二次創作小説(紙ほか)
- 番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て20」 ( No.525 )
- 日時: 2016/11/01 04:05
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
クイーン・アマテラス 水文明 (8)
クリーチャー:ナイト/サムライ/オリジン 7000
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、自分の山札を見る。その中からコスト6以下の、クリーチャーではないカードを1枚選び、相手に見せてから自分の手札に加えてもよい。山札をシャッフルし、その後、そのカードを手札からコストを支払わずに使う。
「ここで《クイーン・アマテラス》か……!」
かの《蒼狼の始祖アマテラス》のリメイクカードである《クイーン・アマテラス》。コストが高くなったことで、パワーと打点が上がり、リクルートできるカードのコストに、種類の幅も広がっている。
浬のデッキに特殊なカードタイプのカードはない。クリーチャーと呪文のみだが、呪文さえ持ってくることができれば、十分だった。
「山札から《超次元ガロウズ・ホール》を手札に加えます。そして、手札から《ガロウズ・ホール》をタダで詠唱! 俺の《クイーン・アマテラス》を手札に戻して、コスト7以下の闇のサイキック・クリーチャー——」
《クイーン・アマテラス》と入れ替わりになるように、超次元ゾーンから一枚のカードが場にやって来る。
思考を重んじる水文明には、速度が足りない。行動する速度が。
ただし、次元を超越した超次元には、その理屈は通じない。
策謀の水から生じた超次元呪文は、思考ではない感情の、理論ではない衝動の、サイキック・クリーチャーを呼び覚ます。
「——《勝利のガイアール・カイザー》をバトルゾーンへ」
「…………」
そのクリーチャーを見つめ、一騎は閉口する。
流石にこの場が理解できない者はいなかった。互いのシールドがゼロで、どちらかが一撃入れれば勝負が決する状況。言い換えれば、先にクリーチャーが攻撃できる状況を作れば勝ちの状況だ。
さらに言うなら、浬はターンを返さずに進化クリーチャーかスピードアタッカーを即座に容姿しなければならない状況。そんな状況で、浬はスピードアタッカーを用意した。
サイキック・クリーチャーという、水文明に縛られた単色デッキの例外を用いて。
「《クイーン・アマテラス》でリクルートして、スピードアタッカーを投げる、か。銀の弾丸的で、いいね。凄く俺好みだ」
「……こういう勝ち方、本当は大嫌いなんです。トップ解決で、そのまま押し切って勝ちって……まるでスマートじゃないし、ここまで組み上げた作戦も理論も台無しで、蔑にして……だけど、こうなってしまった以上は、仕方ないです」
どんなに計画を練っても、上手くいかない。思い通りにならない。その結果として、不確定な領域から、偶発的な勝利を得る。
そんな勝利が浬は嫌いだったが、それ以上に、負けたくない。そんなプライドを捨てような自分も嫌になって、ジレンマに陥りそうになるが、迷うことはない。
目の前の勝利に、手を伸ばさない理由がないのだ。すべてが計画通りにならなかったとはいえ、せっかくの好機を見逃す方が、自分の信条に反している。
「ふふふっ……流石だよ、浬君。最後の最後まで、素晴らしい引きとプレイングだった」
「ありがとうございます。では、これで終わりです」
浬は、それに手をかけた。
そして、
「《勝利のガイアール・カイザー》で、ダイレクトアタック——」
これで、決着——
「でも、残念だ——それは通らないな」
——しない。
「ニンジャ・ストライク4……《光牙忍ハヤブサマル》」
「!」
浬が勝利を確信したその瞬間、一騎の手札からシノビが飛び出す。
「《ハヤブサマル》をブロッカーにしてブロックだ」
「しま……っ!?」
最後の一撃を止められる浬。もう、アタッカーは存在しない。
浬は勝負を決するための最後のターンを、失った。
「さぁ、俺のターンだ! 《暴龍事変 ガイグレン》を召喚!」
一騎のターン。一騎は《グレンモルト「覇」》や《グレンモルト》ではなく、恐らく今引きの《ガイグレン》を繰り出す。
これでは、《スペルビー》のブロックも意味をなさない。
「《ガイグレン》でダイレクトアタックだ!」
「ニンジャ・ストライク7! 《斬隠オロチ》!」
「おっと、浬君も持ってたか……どうする?」
「……《ガイグレン》を山札に送ります」
浬の選択は、《ガイグレン》の除去。山札のカードが多くなったことで、《オロチ》で目当てのカードが捲れる計算もしづらい。なにが捲れるかがほとんどわからないので、確実な除去を選ぶ。
「そう来るんだ。ちょっとその選択肢は臆病に感じるけど、安定を選ぶのは浬君らしいね。捲れたのは……運がいいね、《トップ・オブ・ロマネスク》! マナは増やさないでおくよ」
「スピードアタッカーじゃなかったか……」
「だけど場は掃除させてもらうよ! 《ガイグレン》の能力で、君のクリーチャーは全滅だ。ターン終了!」
「くっ……俺のターン!」
また場がリセットされた。次こそ、二体の《グレンモルト》でとどめを刺しに来るだろう。浬にもう次はないと思ってもいい。
だがそれでも、延命と、決着の手段を探る。まだ勝負は終わっていない。ゆえに、浬は勝利のための思考も止めない。
(俺の手札には《クイーン・アマテラス》がいるが、デッキにはもう《ガロウズ・ホール》はない……墓地にある《ガロウズ・ホール》を使えればいいが、《クイーン・アマテラス》じゃ《目的不明の作戦》は引っ張り出せない。《龍素知新》も入れるべきだったか……!)
