二次創作小説(紙ほか)
- 番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て21」 ( No.526 )
- 日時: 2016/11/01 04:19
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「あははははっ! 本当に、楽しくなってきちゃった……っ!」
もはや笑い声と、緩んだ表情を隠そうともしない。
顕在化された彼の歓喜が、周囲に困惑を与える。
「つきにぃ、笑ってる……」
「一騎さんって、あんな風にも笑うんだ……ちょっと子供っぽいというか、かわいい……」
「む……あきら、それはどういう……」
「え? いや……」
暁の言うように、笑う一騎に年長者としての面影はなく、純粋にゲームを楽しむ少年そのものだった。
ひとしきり笑うと、顔に笑みを残したまま、一騎は浬の布陣に対して指摘する。
「たった1ターンで俺の場を殲滅したうえに、ブロッカーと囮、アタッカーを用意しつつ、シールド追加のプランまで立てるのは見事だよ、浬君。でも、浬君ならわかってると思うけど、その防御じゃ足りてないよ。君のチャンスは、トリガーワンチャンスだけだ」
「…………」
「まあ、言うより見せる方が早いよね。《グレンモルト》と《グレンモルト「覇」》を召喚! 《グレンモルト》に《ガイハート》を装備!」
一騎は再び二体の《グレンモルト》を呼び出す。当然、片方には《ガイハート》を装備させる。
この時点で、浬は一騎の攻撃を防ぎ切ることが出来なくなった。
「《グレンモルト「覇」》の攻撃で《ガイオウバーン》を装備して、《デコイ》を破壊。その攻撃は《ユリア・マティーナ》がブロックしてシールドを追加せざるを得ないだろうな。この時点で《ガイオウバーン》が龍解して、《ガイラオウ》が出る」
「そうなれば一騎君のアタッカーは《グレンモルト》と《ガイラオウ》、カイの守りはシールド一枚と《スペルビー》になるけど、《グレンモルト》が攻撃したら《ガイギンガ》が龍解する。そうなれば、実質的にアタッカーは三体。そのままダイレクトアタックまで届くわね」
「ってことは、浬さんは勝てないってことっすか?」
「そんな……」
「いや、シールド追加があるから、トリガーでワンチャンス残っていますけどねー」
しかし、あくまでワンチャンスだ。可能性として、耐えられるかもしれない、という程度でしかない。
《ユリア・マティーナ》でS・トリガーが仕込まれる可能性。その可能性が、それほど高いとは思えない。
それでも、浬はそれに賭けるしかないのだ。
不確定で未知数な、偶発的にしか起こり得ない可能性に。
しかし、
「さらに、3マナで呪文——」
一騎は、その可能性さえも、
「——《勝負だ!チャージャー》!」
潰しにかかる。
「っ!? 緑入りで、チャージャーだと……!?」
驚きを禁じ得ない浬。いや、浬だけではない。他の者たちも驚いている。
一騎のデッキは、赤単ドラグナーを軸として、タッチ気味に自然を入れている。それは素早くマナを溜めることで、強力な火文明のマナ武装を達成するためだ。
かつて一騎は、今の切り札である《ガイグレン》と戦った。あの時の《ガイグレン》は火文明のチャージャーを連打することで強引に火文明単色でマナ武装を達成させていたが、一騎は他文明の力を借りることで、スムーズに加速できるようにしている。
言い換えれば、自然文明を入れることで、わざわざチャージャー呪文をマナ加速のために入れる必要がなくなったのだ。にもかかわらず、一騎はここでチャージャー呪文を唱えた。
つまりこの呪文は、マナ加速が目的ではない。
「対象は《グレンモルト》だ。このターン、《グレンモルト》はアンタップキラーになる!」
「これはまさか……」
ふと、浬の頭の中で嫌な展開が浮かび上がってくる。
しかしその展開が完全に再現されるより早く、一騎が攻めてきた。
「まずは《グレンモルト「覇」》で攻撃! マナ武装7で《ガイオウバーン》を装備! 《デコイ》とバトル!」
「くっ……《ユリア・マティーナ》でブロック! ブロックしたことで、シールドを一枚追加!」
