二次創作小説(紙ほか)

番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て1」 ( No.506 )
日時: 2016/10/15 07:31
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「皆さんお待ちかねの三日目がきたわ」
 三日目にやること。それも事前に知らされていた。
 二日目のモノポリーなんかよりも、よっぽど具体的で、わかりやすいことだ。
「じゃあ、始めましょうかね——東鷲宮と烏ヶ森、二校混合のトーナメントを!」



 二校混合トーナメント。これが最終日の予定で、今回の合宿の目玉、らしい。
 内容はいたってシンプル。東鷲宮から沙弓、浬、暁、柚の四人が、烏ヶ森から一騎、ミシェル、美琴、空護、八、恋の六人が出て、トーナメント戦をするのだ。当然、デュエマで。
 なぜこんなことをするのか。優勝したらなにがあるのか。そんなことも聞かれたが、沙弓は決まってこう返した。

「最強を決めるのに、理由なんていらないわ」

 というのが、遊戯部の部長としての言だった。
 モノポリーの時もそうだったが、沙弓は順位がつけられる遊び、物事に対して、賞品というものを付けたがらない。純粋に楽しみたい、純粋に競い合いたい。そんな意識の現れなのか、得られるものは結果のみ。
 それは皆に対する信頼があってのこと。むしろ、ゲームに望む基本理念とも言える。本気にならず、勝ちを目指さないゲームに価値はないし、面白くもない。参加者が全力で望むという前提があってこそ、ゲームは楽しいものになる。
 だから沙弓は、全員がそれを理解していると、その理念に則ってくれると信じているからこそ、なにも賞品を用意しなかったのだろう。
「トーナメントはいいが、部長。ここには十人しかいないぞ」
 普通の勝ち残り式のトーナメントにするなら、四人、八人、十六人、三十二人の区切りで人数を用意しなくてはならないが、ここにいるのは十人。なんとも半端な人数だ。
「そこは考えてあるわ。人数に関してはもうどうしようもないから、変則的にシードを設けることにしたの」
 トーナメント戦であれば、シードを設けることはおかしくない。しかし、彼女の“変則的”という言葉が気にかかる。
「まず一回戦は、全員に戦ってもらうわ」
「そうなると人数が半分の五人になるな」
「そうね。そこで二回戦シードのブロックに入った人は、二回戦が免除されることになるわ」
「二回戦シード?」
 ただのシードではないのか、と聞き返すと、沙弓は頷いた。
「えぇ。今回のトーナメントには、二回戦シードと三回戦シードのある、二つのブロックがあるわ」
 つまり、二回戦シードのブロックで勝ち進んだ者は二回戦免除、三回戦シードのブロックで勝ち進んだ者は三回戦が免除になるという仕組みだ。
「ただし、二回戦でシードブロックだった人が、三回戦でのシードブロックになることはないわ。逆もまた然りね」
「ブロックごとでシード権が発生するなら、そうなるだろうな」
「そして、三回戦を勝ち抜いた人と、そのシードブロックの人で決勝戦ね」
「決勝含めて全四回戦あるが、ブロック次第では三回で優勝か」
「逆に、四回勝たないと優勝できない人も出てくるわけだね。ちょっと不公平だけど、人数の問題があるから仕方ないか」
 沙弓としても、できるだけ対戦回数は平等に設けたかったのだが、運も実力のうちということにして、このような形を取った。
「まとめると、トーナメントブロックはABCの三つ。Aブロックが四人で、三回戦のシード権が得られるブロックになるわ。一、二回戦を勝ち抜けば三回戦は免除ね」
 Aブロックは三回戦シード権を得られるブロック。三回戦まで勝ち抜ければ、三回戦は免除だ。
「次にBブロックも四人で、ここのブロックはシード権なしよ。四勝しないと優勝できないわ」
 Bブロックは最も対戦回数の多いブロックで、シード権はなし。優勝するには一回戦から決勝戦までの四試合すべてに勝たなくてはならない。
「最後にCブロック。ここは唯一、二人だけのブロックで、二回戦のシード権があるわ。一回戦に勝てば二回戦は免除、そのまま三回戦よ」
 Cブロックは人数の問題で、二人だけのブロックとなる。一回勝てば、二回戦は免除。しかし、三回戦、決勝戦と勝ち上がってきた強者と戦わなくてはならない。
 もっとも、実力に関しては全員侮れない相手となっているので、誰が対戦相手でも、気は抜けないのだが。
「ちょっと複雑ね」
「まあ、表にしたらすぐにわかるわよ」
 文字だけで表にしようとすると、アスキーアートみたいになりそうというか、作るのが面倒なので、文章だけで記します。
「なんか今、変な声聞こえなかった?」
「気のせいじゃないんですか?」
「気にしなくても、いいと思う……」
「そっかなぁ。まあ、二人がそう言うなら、いっか」
「じゃあ早速、順番をくじ引きで決めましょうか」
 例によって例の如く、沙弓はあらかじめ作っておいたくじ引き用の箱をどこからともなく持ってくる。
「順番はどうしようかしらね……まあ誰でもいいし、昨日のモノポリー勝者の空護からにしましょうかね
「……焔。お前、いつからあいつとあんな馴れ馴れしくなったんだ?」
「さぁ……? 昨晩くらいですかねー。気付いたら名前で呼ばれてましたよー」
「私もそんな感じだったけど、なんなのかしらね、沙弓って」
「部長はとにかく馴れ馴れしい奴だからな……気にしたら負けです。そういうもんだと受け入れるしかないですよ」
「俺は沙弓ちゃんの、誰とでもすぐに打ち解けられるところは、凄いと思うけどな」
「私のことはいいから、早く引いてくれないかしらね?」
 やや困り気に、というより、少しばかり頬を染めている沙弓。彼女にしては、珍しい反応だった。
 沙弓に言われて、と素直に従ったわけではないのだろうが、空護はどこかにやけた顔つきでくじを引く。引いた紙を開くと、そこには『B—1』と書かれていた。
「『B—1』ってことは、Bブロックの一番目ね。空護はBの1、と」
 また、どこからともなく取り出したホワイトボードに、簡単にトーナメント表を書くと、左から五番目、ちょうど真ん中の位置に、『くうご』と書いた。
「Bブロックってことは、四戦組ですかー。ちょっと残念ですねー」
「じゃあ次、空護から……反時計回りでいいわよね」
「なんで反時計回りなんだよ」
「まあまあ、いいじゃない。くじの順番なんて。さっさとトーナメント表を作っちゃうわよ」
 と、沙弓に催促されながら、各人がくじを引いて、各々の名前をトーナメント表に埋めていく。
「——これで、皆くじを引いたかしらね」
 ぐるりと一周し終えると、トーナメント表、一回戦の対戦カードが決定する。
 第一回戦の対戦カードは、
 Aブロック、一回戦が暁と八。二回戦が一騎とミシェル。
 Bブロック、一回戦が空護と美琴。二回戦が浬と柚。
 Cブロック、一回戦が沙弓と恋。
 以上のような組み合わせとなった。
「これで決まりね。それじゃあ、早速始めましょうか」
 こうして、三日目、二校合同トーナメントの幕が下ろされる。