《龍素知新》は手打ちでしか使えず、浬自身も積極的に墓地肥やしをするつもりがなかったので、トリガーの《目的不明の作戦》を優先したのだが、その代償がここで響いてくる。
(一騎さんの手札にはスピードアタッカーで殴る《グレンモルト「覇」》と、《ガイハート》で実質的なスピードアタッカーの《グレンモルト》。しかも《モルト「覇」》は除去まで飛ばしてくるから、防ぐならブロッカー三体は必要か……)
しかし、一騎のデッキはそもそも、それほどブロッカーを積んでいない。墓地は一度リセットしてしまったので《クローチェ》のG・ゼロは使えず、シールドがないので《デカルトQ》のシールド交換も不発となってしまう。
このターンに決着をつける手段は、《ガロウズ・ホール》を唱えて《勝利のガイアール・カイザー》を出すか、進化クリーチャーを出すくらいだ。しかし、いくら考えてもどちらも不可能である。《ガロウズ・ホール》を墓地から唱える手段が今の浬には存在せず、進化クリーチャーも《キリコ3》くらいしかいないが、肝心の《キリコ3》が手札にないので出しようがない。
となれば、
「……これに賭けるしかないか」
と言って、浬はマナを八枚倒し、そのカードを引きぬく。
「《クイーン・アマテラス》を召喚! 山札からコスト6以下のクリーチャーではないカードを手札に加える」
浬が選択したのは、《クイーン・アマテラス》。
リクルートは強力だが、下手に使えばわざわざ8マナも支払って6コストのカードを使うようなものだ。それでもなお浬が召喚するということは、今手札にないカードを使いたいから。それも、なかなか手札に来ない、一積みしかできないような貴重で代替の利かない、唯一無二のカードを。
加えて、《クイーン・アマテラス》というクリーチャーが場に出ることも、重要な要素でああった。
「手札に加えるのは……《ヒラメキ・プログラム》!」
「《ヒラメキ》……? あぁ……そういうことか」
「手札に加えられた《ヒラメキ・プログラム》を発動! 《クイーン・アマテラス》を破壊し、山札からコスト9のクリーチャーが出るまで山札を捲ります」
浬は《クイーン・アマテラス》をコストに、山札を捲る。《クイーン・アマテラス》のコストは8なので、現れるのはコスト9のクリーチャーだ。
「《神託の王 ゴスペル》をバトルゾーンへ!」
「やっぱり《ゴスペル》か……!」
柚との対戦で見せた、《神託の王 ゴスペル》。
浬はこのクリーチャーに、すべてを託した。
「カイは龍解に賭けたようね」
「なになに? どゆこと?」
「霧島はあと三回ドローすれば、《エビデゴラス》を龍解できる。そうすれば即座に打点が生成され、とどめが刺せる。一騎は既に《ハヤブサマル》を消費しているが、光を投入しているということは《ゼロカゲ》も握っている可能性があるが、《Q.E.D.+》はアンブロッカブル。握っていたとしても関係ない」
「《ゴスペル》は呪文以外のカードが捲れれば一枚ドローできる。一騎君のトップで外れて一枚、カイのトップでなんらかのドロースペルで二枚以上引ければ、カイの勝ちよ」
この状況で《Q.E.D.+》の攻撃を防げるとすれば《オロチ》くらいだが、流石に一騎が《オロチ》までデッキに組み込んでいるとは思えない。シノビが入っていたとしても、光の枚数を増やすための《ゼロカゲ》が妥当なところだろう。
だからあとは、捲るだけ。その結果がすべてだ。
「まずは一騎さんの山札を捲ってください」
「わかった」
浬に言われて、《ゴスペル》の能力で一騎は自身の山札を捲る。
加速カードや防御用トリガーなどが積まれているので、呪文が捲れてしまう確率もそれなりにありそうだが、それでも一騎のデッキはクリーチャーがメインのビートダウンだ。クリーチャーが捲れる確率の方が高い。
そして、一騎の山札の一番上は、
「……《英雄奥義 バーニング・銀河》だ」
「っ……!」
「こんな時に呪文……ついてないとしか言いようがないわね」
一騎のトップデックは、呪文。《英雄奥義 バーニング・銀河》だ。
これで浬はドロー枚数を稼げなくなってしまう。龍解まで必要なドロー枚数三枚まで、近づかない。
「くぅ、とりあえずそれを唱えます。マナ武装は達成できませんが、コスト5以下の《トップ・オブ・ロマネスク》を破壊です」