「こっちも、俺のクリーチャーがターン中に二回バトルに勝ったから、《ガイオウバーン》を《勝利の覇闘 ガイラオウ》に龍解!」
ここまでは予想通り。《グレンモルト》と《ガイラオウ》がアタッカーとして場に残っている状態。
しかし浬が予想できなかったのは、《グレンモルト》がアンタップキラーを付与されていること。
わざわざ《グレンモルト》にアンタップキラーを付与したということは、そこには理由があり、目的がある。
目的はともかく、少なくともその理由として、《グレンモルト》は自身に付与された力を行使する。
「《グレンモルト》で《スペルビー》を攻撃! シノビとかは、ないよね?」
「……はい」
《グレンモルト》が《スペルビー》をバトルで破壊する。
《ガイハート》を使う時によくあるテクニックだ。《ガイハート》は龍解すれば、そのまま勝負を決めてしまうほど強い。ゆえに、できるだけ安全に攻撃することが求められる。
たとえばそれは、パワーが高いクリーチャーへの自爆特攻であったり。
たとえばそれは、相手クリーチャーへの殴り返しだったり。
たとえばそれは、アンタップキラーを付与した攻撃だったり。
安全に、トリガーを踏むことなく、確実に龍解するための攻撃を、仕掛ける。
「これでターン中、二回の攻撃に成功した。よって、《ガイハート》の龍解条件成立!」
《グレンモルト「覇」》《グレンモルト》。二体の《グレンモルト》の攻撃によって、《ガイハート》は龍解条件となる二回の攻撃を達成する。
《グレンモルト》に装備された一振りの大剣が、裏返り、ひっくり返り——龍解する。
「龍解——《熱血星龍 ガイギンガ》!」
遂に、《ガイハート》が龍解し、《熱血星龍 ガイギンガ》が現れる。
浬の場には《アンタッチャブル》のみで、ブロッカーは全滅。シールドは一枚だけ。
一騎の場には《ガイギンガ》と《ガイラオウ》、二体のドラグハート・クリーチャーが控えている。
「念には念を、だ。これで君の勝てる確率を下げたよ」
「くっ……」
一騎が《勝負だ!チャージャー》で行ったことは、自らが勝てる確率の引き上げ。
浬としては、S・トリガーが出なければ負ける状況だが、逆に言えば、S・トリガーさえ出れば、そのまま勝てるのだ。
《スパイラル・ゲート》でも《水霊の計》でも《目的不明の作戦》でもいい。《グレンモルト》の攻撃時になにかが出て、《グレンモルト》さえ除去できれば、《ガイラオウ》の攻撃を《スペルビー》でブロックして、このターンは凌げた。
ただしそれは、《グレンモルト》がシールドをブレイクする場合だ。
《グレンモルト》が《勝負だ!チャージャー》でアンタップキラーとなり、直接クリーチャーを狙って安全に龍解したことで、浬は逆転可能なトリガーを制限されてしまった。
具体的には《スパイラル・ゲート》や《水霊の計》では無理だ。《ガイギンガ》選ぶことはできないので、対象を選ぶ除去では耐えられない。
耐えられる可能性があるとすれば、全体除去の《スパイラル・ハリケーン》か、《エナジー・ホール》で《マティーニ》を引っ張り出せる《目的不明の作戦》くらいなもの。
それらが引けるかどうか。確率が下がっただけであり、すべきことは、なにも変わらない。
「《ガイギンガ》の能力は不発だけど、これで決めるよ! 《ガイラオウ》で最後のシールドをブレイク!」
「っ、S・トリガー——」
これが、最後の一枚。
このシールドで、すべてが決まる。
《ガイギンガ》の攻撃を止められるトリガーか、そうではないのか。そもそもトリガーですらないかもしれない。
なんでもいい、だなんて言えない。来てほしいカードは選り好む。我儘かもしれないが、我を通さなければ勝つことはできない。
浬はそのシールドを捲る。
「《幾何学艦隊ピタゴラス》……!」
静寂だけが、世界だった。
言葉はない。声も、音も、なにもなかった。
やがて、ぽつりと浬がか細い声を絞り出す。
「……俺の……負けです」
「……うん。それじゃあ、決めるよ」
敗北と、勝利を、互いに受け入れる。
すべてが終結する区切りとして、一騎は、最後に宣言した。
「《熱血星龍 ガイギンガ》で、ダイレクトアタック——」