二次創作小説(紙ほか)
- 番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て19」 ( No.524 )
- 日時: 2016/11/01 01:47
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「っ、これは、本格的にまずい……!」
《キリコ3》の登場で、呻く一騎。
打点は足りているが、浬はダメ押しをかける。浬自身がトリガーで攻撃を凌ぐように、一騎がトリガーを引いたとしても、そこから放たれる反撃に備えるために。
二手も三手も先を読み、先々に備えて対策を講じる。
突き崩された防御は脆く、一瞬の力は最大限だ。
この好機を、逃すわけにはいかない。
「《キリコ3》の能力で、俺の手札をすべて山札に戻してシャッフル。そして、呪文が三枚出るまで、山札を捲ります……一枚目《幾何学艦隊ピタゴラス》! 二枚目《スペルブック・チャージャー》! 三枚目……《超次元エナジー・ホール》!」
捲られたカードは《幾何学艦隊ピタゴラス》《スペルブック・チャージャー》《超次元エナジー・ホール》。
それぞれ役割ももたらす恩恵も違う呪文だ。偏りがなく、浬としてはありがたい引きだった。
「まずは《ピタゴラス》の効果で《グレンモルト「覇」》と《スコッチ・フィディック》をバウンス! 《スペルブック・チャージャー》で山札の上から五枚を見て、《ブレイン・チャージャー》手札へ、チャージャーはマナヘ。《エナジー・ホール》で一枚ドロー、《勝利のリュウセイ・カイザー》をバトルゾーンへ!」
一騎の場を片付けつつ、手札とマナを増やし、申し訳程度にマナを縛りつつ打点となる《勝利のリュウセイ・カイザー》を呼び出す。
もっとも、このターン攻撃に参加できない打点は、無意味になってしまうかもしれないが。
「ここが攻め時だ! 《キリコ3》でTブレイク!」
このターンで攻め切るつもりの浬はまず、《キリコ3》でシールドを撃ち砕く。
しかし、
「! 来たよ、S・トリガー! 《ボルメテウス・ホワイト・フレア》!」
「よりによってそれか……!」
「選ぶ効果は当然スパーク、相手クリーチャーをすべてタップだ!」
一騎のトリガーによって、浬の攻撃は止められてしまう。
《イフリート・ハンド》《天守閣 龍王武陣》《英雄奥義 バーニング・銀河》。一騎の採用しているであろうトリガーの多くを考慮に入れ、それらがトリガーしても押し切れるほどの布陣を築いたはずだったが、《ボルメテウス・ホワイト・フレア》だけはどうしようもない。
どれだけ数を並べようと、白い閃光はすべての動きを問答無用で停止させる。眩い光の前では、数は意味をなさないのだ。
「浬さん、惜しいっすね」
「まあでも、霧島君も結構トリガーに救われてますし、おあいこですかねー」
「ただ、盤面を掃除したとはいえ、一騎相手に1ターン返すのは、命取りだ」
1ターンあれば、打点を揃えられる。それだけの力が、一騎にはある。
だからこそ、一騎は光の防御力を加えたのだ。
「俺のターン! 悪いけど、強引に決めるよ! 9マナタップ!」
一騎はなんとか手に入れた1ターンで、すべてを決めるための一手を放つ。
スマートさの欠片もない。暴力的で暴虐的な、理不尽な攻撃態勢。
暴走という名の侵攻作戦が発令され、すべてを破壊する暴龍が現れる。
「《暴龍事変 ガイグレン》!」
「来たか……!」
今度は、浬が呻き声を上げた。
どこかで出るとは思っていた。ゆえに想定内と言えば想定内だが、想定していても、このカードの凄まじさは変わらない。
「もう決めるとしたらこれしかなくてね。一番手っ取り早いし、俺のデッキで一番強いカードだ」
「でしょうね。俺も、このカードの対策は、まるで思いつきませんでした。パワーラインじゃ絶対に勝てませんし」
「そっか。じゃあ、そのまま押し切らせてもらおうかな!」
一騎は《ガイグレン》に手をかけ、横向きに倒す。
「まずはクリーチャーを掃除するよ! 《ガイグレン》で《Q.E.D.+》を攻撃! その時、マナ武装9で《ガイグレン》をアンタップ!」