これで一騎の場のクリーチャーは全滅。場のクリーチャーは、だが。
「俺の山札は……」
次に浬は自分の山札を捲る。これで、カードを三枚以上ドローできる呪文が捲れればワンチャンス。龍解できる可能性があるが、
「……《超次元エナジー・ホール》」
「ドローカードですけど、ドロー枚数は一枚だけですね……」
「どっちみちドロー枚数は三枚に満たなかったですねー。ならば結果的に《バーニング・銀河》が捲れたのは良かったのかも」
あくまで結果論ではあるが、空護の言う通りかもしれない。
それに浬は、ここから勝利のビジョンが、ほんの少しだけ見えた。
「《エナジー・ホール》の効果で一枚ドローして、《時空の踊り子マティーニ》《時空の英雄アンタッチャブル》をバトルゾーンに」
「《マティーニ》? 《キル》じゃないんだ」
「部長の攻撃を防ぎたいはずですし、ブロッカーを出すのはわかるっすよ」
「だけどカイの奴、なにか考えてるわね」
《勝利のリュウセイ・カイザー》や《キル》《アンタッチャブル》の王道コンビではなく、ブロッカーの《マティーニ》。これもまた、単色デッキの例外だった。
「《スペルビー》を召喚! 山札の上から三枚を墓地に置き、《ガロウズ・ホール》を回収」
「今引きの《スペルビー》か。怖いなぁ」
あと一手早ければ、《ガロウズ・ホール》を回収され、そのままダイレクトアタックだ。逆に、その1ターンの遅さが惜しいとも言える。
「さらに2マナで《アクア特攻兵 デコイ》を召喚」
「……? 《デコイ》?」
「これで俺のターンは終了ですが、ターン終了する時、このターン俺はコスト4以上のブロッカーを出していたため、《マティーニ》を《舞姫の覚醒者ユリア・マティーナ》に覚醒させます」
浬は結局、攻撃できないままターンを終えたが、攻撃できないなりに、きっちりと盤面を整えてターンを返した。
思わずミシェルが言葉を漏らす。
「これは上手いな」
「どういうことっすか?」
「カイの場には《デコイ》がいる。《デコイ》はマナ武装3で、自分以外をカードの効果による選択の対象から外す能力を持っている。これで除去を一回だけ防ぐことができるから、この場では実質的なブロッカーになるわね」
「さらにブロックするとシールドを追加する《ユリア・マティーナ》がいるから、ブロックできればシールドも増えて、攻撃を止めやすくなるな」
「? よくわかんない」
「つまり、カイは実質的に除去を無効にしながら三回分の攻撃を防御できるってことよ」
除去は《デコイ》が引き受け、《スペルビー》で一回、シールド追加と合わせて《ユリア・マティーナ》で二回。
《ガイオウバーン》なんかを装備した《グレンモルト「覇」》と適当なスピードアタッカーを投げる程度では、到底攻めきれない防御網だ。
「シールドが増えるのが魅力的よね。仮に総定数以上のクリーチャーを出されても、トリガーで巻き返すチャンスも増える」
「チャンスが増えるのは、今の霧島君には重要な要素よね」
誘導、ブロッカー、シールド追加と、あらゆる防衛手段を用いて守りを固める浬。
恋のような鉄壁無双ではない。彼女と比べると、豪邸と馬小屋ほどに堅牢さに違いがあるが、この素早さと脆さが、彼と彼の操る水文明らしかった。
想定される一騎の攻撃を1ターン凌ぐための防御壁。そして、それと同時に展開される、攻撃手。《アンタッチャブル》が、一騎の首を狙っている。
「場と一緒に構図もややこしくなったが、根本的には変わってないな」
「部長が霧島君の防御を崩して攻め切るか、霧島君が耐えきって《アンタッチャブル》でとどめを刺すか、ですねー」
「どうなるんでしょう……?」
「全然想像つかないっす」
「お前ら、少しは頭を働かせろよ……」
少し考えれば、結果はある程度予測できる。
それを踏まえても、一瞬でこの防御の陣形を組んだ浬の選択は、結果的にも正解だったと言えるだろう。
浬の場に並んだ浬の布陣を見て、一騎の口元に浮かんだ笑みが、大きくなる。
「ふふっ、くくく……これはやばい、やばすぎるな……」
より歓喜が満ちていく。
そして、爆ぜるように声が響いた。
「あははははっ! 本当に、楽しくなってきちゃった……っ!」