二次創作小説(紙ほか)

番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て5」 ( No.510 )
日時: 2016/10/18 20:21
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「惜しかったわね、シェリー」
「自分の切り札に足元をすくわれたのは悔しいところだが、それ以上にきっちり詰められたから、仕方ないと割り切る」
「詰め?」
「最後のターン、一騎君は《ガイグレン》で《5000GT》を攻撃しなかったでしょう? あれは、意味があってあえて攻撃しなかったのよ」
「そうなの? 一騎さん」
「うん……まあね」
 一騎は頷く。
「選ばれて破壊されるなら、《5000GT》も一緒に破壊できるし、それならターンを返す危険性を少しでも減らしておきたかったんだ」
「それで、あえて《5000GT》を生かして、《デス・ハンズ》を止めたんですねー」
「《チャケの応援》や《オドル・ニードル》は考慮しなかったんですか?」
「マナや墓地に一枚も見えてなかったから、それらは切ってると判断したよ。それよりも《デス・ハンズ》の可能性の方が高いかなって……もしあったら、負けてたけどね」
「事実、その通りだからな。隙なく詰められた」
 最後の最後まで気を抜かず、ほんの少しでも残った逆転の可能性さえも潰す。
 そのためなら、時として相手の切り札さえも、生かしておく。
「さて、これでAブロックの対戦は全部終わったわね。それじゃあ、次はBブロックの対戦よ」
 Bブロックは、シード権のないブロック。一回戦に勝っても二回戦があり、そして、このブロックを勝ち抜いた者が、Cブロックから出て来た者と戦える。
「Bブロック一回戦は、空護と美琴ね」
「また烏ヶ森どうしか。偏ってるな」
「くじの結果だから。仕方ない仕方ない」
 本当なら、二校合同ということなので、普段は見れないような対戦組み合わせが期待されていたのだが、五組中、三組は同じ学校どうしの対戦カード。二組は違うが、それでもそのうちの一つが、沙弓と恋の対戦なので、いまいちいつもの面子、という印象が拭えなかった。
「そう考えると、最初の暁とハチ君の対戦カードは、意外と見物だったのかもね」
「意外とってなに!?」
「こっちだって真剣だったんすよ!」
「わかってるわかってる、そういう意味じゃないから。とにかく、空護、美琴、次お願いね」
 と、次の対戦を二人に促す沙弓。その言に応じて、二人は対戦準備をする。
 その時だ。ふと、一騎が二人に声をかけた。
「あ、二人とも。対戦前にちょっといい?」
「どうしたんですかー?」
「対戦する前に、二人に伝えておきたいことがあってね……伝えたいことというか、なんというか」
「なんか歯切れ悪いですね。なんですか、はっきり言ってください」
「簡単に言えば部長及び副部長命令だ」
 口ごもる一気に代わるかのように、ミシェルが言い放った。
 そして、畳み掛けるように続ける。
「内容は難しいものじゃない。少し、お前たちの対戦に限って付加価値をつけるだけだ」
「付加価値……? 嫌な響きなんですけど」
「その内容ってのは、なんですかー?」
「うん、それはね——」
 一呼吸おいて、一騎は二人を見据える。
 そして彼は、宣言した。

