二次創作小説(紙ほか)

番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て7」 ( No.512 )
日時: 2016/10/18 21:12
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 《勝利のガイアール・カイザー》のダイレクトアタックが繰り出される。その、刹那。
「油断、大敵よ! ニンジャ・ストライク7! 《威牙の幻ハンゾウ》!」
 美琴の手札から、クリーチャーが飛び出す。
「《ハンゾウ》を召喚! 《勝利のガイアール・カイザー》のパワーを−6000!」
 ニンジャ・ストライクで飛び出した《ハンゾウ》が、《勝利のガイアール・カイザー》のパワーを奪っていく。パワーが0以下となった《勝利のガイアール・カイザー》は、そのまま死に絶えた。
「《ハンゾウ》がありましたかー……まずいですねー」
 こおで問題なのは、このターンに決められなかったことと、《勝利のガイアール・カイザー》が“破壊”されてしまったこと。
 今の美琴の場には、《インフェルノ・サイン》で釣り上げられた《ベル・ヘル・デ・ガウル》がいる。
「相手クリーチャーが破壊されたことで、《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力発動よ! 私の山札をシャッフルして、その一番上を公開! デーモン・コマンドならそのままバトルゾーンへ!」
 美琴の山札がシャッフルされ、トップを捲る。そして、
「《魔刻の斬将オルゼキア》! 《ハンゾウ》を破壊して、相手クリーチャーを二体破壊よ!」
「なら、《グレイテスト・シーザー》と《オタカラ・アッタカラ》を破壊ですかねー……《グレイテスト・シーザー》は《ミガワリ》を引き継いでいるので、破壊される代わりに、《忍者屋敷 カラクリガエシ》に2D龍解ですよー」
 さらに、
「同時に闇のクリーチャーが破壊されたので、《カラクリガエシ》をさらに3D龍解……《絡繰の悪魔龍 ウツセミヘンゲ》!」
 複数のクリーチャーの破壊によって、《ミガワリ》は《カラクリガエシ》を経て、一気に《ウツセミヘンゲ》まで3D龍解した。
「この辺、一騎の連続龍解に似たものを感じるな」
「そう? 一度に3D龍解するのと、同時に龍解条件を満たすのは、違うと思うけど」
「3D龍解だって、ウエポン面、フォートレス面で龍解条件があるだろ。それを一度に達成しているんだから、似たようなものだ」
「あ、そっか」
 それはさておき。
 《オルゼキア》の能力で空護のクリーチャーを破壊するも、《シーザー》は生き残り、《ウツセミヘンゲ》の登場も許してしまった美琴だが、これだけでは終わらない。
「クリーチャーが破壊されたから、《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力発動よ!」
 《シーザー》こそ生き残ったが、クリーチャーが破壊されたことに変わりはない。
 再び、《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力が起動する。
「シャッフルして、トップを公開! 二体目の《オルゼキア》! 能力で自身を破壊!」
「まだ連鎖しますかー……ここは《グレイテスト・シーザー》を捨てるしかないですねー。もう一体は《ウツセミヘンゲ》を破壊しますが、墓地のカード四枚を山札に戻して、場に留まりますねー」
「私も《ギガアニマ》の能力で《デスプルーフ》を回収するわ。さらに《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力発動! 山札をシャッフル、トップを捲って……《ハヤブサマル》ね。デーモン・コマンドじゃないから、手札に加えるわ」
「む……《ミガワリ》龍解で打点が揃ったと思ったんですけど、《ハヤブサマル》を引かれてしまいましたか—……まあ、仕方ないですね。シノビを消費させますよー。《ウツセミヘンゲ》でダイレクトアタックです!」
「ニンジャ・ストライク4! 《ハヤブサマル》を召喚して、自身をブロッカーに! 《ハヤブサマル》でブロック!」
 最後の攻撃を、美琴は《ハヤブサマル》でブロックする。
 《勝利のガイアール・カイザー》の攻撃を利用して、《ハンゾウ》で破壊し《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力を起動させた美琴。《ベル・ヘル・デ・ガウル》で捲られた《オルゼキア》を利用して、《ウツセミヘンゲ》を龍解させて打点を揃えた空護。互いのカードを利用し合う攻防戦の最後は、美琴が乗り切った。
「ターン終了です。次のターンが、決着の境目ですねー」
 攻めきれなかった空護は、すべてをトリガーに託すしかない。
 しかし美琴からしても、彼女自身がそうしたように、トリガーやニンジャ・ストライクで耐えられる可能性は十分にあり得る。
 それでも、ここまで来れば余計なことは考えず殴るしかない。
「もう小細工もなにも通用しない。最後は全力で叩き潰すわ! 《デスプルーフ》を召喚! そして進化! 《死神明王バロム・モナーク》!」
 最後の最後で、美琴は切り札を召喚する。
 やや過剰だが、S・トリガーによる逆転も考慮すると、打点はいくら多くあっても困らない。
 《ギガアニマ》《ベル・ヘル・デ・ガウル》《オルゼキア》そして《バロム・モナーク》。
 四体の死神たちで、美琴は総攻撃を仕掛ける。
「まずは《バロム・モナーク》で攻撃! シールドをWブレイク!」
「通します……シールド一枚目」
 《バロム・モナーク》や《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力を誘発させたくないので、空護はまだブロックしない。
 そうして捲られたシールドは、
