こいつ……!」
こともなげに言う沙弓に、小さくない怒りがミシェルの中で湧き上がる。
「そういえばシェリー。ずっと気になってたんだけど」
「ん? なんだよ」
「シェリーって、まったく胸ないわね」
ブンッ!
と、風を切る音が響いた。
「お前も大して変わらないだろうが!」
「おっと!? 拳が飛んでくるのは予想外ね……!」
間一髪でミシェルの拳を避ける沙弓。完全に顔面を狙ったストレートだった。
沙弓は(当然だが)ミシェルの逆鱗に触れてしまったようで、拳を握り締めて、沙弓を射殺さんばかりの眼光を煌めかせている。どう宥めようか思案していると、
「二人とも……お風呂で暴れないでくださいよ」
そこに、美琴が仲裁に入った。
「沙弓、わかってて人を挑発しない」
「ちょっとした軽いジョークのつもりだったのよ。思ったことがつい口から出ちゃったわ」
「てめぇ!」
「だからそういうことを言わないの……四天寺先輩も、落ち着いて。沙弓の言うことにいちいち腹を立ててたら、憤死しますよ」
「私そこまで人を挑発した覚えはないのだけれど」
「とにかく、二人とも落ち着いて。あそこの下級生たちを見習ってください」
と、美琴は少し離れたところで湯に浸かっている、暁、恋、柚の三人を指さす。
三人はそれぞれを点として結ぶと三角形になるような配置で浸かっており、顔の向きが暁→柚、恋→暁、柚→恋という方向になっていた。
「あー……ゆずの裸はいつ見ても落ち着くなー……」
「ん……あきらの裸は私に活力を与えてくれる……眼福……」
「こいちゃん、あんなにやせてて、だいじょうぶなんでしょうか……?」
そして、それぞれの考えていることが、口から漏れ出ている。
「なに、あの三竦み的な視線のトライアングル」
「あれはあれでヤバい気がするぞ」
あそこの三人はそっとしておく、もとい、触れないようにしておく。上がる時に一声くらいはかけるつもりだが。
とりあえず、先ほどまでの怒りと興奮は冷めたようで、二人はまた大人しく湯に浸かる。
「まあいいか……それにしても、もう合宿も明日で終わりかぁ。楽しい時間は一瞬ね」
「いつまでも楽しんでばかりじゃいられないからな。こっちはまだ溜まってる業務もあるしな」
「真面目ねぇ、シェリーは……で、業務って?」
「色々だ。生徒会の奴らに押し付けられた雑用とか、学祭の準備とか……あとは、引き継ぎもあるな」
「引き継ぎ? 引き継ぎって、引退のってこと?」
「あぁ」
「そっかぁ。シェリーも三年生だものね。もうすぐ引退なのか」
「そう言うお前は二年生だったな。あたしの方が年上だぞ、敬語を使え」
「善処するわ」
「してねぇだろ」
一応、そう言い返すが、沙弓には効果がないとわかっているので、それ以上は言わない。言っても無駄だ。
「で、どっちなの?」
「なにがだ?」
「そっちの部長よ。シェリーと、一騎君も三年生で、来年は卒業でしょ?」
「うちは中高一貫だから、高等部に行くだけだけどな」
「あ、そうなの。でも部活は引退でしょ?」
「まあな」
烏ヶ森学園は中高一貫校。主に使用する校舎こそ変わるが、在籍する場所としては、ほぼ変わりない。中等部から高等部に移るだけだ。
それでも、部活単位で見れば、引退することに変わりはない。沙弓は烏ヶ森の部活動のシステムは知らないが、高等部に移れば、中等部での部活に在籍できないだろうことは予想できる。
「引退すれば、いわゆるOBOG扱いだな。顔は出せるけど、業務に手出しはできない」
「なーるほどねぇ……二人が引退ってことは、今の二年生のどっちかが部長になるんでしょうし、どっちがなるのかしらね」
「どうだろうな。それ、一騎とも揉めてるんだ。揉めるというか、悩んでるというか」
「私はどっちにも任せられると思うけどなー」
「それが問題なんだよ」
はぁ、と溜息を吐くミシェル。
「あたしも、黒月だろうと焔だろうと、来年のことは任せられるんだが……どっちか選べと言われると、どっちがいいとも言えないんだよなぁ」
「どっちもいいじゃない」
「同時に、どっちにも問題があるな」
沙弓の言葉に間髪入れずに切り返すと、今まで黙っていた美琴が口を開いた。
「私、そんなに問題ですか?」
「そこまでじゃない。ただ、我の強いお前がトップにつくと、独裁になりそうな気がするんだよな……独裁というか独立、いや、孤立か……?」
「そんなことは……」
「譲歩って言葉を知らないからな、お前は」
「むぅ……」
自覚があるのか、不服そうな表情こそ見せるものの、美琴はなにも言い返さない。
「まあ、焔に任せるより、幾分かは黒月に任せた方がいいんじゃないかとあたしは思ってるんだが……」
「それはどうして?」
「焔にこの話をした時「先輩方が言うならやりますけど、黒月さんの方がいいんじゃないですかねー」とか言ってたからな」
「本人の意向を汲み取る、と」
「いや、できるだけ責任を負わないように立ち回る奴にトップは任せられないってことだ。嫌でも責任を背負わなければならないからな、組織の長っていうのは」
辛辣な物言いだった。しかし、部の長を決める大事な選択だ。少しでも懸念や不適切な点があれば、それも考慮に入れなければならないのだろう。
「ま、あいつは有能だし、いざという時は責任もしっかり背負える奴だとは思うがな。だからどっちかっていうと、本人の意向によるところが大きいかもしれない」
「大所帯は大変ねぇ」
「別に多くはない。むしろ人手不足だ」
「でも、規模とか知名度はうちの比じゃないでしょう? うちは地味で閉鎖的な部だから、あんまり責任とか、小難しいことは考えないのよね」
「羨ましい限りだな」
「でしょう?」
「ドヤ顔するな。ウザい」
したり顔を向けて来る沙弓を押しのけつつ、ミシェルは背中を後ろに預けて、吐き出すように呟く。
「ま、どこかではしっかり決めないといけないんだろうけどな……どうするか——」
「お風呂あがったわよー」
それからしばらくして、女子たちは風呂から上がってきた。
それに合わせて、男子たちも各々が準備していたものを持って、浴場に向かおうとする時、
「一騎」
「ミシェル? どうしたの?」
ふと、ミシェルが一騎を呼び止めた。
「話がある。風呂あがったら、ちょっと来い」
「? いいけど……」
それだけ言うと、ミシェルはスタスタと女子部屋に戻って行ってしまう。
「どうましたかー?」
「いや……なんでもないよ。行こうか」
なんとなく、ミシェルの考えは察しがついた。
ちょうどいい時、なのかもしれない。
「これも合宿効果かな、なんて」
小さく、一人で冗談めかして言う一騎。それっきり、彼は口をつぐんだ。
風呂を終え、食事も終え、床に着き、眠りに落ちる。
そして、東鷲宮と烏ヶ森。二校の合同合宿の最終日が、訪れる——