二次創作小説(紙ほか)
- 番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て14」 ( No.519 )
- 日時: 2016/10/25 20:43
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「さて、これで二回戦までが終了。残すは三回戦という名の準決勝と、決勝戦だけになったわね」
美琴と浬の対戦が終わって、一度沙弓が場を仕切り直す。
「意外とあっという間だったねー」
「長かったのは一回戦だけだったな」
ここまでで勝ち残っているのは、三人。
Aブロックからは、一騎。
Bブロックからは、浬。
Cブロックからは、沙弓。
以上三名だ。
「学年は綺麗に分かれたけど、なんかこう、どこか腑に落ちないわね」
「そう? 結構、面白い組み合わせだと思うけど、美琴は不満?」
「うちの方が参加人数多いのに、一騎しか勝ち進んでないってどういうことだ」
「初戦で負けすぎたのが原因ですかねー。あ、でも、身内同士で対戦した僕らはノーカンで」
「面目ないっす……」
「ハメゲーだったし……」
参加人数が過半数を上回っている烏ヶ森だが、決勝まで進めるのは一騎一人だけ。一騎の進出そのものは納得だが、残留率の低さが彼らとしては嘆かわしいことだった。
「まあまあ、ミシェル。今回は楽しむことが目的だし、皆が楽しめたならいいじゃないか」
「さらりと勝ってる奴に言われると少しムカつくな、その台詞。お前のことだから他意はないんだろうが」
「烏ヶ森の代表として、俺がきっちり勝ってくるからさ」
「部長! 任せたっす!」
「メガネとさゆみなら……まあいいや。つきにぃ、がんばれ……」
「あらら、れんちゃんにふられちゃった。残念」
「あいつ、まだ一昨日のこと根に持ってやがるな……」
「まあ、俺は三回戦はないけどね」
一騎は三回戦シードゆえに、三回戦は免除される。つまり実質、決勝戦進出確定だ。
だからここが、一戦のみの準決勝。
決勝に進み、一騎と対戦する相手が誰かが、ここで決まる。
その候補に挙がっているのは、Bブロックから出て来る浬と、Cブロックから出て来る沙弓だ。
「さて、ここでカイと対戦することになるなんてね」
「なんだかんだ、部長とやるのは久し振りだな」
「そうね。でも、あなたは二回も対戦してる。いつものパターンと合わせて、手の内は読めてるわ」
浬と沙弓。どちらも三回戦に進出しているが、浬が一回戦、二回戦と二回の対戦を経ているのに対し、沙弓は一回戦しか戦っていない。
対戦回数を重ねれば、それだけデッキ内のカードが公開されるということ。ここまでの二戦で、浬のデッキはほとんど筒抜けになっているだろう。
「それがどうした。まだ俺のデッキは見せてないカードもある。少しばかり情報で勝っている程度で、いい気になるな」
「……ま、それもそうね。だけどカイ。私も一騎君には、一昨日の夜のリベンジがしたいのよ。だから、あなたには悪いけど、今持てるアドバンテージを最大限活用して、勝たせてもらうわ」
「対戦前に勝利宣言とは、遊戯部部長らしからぬ発言だな。あんたは勝利報告の方が似合ってるぞ」
と言いつつも、浬はすぐさま続ける。
「もっとも、そんな報告をさせるつもりはないがな。負けた後の言い訳でも考えたらどうだ」
「珍しく煽るわねぇ。大好きな一騎君との対戦が目前に迫って、柄にもなく興奮しちゃってる?」
「うるせぇぶん殴るぞ」
「素が出たわね。ふふっ」
楽しそうに微笑む沙弓。実際、楽しいのだろう。
この合宿の究極的な目的は、楽しむこと。ただその一点に尽きる。
これまでの海水浴から、夕食、入浴、モノポリーに至るまで、すべてその目的のために計画されたことだが、それらの中でも、この最後のトーナメント戦は、その目的の最高峰だ。
見知った仲間同士、全力でぶつかり合う。情報戦にメタゲーム。あらゆる知略謀略戦略を駆使して戦い続けるゲーム。
たった数試合で終わってしまうことがもったいないくらいだ。そう思えるくらいに、彼女は高揚し、楽しんでいた。
「部長と浬かぁ。どっちも応援したいけど、部長に勝ってほしいかな! 私は!」
「え、えと……その、ど、どっちも、がんばってください……」
(俺に味方はいないのか……)
わかっていたことだが、なにかこの時点で負けた気分になる。
「さて、うだうだとだべってないで、そろそろ始めましょうか」
「あ、あぁ……」
かくして、第三回戦、準決勝。
浬と沙弓の対戦が、始まる——
霧島 浬