「S・トリガー《地獄門デス・ゲート》! 《ベル・ヘル・デ・ガウル》を破壊して、《ポーク・ビーフ》を復活!」
 一枚目のシールドからは、《デス・ゲート》が飛び出した。
 アタッカーを削り、なおかつ二体目の《ポーク・ビーフ》を復活させ、ブロッカーを増やせた。
 これで、美琴の残りアタッカーが二体に対し、空護のブロッカーも二体。このターンは耐えられる計算だ。
「続けて二枚目……こちらはトリガーはないですねー」
「《オルゼキア》でダイレクトアタック!」
「《ポーク・ビーフ》でブロックです」
「私のデーモン・コマンドがバトルに勝ったから、《バロム・モナーク》の能力発動! 墓地から《ベル・ヘル・デ・ガウル》を復活!」
 《バロム・モナーク》はバトルにさえ勝てれば無制限でクリーチャーをリアニメイトできる強力な能力を持っているが、ロクに肥えていない墓地からいくらクリーチャーを復活させようと、怖くはない。
 ここで復活するのは、このターン《デス・ゲート》で破壊された《ベル・ヘル・デ・ガウル》。再びバトルゾーンに戻って来たものの、召喚酔いで動けない。
(ただ一つ懸念があるとすれば、残りアタッカーで突撃されると、《ポーク・ビーフ》が破壊されて《ガウル》の能力が起動してしまう点ですが……流石にスピードアタッカーのようなクリーチャーが捲れることはないはず。ブロッカーならなんとかなりますし、《ギガアニマ》の攻撃なら《バロム・モナーク》の能力も起動させられません)
 もうほとんど美琴の攻撃はシャットアウトできたはずだ。彼女は《ハンゾウ》と《ハヤブサマル》、有用なシノビを二枚も消費している。このターンを凌がれたら、後はないはず。
(残っているのは《オロチ》や《ゼロカゲ》くらいですが、死神のシナジーを考えると、防御のためにそこまでシノビに枠を割くとは思えない……何気にアタッカーをほとんど潰されたので、あったらヤバいですね)
 と、自分の負け筋を考えて、それを潰す方法を探っていると、美琴からの攻撃宣言が言い渡された。
 ここまでは空護の予想の範疇。予想外のことはない。
 攻撃する、その時までは。
「《ギガアニマ》でダイレクトアタック!」
「《ポーク・ビーフ》でブロックです。相打ちなので、《バロム・モナーク》の能力も発動しな——」
「待った! ニンジャ・ストライク4! 《威牙忍ヤミノザンジ》を召喚よ!」
「……!」
 攻撃後のブロックから、彼のシュミレーションは、綻び始める。
「《ヤミノザンジ》……そんなカードまで握っていたんですかー……?」
 これで三枚目だ。色が合うとはいえ、死神でもデーモン・コマンドでもない軽量のシノビを積んでいるとは思わなかった。
 《威牙忍ヤミノザンジ》。登場時に2000のパワー低下を放つシノビだ。−2000では、当然ながら《ポーク・ビーフ》を破壊することはできない。そもそも、ブロック宣言をして、ブロックが成立している時にニンジャ・ストライクされたので、いくら破壊しても攻撃は通らない。ブロックされた事実は変えられないのだ。
 だが、それでいい。むしろ、その方が好都合だ。
 なぜなら、美琴の目的は“バトルで勝つこと”なのだから。
「ブロック時に《ヤミノザンジ》をニンジャ・ストライクで召喚、《ポーク・ビーフ》のパワーを−2000よ。これで《ポーク・ビーフ》のパワーは2000、《ギガアニマ》のパワーは4000だから、《ギガアニマ》の勝ち!」
 パワー低下によって、《ポーク・ビーフ》は“バトルに負けて”“破壊される”。
 それにより、《バロム・モナーク》と《ベル・ヘル・デ・ガウル》、二体のクリーチャーの能力が起動する。
「《バロム・モナーク》の能力処理は、ひとまず置いておくわ。相手クリーチャーが破壊されたから、先に《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力を発動よ! 山札をシャッフルして……トップを捲る!」
 美琴としては、問題はここだ。シャッフルしたトップデックを参照するという不確定要因のために、狙ったカードが来る確率は、とても高いとは言えない。
 それでも、わざわざ《ヤミノザンジ》を使ってまで呼び込んだチャンスだ。ここで引かなければ、意味がない。
 そうして彼女は、混ぜられた山札の一番上を、公開する。
「……! 来たわ! 《死神の邪険デスライオス》! 私の死神を破壊して、相手クリーチャーも破壊!」
 捲られたのは、自分の死神の犠牲によって、相手にもその犠牲を強要する《デスライオス》。
 そのカードを見て、空護は安堵したように息を吐く。
「残念ですが、その破壊は効きませんね。《ウツセミヘンゲ》を破壊する代わりに、墓地のカードを四枚、山札に戻します。破壊されなければ、《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力も使えませんねー」
 《ウツセミヘンゲ》は破壊されない。破壊では《ウツセミヘンゲ》は戦場を離れない。アタッカーを減らすことはできない。
 しかし、美琴にとって、そんなことは関係なかった。
 相手のアタッカーなど、もはや彼女の眼中にはない。
「《ウツセミヘンゲ》を破壊する必要はないわ。だって……もう、私の勝ちだもの」
「?」
 疑問符を浮かべる空護。彼女の言っている意味が分からない。
 美琴のクリーチャーはすべて攻撃しきってタップ状態。《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力で現れた《デスライオス》では、《ウツセミヘンゲ》も破壊できない。もう彼女にはなにも残っていないはずだ。
 残っているとしても、《バロム・モナーク》の能力と、《デスライオス》で自壊するクリーチャーを選ぶ程度。
 だがしかし、それこそが、彼女が手繰り寄せた会心の一手だった。
 先んじて《ウツセミヘンゲ》の能力を使用した空護だったが、《デスライオス》の能力は、本来ならば美琴の処理が先だ。ここで美琴は、自分の死神を一体、破壊する。