「——この対戦で勝った方が、次期部長だよ」

『!?』
 声にならない叫びをあげる二人。さしもの二人でも、驚愕は避けられなかった。
「ど、どういうことですか?」
 思わず美琴が聞き返す。それに対して、ミシェルは淡々と答えた。
「そのまんまの意味だ。Bブロック一回戦。お前たち二人の対戦で、勝った方が、うちの部の次期部長だ」
「こんなことで部長を決めてもいいんですか!?」
 さらに声を荒げる美琴。
 次期部長。その言葉の意味は、誰でも理解できるだろう。
 次の代の長を、この場で決める。彼は、彼女は、そう言ったのだ。
 程度差こそあれど、どのような組織であれ、そのトップというのは重要なポジションだ。軽々しく決められるものではないし、現に一騎とミシェルはずっとそのことについて頭を悩ませていた。それは美琴も空護も知っている。
 だからこそ、この場でその話が出て来たこと。そして、部長という重役をこの場で決めることに驚きを隠せないし、抵抗もある。
 しかし、彼らはそうは思っていないようで、
「俺はいいと思うよ。正直、黒月さんか焔君か、どちらかを選ぶことはできない。どっちも部長に相応しい素質を持ってると思うんだ」
「その考えにはあたしも概ね同感でな。だから決めるなら、本人同士で決めさせようと、以前から話していたんだ。そこで、これだ」
 などとのたまっている。
「昨日、ミシェルから話を受けてね。どっちでもいいなら、どうでもいい方法で決めようってことになったんだ」
「それはわからないですー」
 なにはともあれ。
 一騎とミシェルの意向としては、この合宿の、このトーナメントで、なかなか決められない次期部長を決めてしまおう、という魂胆のようだ。
「ちょっと、その決め方はどうなんでしょう……」
「つべこべ言うな。部長と副部長の決定なんだ、お前らに拒否権はない」
 反抗の意志を見せる美琴だが、即座にミシェルに一蹴される。
「どうにも頑なですねー、四天寺先輩。どうしましょう? 僕は構わないですけど」
「どうもこうも……剣埼先輩は、ちょっと沙弓の悪影響を受けすぎだと思う……しかも、上手く嵌められたわ」
「ですねー」
 と、部長案件が上がる傍らで、耳打ちする二人。
 その内容が耳に届いていた一騎は、バツが悪そうな顔でぽつりと漏らした。
「……気付かれちゃったよ」
「少しあいつらを舐めすぎたな」
 そう零す二人に、外野——主に遊戯部の面々と、烏ヶ森の一年生たちは、疑問符を浮かべていた。
 そんな彼らの疑問に答えるように、美琴が説明する。
「私たちが拒否しても、対戦の結果を見て二人は次期部長を任命できる。この対戦そのものをないことにしないと、勝った方が部長というのは、逃れられないわね」
「どういうことっすか?」
「つまりですね、いくら僕たちが、こんな方法で部長を決めるな、と抗議しても、トーナメントはそれとは関係なく行われますよね? 僕たちは関係ないと切り捨てて対戦しても、部長たちは“結果”だけを見て、次期部長のを決められるんですよ。決定権はあちらにあるわけですからねー。まあ、それも含めて、僕は構わないと思いますけどねー」
「完全に見抜かれてる……ごめんね。でも、俺たちじゃどうしても決めきれなくてさ」
「この合宿に乗っかったところがあるのは認めるが、こんなどうでもいいことで決めてもいいくらいに、お前たちを信用してるってことだ。諦めろ」
 いまだ申し訳なさそうにしている一騎と、不遜な態度のミシェル。二人とも、まるで違う様相だが、どちらも意見を曲げる気はないようだった。
「……抗議の内容は後で考えるとして、仕方ないから、今は対戦に集中するわ」
 その二人の意志に根負けしたわけではないが、美琴は一旦、この場では飲み込むことにした。
 あくまで対戦は対戦、部長就任はまた別の問題として、美琴は目の前の物事に取り組む。
「純粋な対戦として臨むわ。焔君、手加減はしないわよ」
「はなっからそんなものは期待してませんねー」
「あたしらのとしても、余計なことは考えないでくれると助かるな。どうせ反発されるだろうから、最初から言わないのが一番なんだが」
「内容が内容だけに、流石に事前報告なしはまずいからね……そこは仕方ないよ」
 と、やっとのことで、空護と美琴の対戦が始まる空気となった。
「……なんか勝手に盛り上がられて、いまいちどう反応したらいいかわからないけど、違う意味で注目の一戦になったわね」
「次の烏ヶ森の部長かぁ……どっちになるんだろう。ねぇ、恋」
「……別にどっちでもいい……つきにぃとミシェルも、どっちでもいいみたいだし……」
 一騎とミシェルの言う「どっちでもいい」と、恋の言う「どっちでもいい」には、大気圏と海溝の奥底ほどの隔たりがあるが、そもそも興味のない恋には関係なかった。
 ともあれ、だ。
 次期部長就任がかかっている(かもしれない)、ある意味では今回のトーナメント一番の目玉となり得る一戦。
 Bブロック第一回戦。空護と美琴の対戦が——始まった。



焔 空護
〜変幻自在の悪夢騎士団〜

vs

黒月 美琴
〜死神の饗宴—Death carnival—〜