最初にクリーチャーへと向かっていく《ガイグレン》。浬のデッキには《スパイラル・ハリケーン》がトリガーとして存在するため、その可能性を考慮しなければならない。
選ばれた時に発動する《ガイグレン》の能力を無力化するカードだ。場にクリーチャーを残した状態でそれがトリガーすれば、即座に敗北に直結する。ゆえに、一騎はクリーチャーから殴りかかるが、
「ニンジャ・ストライク7! 《斬隠オロチ》!」
「っ、シノビがいたのか……」
浬の手札から、《オロチ》が飛び出した。
《ガイグレン》は一度動き出せば、止まることなく殴り続ける。
S・トリガーなどで強引に場から離したりはできるが、浬のシールドは残り一枚。流石にたった一枚のシールドに賭けることなどできない。浬は出し惜しみせずに《オロチ》を繰り出した。
ただ、浬はそこで少し考え込む。自分の場とデッキにそれぞれ視線を向けていた。
「……変なことは考えないで除去した方が良さそうだな。《ガイグレン》をボトムへ送還!」
自分のクリーチャーを戻して、出て来るクリーチャーに賭けようかとも思ったが、この状況で出て来てほしいクリーチャーは非常に限られる。それらのクリーチャーが捲れる確率は、さほど高くなさそうだ。
それに、たとえ《ガイグレン》を止められたとしても、それによって被害を受ける確率を考えたら、直接退かす方法とあまり変わらないような気がした。
「選んだね? 《ガイグレン》が相手のカードの効果で選ばれた時、《ガイグレン》以下のパワーの相手クリーチャーをすべて破壊するよ! 《ガイグレン》は攻撃時にパワーを+3000するから、選ばれた時点ではパワー14000だ」
「俺のクリーチャーの最高パワーは、《キリコ3》の13000……クリーチャーは全滅するが、《Q.E.D.+》は龍回避で《エビデゴラス》へ戻します」
浬のデッキにおける最大パワーのクリーチャーは《キリコ3》だ。《ガイグレン》がそのパワーを超えるのであれば、パワーで勝てる見込みはゼロである。
ゆえに浬の場は壊滅したが、《エビデゴラス》だけは場に残り続ける。
「《オロチ》の能力も解決しないとね。山札を捲って……うーん、《ロイヤル・アイラ》かぁ。じゃあ《フェアリーの火の子祭》を捨てて、二枚ドローするよ。できることはもうないし、ターン終了かな」
「俺のターン……《ブレイン・チャージャー》を唱えて一枚ドロー……」
互いの場が綺麗になったところで、浬のターン。前のターンにエース級のカードをほとんど放出した浬は、完全に弾切れだった。一騎の動きも止まったが、同時に浬の動きも停止している。またすぐに攻撃の態勢を取るのは容易ではない。
「しかも、一騎君の手札にはバウンスされたアタッカーがわんさかいる。《ロイヤル・アイラ》でも山札を掘り進んでるし、アタッカー、フィニッシャーには事欠かないわね」
「それだけじゃないな。霧島は主要なフィニッシャーのほとんどが墓地に行っている。デッキの枚数も残り少ない。攻撃に割くリソースはほとんど残っていないだろうな」
バウンスという一時凌ぎにしかならない除去手段の弊害だ。互いに場がリセットされた状態であっても、一騎は手札に潤沢のアタッカー、フィニッシャーがいる。対して浬は今までのアタッカー、フィニッシャーが根こそぎ墓地に送られ、攻めるためのカードが足りていない。
このままでは、いくらドローしたところで攻めきれず、一騎のパワーカードで押し切られるばかりだが、
「む、いいところに来たな。《サイバー・N・ワールド》を召喚!」
「え、《N》!?」
浬は《ブレイン・チャージャー》で引いて来たカードを、そのまま場に繰り出す。
それは、一騎も予想だにしない一手であり、また、この状況では絶大な効力を発揮する一枚だった。
「ここで《N》なんて……そんなカードも入ってたんだ……!」
「はい。部長と、四天寺さん、焔さん、黒月さんへのメタとして。《クローチェ》でもいいんですが、打点にならないのでこっちも採用してます」
「……君は案外、俺と似た者同士かもしれないね。昔の俺を見ている気分になるよ」