「《デスライオス》の能力で、私は——“《死神明王バロム・モナーク》”を破壊!」

「え……?」
「自分から切り札を破壊したっすよ!?」
「ど、どういうことなんでしょう……?」
 既に攻撃済みなので、破壊されようとどうしようと、関係ないと言えば関係ないかもしれない。しかしそれなら、他にも攻撃し終わった《ガウル》や《ギガアニマ》もいるし、召喚酔いしている《デスライオス》でもいいはずだ。《バロム・モナーク》を破壊する意味はない。
 傍から見れば、そう思うだろう。
 だが、そうではない。意味がないのなら、美琴だってわざわざ切り札を破壊したりはしない。
 この自壊は、大きな意味を持つ破壊なのだ。
「そして、ここで待機中だった能力の処理を行うわ。私の《死神ギガアニマ》は、さっき《ポーク・ビーフ》とのバトルに勝ってる。死神がバトルに勝ったことで、破壊されたけど、処理が待機されていた《バロム・モナーク》の能力は発動する!」
「! まさか……」
 一つの可能性が彼の頭の中でよぎる。いや、それはもう可能性などという曖昧なものではない。
 それは確定した事象。予想ではなく、確信的な予測だ。
 気づいた時には、もう遅い。

「《死神明王バロム・モナーク》の能力で墓地から——“破壊された《死神明王バロム・モナーク》を復活”!」

 死神の明王は、自らの死を超越し、再び現世の戦場へと舞い戻ってきた。
 自らを破壊した《デスライオス》の上に重なり、《バロム・モナーク》は、文字通り自力で復活を果たす。
「《バロム・モナーク》の能力で、《バロム・モナーク》を復活! 進化元は《デスライオス》よ!」
「じ、自分の能力で、自分を復活させるだなんて……!」
 さしもの空護も、声が震えている。この一連の流れに、驚きを隠せない。
 空護だけではない。一騎も、ミシェルも、沙弓も、誰も彼もが息を飲んで、彼女の操る《死神明王》の復活劇を見届けた。
「これは……実用性とか関係なしに、この局面でこのテクニックを披露できるのは、凄まじいわね……」
「でも、自分で自分を復活なんて、できるんですか……?」
「バトルに勝ったのと、破壊と……処理順、逆じゃない……?」
「能力の処理としては、確か可能だったはずだ。バトル処理の後に、バトル勝利時の能力が処理されて……」
「詳しくは後で俺が説明するよ。それより今は、二人の対戦を最後まで見届けよう」
 浬がおぼろげな記憶で説明していると、一旦それを引き留めて、一騎は皆を対戦に引き戻す。
 もう勝敗は決したが、この一戦は大事な一戦だ。
 一騎としては、自分だけでなくみんなに、最後までちゃんと見届けてほしかった。
「次の《デスライオス》は期待できないし、後はシノビ次第。これがラストアタックよ」
 美琴は静かに《バロム・モナーク》に指を添えて、横に倒す。
 それが、対戦を終結させる、合図だった。
「《死神明王バロム・モナーク》で——」
 そして、勝者が決まった。
 烏ヶ森の次期部長として任命されるは——

「——ダイレクトアタック!」

 ——黒月美琴だ。