〜結晶魔術の定理〜
vs
卯月 沙弓
〜ブラック・マジック・カーニバル〜
超次元ゾーン:浬
《龍波動空母 エビデゴラス》×1
《真理銃 エビデンス》×1
《勝利のガイアール・カイザー》×1
《勝利のリュウセイ・カイザー》×1
《勝利のプリンプリン》×1
《時空の踊り子マティーニ》×1
《時空の英雄アンタッチャブル》×1
《時空の喧嘩屋キル》×1
超次元ゾーン:沙弓
《時空の悪魔龍 ディアボロス ΖΖ》×1
《時空の封殺ディアスΖ》×1
《勝利のガイアール・カイザー》×1
《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》×1
《勝利のリュウセイ・カイザー》×1
《勝利のプリンプリン》×1
《時空の英雄アンタッチャブル》×1
《時空の喧嘩屋キル》×1
浬と沙弓の対戦。
互いにシールドは五枚。
浬の場にはなにもない。《連唱 ハルカス・ドロー》や《ブレイン・チャージャー》で手札とマナを充実させていくが、沙弓の繰り出した《勝利のリュウセイ・カイザー》に足止めを喰らっている。
そんな沙弓の場には、《超次元リバイヴ・ホール》から現れた《勝利のリュウセイ・カイザー》が一体。マナを縛って浬の動きを鈍らせたうえで、《パニッシュ・チャージャー》《特攻人形ジェニー》によるハンデスを撃ち込んでいる。
「俺のターン……とりあえず、邪魔な醤油を退かせないと、動きにくいままだな。呪文《幾何学艦隊ピタゴラス》でバウンスだ」
「戻されたわね。でも、いい仕事したし、よしとしましょうか」
「浬君のデッキも、始動が遅いからね」
「序盤でここまで動きを鈍らせれば、かなり仕事したと言えるだろうな」
ここまででも十分仕事はした。マナのタップインは終盤になると効果が薄くなるので、戻されたとしてもあまり痛手ではない。
「じゃあ、お次はこれね。呪文《リバイヴ・ホール》! 墓地の《ジェニー》を回収して、《時空の喧嘩屋キル》《時空の英雄アンタッチャブル》をバトルゾーンに!」
「キルタッチャ……!」
出て来るクリーチャーを見て、戦慄する浬。特に赤い方のクリーチャーに、睨みつけるような視線を向ける。
「相手が相手だとわかってこのチョイス。当然と言えば当然だけど、やっぱりえげつないわね、沙弓は」
「霧島君のデッキに《キル》は痛いでしょうからねー」
「? なんで?」
「《キル》はサイキック・クリーチャーにバウンス耐性をつけるんだよ。そして、浬君のデッキにおける除去はほとんど手札戻し、つまりはバウンスだ」
「要するに、これで霧島は、ほぼサイキック・クリーチャーを除去できなくなったってことだ」
水単色では、バウンス以外の除去は見込めない。沙弓が殴ってくるようなことがあれば殴り返しができるが、ハンデスを連打する闇単色のコントロールを使う沙弓が、手札を与えるような攻撃はしないだろうし、殴り返されるとわかっていて攻撃するはずもない。
《キル》一体だけで、浬の除去の多くは腐ってしまった。
「続けて《ジェニー》を召喚して破壊、一枚ハンデスよ」
「くっ、《龍覇 M・A・S》を召喚! 《龍波動空母 エビデゴラス》を設置!」
ドローを得意とする水文明単色デッキなだけあって、ハンデスだけなら痛くはない。《エビデゴラス》も設置し、手札は十分に確保できる。
しかし、サイキック・クリーチャーにバウンス耐性をつける《キル》は、非常に厄介だった。浬のデッキは元々、除去が弱い。バウンスして一時的な足止めをさせるだけなので、それさえも封じられると、盤面の制圧が厳しくなる。
「《超次元ミカド・ホール》を唱えるわ。《M・A・S》のパワーを2000下げて破壊。そして、もう一度出番ね、《勝利のリュウセイ・カイザー》!」
「戻ってきたか……ターン初めに《エビデゴラス》の効果と合わせて二枚ドロー! 俺のターンだ」
《勝利のリュウセイ・カイザー》で、またマナが縛られる。しかも今度は、《キル》によってバウンスされない状態で。加えて《勝利のリュウセイ・カイザー》自体が《キル》の龍解条件を、さらにその《キル》が《アンタッチャブル》の龍解条件を満たすため、どうにかしたいのだが、
「……これしかないな。《理英雄 デカルトQ》を召喚! マナ武装7で五枚ドロー! 手札とシールドを入れ替え、《エビデゴラス》を《Q.E.D.+》に龍解! 《Q.E.D.+》でWブレイクだ!」
「かいりくんが、攻めてきた……」
「盤面を取ることは諦めて、早期決着を目指したか」
「ま、判断としては正しいんじゃないのかしらね……できるかどうかはともかく、だけど。あ、トリガーはないわ」
