二次創作小説(紙ほか)

番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て15」 ( No.520 )
日時: 2016/10/25 22:39
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「やっぱりそれなのね……!」
 《ヒラメキ・プログラム》によってヒラメかれたクリーチャーを見て、唸る沙弓。
 浬のデッキの切り札、《甲型龍帝式 キリコ3》。
 呪文を唱えるフィニッシャーは数あれど、《キリコ3》は手札を犠牲に呪文を三連射する。アドバンテージを得るという意味では、ここまで巨大なアドバンテージをもぎ取るクリーチャーは、他にいない。それ以前に、純粋にパワーも打点も高いクリーチャーだ。
 浬は手札をすべて山札に戻す。そして、呪文が三枚見えるまで、山札を捲り続けた。
「唱える呪文は……《連唱 ハルカス・ドロー》《ブレイン・チャージャー》《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》だ」
「ん……雑魚」
「ドローカードばっかじゃん」
「《ピタゴラス》も、《セツダン》がいるから効かないっすしね」
「お前らなに見てんだよ……そうじゃないだろ」
『?』
 ミシェルの言葉を微塵も理解していない様子の三人。
 説明するより見た方が早いと断じ、ミシェルはそれ以上の言葉は紡がず、対戦の方へと視線を戻す。
「《ハルカス・ドロー》と《ブレイン・チャージャー》の効果で、合わせてカードを二枚ドローし、チャージャーはマナへ。《スパイラル・ハリケーン》の対象は……一応、《セツダン》を選んでおく。マナ武装7も発動するな」
「《セツダン》の能力で、相手の呪文や場のクリーチャーの能力によって私のサイキック・クリーチャーは手札に戻される時、戻される代わりに場に留まるわ」
 捲られたドロースペルで失った手札を回復し、無意味な《スパイラル・ハリケーン》を放つ。《キリコ3》の呪文詠唱は強制なので、無駄撃ちとわかっていても撃たなくてはならない。
 だが、それでも構わない。元々除去は期待していない。浬が期待していたカードはきっちり捲れたので、問題はなかった。
「残ったマナで、《ハルカス・ドロー》をリサイクルで唱えてドロー……さて部長、これで俺がこのターンにドローしたカード枚数は何枚だ?」
「え? えーっと、《ハルカス・ドロー》がリサイクルと合わせて二回、《ブレイン・チャージャー》で一回……あぁ、あと《Q.E.D.+》でも引いてたわね。ターン開始のドローも含めると、合わせて五枚——あ」
「そうだ。このドローが、このターン五枚目のドローだ。よって、《エビデゴラス》の龍解条件成立!」
 浬が狙っていたのは、除去ではない。
 《エビデゴラス》の龍解条件を満たすために、カードをドローすることだ。