左手で顔を隠すように覆う一騎。はぁ、と参ったように息を漏らしているが、同時に震えている。片手だけでは隠しきれないほど笑っていることが、見て取れた。
「……? とりあえず、《N》の能力で、互いの墓地と手札をリセット! 五枚ドローします」
「ふふっ……これまたまずいな……!」
まずいと言いつつも笑いながらカードを引く一騎。浬も同じく五枚ドローする。
(一騎の奴、随分と楽しそうにしてるな……あいつのあんな顔、初めて見たぞ)
いつものにこやかな表情とは違う。心の底から歓喜が滲み出ており、破顔を隠しきれずに表情が綻んでいる。そんな、嬉々とした笑顔。
それは、誰もが初めて見る一騎の姿だった。
「このドローで、俺はターン中にカードを五枚ドローしたので、《エビデゴラス》を《Q.E.D.+》に龍解! シールドをWブレイク!」
「やばいな、思った以上に楽しくなってきた……《次元龍覇 グレンモルト「覇」》《龍覇 グレンモルト》を召喚!」
「!? 《グレンモルト》が二体……!」
一騎は大量に増えたマナを使って、二体の《グレンモルト》を召喚する。
片や普通の《グレンモルト》、片や《次元龍覇》の《グレンモルト》を。
「《グレンモルト》に《銀河大剣 ガイハート》を装備!」
「打点が……」
「勿論、そのまま殴ったりはしないよ。《グレンモルト「覇」》で《Q.E.D.+》を攻撃! その時、《覇闘将龍剣 ガイオウバーン》を装備して、《N》とバトル! 続けて攻撃、《Q.E.D.+》も破壊だ!」
一騎の場には《龍王武陣》が設置されているので、《ガイオウバーン》の効果と合わせて、《グレンモルト「覇」》のパワーは12000。《サイバー・N・ワールド》は当然のこと、パワー11000の《Q.E.D.+》もバトルで破壊する。
そう、バトルで、だ。
「俺のクリーチャーがターン中、二回バトルに勝利! 《ガイオウバーン》の龍解条件成立だよ!」
「まずい……っ!」
《グレンモルト「覇」》の二度の勝利によって、《ガイオウバーン》がひっくり返る。
「龍解! 《勝利の覇闘 ガイラオウ》!」
これで一騎は、アタッカーを増やしつつ、このターンの打点を減らさずに浬のクリーチャーを殲滅する。
残るアタッカーは前のターンに出て来た《ロイヤル・アイラ》、《ガイハート》を装備した《グレンモルト》と、このターンに龍解した《ガイラオウ》。当然、とどめまで持って行ける。
「《グレンモルト》で最後のシールドをブレイク!」
「……! まだ、だ! S・トリガー《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》! マナ武装7で相手クリーチャーをすべてバウンス!」
「本当にあったんだ。《ガイグレン》でクリーチャー殴ったのは、やっぱり正解だったね」
浬の最後のシールドから、《スパイラル・ハリケーン》が捲れる。寸でのところで一騎のクリーチャーを一掃し、このターンのダイレクトアタックは阻止された。
「俺のターン。《スペルビー》を召喚。トップ三枚を墓地に置いて、墓地の《スパイラル・ハリケーン》を回収……そして」
互いのシールドはゼロ。どちらか片方が一撃でも加えれば勝ちという、デスマッチという状況。そこで訪れた浬のターン。
両者のシールドがないのであれば、スピードアタッカーを多数擁する一騎が有利だ。というより、既に手札にスピードアタッカーを二体抱えているため、どうしたって次のターンには一騎の勝利が確定する。
「これで、終わらせる! 8マナタップ!」
だが、その結果予測は、浬がこのターンに勝てないという前提の下に成り立つ。
スピードアタッカーを擁するのは火文明だけ。ゆえに、このターンに浬は打点を用意できない。
そんな当たり前とも言える理屈は、当たり前ではない。どんな抜け道を、裏技を駆使して、あらゆる前提と理屈は覆されるのだ。
それを成すのは、水文明が誇る策略の根源的存在。あらゆる知識、技術、概念にアクセスし、中継し、発現させる大いなる意思。
失われた始まりの叡智が多くの人々の願いによって復権し、始祖の女王が君臨する——
「——《クイーン・アマテラス》!」