「ターン終了だ」
除去はできない。ブロッカーとシールド交換で守りを固めるだけだ。
こうなってしまえば、もう盤面を制圧することは諦め、できる限り早く決着をつけるしかない。
問題は、元々コントロールデッキとして構築された浬のデッキが、どれほどのスピードで沙弓を攻めることができるか、だ。
「私のターン。ターン開始時に、私の場にはパワー6000以上の《勝利のリュウセイ・カイザー》がいるから、《キル》の覚醒条件を満たしたわ。《時空の喧嘩屋キル》を《巨人の覚醒者セツダン》に覚醒! そして5マナで《超次元リバイヴ・ホール》を唱えて、墓地の《ジェニー》を回収。《勝利のプリンプリン》をバトルゾーンに出すわ。《プリンプリン》の能力で《Q.E.D.+》を拘束! 《ジェニー》を召喚して破壊、あなたの手札を一枚墓地へ!」
「一枚のハンデス程度ならさほど効果はないが……」
「えぇ、まだ終わらないわ。ターン終了時、私の《キル》が《セツダン》に覚醒してるから、《アンタッチャブル》の覚醒条件も達成よ。《時空の英雄アンタッチャブル》を、《変幻の覚醒者アンタッチャブル・パワード》に覚醒!」
《キル》と《アンタッチャブル》がそれぞれ覚醒し、《セツダン》と《アンタッチャブル・パワード》へ。今までの耐性はそのまま、打点が上がり、さらに対処困難なアタッカーが出来上がってしまった。
加えて、沙弓の場には《勝利のリュウセイ・カイザー》と《勝利のプリンプリン》がいる。あと一体、《勝利のガイアール・カイザー》が出て来るだけで、《唯我独尊ガイアール・オレドラゴン》が覚醒リンクする。しかもバウンスが効かないため、そのリンクを阻止することも、ほぼ不可能。
除去も守りも通用せず、巨大なサイキック・スーパー・クリーチャーがリーチをかけている。どんどん浬は追い込まれていた。
「沙弓ちゃん、完全にサイキック主体で盤面取る方向に切り替えてるね」
「《キル》を出して、相手が青単コントロールなら、そうなるだろ。《アンタッチャブル》が最後の詰めになるし、その状態で《オレドラゴン》が完成すればまず勝ちだ」
「浬さん、大丈夫っすかねぇ……」
「……浬君のことだから、なにも考えなしってわけではないだろうし、今もなお、打開策を考え続けているんだろうけど……」
この盤面は、絶望的だ。簡単にひっくり返せる盤面ではない。沙弓もそれがわかっていて、このようにクリーチャーを展開したのだから、簡単に返せる盤面ではないのだ。
それに、たとえこの状況を覆す方法があったとしても、その方法を実行できるカードが手札にあるとは限らない。いや、手札だけではない。必要なカードが必要な場所になければいけないかもしれない。相手依存、相手次第になるかもしれない。そうだとすれば、そんな希望的観測は、現実が容易く打ち破る。
それでもなお、浬は思考をやめない。思案と思索を続け、解決の糸口を見出し、次なる一手を打つ。
「俺のターン。《Q.E.D.+》の能力で、ターン初めに山札の上から五枚を見て、一枚をトップに固定。その後、追加ドロー。そして通常ドローだ」
《Q.E.D.+》は《プリンプリン》にロックされて動けない。しかし能力は問題なく使える。
このドローで、なにか逆転につながるカードが引ければいいのだが。
「……《龍素記号Xf クローチェ・フオーコ》をG・ゼロで召喚。互いの墓地をすべて山札に戻すぞ」
「あらら。でも、今更墓地をリセットされても、痛くないわ」
「分かってる。次に《龍素記号Og アマテ・ラジアル》を召喚!」
「!」
この動きに、反応を示す沙弓。
浬の場には水のドラゴンがいる。そして、山札から水の呪文を引っ張り出す《アマテ・ラジアル》が出たということは、
「山札からコスト4以下の水の呪文を唱えるぞ。唱えるのはこれだ! 《ヒラメキ・プログラム》!」
「やっぱりか……!」
浬の必勝パターン。《アマテ・ラジアル》からの、《ヒラメキ・プログラム》。ここから現れるクリーチャーは、決まり切っていた。
「破壊するのは《Q.E.D.+》だ! 龍回避で《エビデゴラス》に戻るが、《ヒラメキ・プログラム》の効果は問題なく発動する!」
浬のマナには《サイクロペディア》が見える。失敗はない。確実に決めて来るだろう。
コスト7の《Q.E.D.+》がヒラメキ、コスト8の水晶龍が顕現する。
「さぁ、出て来い……! 《アマテ・ラジアル》から進化!」
浬は捲られたカードを《アマテ・ラジアル》に重ね、叩きつける。
「——《甲型龍帝式 キリコ3》!」