「龍解! 《最終龍理 Q.E.D.+》!」

 再び、《エビデゴラス》が龍解し、《Q.E.D.+》となる。
「あちゃー……これはまずいわね」
「《ヒラメキ・プログラム》の種にされた《Q.E.D.+》が戻ってきたね」
 浬の目当ては、これだった。
 《ヒラメキ・プログラム》で破壊した《Q.E.D.+》は、《エビデゴラス》に戻る。なので、ターン中にもう一度五枚ドローすれば、再び龍解できる。
「あれ? でも、《Q.E.D.+》は《プリンプリン》で攻撃できないんじゃ……」
「《プリンプリン》に与えられた効果は、龍回避でフォートレスになった時点で消失する。再び龍解すれば、ロックは解除され、攻撃可能だ」
「ということは、これでかいりくんの場には、Tブレイカーが一体、Wブレイカーが二体……」
「沙弓ちゃんのシールドは三枚だから、打点は十分だね」
 《キリコ3》を出した時点で、《デカルトQ》と合わせて打点は揃っているが、追撃の《Q.E.D.+》も並べ、多少のトリガーでは防ぎきれない打点が生成される。
「今思うと、《プリンプリン》のロックは《デカルトQ》に撃つべきだったわね。私としたことが、失敗したわ」
「だとしても打点は足りる。決めるぞ、《キリコ3》でシールドをTブレイクだ!」
「っ……!」
 沙弓の場にブロッカーはいない。シノビもなく、《キリコ3》がシールドを三枚吹き飛ばす。
「S・トリガーよ! 《凶殺皇 デス・ハンズ》を召喚! 《デカルトQ》を破壊!」
「止められたか……だが、まだ《Q.E.D.+》がいる!」
 このようなトリガーを考慮して、わざわざ一度龍回避させてから再龍解し、《プリンプリン》の拘束を解いたのだ。
 《Q.E.D.+》が、シールドがない沙弓にとどめの一撃を繰り出そうとするが、
「もう一枚S・トリガーよ。《魔狼月下城の咆哮》! パワー低下は意味ないけど、マナ武装5で《Q.E.D.+》を破壊するわ!」
「ぐっ、トリガー二枚か……ターン終了だ」
「惜しい! 浬君、あと一歩だったのにな……」
「正直ラッキーだったわ……トリガーに救われたわね。流石デュエマ」
 二枚のトリガーで九死に一生を得た沙弓。
 S・トリガーはデュエル・マスターズが持つ独自の逆転手段。その役割が示す通り、沙弓は逆転した場を、さらに逆転させる。
「どうやら、決めるのは私の方だったみたいね、カイ。私のターン、呪文《超次元ミカド・ホール》! 《クローチェ》のパワーを2000下げて、超次元ゾーンからコスト9以下の闇のサイキック・クリーチャー、《勝利のガイアール・カイザー》をバトルゾーンに!」
「出やがった……!」
 やはり持っていた、超次元呪文。
 超次元ゾーンから勝利の名を冠する最後のサイキック・セル、《勝利のガイアール・カイザー》が現れる。
「流石に、これはもう決まりですかねー」
「《オレドラゴン》がリンクしたら、まず勝ち目ないからね」
「今回の部長、サイキック・クリーチャーばっかりだったよ……なんかつまらないな」
「勝てばよかろうなのよ、勝てばね」
「面白さじゃないのかよ」
 とミシェルが言うと、沙弓は笑った。
「負けても面白いものは面白いけど、やっぱり勝負の根底には勝利を目指すということがある。勝負は勝つことを目標にしてるから楽しいのよ」
 だから、勝つことは楽しい。
 勝てば官軍という言葉もある。勝者の優越感が、楽しいという感情に昇華されるものだ。
 そして今、優越という意味では、沙弓は限りなく勝利に近い位置に立っている。ゆえに今の彼女は、高揚していた。
 その高揚感を隠さないまま、三枚のサイキック・セルを裏返し、一体のクリーチャーとして結合させる。

「V覚醒リンク! 《唯我独尊ガイアール・オレドラゴン》!」

 《勝利のプリンプリン》《勝利のリュウセイ・カイザー》《勝利のガイアール・カイザー》。勝利の名を冠する三体のハンターは、覚醒し、リンクして、天下無双の《唯我独尊ガイアール・オレドラゴン》となる。
「《オレドラゴン》は生姜のアンタップキラーを引き継いでるけど、クリーチャー殴る意味はないかしらね。《オレドラゴン》でプレイヤーを攻撃よ!」
「あんたが殴らなくても、ブロック権限はこっちにあるんだよ! 《クローチェ・フオーコ》でブロック!」
「そう来るのね。でも、《オレドラゴン》は《無限掌》を内蔵してるから、バトルに勝ったからアンタップする。そしてあなたのシールドを二枚手札へ加えるわ」
 一撃でワールド・ブレイクを決めれば、S・トリガーで除去されてもシールドをすべて粉砕できるが、小分けにしてブレイクすると、それだけトリガーで除去され、シールドが割り切れない可能性が生まれる。
 ただし今の沙弓の場には《セツダン》がいる。水のS・トリガーでは、沙弓のクリーチャーはまず除去できないだろう。
「《クロック》とかはなさそうだし、《デカルトQ》で仕込んだ方のシールドを含めて、二枚を手札に加えてもらうわ」
「……S・トリガー、《アクア・サーファー》だ。《デス・ハンズ》をバウンス!」
 《デカルトQ》によって仕込んだS・トリガーが捲れたものの、それはバウンス除去の《アクア・サーファー》。
 バウンスでは沙弓のサイキック・クリーチャーを除去できないが、《デス・ハンズ》だけは吹き飛ばす。だが、それだけだ。
 《セツダン》《アンタッチャブル・パワード》そして《オレドラゴン》。強力な三体のサイキック・クリーチャーは、生き残っている。
「トリガーは関係ないし……もう一度《オレドラゴン》で攻撃! 攻撃対象は《キリコ3》よ!」
 《オレドラゴン》が再び攻撃し、《キリコ3》を粉砕する。バトルに勝ったため、起き上がり、浬のシールドを二枚、吹き飛ばす。
 どうせ除去はされない。念のためにクリーチャーは殴るが、《クロック》などで攻撃を止められさえしなければ、なにを踏んでも同じだ。彼女はそう考えていた。
 そうやってタカを括り、詰めが甘いから、痛い目を見る。
 砕かれた一枚目のシールドから、一枚の呪文が放たれた。

「S・トリガー——《龍脈術 水霊の計》!」